飛燕一個大隊を運用可能かつ、ラザフォード場を二重に発生可能な移動基地。単艦で戦線どころか地球の未来を左右可能なこの兵器は、帝国軍が戦後に秋津島グループへ莫大な資金を投じて建造された。
「浮遊艦は凄乃皇よりも設計思想が遅れていた。高度な計算能力を持ちつつも、同様の性能を持たせたコンピュータよりも小型な00ユニットを必要としないことを目的にしていたからな」
「ですがより巨大で無駄の多い身体を浮かせて制御する技術と、設計的な余裕からして、このような戦術機母艦としての運用では浮遊艦に分がありますね」
「複雑な気分だけどな。凄乃皇は元々米国の試作機だ、こちらが勝手に似たような後継機を作るわけにもいかない」
秋津島グループの造船ドックにて、社長とその秘書といういつもの2人が話し合っていた。浮遊母艦はユーラシア大陸派兵の目前に、試験航海時に見つかった幾つかの問題点に対処するため、自らが生み出されたドックに戻っていた。
ハリネズミのように取り付けられた各種兵器は秋津島グループ謹製の超電磁砲ことレールガン、虎の子の荷電粒子砲を目玉としつつも、本当の主兵装は貨物打ち上げ用のカタパルトだ。
「だからこの船は多機能&大容量で差別化を図った、補給コンテナを自力で飛ばせるなんてクールだろ?」
「補給コンテナの射出や投下にはかなりの労力が必要ですから、全て自力で賄えるというのは大きいかと」
補給コンテナは軌道上からの投下が大部分を占めるため、その輸送も既存の打ち上げ施設のキャパシティを圧迫してしまう。それにマスドライバーを砲撃のために転用するのは、少し前にやったことだ。
「下手な大砲よりも重い砲弾をぶっ放せるし、最悪カバーさえ付ければなんでも弾にできる」
「適当なコンテナに爆薬詰めて即席砲弾、なんてことも?」
「浴槽も便器も飛ばせるさ」
従来通りの火砲も数多く搭載しているが、この船は超重光線級に対して砲撃戦を行うことすら想定している。無論地平線の影に隠れた上でだが、普通に使う分には過剰な砲撃能力を持つ。
「凄乃皇がハイヴへの突入・攻略を目的とする兵器と定義されるなら、コイツはBETAに脅かされずどの場所へも行ける移動要塞だ。BETA相手に撤退を繰り返して設備の整った基地を幾度となく失ってきたが、その点この船なら設備丸ごと移動できる」
ユーラシア大陸に基地を作っても使い終わった後に困り、国連軍の基地を使うというのも大所帯では難しい。『BETAに下手な学習をさせないために、国連軍が指揮権を持つ』という取り決めの説得力も、オリジナルハイヴ制圧によって失われた。
そんな中に行われる帝国の半ば強引な大陸派兵も、単純な理由ばかりではない。様々な国の思惑が絡み合っているのだとすれば、まず止まらないだろう。
「色々と頭痛の種には困らないのが現状だが、ちょいと完成前に試験を挟まないといけないよな」
「ええまあ、そうですね」
「試験ついでに、月へ何十発か砲弾を打ち込んでもらおうぜ」
月面ハイヴ攻略作戦決行に合わせ、この船を宇宙に上げる。ついでに部隊も載せていってもらおう、砲撃までさせれば最高だ。帝国も月のハイヴ攻略自体には協力的だ、ここは首を縦に振ってもらうとしよう。
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ユーラシア大陸への派兵が目前に迫る中、ユーコン基地は相変わらず戦術機の開発に勤しんでいる。宇宙との往還試験を終えた試作機達はデータを取るためか、ネジの一つに至るまで解体されていた。
いつもの2人は造船所の視察を終えて帰ってきたは良いが、この機体達を完成させるにはまだまだ時間が必要であることに悩んでいる。
「6回宇宙と地上を行き来して凄乃皇の部品を運びましたが、それなりに負荷があるような、ないような……」
「無重力でも動かせばGはかかる。地上とは違う負荷のかかり方に見えるが、やっぱり無理矢理取り付けたML機関の質量が悪さをしてやがる」
本来ならば戦術機側にあるべき重心が、腰から背後に突き出すように取り付けられたML機関側に移っている。方向転換をしようにも、機体は外側へ常に振り回されるような負荷に晒さられた、ということを部品の状態が物語っている。
「やっぱり宇宙じゃあ速度もGもかけようと思えば青天井だ、こんな急増品じゃあ駄目だな」
「『これでいいから売ってくれ』ってお国の方々から大量の連絡が」
「だから第四世代機っていう次世代のスタンダードというか、技術的なある種の規格を作るのがこの開発計画の目標なんだっての!未完成品をばら撒いたら滅茶苦茶な形の戦術機だらけになるぞ!?」
「売ったとしても、買った側が動かすG元素が無いでしょうに」
「帝国はなんだかんだで溜め込んでたからな、俺達が落着ユニットを捕獲し続けているのが大きいんだが」
何がどうあれ、地球上のBETA排除は不可能ではなくなった。BETAからもたらされた技術がこうも役に立つとは皮肉なものだと、社長は笑いながらML機関の図面を見る。
「……よくよく考えれば、一機につき一つのML機関ってのも非効率的だよな。無理に小型化しても効率は下がるわけだ」
「確かに飛燕もかなり無理をした設計ですが、何か解決策が?」
「凄乃皇のML機関と制御システムを弄る。電力供給と重力制御は凄乃皇側が行えば、ラザフォード場の中には限られるが載せているのと同じこと」
個別のML機関で発電と重力制御を行うならば、大きなML機関一つでそれを賄ってしまえばいい。電力も宇宙開発技術の転用で、大出力の無線給電システムが用意できる。
「というわけで作業に入るので、暫くヨロシク」
「では資料を揃えてお渡ししますが、先にこれだけは。テストパイロット達からのレポートです」
「おお、おお……欠陥品であることは認める」
新型機開発は前途多難、しかし見通し良好。進捗を尋ねられた社長は、周囲にそう答えたという。