颯香様の依頼を受け、一路妖怪の山へと向かった。白狼天狗に事情を話し、特別に入れてもらう。
…まぁ鞍馬様にはいつでも遊びに来いというお言葉をもらっているのだけど。
「あなたが、霜月 雪華様ですね」
「はい。颯香様の御依頼を受け、参上致しました次第です」
「聞き及んでおります。私は犬走 椛。この辺の警備隊の隊長です。現場への御案内を務めさせて頂きます」
「椛さん。よろしくお願い致します」
「はい。では早速、参りましょう」
「承知致しました」
「…ここです」
「…なるほど……」
「目撃者が1人おりまして、本人曰く、龍が現れた、と」
「ふむ…」
彼は何か考え込んでいる。
(古来より龍は水神、なのになぜこんなに濃い妖気が……。天狗のものとも違う。烏天狗とも白狼天狗とも合致しない)
それに龍が妖怪を襲うことなど有り得るのか?神々は確かに気紛れで、気分で過酷な試練を与えることもあるが、生命だけは尊重する。神である以上食事は必要ないし、襲う理由が見つからない。
「この山に、天狗の他の妖怪は?」
「河童などが棲んでおりますが、龍のような見た目のものは」
「…なるほど」
となると、考えられるのは。
「
蛟。龍のような体を持ち、水を境にして移動できる妖異だ。確かに、ここから数メートル先に池があるようだ。これならほぼ間違いないだろう。
「少し集中するので、話しかけないで頂きたく」
「承知致しました」
「ふぅ…」
感覚を限界まで研ぎ澄ませ、心の琴線を細く細く削っていく。
そして、妖気を追っていく。10分程度なら、山の全域をカバーできる。水から水へ。奴の残した妖気を辿り、居場所を探知する。
「……」
彼が極限まで集中しているのが分かる。恐らく、今の彼には私の心音まで聞こえているだろう。
…見つけた。水底にある穴蔵の中。
「はぁっ、はぁっ…!」
9分。疲労が半端じゃない。タイムオーバーギリギリだった。
吐き気を催している。
「だ、大丈夫ですか!?」
「っ…、はい。時間を、置けば」
「少し、休みましょう」
「ありがとう、ございます…」
「いえ」
(蛟は強力な妖怪…、一部地域では神となっている場合もある。気をつけないと…)
不遜ではあるが、討伐する時は僕が最高戦力だ。
数分後…
「申し訳ありませんでした。おかげで動けるように」
「分かりました。では」
「はい。蛟の居場所へ行きましょう」
「よろしくお願いします」
彼らが行った後。彼が立っていた場所に花の香が漂い始めていた。