星に憧れた石ころウマ娘の物語   作:ボ・クッコスキー

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思ったよりずっと評価とか感想が伸びてて嬉しい……ウレシ、ウッ(昇天)
しばらく気づいてなかったんですが、新作日間とか日間ランキングにも結構上の方に入れていただいてたみたいで本当にもう……ウッ(昇天)
でもちょっと、重圧で心臓が……ウッ(心不全)

誤字報告もいただきました! ありがとうございます!
一応気を付けてるつもりなんですが残ってるものですね……
報告してくれる人もこんな便利機能作ってくれた人も本当にありがてえ、ありがてえ……

感謝の気持ちの代わりと言ってはなんですが、
今後雰囲気も(基本的には)大分緩くなると思うので、そんな感じのオマケ的な短いのを投下です。


始まりの日の幕間

 ルドルフとの併走が終わり、須藤トレーナーと色々話して、担当契約の手続きとかで書類に署名したりしたその日。

 

 僕はなんだかよくわからないふわふわした感情に浮かされた状態のまま帰路に就いていた。

 今日起きたことの上がり下がりが激しすぎて、精神が疲弊していたのかもしれない。

 

 どこかぼーっとしたままで、見知ったはずの帰り道を間違えたり、花壇のレンガに足を引っかけてこけかけたり、壁に衝突しかけたり、前方不注意ウマ娘と激突しかけたりしつつも何とかかんとか自室に辿り着き、そして僕はそのドアノブの捻り方を間違えて扉を開け損ねた。

 

 ……どうしたんだ一体。

 僕はそこまでのポンコツではなかったはずだぞ。

 ウマ娘パワーでやるものだから危うくドアがおしゃかになるところだった。

 

「ただいま」

 

「おかえりい」

 

 ぶんぶんと強めに何度か頭を振って目を覚まし、それでもどこか現実を呑み込みきれていないような心持ちのまま若干嫌な音を立てた気がするドアを開くと、やっぱりいつもどおりののほほんとしたタンジーの声が出迎えてくれる。

 

 見れば、彼女は机に向かって勉強中のようだった。

 タンジーはあんまり勉強は好きでもないし得意でもないタイプだけど、日頃からちびちびマメにやっている僕の影響を受けて、ちょっとだけ気分次第で予習や復習をしたりするようになった。

 それからはちょっとずつ成績もよくなっていて、先生に褒められたとこの前喜んでいた覚えがある。

 

 そんな同室である彼女の、ある意味日常の象徴とも言える声を聞いて、僕はなんだか酷い安心感を覚えた。

 いつもと変わらないその声音が、損なわれ続けた現実感をちょっとだけ補強してくれたような気がして。

 

「今日はちょっと早かったねえ。どうかしたの?」

 

「ん、ああ……まあ、色々あったから」

 

「ふーん……? ……ん、ん?」

 

 とりあえず帰宅後の所定の動作として荷物を片付けていく僕を訝しげに見やってから、彼女は開いていた教科書に視線を戻し、それからもう一度訝しげな声をあげて僕を見た。

 綺麗な二度見だった。

 

 そうしてガタっと椅子を揺らして立ち上がり、まっすぐに僕に近付いてくる。

 

「……あれえ? んー……?」

 

「な、なに。どうかした?」

 

「いやあ……」

 

 そのまま執拗に顔を覗き込んでくるタンジーにうろたえて、僕は一歩後ろに下がった。

 そうすると彼女もまた一歩詰めてくる。

 

 なんだ一体。

 もうそこそこ長いこと一緒の部屋で生活してるけど、今までにはなかった行動だ。

 

 困惑している僕を気にする様子もなく、タンジーはじっとこちらを見据えている瞳をぱちぱちと何度か瞬かせてから口を開いた。

 

「……何かあった?」

 

「何かっていうと……まあ、何かはあったけど……」

 

「それってなあに?」

 

「えっと……トレーナーが決まったこと、とか……」

 

「!!!」

 

 詰め寄ってくる彼女に問い質され、たじろぎつつそう応答したその瞬間。

 彼女はその尻尾をぴいいいんと立てて、カッと垂れ目を見開いた。

 

 えっなに、こわい。

 

 そのままぐわっと距離を詰めてきたタンジーは、正に目と鼻の先みたいな距離感で瞳をキラキラと輝かせている。

 

「そうなんだ! やっと決めたんだねえドラちゃん! ずーっと断ってばっかだったのに!」

 

「う、うん……まあ……」

 

「どんな人? ねえどんな人に決めたの?」

 

「えっと……その、新人のトレーナーさんだけど。ほら、あの、この前の選抜レースの時に、僕のこと注意してくれたトレーナーさん」

 

「へえー! へええーーー!!!」

 

「な、なに……」

 

 何かに異常に大興奮しているタンジーは、僕の返答一つ一つに過剰な反応を見せながらぐるぐると僕の周りで旋回を始める。

 一体どうしたの。

 

 しばし困惑していると彼女はようやくその謎の動作を収め、再び僕の前で立ち止まる。

 そうして、花咲くような満面の笑みを浮かべた。

 

「よかったねえ、ドラちゃん!」

 

「……ん。ありがと」

 

 ……何だかちょっと様子は変だったけど。

 それでも彼女が本当に、心の底から僕のトレーナーが決まったことを喜んでくれていることはよくわかったから。

 僕は彼女にお礼を言って、笑顔を返した。

 

 

 

「んふー、でも、そっかあ。それでかあ」

 

 その後も異常なほどに根掘り葉掘り聞きたがる彼女に付き合って疲弊しきった頃。

 お互い自分のベッドに腰かけて、片や絶好調、片や絶不調。

 ニコニコ笑顔を絶やさなかったタンジーは、その笑みを若干ニヤニヤとしたものに変えつつ何やら意味深な呟きを溢した。

 相部屋とは言え自分の部屋なのに凄く居心地が悪い。

 

「……さっきからどうしたのさ、一体」

 

「んー? ああ、そっかあ。ドラちゃんひょっとして、自分では気づいてないのかな」

 

「何が……?」

 

「んふふ……」

 

 何だか座りが悪い気がしてベッドの上で何度も位置を調整しながらタンジーに問うと、彼女はやっぱり意味深に頷いてみせる。

 あんまりレスポンスは早くないけど勿体ぶったりとかは特にしない印象だった彼女だが、今は訳知り顔でその笑みを深めるばかりだ。

 理由がわからなくて困り果てていると、彼女はふっとそんな笑顔を掻き消して。

 

「ドラちゃんねえ、今」

 

 そうして一転して、柔らかく優しい笑顔を浮かべ、

 

「すっっっごく、嬉しそうな顔してるよ」

 

 そう言った。

 

 

「……へ……」

 

 言われて咄嗟に自分の頬に手をやると。

 その口角は、確かに彼女の言うとおり、明らかに吊り上がっているようだった。

 

「鏡見てみる? ほら、こんな感じ。ふにゃっふにゃの笑顔だねえ」

 

「え」

 

 そう言ってひょいと見せられた手鏡に映る僕の顔は……ちょっと筆舌に尽くし難いくらいに緩み切っていた。

 

 緩んだ目元。

 ちょっとうるうるしてる瞳。

 へにゃっと不格好に持ち上がった唇。

 

 なるほど確かに、これは嬉しそうな顔としか表現できない。

 

「え……ちょ……」

 

「あ、顔真っ赤。恥ずかしがってる。かわいいねえ」

 

 待った。

 何だこれ全然気づいてなかった。

 えっ何だこれ全然収まらない。

 まずいまずいまずい。

 一体どうしたんだ顔が戻らない!

 

「な、なん……なんで?」

 

「そこはわたしに聞かれてもなあ。自分のことなんだから、自分が一番わかってるんじゃないのかな?」

 

 自分。

 自分が一番。

 

 自分が、今日、一番。

 嬉しかったことなんて、そんなの。

 

 

 そんなの、決まってる。

 

 

「っっっあああああ~~~~~~~~~~!!!!!」

 

「あはは、壊れちゃった」

 

 恥ずかしいまずい恥ずかしい。

 顔が熱い。めちゃくちゃ熱い。

 

 えなに、僕そんな顔で今日ずっと過ごしてたってこと?

 そんな顔で帰り道ずっと歩いてたの?

 ああそう言えば衝突しかけた娘とその友達が僕を見てなんかきょとんとした顔して見合ってたのもそういうことだったの?

 そりゃそうだよね衝突しかけた相手がニコニコ笑顔で異様にご機嫌のままだったら困惑するよね。

 

 待ってよちょっと待ってくれ。

 それってつまりトレーナーと一緒にいた時も?

 トレーナーと色々今後のこととか話してた時も? ずっと?

 ずっとそんな顔してたの?

 普通にめっちゃ真面目な話とかもしてたのに?

 一頻り泣いた後はきちんときりっとした顔に戻してたつもりだったのに?

 ああーーーなんかそう言えばちょっと困ったような微笑ましそうな顔してた気がする。

 違ったかもしれないけどそうだった気ばっかりしてくる。

 嘘だろそんなの。

 明日どういう顔して会いに行けばいいんだ!!!

 

「う……ううう……!!」

 

 僕はベッドに突っ伏して枕に顔を突っ込んで足をバタバタさせて、感情を無理やり誤魔化そうとした。

 でもダメだった。

 自覚したらもう終わりだった。

 

「でもさ……でもさあ……」

 

 だって、本当に嬉しかったんだ。

 嬉しくて。

 嬉しくて嬉しくて嬉しくて。

 涙が止まらないくらい嬉しくて。

 

「嬉しかったんだよ……本当に……」

 

 この感情を押し留めるなんて、そんなのできるわけがない。

 

「うんうん、そっか。いいトレーナーさんと会えたんだねえ」

 

「うん……」

 

「そんなの滅多にあることじゃないからねえ。ちゃんと喜んどかないと損だよ、絶対」

 

「うん……」

 

「ほんとに……よかったねえ、ドラちゃん」

 

「……うん……」

 

 ――あんなに暴れたり恥ずかしがったりしていたのに。

 自分のベッドに横たわって、タンジーの穏やかで優しい声を聞いていると、なんだか急激に眠気がやってくる。

 

 それも当然か。

 今までで間違いなく、一番の本気の全力で、何もかも全部使い果たすような走りをして。

 それが終わったと思ったらあの有様。

 肉体も精神も疲れに疲れ果てていて、それをただ高揚感が覆い隠していただけの状態だったんだ。

 糸が切れればこうもなる。

 

「ドラちゃん?」

 

「……ん……」

 

「……ん。そうだねえ、今日は疲れちゃったもんね。ゆっくり休んで、また明日だね。風邪引いちゃったらよくないから、毛布だけ掛けとこうねえ」

 

「……あり、がと……」

 

「うんうん、いいんだよお。最近ずーっと頑張ってたもんね。今はぐっすり眠ろうねえ。シャワーは明日の朝にでも浴びようね」

 

「……」

 

 優しく掛けられたブランケットの感触。

 それから、頭を撫でる優しい手のひらの暖かさ。

 耳から頭に染み込んでくるような穏やかな声音に導かれるように、段々と意識が薄れていって。

 

「……ああ」

 

 そうして、眠りに落ちるその間際に、

 

「ほんとに、よかった」

 

 そんな、震える声を聞いた気がした。




まだ堕ちてないですよ。
堕ちてはないです。
コレホント。
ワタシウソツカナイネ。
シンジテクレテダイジョブヨ、ダイジョブ。

およびあんまり表には出さないけど普通にめっちゃくちゃ心配していたタンジーちゃん。

CVのイメージはkokodayoちゃんことクルースちゃんです。(別ゲー)
見た目は別に似てないです。
ドラちゃんよかったね、大好きなルドルフさんと同じ声帯の持ち主が同室だよ。
しかし声優さんの演じ分けってホント凄いね……
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