「何も違わねえよ。人間を殺すために、俺は創られたんだからな。」
彼の告白は中々に衝撃的だった。が。
「……私も同じようなものでしたよ。」
「ほう?」
「皇帝直属軍とはいえ、出撃も稀ではありませんでした。ただただ敵を殺した……。それだけです。」
「だが、お前は『ヒト』だろう?」
「……ええ、そうですね。」
そう言って彼女は俯いた。なら彼は何なのか。妖気を感じるわけでもないし、見る限り人間ではあるが。
「なら、その時点で俺とは違う。」
そこで桜は男の様子に違和感を感じ始めた。
「……貴方は、『何』なんですか?」
「……『人間』の姿を真似た『人形』さ。」
「……。」
居た堪れなくなり、桜は視線を逸らした。
「……人間でないから、敵を殺せと命じられ、殺し、殺し、殺し続けた。あのときは、ただ楽しいと感じたけれど、今は何も思えない。」
「ええ、余り気持ちの良いものではありませんよ。」
「……お前は、人間を引きちぎったことはないだろう。」
「ありませんよ。これでも普通の人間ですから。」
「俺はあるよ。引きちぎったこともあれば、押し潰したこともあるし、ただひたすらに殴り殺したこともあった。」
「…貴方は、何を思っていたのですか。」
余りに惨たらしい内容だったため、思わず問うた。
「別に、悪いとも思わずに殺し続けた。」
「…そうですか。」
「……だが、今でも思い出すよ、あの光景を。」
「…あの光景?」
どれ程惨いものなのか。
「泣きながら『許してくれ』『助けてくれ』と請う人間を、ただひたすらに『命令だから』と殺し続けた日々を……」
「……惨いですね。」
寒気がする。
「……暗い話をしたな。少し楽にしよう。」
男は立ち上がって、桜から距離をとった。
「別に構いません。…怖いのは事実ですが。」
「………。」
男は何も言わないが、明らかに様子がおかしい。
「…どうか、なさいましたか?」
「…………ぐ…ぁ…。」
「大丈夫ですか!?」
慌てて男に駆け寄る。魔法で怪我の治療程度なら出来るはずだ。
「来るなぁ!!」
男が叫ぶと同時に部屋の壁に亀裂が走り、辺りが一気に冷たくなる。
桜の周りには黄色い光が集まってきており、それらが桜を守るように浮いている。
「これは……!?」
桜は辺りを見回す。
「ぐぅ……があああぁぁ!!!」
男の叫びと共にあたりに衝撃波が撒き散らされる。桜は光によって守られているが、もしこれが無かったらと思うとゾッとする。
「くっ……!彼に、何が……!」
どのくらい経っただろうか。しだいに衝撃波は弱まり、部屋ももとと同じような無機質な空間に戻る。桜を覆う光が消えると同時に、男は大量に吐血した。
「大丈夫ですか!」
再び駆け寄る。何かの病気だろうか。でも、私なら。そう思い、回復魔法の上位魔法、治療魔法を発動する。
「やめろ。」
男は桜を優しく押しのける。
「で、ですが!」
このままでは死んでしまうかもしれない。目の前で死なれてしまうのは嫌だ。
しかし、その後に続いた言葉は、驚愕の言葉だった。
「違う、俺は、俺は悪くない……!」
「過去に、何が……。」
魘されているようにも見える。だとしたら、自身の過去に苛まれているのだろうか。
「あれは…あれは命令だったんだ…だから……許してくれ…」
あまりにも弱々しいその言葉は、まるで懺悔のようだった。
「…さっきの、あれでしょうか。」
先程彼が忘れられないと言っていた光景。
「………」
男は黙ってしまった。
「…あの。大丈夫、ですか?」
「……ああ、問題ない。」
「なら、良かったですけど……。」
再び喋った彼の言葉は、元の雰囲気に戻っていた。
「能力の暴走だ。……怪我はないな?」
「貴方の、おかけで。」
「……そうか。」
男は椅子に腰掛け深く溜息を吐く。
「何故、あんなことが……?」
桜は恐る恐る聞いた。
「…俺の能力は『記憶を具現化する』ってやつもあるんだが、偶にああなるんだ。」
「…便利ですが相応のデメリットがある、と。」
「まあな。」
「……そろそろいらっしゃる頃でしょうか。」
「…いや、もう少しだと思うんだが…」
その時、空間の一角が突如として斬り裂かれた。
「…思ったよりやるようだな。」
「全く、随分とふざけてくれるじゃないか。」
並々ならぬ怒気を立ち昇らせながら現れたのは、やはり雪華だった。
「これはこれは、お早いお着きで。」
「あの程度じゃな。」
男に向かって雪銀を向ける。
「……さて、君は俺らの戦いを見たいか?」
男は桜に問うた。
「……いいえ。」
桜は首を振る。
「そうか…なら。」
男が桜の目前で手を振る。
瞬間、糸が切れたかのように桜は地面に倒れた。
「…彼女に何をした。」
雪華は目元に険をいや増す。
「要望に答えただけだ。」
男は雪華に向き直る。それと同時に桜の体が浮き上がり、壁の中に消えていった。
「彼女には、安全地帯で眠っていてもらおう。『彼女が居たから本気を出せなかった。』等と言われては困るからな。」
「なるほどなぁ。
……これで存分にお前を殺せるよ。」
雪華は雪銀を構えた。