秋月連也武芸帖   作:阿修羅丸

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月光校庭のエクスカリバー編
12:聖剣


【1】

 

 六月になった。

 一時間ほど前まで降っていた雨のせいで、夜の空気は多分に湿気を含んでいる。

 駒王町とその隣町との境目にある森に、リアス・グレモリーとその眷属たちが集まっていた。秋月連也も同伴している。

 グレモリー眷属に、新たにはぐれ悪魔の討伐指令が下っており、そのはぐれ悪魔が潜伏しているのが、この森なのである。

 回復役のアーシア・アルジェントを中心に円陣を組み、周囲を警戒しながら、暗い森の中を歩く。外灯の類はなく、彼等も懐中電灯など持っていないため、前方に伸ばした自分の手すら見えないほどの暗闇だ。しかし悪魔の視力ならば充分に見通せるし、幼い頃からの山籠りで研ぎ澄まされてきた連也の視覚も、念による補強もあり、ものの数分でこの闇に慣れた。

 それでも連也の胸中には不安があった。ただし、この暗さに対する不安ではない。同行している仲間たちに対する不安だ。さっきから皆が皆、落ち葉や枯れ枝、草などを踏みしめて、一歩進むごとにガサガサパキパキと音を立てている(特に兵藤一誠とアーシア)。足音を消せているのは連也だけだ。

 

(こんなんじゃあ、こっちが先に見つかっちまうよ……)

 

 胸中でとはいえ、ぼやかずにはいられなかった。

 リアスの話では、今夜の討伐対象はかなり厄介らしい。

 名はエスパダ。元人間の転生悪魔。与えられた駒は騎士(ナイト)神器(セイクリッド・ギア)を所有している。その神器が、悪魔にとっては天敵も同然の能力なのである。

 

 《聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)》。

 

 イメージした様々な属性や機能を持つ聖剣を生み出せる能力。木場祐斗の《魔剣創造(ソード・バース)》の聖剣版とでもいうべき能力だ。聖なる力を宿した武器は、悪魔に対して極めて強い効果を発揮する。聖職者の祝福によって聖別されただけの剣による浅い切り傷でも、大きなダメージになるのだ。まるで刃に猛毒を塗られているかのように。

 リアスが連也を呼んだのは、そんな武器を無尽蔵に生成出来る敵に対抗するためだ。散開せず一塊になっているのも、奇襲を受けて各個撃破されるのを防ぐためだった。

 アーシアの肩に、小さな青い物が乗っかっていた。ドラゴンだ。雷を操るスプライトドラゴンの幼体である。冥界に生息しており、つい先週アーシアが自らの使い魔にして、《ラッセー》と名付けた。

 いくら周りを見通せるとはいえ、森の中では視界も悪い。相手の殺気を感知できる連也の感応力と、このラッセーが周囲に放つ微弱な電流による生体レーダーが、今の彼等の《目》も同然だった。

 

 月は出ているが、木々の枝が黒黒と夜空を覆い隠している。連也がふと足を止め、その漆黒の天蓋を見上げた。

 

「クゥーッ!」

 

 アーシアの肩の上で、ラッセーが警告の声を上げる。

 直後、無数の淡い白光が降り注いで来た。それは剣だった。十字鍔を備えた簡素な造りの剣が十数本も、空から降ってきたのである。その時連也の手には既に、父の形見でもある魂の木刀、聖剣《飛龍》が握られていた。

 

「エェヤッ!」

 

 鋭い気合と共に、連也は《飛龍》を頭上から迫る無数の剣に向けて振り抜いた。発生した、あるかないかの微かな気流が念で増幅され、破邪の烈風となって荒れ狂い、剣の雨を散らした。

 

「クァーッ!」

 

 ラッセーがアーシアの肩から青い皮翼を広げて飛び立ち、上空に向けて一筋の稲妻を放つ。その攻撃は、後から現れた一本の剣が避雷針となって受け止めた。

 頭上の闇の中で枝が揺れる音がした。

 連也の視線はその直後、正面に移動した。

 

「正面から来るぞ!」

 

 彼の叫びが合図であるかのように、再び淡い白光を放つ剣が、ミサイルめいて無数に飛んできた。リアスが咄嗟に前に出る。伸ばした両手から放たれる、触れるもの皆消し飛ばす滅びの魔力が壁となって、剣の弾幕を受け止め、防いだ。

 巫女服姿の姫島朱乃が、敵がいるであろう正面の闇目掛けて雷撃を放たんと手を伸ばした時、彼女のすぐ横を一陣の風が駆け抜けた。

 祐斗だ。両の手にはそれぞれ、自身の能力で創造した魔剣を携えている。目を見開き、歯を剥いて、日頃から彼の一挙手一投足に黄色い声を上げる女子生徒たちですら怯えてしまうであろうほどの、凄まじい形相だった。

 

「ちょ、祐斗!?」

 

 リアスが驚き、呼び止めようとするが、彼は止まらなかった。

 遠距離攻撃が出来るリアスと朱乃、一誠、そしてラッセーで相手の動きを止め、連也が接近して仕留める。祐斗と塔城小猫はアーシアの護衛に専念する。そのように役割分担していたし、祐斗も事前の打ち合わせでそれは承知していたはずだった。

 なのに彼は、憎悪に美貌を歪ませ、獣じみた雄叫びすら上げて、一人斬り込んでいった。

 闇の向こうに、薄汚れて擦り切れたマントに身を包んだ男の姿があった。

 その男──はぐれ悪魔エスパダが、足元の地面を踏んだ。

 瞬間、祐斗の足下から、胸元目掛けて一本の剣が、地雷めいた勢いで伸びてきた!

 

「くっ!」

 

 踏みとどまって、魔剣でこれを叩き折る。

 しかし二本、三本と、立て続けに剣が虚空から現れて、襲いかかってきた。祐斗、これらも魔剣で次々と叩き折る、砕いていく。

 

「祐斗、離れなさい!」

 

 フレンドリーファイアを恐れて手が出せず、苛立ったリアスが怒鳴りつけるが、彼の耳には届かない。

 頭上から降ってきた一本が、狙いを外して祐斗の背後の地面に突き刺さった。祐斗はいちいち振り向いて、それを破壊した。

 その姿を見たエスパダは、口角を吊り上げると、パチンと指を鳴らした。

 突如、彼と祐斗との間に無数の剣が林立した。

 

「くっ……うあぁあああっ!」

 

 祐斗は理性を理性を感じさせない声で吠え、その聖剣を次々と破壊していく。まるで剣そのものこそ我が怨敵と言わんばかりだ。

 エスパダは両手の人差し指を伸ばして、オーケストラの指揮者めいてそれを振り回した。鼻歌まで歌っている。それに合わせて聖剣が次々と創造されていく。

 その姿を見た祐斗は、更に顔を歪ませ、エスパダへと突進していく。

 待ち構えていたかのように、新たな聖剣が創造され、祐斗の真正面から飛んでくる!

 右手の魔剣で、何とか打ち払えた──かと思えば、二本目が飛んできた。これも左の魔剣で打ち払う。

 その直後に、三本目が飛んできた。

 これがエスパダの作戦だった。祐斗が聖剣を破壊することにこだわってると推測し、敢えて大袈裟な身振りや鼻歌で挑発し、これ見よがしに無数の聖剣を祐斗の前に並べて怒りを誘い、誘き寄せてからの三段攻撃で仕留めるつもりだったのだ。

 祐斗が三本目の聖剣を視認するより一瞬早く、何か小さな物が横から彼の体にぶつかり、突き飛ばした。

 

「──ぐっ!」

 

 押し殺すような、小さな苦悶の声が、祐斗の耳に響いた。

 小猫だ。彼女が祐斗を押し倒して庇ったのだ。三本目の聖剣は彼の胸を貫く代わりに、小猫の肩を深々と切り裂いていた。駒王学園の制服の袖が、鮮血で赤く染まっていく。それだけでなく、傷口からは嫌な匂いのする煙まで上がっていた。

 

「どけっ!」

 

 しかし祐斗は、自分の上に被さる小柄な身体を押しのけて立ち上がる。

 

「馬鹿! 上だー!」

 

 一誠の怒鳴る声に、思わず見上げると、そこには全長5メートルを優に超えるであろう、巨大な聖剣が創造されていた。

 落下してくるその超重量級の刃に対し、祐斗は両手の魔剣を交差させて受け止めようとした。

 そこでようやく、その二本の魔剣が刃毀(はこぼ)れ著しく、ボロボロに損傷していることに気付いた。これではとても受け止めきれない。しかし受けきれるような頑丈な魔剣を新たに創造する暇もない──!

 思わず目を閉じる祐斗。

 だが、次に来るであろう痛みは、無かった。

 それもそのはず、巨剣は祐斗の頭のすぐ上で、ピタリと静止していた。

 自分の背後へと伸びる刀身を目で追うと、後ろに立つ連也が、木刀で剣を受け止めていた。身幅だけでも人の背丈ほどはある巨大な剣である。切っ先は止められても、剣は重力に従い、柄のほうが地面に落ちるはずだ。だが木刀《飛龍》で受け止められた巨大聖剣は、柄を見えない糸で吊り上げられてるかのように、空中でピタリと止まっていた。

 連也が木刀を振ると、巨剣は宙に跳ね上がり、反転してエスパダの法へ落下する。

 巨剣は落ちながら白い光を放つと、みるみるうちに縮んでいき、普通サイズの剣へと変化。掲げられたエスパダの手の中に、意思あるもののごとく収まった。

 連也が、祐斗の前に立った。

 かと思うと、彼の胸を《飛龍》で小突く。

 

「うわっ!?」

 

 祐斗が間の抜けた声を上げた。痛みすらない軽い突きで、自分の体が後方へと滑るように飛んでいったのだ。

 そして、リアスに受け止められた──かと思うや否や、魔力で作られた光の輪で両手足を拘束されてしまう。

 それと同時に、同様にして小猫が、こちらはアーシアの方へと飛んでいった。

 

 連也とエスパダが、向かい合った。

 かと思うや否や、連也は地を蹴って高々と跳躍。一瞬遅れて、彼が立っていた地面から数本の聖剣が切っ先を上にして飛び出してくる。

 エスパダは自身の周囲に聖剣を大量発生させ、連也がどこに着地しようと刃で貫けるようにした。

 しかし少年はどこにも降りてこない。訝しんで上を見たエスパダの目に、信じられない光景があった。連也が、木の幹に立っているのだ。重力が垂直に働いているかのように、身体の向きは地面と平行になっている。

 

「エヤァ!」

 

 連也がその奇っ怪な体勢のまま木刀を突き出すと、一条の閃光がほとばしる。

 エスパダ、背中から悪魔の翼を広げて舞い上がり、これをかわした。

 しかし連也の攻撃は、それで終わらなかった。的を外した閃光がエスパダの立っていた地面に着弾すると、そのまま地面に吸い込まれるように消えて──一瞬の間を置いて、土の下で爆発が起きたかのように、エスパダが生成していた無数の聖剣が宙に吹き飛ばされて、舞い上がる!

 噴火めいて噴き上がった聖剣が上空のエスパダへと飛んでいく。エスパダは大量の聖剣を創造してぶつけることで、身を守った。たとえ自らが生み出したものでも、今は悪魔となった彼には掠っただけでも大ダメージなのだ。思わぬ事態にエスパダは顔を引きつらせ、一瞬だが敵の存在を忘れた。

 連也、既に木の幹を蹴って夜空に舞い上がっており、エスパダの背後に回っていた。聖剣《飛龍》が唸り、白い光の軌跡を描きながら、エスパダの身体を脳天から股間まで一気に通り抜けた。肉体を透過する斬撃が、はぐれ悪魔の体内に必倒の念を打ち込み、彼の意識の糸を断ち切った。

 エスパダは地面に激突する直前に、リアスが魔力で生成した光の網に捕らえられる。

 そして連也は、空中で朱乃に抱きかかえられて、図らずも彼女の胸部に搭載された102cmKカップの戦略兵器に顔をうずめる形となった。

 それを地上から見上げる一誠が嫉妬の血涙を流したのは、言うまでもない……。

 

【2】

 

 アーシアの《聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)》で、小猫の傷はすぐに癒えた。

 捕らえたエスパダは冥界の魔王庁へと、転移魔法陣で転送させる。。

 それが終わると、リアスは拘束を解いた祐斗を詰問した。

 

「どういうつもりで、打ち合わせを無視して一人で突っ込んでいったの? 祐斗」

 

 祐斗は答えない。口をへの字に引き結び、そっぽを向いている。

 

「小猫がフォローしなかったら、あなたは死んでいたのよ?」

 

 祐斗は答えない。口をへの字に引き結び、そっぽを向いている。

 

「あなたのせいで、小猫は負う必要のない傷を負ったわ」

 

 祐斗は答えない。口をへの字に引き結び、そっぽを向いている。

 

「なのにあなたは彼女を労るでもなく邪魔者扱いまでしたわよね?」

 

 祐斗は答えない。口をへの字に引き結び、そっぽを向いている。リアスが両手で彼の顔を挟んで、無理矢理自分の方を向かせた。

 

「そうして仲間を傷つけた挙句、『僕も傷付いてます』と言わんばかりに不貞腐れるなんて、大した度胸ね……誰とも口を利きたくないと言うのなら、望み通りにしてあげるわ」

「……僕を、殺すんですか?」

「今のあなたに、そこまでする価値があると思って? 謹慎よ。三日間、部活動だけでなく登校も禁止します」

「……いくら部長でも登校まで禁止する権限は」

「あるわよ。だって私はリアス・グレモリーなのだから

 

 リアスは堂々と、ハッキリ、力強く宣言した。

 

「三日間、お家でおとなしく反省なさい」

 

 そして祐斗の足下に向けて手をかざすと、そこに魔法陣が現れた。その魔法陣が光ったかと思えば、祐斗の身体が吸い込まれるように消えた。

次の瞬間、彼はグレモリー家が所有する眷属の住居として用意されたマンションの、自分に与えられた部屋のリビングに転送されていた。

 

「マジすんませっしたぁぁあああっ!!」

 

 祐斗を転送して一息つくリアスの足元に一誠が、服が泥で汚れるのも構わずに、飛び込むような勢いで土下座してくる。

 

「……どうして一誠が謝るの?」

「アイツの様子がおかしいのは、たぶん俺のせいです!」

「たぶん? 本当にどういうことなの?」

 

 リアスの問いに、一誠は土下座の姿勢は崩さずに語り出した。

 

 ──中間テストが終わって間もない、先週のこと。

 一誠はその日の放課後、部室に集まった眷属一同の前で今のように土下座していた。

 

「男・兵藤一誠、一期(いちご)の願いっ!!」

 

 突然のことに驚くリアスたちが、その時代がかった言い回しに更に驚く中、彼は続けた。

 

「今度の日曜日、うちに遊びに来てくださいッッ!!!」

 

 最近帰りが遅くなった理由を両親に問われ、『部活に入った』と答えたのが切っ掛けで、『クラブのお友達を是非紹介してほしい』と、両親が言い出したのだ。何せ息子の友達といえば松田と元浜の二人くらいなので、心配していたのだろう。両親の押しの強さに断りきれず、結局一誠は土下座してお願いしているというわけだ。

 リアスと、側近たる朱乃には既に予定があったため、その二人を除いたメンバーが一誠の家を訪れることとなった。

 両親、特に母親は、息子の新しい友達の来訪を喜び、恥ずかしがる一誠を尻目に昔のアルバムを引っ張り出して小さい頃の息子のいろんな写真を見せ始めた。

 母がそれぞれの写真を、いつどこで撮ったものなのか、その日どんな出来事があったかを嬉々として語る。一誠が顔を真っ赤にしてそれを止めようとする。そんな息子を父親がチキンウイング・フェイスロックで抑え込む……騒がしくも楽しい時間だったが、ある写真を見て、不意に祐斗の表情が険しくなった。

 

「……一誠くん。これは?」

 

 彼が指差したのは、幼稚園児の一誠が同い年の男の子、そしてその子の父親と思わしき男性と一緒に写っている写真だ。場所は芝生の整えられた広い庭で、背景にはバーベキューに興じる大人たちの姿もあった。

 父親の技から抜け出した一誠が、指し示された写真を覗き込んだ。

 

「あー、それは幼稚園の頃の写真だな。そっちの子は近所の子で、よくヒーローごっこして遊んでたよ。小学校上がる前に親の転勤だか何だったかで外国に行ってそれっきりだ。で、そのお別れパーティーをやった時の写真だな」

「いや、そっちじゃなくて、コレだよ」

 

 祐斗の指先が、男性の箇所をトントンとつつく。男性は古びた西洋剣を携えていた。

 

「あー、それは……何か凄い大事にしてて、何度も遊びに行ったけど、その写真撮った日にしか見せてもらえなかったんだよなぁ。確か写真撮った後、パーティーに来た人全員にその剣持って神の祝福を〜とか言ってお祈りしてたな……もしかして値打ち物なのか?」

「まぁ、値打ち物と言えば値打ち物かな……」

 

 答える祐斗の顔には、鋼鉄のような暗く冷たいものが浮かんでいた。

 

「コレは本物の聖剣だよ」

 

 ──その後祐斗は、用事を思い出したと言って、さっさと帰ってしまった。

 そしてそれ以来、彼はどこか上の空だった。『アンタが何かしたんでしょう、このケダモノ!』と、祐斗のファンクラブを自称する女子たちに一誠があらぬ疑いを掛けられたが、それはどうでもいい。

 そして今夜の暴走である。

 一誠からすれば、()()()()が原因としか思えなかった。

 

「……そのお友達の親御さんが持っていた剣を、確かに祐斗は聖剣と言ったのね?」

「はい」

「……はぁ、通りで」

 

 リアスは何か納得したようだ。それは朱乃や小猫も同じだった。対して一誠とアーシア、そして部員ではないのでその日呼ばれてなかった連也は、ちんぷんかんぷんである。

 

「あのー、部長。いったいぜんたい何がどうなって『通りで』なんスか?」

「もう遅いし、明日改めて話すわ。今夜はこれで解散。みんな、気を付けてお帰りなさいね」

 

 リアスにそう締め括られては、眷属たちは従うしかなかった。

 

【3】

 

 自宅のある住宅街目指して歩きながら、連也は何度目かの溜息をついた。

 帰り際に、リアスがいきなり自分を抱き寄せたのだ。連也の髪を撫で、その匂いをスンスンと嗅ぎ、99cmJカップの戦術兵器を惜しみなく密着させてくる。

 

「ちょ、何スか部長さん」

「今夜はありがとう連也くん……疲れたでしょう? 明日はお休みだし、私の家に泊まっていくと良いわ……お風呂でお背中流してあげるし、抱き合って眠りましょう? もちろん私もあなたも裸よ?」

「謹んで辞退します!」

「どうして? 私はリアス・グレモリーよ?

「それ関係ないから!」

「あらあらウフフ。いけませんわよ、ぶ・ちょ・う・♡」

 

 仮面のような朗らかな笑顔を顔に貼り付けた朱乃が割って入り、その隙にリアスの抱擁から抜け出した連也は、一誠の嫉妬のこもった呪いの言葉を背に浴びながら、半ば逃げるようにしてその場を去った。

 

「まったく、あの人はパーソナルスペースってもんを知らんのか……これから暑くなってくるってのにあんなにベタベタされちゃ、たまったもんじゃないな」

 

 ブツクサとぼやきながら歩いていると、住宅街の入口にある公園の前で、足が止まった。噴水のそばの、外灯の光に照らされて、何か黒っぽいものが地面に転がっている。

 それは黒いコートを着た男性だった。更によくよく見れば、怪我もしているらしく血を流している。連也は思わず駆け寄った。

 

「大丈夫ですか? 今救急車呼びますんで、気をしっかり持って」

「……う……くう……っ!」

 

 苦しげに呻く男性は、全身のあちこちに傷があった。

 刀傷だ。

 顔は知らないが、服装には見覚えがあった。黒いコートと思ったのは、あの白髪の男が着ていたのと同じ神父服だった。

 

「に……にげ……」

 

 男性が口を開くより早く、連也は背後を振り向いた。

 

 ガイィィイインッ!

 

 そんな音がした。

 連也の手には、魂の木刀・聖剣《飛龍》。

 その《飛龍》と刃を噛み合わせて鍔迫り合うのは、神々しい光を放つ西洋剣。

 

「会いたかったぜハニー」

 

 その剣を携え、歯を剥いて残忍な笑みを浮かべるのは、神父服を着た白髪の男。

 堕天使の配下だったはぐれエクソシスト、フリード・セルゼンだった。

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