ナイトメア・フィアーとの決戦から数日。彼らは、穏やかな日々を過ごしていた。
「ふぅ…」
僕も、だいぶ回復してきた。あの時、『朝霧 修羅』としての記憶を置いてきた僕だったが、死神たる彼女の温情なのか、彼女に関する記憶はそのままだった。
「まあ、死神様だもんな。そんなのが出来ても不思議じゃない」
「雪華様。おはようございます」
「うん、おはよう」
桜も、無事に還ってこれたようだ。…まあ、僕の命と引き換えに秦山府君祭をしたことは泣きながら怒られた。
「あの、雪華様…」
「ん?」
「そ、その」
「どうしたのさ」
「あのこと、忘れてくれませんか……?」
「え?…ああ、あれか」
彼女は赤くなりながら頼み事をする。多分、あれだろう。
「構わないけれど、僕の話を聞いて」
「…はい」
「僕にはね、ずっと前から好きだった人がいるんだ」
「え…」
「その人は、綺麗で、とっても強くて、優しくて。その美しさに憧れて、その強さに励まされて」
「……」
「その優しさを、愛おしいと、想うんだ」
雪華様は、懐かしむように目を細める。
「それで、僕のために命を投げ出す馬鹿もやってくれちゃって。でも、それすらもね」
「え……?」
「…大好きなんだ。だからさ」
「…はい」
「僕は、桜と共に生きていきたいんだ」
だから。
「桜。僕と、結婚してほしい」
「え………?」
「ああ、別に嫌なら嫌って言ってくれ。気を遣わないでいい」
「…そんなわけ、ないです……」
震える声で、告げる。
「忘れてくれなんて言っておいて、こんなことを言うのもダメですけれど……」
「私だって、貴方が大好きです…!」
涙が、止まらない。でも、これは川のほとりで流した涙じゃない。
「ありがとう…」
「…えへへ」
桜は幸せそうに笑って抱きついてきた。
にへらと頬が緩んでいる。
「ありがとう…」
私は知っている。その言葉に、万感の想いを込めてくれていることを。
「…はい」
僕は知っている。その言葉に、抱えきれない幸せがあることを。
2人は、お互いにそんな想いを心に宿して、いつまでも抱き合っていた。
深雪の心を、穏やかに融かしてゆく桜花。2人のこれからは、どうなるだろうか。私ですら分からない結末。これからも、どうか私の語る物語に付き合って頂きたい。では、また次のお話で。
…そうだな、仮にも私の世界だ。上等な教会、もしくは、式場でも用意しといてやろうか。彼らの驚く顔が楽しみで楽しみでしょうがない。
それに、そこそこの修羅場もあるだろか。彼を想っていたのは1人じゃないからな。まあ、その時はその時だ。