「さぁて、明日から喫茶店も再開だ」
1週間ほど桜の経過観察をしていたが、何の変調もなく、至って元気なので、明日から喫茶店も再開しようと思っていた。
そこへ。
「おはようございますっ」
「おや、颯香様。どうなさいました?」
「た、たまたま近くを通ったので」
会いたくなったから来た、というのは恥ずかしいので黙っている。
「そうでしたか。なら、どうぞ、あがってください」
「良いんですか!?ありがとうございます!」
「いえいえ。しかし、なぜここに?何か御用向きでしょうか」
「…はい。実は、最近山で、おかしな事件が起きているんです」
「ふむ…、どのような?」
「ええっと…」
颯香様曰く、天狗達が失踪を続けているらしい。この前とうとう幹部の1人が失踪したので、依頼してきたとのこと。
…まあそれだけではなかったらしいが。
「本当にお父様ったら、危ないからって、全く出してくれないんです。小さい子じゃないのに」
そう言って颯香様は唇を尖らせた。
「それだけ、颯香様が大切なのでしょうね。鞍馬様唯一のご令嬢とのことですから」
「……です」
「何か?」
「颯香で、いいです。むしろそうしてください」
「…しかし」
「しかしも案山子もありません。私は、あなただから呼んで欲しいんです」
「…それが、貴女の望みなら。では、──颯香」
「はいっ!」
「恐れ多いにもほどがありますよ…」
「私が良いんだから大丈夫です!」
「…他の天狗がいない時だけですよ」
「大丈夫です!」
「雪華様ぁ〜…?」
「あ、桜が起きちゃったな…」
「なら、お暇します。もう少しお話していたかったですけど」
「申し訳ありません」
「いえいえ!…あ、でも」
「何でしょうか」
「その、ぎゅっとしてほしいです…」
少し赤くなりながら颯香は言った。
「…いけません。最悪死刑ですので」
「そう、ですか…」
ちょっとがっかりしたようだった。リスクを取ってでもして差し上げるべきだったか?
「また来ます!」
「え、ええ」
「では!」
「はい、また」
颯香は翼を出し、飛び去っていった。
「雪華様ぁ〜…」
「ああ、はいはい」
「えへへ〜…♪」
桜が寝惚けて僕に抱きつき、頬を緩ませる。
これが最早日課となりつつある。
そして。
「♪〜、…あ……」
「おはよう、桜」
「ご、ごめんなさいっ!」
赤くなって謝る。これもパターンと化しており、様式美とすら言える。
「大丈夫だよ」
そして抱き締め返す。これがルーティーンとなりつつある。
「さっき颯香様が来てね」
「えっ、そうなんですか?」
「厄介事だそうだ。しばらく出るよ」
「…わかりました。寂しいけどお留守番しておきます」
「うん、ありがとう」
さあ、1日の始まりだ。