意識がまだはっきりしない中、桜は目を覚ました。
「ここは……?」
見渡すと、そこは霧が濃い空間だった。真っ暗ではないものの気味が悪い事には変わりない。
「暗い……、……怖い。」
桜は自身の肩を抱くようにした。
「ふむ、暗いのは嫌か。」
急に声がかけられる。
それと同時に辺りが真っ白な空間に変わる。
「どういうこと……?それにここは……?」
「ここは『狭間』だ。説明は省くが、幻想郷の外だ。」
声の主は桜の背後に立っていた。
「貴方が、私を此処に?」
そう言って、腰の拳銃に手を掛ける。
「そうだ。無駄だと思うが騒ぐなよ。」
彼はそう言った。
「……それを、聞くとでも?」
ゆっくりと銃を抜き放つ。
「別に構わん。」
次の瞬間、桜の手の中の拳銃が消えた。
「……!」
桜は驚愕に目を見開いた。
「今のを見切れない時点で、お前は俺よりも弱い。」
彼の手には桜の拳銃が握られている。
「……構いません。生きてさえいれば。」
「生きてさえいれば助けが来る、か?」
「ええ。私はあの方を信じています。」
自身の夫にして、最強の戦士を、彼女は知っている。彼ならば、きっと来てくれる。そう信じているのだ。
「随分とそいつを信じてるんだな。」
男は溜息を吐く。
「今頃、あっちは俺が出した召喚獣で手一杯のはずだ。ソイツが来るのが早いか、お前が死ぬのが早いか。……試してみるか?」
「お好きにどうぞ。きっと前者の方が早いです。自慢の夫ですから。」
桜は彼をキッと睨んだ。
「……抵抗しないのか?」
「抵抗する手段を奪われてしまったので。」
桜は動じていないように見えるが、内心恐怖を抑えきれていない。
「…怖いか?」
「……ええ、怖いです。」
嘘をついてもしょうがない。
「そうか。……条件を出そう。」
零は桜に提案をした。
「俺が出す条件を守るのであれば、ある程度の自由を約束する。」
「……条件とは?」
「・自傷行為をしない。
・逃げ出そうとしない。
・体に違和感があったらすぐに言う。
この3つだ。」
「…その程度でしたら。」
桜は頷いた。
「よし、決まりだな。」
零は頷いて桜に拳銃を返す。
「……。」
拳銃を腰に戻した。
「腹減ったな。なんか食うか?」
何もなかったはずの部屋に現れたキッチンに向いながら男は聞いてくる。
「いいえ、遠慮しておきます。」
毒でも入れられたらたまったものじゃない。
「毒とかの心配ならいらんぞ?俺はお前に手を出すつもりは無い。」
「…余り信用しすぎるのもどうかとは思いませんか?」
完全に信用したわけではない、ということを言外に告げる。
「もし仮に毒を入れたとしよう。そのせいでお前の体から自由を奪えば『お前の自由を保証する』という制約を破ることになる。」
「……それもそうですね。」
しかし、頑なに手を伸ばそうとはしなかった。
「腹減ってんじゃねえのか?」
男は完成したトーストを皿に盛り付けながら聞く。
「私にとってはあの方の料理が最高なんです。」
桜は微笑んだ。
「そうか……だが空腹で倒れるなんてことはやめてくれよ?」
そう言いながら男はトーストにマーガリンを塗っている。
「ご心配なく。これでも元軍人ですから、その方面の訓練も受けています。」
「ふーん、元軍人ねぇ。俺と似たようなもんか。」
「……貴方は、何をなさっていたのですか?」
「軍の道具さ。敵の玩具と互いを壊し合うのさ。」
冗談のように詳しいことは言わないが、それでもその意味を桜は理解していた。
「兵器、いや…、殺戮人形、だったのですね……。」
「…言ってくれるじゃねえか。」
「何か違いますか?」
怖くなって桜はあらぬ方を向いた。
「何も違わねえよ。人間を殺すために、俺は創られたんだからな。」