トムを育てて最強の魔法使いにしよう!
好感度によって魔法界の未来が決まるぞ。
突然だがここにパフスケインがいる。
パフスケインとは、魔法使いの子供達にペットとして人気の魔法生物だ。まん丸ボディでころころ転がる姿は見る者全てを魅了し、トロールでさえ棍棒を振り下ろすのを躊躇する。斯様に愛らしいパフスケインが眼前にいれば、抱きしめたり撫でたり愛でる者がいるのは想像に難くない。
けれどパフスケインは大人しく可愛らしい存在だが悪食。長い舌が変なモノを食さないよう注意が必要なふわふわボールである。
さて、この生物の好物は何だろう。綺麗なお花?甘い香りの綿菓子?熟れた果実?いいえ。
答えは魔法使いの鼻くそ。
そう。鼻くそ。
「あ゙あ゙~」
満面の笑みで茶の毛並みをしたパフスケインを抱くハッフルパフ生。なんと微笑ましい光景か。しかし騙されてはいけない。鼻に長い舌が突き刺さっている。パフスケインの舌が。
思わず二度見して目を擦り、見直すダンブルドアに非は無い。誰もが目を疑うは必然。その証拠に、ハッフルパフ生を中心に九人の生徒が注目し、距離を開けている。
残念にも退く機会を逃したダンブルドアは、件のハッフルパフ生と共に爆心地へ取り残された。
「セルウィン。なっなに、なに?なにを?」
どもる変身術教授を全くおかしな事態が起きていないと語る笑顔で、ハッフルパフ生は揚々と告げる。
「お掃除ですよ!パフスケインはお掃除屋さんですから。ダンブルドア先生もどうです?」
なけなしの思考を放棄し、ダンブルドアは虚ろに微笑んだ。
大臣の手紙爆弾の翌日、アーマンドへ合宿の開催許可を申し入れると何故か許可が出た。驚いて思わず目の前の校長に検査魔法をかけ、本物で更に驚愕。あのアーマンド・私がNOと言ったらNO・ディペット校長が許可を出すなんて。天変地異の前触れか。
何はともあれ合宿を開くなら参加する生徒が必要だ。簡単に入手できないよう、応募用紙へ変身術を重ね掛けホグワーツ中にばら撒く。飛び回る用紙を箒で華麗に掻っ攫い研究室まで飛んできた者、ダウジングで隠れた用紙を見つけた者など、続々と応募用紙を獲得した猛者達が集い、定員に達するまで一週間と二日あまり。
夏季休暇を捨てた酔狂な連中が十名群れ集まる。
そして現在がこちら。レイブンクロー五名、グリフィンドール二名、スリザリン二名、ハッフルパフ一名、総勢十名のわくわく勉強会メンバーを率いて薬草採取をしていたところ、パフスケインの巣に遭遇。大人しい普通の子だと信じていたハッフルパフ生ノア・セルウィンが剛の者と判明する。
ハッフルパフ生は皆こんなんなのか。ニュート然り。セルウィン然り。
魔法生物へ向ける愛が重い。
しかし、セルウィンは鼻に縁があるな。去年は上級生に殴られ鼻血を出し、今はパフスケインに鼻を弄られている。次は変身術で鼻が消失か。
この世の不思議を垣間見た表情で注視するトムを視界に入れつつ、少年が応募用紙を握りしめて現れた日に思いを馳せる。
校内に応募用紙をぶちまけてから四日目。休み明けの授業準備を終え、トム二号と研究室の暖炉でまったりしていた夜。胸ポケット内部でハンカチをベッドに、夢の国へ旅立ったハツカネズミをちょんちょん突いて遊び、そろそろ寝室に引っ込もうと欠伸をかました時、力強く研究室の扉が叩かれた。
はて、夜更けに誰か。続けざまに欠伸を連発しながら扉を開けると、トムがいた。
「おや、こんばんはトム」
「先生」
妙に肩を緊張させたトムが紙を握りしめて棒立ちでいらっしゃる。常に私の眉間かそこらの壁をねめつけ、決して目を合わさず。
クリスマスにセーターを贈ってから益々トムは遠ざかり、物理的にも精神的にも距離が空いていた。姿現わしをされたかの如く、ハロウィーンで縮まった距離感が消失し、こうして対面するのは数ヶ月ぶりになる。
監視を兼ねて近づいたのが間違いか、そもそも私を嫌うトムと友情を育む行為自体無益か。悶々と日々を過ごす中、突如閃いた合宿のアイデアは正に悪魔的発想と言える。ナサリーに感謝。
なにせ、トムが葱を背負って来たのだから。
「入りなさい。お茶は?」
「結構です」
ズカズカ入り込んだトムが執務机へ向かう。勢いよく右手を叩きつけ、バンッという打撃音が部屋に響く。緊張気味なバジリスクの背後から覗き込めば、くしゃくしゃに変わり果てた合宿の応募用紙。
ワハハ!やはり来たなトム!二ヶ月の合宿から逃さんぞ。
「参加希望でよろしいかな」
「…はい」
「見てみよう」
トムの背後から離れ、執務机に座って皺が満遍なくついた紙を丁寧に伸ばす。
合宿の開催と説明、簡潔に書かれた参加資格と参加条件、末尾に生徒と保護者の署名欄。
参加資格
1.成績上位者であること。
2.ホグワーツ校内で問題を起こしていない者。
3.知識への探求心を有すること。
参加条件
1.応募用紙を入手する。
2.保護者の同意と署名を得ること。
このガバガバ参加資格と条件を提示してから戦々恐々していたが、用紙の入手で篩に掛けられていい感じの生徒が集まっている。応募用紙をドラゴンやフクロウに変えて飛ばしたのは正解だった。飛行速度はブラッジャー並み、ドラゴンは火を吐く。
「ふんふん、ミセス・コールの署名か。参加を許可する」
所々崩れたミセス・コールの署名に検査魔法をかけて本人確認。トムの魔法の痕跡は見当たらず、ミセス・コールと酒の痕跡が見つかり安心。私の署名を書いて確認済みとし、執務机の引き出しへ。闇の魔法使い見習いに満面の笑みを浮かべて向き直る。
二ヶ月よろしくトム。君が変なことしないよう見ているぞ。
「修了式が終わった後、南門へ荷物を持って集合だ。そこから合宿所へ向かう」
「はい」
「話は以上。合宿をお楽しみに」
帰りもズカズカ大股で研究室を横断し進む少年を、首をかしげて見据える。友好的に接しているのだがなぁ。嫌われるばかりで困る。何が悪いのだろう。
トムが扉に達すると同時にまたも扉が叩かれた。扉を開き、私の前では決して見せない、輝く偽の笑顔と明るい声でトムが応対する。
「スラグホーン先生!こんばんは。奇遇ですね。ダンブルドア先生にご用ですか?」
「こんばんは、トム。まあね…ここで何を?」
「ダンブルドア先生に合宿のことを相談していて。もう遅いので僕は失礼いたします。おやすみなさい、スラグホーン先生、ダンブルドア先生」
微笑んでそそくさと引き上げるトムから目が離せない。全身が総毛立つ。
アレは何だ。私のときと全然違う。気味が悪い。不安を宥めるべく腕を擦るが一向に収まらず。
紅茶を啜り、胸元で安らかに眠るトム二号を摩るうちにやっと落ち着く。
よくよく考えてみると…いい傾向ではなかろうか。多分、私には正直な姿、本来のトムを見せているのでは。つまり信用を?または試す?わからん。これが良い変化であるのを祈ろう。
「礼儀正しい子だ。な?アルバス」
「ハハハ…」
「先生」
記憶の渦から引きずり出され、瞬く。いつの間にか、隣にいたはずのセルウィンがパフスケインの群れに身を置き、他の生徒も小さな魔法生物の舌を避けて触れ合っていた。
「あなたは純血ですか?」
ゴースト顔負けの希薄さで背後を取ったトムが、小さな足音をさせて段々近づき、殆ど背に触れる距離で停止。足元で跳ね返った小石が靴へ当たった。
驚いた表情を晒すのは癪に感じ、振り返らず顎髭を撫でて言葉を返す。
「いいや、半純血さ」
「僕も半純血ですよね」
「推測でしかないけども。可能性が高い」
「僕には半分穢れた血が流れている。ならば僕は、半純血は、劣り穢れているのでしょうか」
耐えきれず振り向く。顔が真っ白のトムが顔を伏せ、地に視線を這わす。
嫌な言葉を聞いた。
「君は優秀だ。一年生の誰より。もしかしたら二年生や三年生以上に。頭が回り過ぎるくらいさ」
「…」
「トム、君が言う『穢れた血』とやらが私にも流れている訳だが、私は劣っているか?穢れている?」
「…」
血が引いた蒼白い顔をもっと白くさせて唇を噛む少年。風が黒壇の髪をなびかせ葉が絡む。
「穢れているだの純血だのくだらん。人を血でしか判断できない愚か者の言葉を聞く必要はない。重要なのは血や生まれでなく、どう生き、選択するかだ」
膝をついて肩に手を置き、顔を合わせて本心を語る。たまには本音を語り合うのも大切だとニコラスも言っていた。先程と違い幾分かトムの顔色も良く見える。
触れて気付いたが、夏にもかかわらず体温が低い。変温動物かな?
少年の肩を二度軽く叩いて離れ、パフスケインゾーンへ向かう。
「注目!パフスケインは一旦置いて薬草の選別をするぞ。ハナハッカの葉、飛び跳ね毒キノコ、これは…」
パフスケインに囲まれながら薬草を選別、数時間観察をしてから成果を持って帰還した。途中、生徒に懐いたパフスケインが何頭かついて来て離れない事件が発生するも、ナサリーに問題をぶん投げて解決。
その後、生徒を引き連れ我が家の研究室へ移動し、採れたての薬草と事前に用意済みの素材で魔法薬の調合を始める。
主題は大まかに三つ。効果の強化、新たな魔法薬の調合、最良の配合法の探求。
魔法薬は現在作れるものに限る。
呪文で広げた研究室に生徒が散らばり、各々静かに挑む中、元気になったトムも張り切って大鍋の中身を弄り回しておられる。心なしか、いつもより距離が近い気がして笑顔が浮かぶ。おまけに脳内の闇の魔法使いセンサーは反応せず沈黙。素晴らしい日だ。
「うーん」
「ロボン悩み事か?」
「ああ、箒で飛ぶのに役立つ魔法薬を作りたくて」
彼女はグリフィンドールの五年生カンパニュラ・ロボン。
箒に乗って紙のフクロウを捕獲、右手に鷲掴んだまま、私の研究室へ突入を行った変態である。
合宿の応募用紙であることを知らず、純粋無垢に捕獲報告へ来た時は白目を剝きかけた。
「強化薬とウィゲンウェルド薬の効果を組み合わせたらいい感じだと思うんですけど、以前作ったときはうまくいかなくて」
「君は…」
「二角獣の角を入れ右に三回、左に一回混ぜてサラマンダーの血を入れた瞬間、ドンッ。花火ですよ」
この箒狂いはもう駄目だ。首を振り、眉間を揉もうとして偶然トムの姿が目に入る。
あれは──―サラマンダーの血?まさか強化薬を作って?
一年生が五年時に習う魔法薬をさらっと作るな。いや待て。これは…。
「リドル!こっちに来てくれ!」
調合の邪魔をされたトムは眉間に皺を寄せながら近くへ来た。
「強化薬とウィゲンウェルド薬を組み合わせた魔法薬を作りたいそうなのだが、うまくいかないらしい。トム、彼女を手伝ってやってくれないか」
通常の一年生は五年生の手伝いなど無理だ。しかしトム、君ならできる。君はできる子だ。
彼女の望む魔法薬を共に作っておやり。私は君がやり遂げると信じている。私は知らん。ほら、お願いだから即死の魔眼で睨まないでおくれ。
「よろしく。カンパニュラ・ロボンだよ。ニュールって呼んで」
「トム・リドルです」
「早速だけどさ、私すっごく早く飛びたいんだよね。だけど体がもたなくて──―」
トムとロボンが楽しそうに(ロボンだけ)語り合うのを、にこやかに眺めてから自分の大鍋へ。空の鍋底を覗き込み、何を入れるか迷う。何気なく棚を漁るとドラゴンの血が目に入った。これの使い道でも探すか。最近忙しくてほっぽりぱなしだったから丁度いい。
早速、大きな薬瓶に入ったドラゴンの血を大鍋へ並々注ぎ、火をつける。温度が上がり煮えたぎる液体が火花を散らす。
薬瓶に残った血液を舐めてみると、口内でパチパチ火花が弾けて楽しい。
ドラゴンの血をお菓子やジュースに使う日が来るやもしれん。論文にまとめておこう。
トムとロボンが共同研究を始めて一ヶ月後。薬の試作がついに完成を迎える。
興奮冷めやらぬ観衆が騒めき、歓声を浴びながら右手に箒を掲げて現れたロボンが薬を一気に飲み干し、箒で空に飛び立つ。
「キェエーッ!」
絶叫を空に響かせ、ドリルのように回転をかけて恐ろしい速度で遥か彼方へ消えて行ったロボン。歓声を上げて祝うわくわく勉強会メンバー。口をぽかりと開けて放心状態のトムと私。
蒼空を彩る狂人の奇声。自他共に認める最速の狂人が通った軌跡を、白く細長い雲が飾る。
・カンパニュラ・ロボン
生やしたモブ。グリフィンドールの五年生。
グリフィンドールのクィディッチチームのメンバー。ポジションはシーカー。
頭のおかしい飛行で飛び回り、敵味方問わず恐れられている。
マグル生まれ。
・トロール
巨大で暴力的な魔法生物。棍棒が初期装備。臭い。
大抵のトロールは知能が低いが、たまに意思疎通できるほど知能が高い個体もいる。
種類は川トロール、森トロール、山トロールの三種類。
・パフスケイン
魔法使いの子供達に人気の魔法生物。よくペットにされている。
鼻くそが好物。可愛いね。
・シーカー
クィディッチのポジションの一つ。金のスニッチを捕まえるのが目的。
・ブラッジャー
クィディッチで使用される鉄球。空をビュンビュン飛び回って選手を箒から叩き落す。
鉄球が当たりに来るとか怖い…怖くない?
・ゴースト
幽霊。魔法族が死んで魂だけになった存在。ホグワーツに沢山いる。
・姿現わし
空間移動の呪文。任意の場所に姿を現す。
失敗すると体がバラけ、スプラッタになる。
・ハナハッカの葉
魔法薬の素材。傷を治す効果がある薬草。
・飛び跳ね毒キノコ
魔法薬の素材。ぴょんぴょん跳ねるキノコ。
・二角獣の角
魔法薬の素材。
・サラマンダーの血
魔法薬の素材。サラマンダーから採れる血。
回復薬などに使われる。
・ドラゴンの血
魔法薬の素材。ドラゴンから採れる血。
ダンブルドアはドラゴンの血の12の使用法を発見した。
種によって色が違う独自設定有り。
・強化薬
作るのに数日かかる魔法薬。五年生で習う。
飲むと身体能力の上昇、耐久が上がる独自設定有り。