いつもより文字数多め。
リドル&ゴーントに突撃家庭訪問回。
オリジナルの設定と原作知識が混ざって大変でした(自業自得)
※2023/7/26追記※
細部を修正しました。
「鳶色の髪の毛」→「長い髪の毛」
「僕、いつか世界を見て回りたい。こんな田舎で時間を無駄にせず、家族に縛られず、自由に」
それはいつかの夢。
「今すぐでも行けるさ。一緒に世界を見て回ろう。名を残すチャンスだ!」
「駄目だよ。あの子を置いていけないもの」
「でも、夢見るだけなら…いいよね?」
長閑な田園風景が続く田舎道を見下ろす入道雲。暖かな風が黄金の穂を撫で、小麦畑が波打つ。
二人の青年が樹木に背を預けてのんびりと未来を夢見る。
「もっと我儘に生きろ、アル。人生は一度きりなんだぞ?ほら聞け。私と死の秘宝を探しに行こう」
「死の秘宝?あの伝説の?でもあれはただの伝説でしょ」
光に透けて殆ど白く見える髪を揺らす青年の青と月白色の目が思慮深く細まった。
その強すぎる眼光を見ることに耐えられず、視線を外して長い髪の毛を弄り、空いた手で手近な雑草を引っこ抜く。
「死の秘宝は存在する。『三人兄弟の物語』はただのおとぎ話なんかじゃない。まっ、推測だが」
「ゲルはそう思う?じゃあ本当に死の秘宝があるとして、見つけてどうすんのさ。冒険は楽しいだろうけど」
「世界を変える。世界を。死の秘宝があれば不可能はない。魔法族がマグルの影に隠れて生きる日々は終わり、世界に蔓延るマグルを」
「支配する」
目を輝かせ、未来へ思いを馳せる青年が言葉を紡ぐその刹那、世界が止まった。美しく鮮やかな田舎風景が瞬時にモノクロの世界へ転じる。
風は止み、揺れ動く草花は姿そのままに凍り付き、夢語る革命家は姿を消す。
代わりに現れしは。
あの日の姿で冷たく見下ろす少女。
「アッ、ア…リアナ」
私が馬鹿なせいで死んだ妹。
「アリアナ!すまない!わっ私、馬鹿だった!」
「やめて。私のことなんかどうでもいいくせに」
「ちが、そうじゃ、目が眩んだ。ごめんなさい。傲慢な愚か者で」
「白々しい」
男の太い首に小さな蒼白い手が首元に這い、折れそうなほどか弱い細腕から想像できない力で締め上げた。
反射的に華奢な腕を鷲掴み、引き離すべく奮闘するも、万力のような握りは離れない。さらに強く気道を狭め視界に星が散る。アリアナの白い顔が鼻を突き合わせて目を覗き込む。
「嘘つき。認めて。私がいない方が良かったって」
「そうでしょう?貴様はそういう男だ」
アリアナの声に被る暗い声。
「ついにこの手で殺せる。どれだけ夢見たか」
狭まる視界にアリアナの姿はなく。あるのは────赤い目。
血の赤い目と白い貌。
「ああ!」
ベッドから跳ね上がり勢い余って落下。体が床へ叩きつけられる。恐怖に高鳴る心臓を胸元を握りしめて抑え、荒い息遣いで必死に肺へ空気を送り込む。悪夢から解き放たれた安堵と悍ましい夢を見た恐怖に体を震わせた。
這いつくばった姿勢からどうにか立ち上がり、ぐにゃぐにゃの足を動かして夜明け前の暗い寝室から洗面所へ。汗だくの顔面に冷水を浴びせて一息つき、薄暗い照明の光に浮かぶ、血の気のない肌と目の下の隈を鏡越しに撫でる。
酷い顔。
濡れて不快な寝間着を脱ぐべく鏡越しにボタンに触れて、首の違和感に気付いた。首元をよく見ようと目を細めるが暗くて見づらい。
照明の明るさを変えて。
鏡に映る、首周りに羽を広げた赤い内出血と紫色に変色した痣のネックレス。
気味の悪さを感じつつ小刻みに揺れる手を首に当て、痣が手の形をしていることに気付いた途端、恐怖がピークに達する。即座に隠し持った杖で耳塞ぎ、生物探知、魔法検出呪文を矢継ぎ早に重ね掛け固く閉じた口を大きく開く。
「なんだこりゃ!!!」
薬切れのロボンが近くの山に衝突、クレーターを形成して早数日。今や生徒の常駐が当たり前の光景となった研究室で欠伸を嚙み殺す男が一人。
合宿の合間に入学許可証を発行、フクロウ便を各家庭へ送り、マグルの家庭や孤児院に説明へ赴き、新学期の準備をする傍ら生徒と研究に励む日々に忙殺されそうになりつつも、ダンブルドアはこの一カ月余りをある程度平和に過ごしていた。
今朝までは。
今朝の悪夢で負った精神のゆらぎを、熱いシャワーとたっぷりのバター&シロップを塗ったクランペットで宥め、問題の痣はポロネックで隠蔽。ハナハッカ軟膏を塗布済みの首は未だ鈍い痛みを放つ。
夢で負った傷が現実世界に持ち越されるなどあってはならない。誠に遺憾である。闇の魔術による攻撃に違いないが、どんな手を使ったか見当もつかない事態に打ちひしがれる羽目に。
もし…もし、自分自身で首を…。
止めよう。これ以上精神を削ったらいずれ発狂だ。今日はいかん。なぜなら今日は。
世にも恐ろしいイベントが待っている。
「皆の者!錬金術の時間だ」
生徒の群れへ実習の開始を告げる。朝食のリンゴを齧る者や眠気覚めぬ眼を擦る者、朝っぱらからやる気満タンの者らが一斉に配置へ着く。双子のレイブンクロー生が最前列の実験台で鼻息荒くメモを取る体制で静止、肉食獣が獲物に襲い掛かる緊張を全身で発していた。
レイブンクロー六年生、クロエ・イングラムとクレマン・イングラム。
輝く金髪の男女の双子。髪型以外で見分けがつかず、気分によって髪型を入れ替えて人々を混乱に陥れるお茶目さん達だ。
レイブンクローらしく勉強熱心で知識を貪欲に学ぶ良い生徒だが、如何せん自由過ぎる。昨日など、闇の魔術に対する防衛術の研究中に浮遊呪文で双子の片割れを浮かせ、同じく浮かせた訓練用人形を浮かんだ片割れが呪文で滅多打ちにして高速回転させていた。
「初めに、これはなーんだ?」
金ぴかに輝く物体を高々と掲げ問う。
「金!」
「違う。黄鉄鉱」
目を輝かせたセルウィンが元気よく手を挙げて答えるのをトムがにべもなく訂正。「金じゃなかったんだ。でも金みたいで綺麗~!」と、堪えた様子が微塵もない姿を見てトムがうんざりしていた。
「正解だトム。こいつは黄鉄鉱。金に似ているが全く別の鉱物さ。別名『愚者の金』とも言われる。本物の金と見比べよう」
もう一方の手の平に正真正銘の黄金を乗せて差し出す。
研究室に差し込む太陽の輝きを浴びて輝く二つの金がキラキラ輝く。
生徒の目もキラキラギラギラ光る。
「標本は置いておくので自由に観察なさい。さて、本日は黄鉄鉱の錬成を行う。使用器具はこれらの
二つの金を素材が乗った台にあるガラスドームに封じて研究室の中心へ歩みを進めた。
階段状に窪む床の底。時計回りに火の炉、風の炉、水の炉、土の炉、四つの炉が鎮座し大きな窓から覗く内部に球型のフラスコが一つ置かれている。火の記号『△』が描かれた炉下部の引き出しを開け赤い結晶を取り出す。
「火の炉は融合・分解、風の炉は気化、水の炉は液化、土の炉は固化・保護を司り、燃料に使われた各属性の元素結晶により物質を変質・固定、新たな物質へ変換する」
見せ終わった結晶を戻し、階段を上って素材台へ。粉末状の硫黄と鉄が入った瓶を持ち上げた。
「諸君にはこの二つの素材を使い黄鉄鉱を錬成してもらいたい。手順は、素材の入った哲学者の卵…フラスコを最初に火の炉内部へ、次に土の炉へ入れ、随時攪拌呪文と変性呪文で錬成過程を早めるだけ。まずは私が手本を見せよう。しっかり」
「見て、学べ。若人よ」
あれから数時間後の正午。
ナサリーに生徒の監視を任せて、人気がないあぜ道を練り歩いていた。
何をしているか?トムの身辺調査だ。
気になっていたがあえて無視していた極大厄ネタ。暫定スリザリンの末裔、闇の魔法使いになる確率80%(増減あり)トム・マールヴォロ・リドル少年の遺伝子提供元を暴く使命中である。
トムのミドルネーム、マールヴォロ。そこにパーセルマウスを悪魔合体させた存在なぞ限られる。そもそもパーセルマウスはスリザリンの子孫が大半だ。スリザリンの子孫でパーセルマウスでマールヴォロ?マールヴォロ・ゴーント以外思い当たらん。よってゴーント家が調査候補に挙がり、伝手を頼りに情報収集を開始した。
思いもよらなかったのはゴーント家の近所にリドル家が存在したこと。
嘗てゴーント家は家長のマールヴォロ、息子モーフィン、娘メローピーの三人家族だったらしい。現在、家長はモーフィンでメローピーは消息不明。メローピーはトムの母親の可能性が高い人物だ。リドル家に関しての情報はあまりない。トム・リドルという名の裕福なマグルが両親と暮らしているとか。
リトル・ハングルトンはこぢんまりした集落だ。小高い丘の上に邸宅が建ち、素朴なレンガ造りの家々と教会、村外れにボロ屋が見える。
聞き込みを集落の住民にするも渋られ、心ばかりの気持ちを握らせてやっと聞き出すことに成功。リドル家は邸宅、ゴーント家はボロ屋で暮らしており、リドル家は高慢ちきな無礼者で村中から嫌われ、トム・リドルは特に酷いと唾を飛ばしながら語ってくれた。ゴーントは──―
「村の誰もあの家に近づかねぇさ。イカれた老人が昔いたが、今はそのイカれた息子がいるだけ。あんた、悪いことは言わん。あいつに関わるのはやめとけ。お、俺、昔聞いたんだ。メイ婆の悲鳴があの家から聞こえるのを。今もメイ婆は見つかんねぇ。誰も信じちゃくれねぇが本当なんだよ」
──―名すら忌諱し忌むべき者。本気で心配する住民へ安心を意図した微笑みと追加のお気持ちで黙らせ、顎髭を撫でて思考に耽る。
さて、参りました本日のメインディッシュ、家庭訪問のお時間です。初めにリドルを。次にゴーントをお楽しみください。
嫌だ…行きたくない…。今更だが回れ右をして全力で帰りたい。
丘の邸宅へ続く舗装された道をズンズン進む。邸宅が近づくにつれ徐々に天を貫く背の高い柵が姿を現し、厳めしい立派な門へ到着。門の内側には暇そうに突っ立つ壮年の執事がおり、こちらに気付き背筋を伸ばした。
見定めるように頭から足の先まで素早く精査後、「ご用件は?」と億劫そうに尋ねる執事へ「本日訪問のお約束をいただいているダンブルドアです。トム・リドルさんへお伺いに参りました」と答える。
「えっ本当に…?ようこそお越しくださいましたダンブルドア様。ご案内いたします」
明らかに、来るなど思いもよらなかった態度の執事が開けた門を潜って邸宅へ。
行儀良く手紙で訪問許可を取ったにもかかわらず、この有様に眉を顰める。執事を追って豪奢な調度品が並んだ玄関を進む。
入ってすぐ、玄関口を飾る大きな肖像画が目に留まった。老夫妻と男が描かれた肖像。
その冷たい目から逃げるように足早に肖像画を通り過ぎ、長い廊下を渡る。
重厚な扉前に辿り着くと、執事が部屋に入り話し込んだ。何やら終わり、通されたのは窓をカーテンで閉め切った薄暗く不気味な書斎。
さりげなく背後を取られ、扉の鍵を閉められるのを意識の端で聞きながら、二人の男と対面する。
「お前か。息子がなんだの世迷言を書いた輩は」
まさにトムの生き写し。トムが年取った姿そのままのトム・リドル・シニアらしき男が吐き捨てる。唾棄する姿までトムそっくりで心底感動した。息子と同じ、冷たい青の目でトーマス・リドル(推定)が探るような視線を這わせ、組んだ指に顎を乗せて一部始終を観察し出す。
「お手紙にも書きましたが、ご子息のことで」
「息子なんかいない!」
「母親に心当たりあるはずです。メローピー…」
「その、女の、名を、出すな!」
いつもの笑みと柔らかな声で懐柔を試み惨敗。頭に血が上ったリドルが吠え、感情のままに手を机へ叩きつけ憤怒した。怒り方まで同じなんだな、とどこか他人事に思いつつ、さっさと暖かい笑顔を落とし無愛想な顔で部屋を歩き回る。
よろしい。トムと同じ戦法で行く。無礼には無礼を返してやろう。
「面識があると。それは重畳。おっと失礼、私はアルバス・ダンブルドア。ある学校で教師をしている者でして。ここに来たのはトム・リドルさん、つまり貴方と”同姓同名”の子供の血縁関係を調べに来たのですよ」
「は?私の名もリドルの姓もやった憶えなど──―」
「子供は、いたな。名も姓すら与えなかった子供が」
開心術で覗いた心の奥底に封じ込められた記憶。ロケットを首に掛けた幸せそうな女性の姿。泣き喚き、縋りつく彼女の腕を振り払い、豪雨の中逃げ出す光景。
リドルの赤い顔が真っ青に変色、目を逸らす。
「あの女に言われてきたのか?なら伝えろ。お前のことも子供も知ったこっちゃないと。子供など。認めない」
「リドルさん。勘違いしないでほしいのだが、何も貴方に子供の認知を迫ったり、引き取れと言いに来た訳じゃない。私はね、知りたいだけだ。何が起きたのかをね」
父へ子が目を合わせて不安そうに顔を歪め、息子の代わりに父親が重い腰を上げた。
「要は野次馬根性丸出しで根掘り葉掘り聞きたいだけか。恥を知れ」
「どうとでも。ただ、好奇心でここまで来ないと言っておく」
「…」
「何があったのか教えてほしい。そうしたらすぐ出て行こう」
時々、本当に時々、トムは寂し気な顔をする。
一年前の漏れ鍋で見たものと同じ表情。苦みと恨み、そして圧倒的な孤独と憧憬。
『父さんが魔法使いのはずだ。僕と同じ名前って聞いているから。母さんは違う。だって』
『哀れな子です。父親も、母親の顔さえ知らず、誰も彼を迎えに来なかった』
少しくらい両親を知る機会があってもいいだろう。
たとえ、碌でなしでも。
血の気を無くしたリドルがよろよろとソファに近づき崩れ落ちた。息子の陥落を見て、年老いた父親が書斎机に座り直し出方を伺い、部屋の隅に立つ執事が居心地悪そうに身じろいだ。
「よくわからない。一体何が起きたのか、今も」
「なら初めから始めよう。貴方と彼女の出会いは?」
「…近くの森にキツネ狩りに出た時。休憩中に水を飲んで…気付くとあの女がいた」
「あまり覚えていない。妙に頭がぼんやりしてあの女以外考えられず、好きで好きでたまらなくなった。二人でどこかの家で暮らして…突然、どうしてこいつと暮らしているのか疑問に感じた。何でこんな場所にいるんだって。だから、三人で幸せに暮らそうってのたまったあいつがもう…怖くて。それで、逃げ出した」
顔を伏せて怯える男を見据え、思ったより悪い状況に吐きそうになる。この哀れな男が陥った状況の心当たりは一つだけ。
「水を飲んでからおかしくなった…?リドルさん。その水何か変だったのでは?例えば、匂い」
「匂い?そういえば、ウイスキーのいい匂いがした。果実のような、花のような。酒を入れてなかったのに。紅茶の匂いも。変だな」
深くため息をついて瞼を閉じた。やはり薬を盛られたのだ。
アモルテンシア、愛の妙薬を。
「よく、わかりました。お話をありがとうございます。お騒がせしました」
重く死んだ空気を振り払うように一礼、無言で開錠呪文を唱え書斎の扉を開けた。驚いた様子の執事を通り過ぎ無事邸宅を脱出。姿現わしで村付近まで戻り、やりきれない気持ちを外へ出すようにもう一度ため息をつく。
誰も幸せにならない結末に涙が出る。
トムが魔法使いだと望んだ父はマグルだった。しかも、薬で心を奪われ無理やり父親にされたとはいえ、母子を捨てた存在。そんな父をトムは決して許さないだろう。決して。
村の外れへ足を進めながら、ポケットに忍ばせたレモンキャンディを取り出し口へ。
母親の情報はあまり得られなかったが、”あの女”、メローピーという名への強い拒絶反応を考えれば自ずとわかる。
十中八九母親はメローピー・ゴーント。メローピーの父親はマールヴォロ・ゴーント。トムの名前はトム・マールヴォロ・リドル。糞の三連星やめろ。加えて、メローピーは生まれる子供が父親に似ることを望み、二人のトムは気持ち悪いほど顔がそっくり。これで無関係だったら狂ってホグワーツの湖の水全部抜いてしまうやもしれん。
キャンディを嚙み砕き飲み込む。もう一つ、いや三つキャンディを頬張り前方を睨みつけた。
ここまで足を突っ込んだのだ。制圧、前進し、残りの謎を解き明かす。
あらゆる箇所が腐食し荒れ果てたコテージへ到着。ゴーントの住処だ。
リドル邸と比べると風邪を引きそうになる落差がある。
訪問の許可は取れなかった。リドル同様ゴーントにも訪問に関する手紙を送るも、返信どころかフクロウは帰らず。一度は偶然、二度三度続くと必然という。
警戒心を最大まで上げ玄関前の階段へ恐る恐る足を置く。錆びた釘の突き出た階段に気を付けて上り、呼び鈴を探すも見つけられず、無骨な扉を叩く。
コンコンコンコン。
無反応。
コンコンコンコン!
無反応。
ドンドンドンドン!
「ゴーントさ…うおっ」
『うるせぇ!叩くのをやめろ!』
「モーフィン・ゴーントさんですか?」
『だったら何だってんだ』
扉が勢いよく開き男が姿を現す。ボサボサで塵の積もった髪、欠けた歯、反対を向く目。
何十年も昔。自分がホグワーツの生徒だった頃にゴーント家の者がいた。目が悪いようで、杖に頼って学生生活を送る姿を覚えている。ゴーントは目の病を患いやすいのだろうか。
「ホグワーツ教師のアルバス・ダンブルドアと申します。メローピー・ゴーントさんについてお尋ねしたいことがございまして」
『メローピー?血を裏切ったスクイブ?』
「血を裏切った?」
妹へのあんまりな言葉に眉を顰め見るが、こちらを欠片も気にせずモーフィンは罵声を浴びせる。
『マグルに傾倒し魔法族の血を穢す者!!そんなことも知らんのか穢れた血!』
耳元への音響攻撃で脳が揺れ動く。耳鳴りがするほどのダメージを耳に受け、仰け反って音の発生源からできる限り離れた。すぐに杖を抜ける準備をする。
「スクイブと言いましたが、メローピーさんは魔法が使えなかったのですか?」
『醜い出来損ないに使えるわけがない。受けた恩を忘れ、くそったれのマグルと逃げ、父を見捨てた盗人如きが!』
「その」
『あんのスクイブ…大切なロケットを盗みやがって…戻ったらただじゃおかねぇ』
「ロケット?」
『純血の問題に首突っ込むな汚物!消え失せろ!!』
激昂したモーフィンが扉を勢いよくバーン!と閉め、危うく顔が真っ平らになりかけた。扉に掠った鼻先を撫でてまだあるか確認。まだ付いている鼻に感謝してその場から離れる。
蛇語しか喋らなかったぞあの人。スリザリンの末裔怖…。
兎にも角にもメローピーの家庭環境の悲惨さは伝わった。
どうやら、醜いスクイブと見下す兄と父親に嫌気がさして逃げ出したようだ。
虐待されていた可能性もある。
逃げた時期はダブルゴーントがアズカバン送りになった後か。モーフィンはマグルに魔法を掛けた罪で、マールヴォロは息子を守るため役人へ暴行を加えた罪で逮捕された。事件当時、日刊予言者新聞に小さく記事が掲載されていた記憶がある。
件のマグルがリドルなら、メローピーのリドルへの想いに気付いた二人が怒り狂い、凶行に及んだのも納得だ。
二人が捕まり晴れて自由の身となったメローピーは、愛の妙薬でリドルを支配下へ置き駆け落ち。二人は偽りの愛の生活を続け、いつしか子供ができた。そんな日々を送る中、何を思ったか彼女は薬の使用を止め、結果リドルが正気を取り戻し逃亡。働けないメローピーは生活苦の末ウール孤児院へ助けを求めるも、子供を出産後死亡する。
記憶の中の彼女はリドルをとても愛していた。
だからこそ、薬によってもたらされた偽の愛でなく本当の愛を欲したのかもしれない。
思考に沈みながらあてどなくさまよい、教会裏の墓地へ辿り着く。ふいに、視界を横切った銀色の何かが気になり墓地へ踏み入った。墓石の群れを通り過ぎ、ゆらゆら揺れる銀の幻影へ歩む。
ある一つの墓を見る幻影、つまりゴーストの前で止まり、同じ場所に目を向ける。
マールヴォロ・ゴーント
おや、ここはゴーント家の墓らしい。
何気なく隣のゴーストを横目で観察してみる。やつれた顔に汚れた服、痣で覆われた肌。
疲れ切った猫背で墓を見つめる姿がこちらを向く。
リドルの記憶と同じ斜視。
「ごきげんよう。メローピー・ゴーントさん。いえ、リドルさん」
虚ろな目でじっとり熟視するメローピーに気味が悪くなるが耐え、負けじと見つめ返す。その時、記憶と違い首にロケットが無いのに気付いた。首に注目している隙にゴーストが近づく。
驚いて後ずさるも時すでに遅く、顔が眼前いっぱいに広がる。
『ロケット。ボージン・アンド・バークス』
それだけ呟くとゴーストは消失。静かな墓地と慄く私。数多の墓石が静かに見守り、冷たい風が頬を叩く。
緊張で固まったままの筋肉を動かし、ポケットに残った飴玉の最後の一つを執拗に噛み砕いて独り思う。
どうしろというのかね。
助けてニコラス!
・クロエ・イングラム&クレマン・イングラム
生やしたモブ。レイブンクローの六年生。輝く金髪の男女の双子。クロエが姉。クレマンが弟。
髪型以外で見分けがつかず、気分によって髪型を入れ替えて人々を混乱に陥れる。
半純血。
・モーフィン・ゴーント
マールヴォロ・ゴーントの息子。普段から蛇語で話す。
マグル嫌いの純血主義。斜視。
・メローピー・ゴーント(リドル)
マールヴォロ・ゴーントの娘。父親と兄から虐待を受けていた。斜視。
トムの母親。愛の妙薬でトム・リドル・シニアの心を奪い妊娠、捨てられる。
故人。
・トム・リドル・シニア
トムの父親。大地主の息子で美男。しかし性格は醜悪。
メローピーといつの間にか夫婦にされ子供まで作られた人。
マグル。
・トーマス・リドル&メアリー・リドル
トムの祖父母。シニアの父母。
マグル。
・死の秘宝
「死」がペべレル三兄弟に与えたという伝説の三つの秘宝。
一番上の兄へ「ニワトコの杖」、二番目の兄へ「蘇りの石」、三番目の弟へ「透明マント」。
この三つを手にした者は死を制するという。
ダンブルドアとグリンデルバルドは若い頃この秘宝を求めた。
・『三人兄弟の物語』
ペべレル三兄弟がどのように「死」と出会い、破滅したかを記す物語。物語の中で「死の秘宝」が言及されていると信じられている。
一番上の兄は最強の杖を手にするも、杖の力を欲した一人に睡眠中殺害された。
二番目の兄は死者を蘇らせる石で愛する女性を死から呼び戻すも、女性は生者の世界に馴染めなかった。悩んだ結果、死の世界で一緒になれるよう自殺。
三番目の弟は「死」から身を隠すマントを手にし、「死」の目から隠れて長生きをした。
年老いた弟は息子へマントを託し安らかに死を迎えた。
・ハナハッカ軟膏
ハナハッカ・エキスの軟膏。火傷や内出血、噛み傷など怪我の殆どに効く。
独自設定。
・アモルテンシア
飲んだものに強烈な執着心を引き起こす魔法薬。愛の妙薬とも言う。
愛を創り出すわけではない。
・耳塞ぎ呪文
近くにいる人などに雑音を聞かせ、会話を聞こえなくさせる呪文。
この話では強化版の完全防音(独自設定)をかけた。
・生物探知呪文
周りに生物がいるか見つける呪文。
独自設定。
・魔法検出呪文
魔法がかけられた後に残る痕跡を検出する呪文。
独自設定。
・攪拌呪文
独自呪文。鍋やフラスコ、瓶などの内容物を混ぜる呪文。
独自設定。
・変性呪文
対象の情報を組み替えて変性させる呪文。変身術。
独自設定。
・開心術(レジリメンス)
人の心を覗き込む術。この術を使う者を開心術師という。
・開錠呪文(アロホモラ)
鍵を開ける呪文。
・フクロウ便
魔法界の郵便局。フクロウが手紙や荷物を運んで届ける。
どこでも届けられる特殊能力搭載済みフクロウ。
・レモンキャンディ
ダンブルドアが大好きなマグルのお菓子。