東方雪月花   作:くらんもち

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31話

「何も違わねえよ。人間を殺すために、俺は創られたんだからな。」

 

彼の告白は中々に衝撃的だった。が。

 

「……私も同じようなものでしたよ。」

「ほう?」

「皇帝直属軍とはいえ、出撃も稀ではありませんでした。ただただ敵を殺した……。それだけです。」

「だが、お前は『ヒト』だろう?」

「……ええ、そうですね。」

 

そう言って彼女は俯いた。なら彼は何なのか。妖気を感じるわけでもないし、見る限り人間ではあるが。

 

「なら、その時点で俺とは違う。」

 

そこで桜は男の様子に違和感を感じ始めた。

 

「……貴方は、『何』なんですか?」

「……『人間』の姿を真似た『人形』さ。」

「……。」

 

居た堪れなくなり、桜は視線を逸らした。

 

「……人間でないから、敵を殺せと命じられ、殺し、殺し、殺し続けた。あのときは、ただ楽しいと感じたけれど、今は何も思えない。」

「ええ、余り気持ちの良いものではありませんよ。」

「……お前は、人間を引きちぎったことはないだろう。」

「ありませんよ。これでも普通の人間ですから。」

「俺はあるよ。引きちぎったこともあれば、押し潰したこともあるし、ただひたすらに殴り殺したこともあった。」

「…貴方は、何を思っていたのですか。」

 

余りに惨たらしい内容だったため、思わず問うた。

 

「別に、悪いとも思わずに殺し続けた。」

「…そうですか。」

「……だが、今でも思い出すよ、あの光景を。」

「…あの光景?」

 

どれ程惨いものなのか。

 

「泣きながら『許してくれ』『助けてくれ』と請う人間を、ただひたすらに『命令だから』と殺し続けた日々を……」

「……惨いですね。」

 

寒気がする。

 

「……暗い話をしたな。少し楽にしよう。」

 

男は立ち上がって、桜から距離をとった。

 

「別に構いません。…怖いのは事実ですが。」

「………。」

 

男は何も言わないが、明らかに様子がおかしい。

 

「…どうか、なさいましたか?」

「…………ぐ…ぁ…。」

「大丈夫ですか!?」

 

慌てて男に駆け寄る。魔法で怪我の治療程度なら出来るはずだ。

 

「来るなぁ!!」

 

男が叫ぶと同時に部屋の壁に亀裂が走り、辺りが一気に冷たくなる。

桜の周りには黄色い光が集まってきており、それらが桜を守るように浮いている。

 

「これは……!?」

 

桜は辺りを見回す。

 

「ぐぅ……があああぁぁ!!!」

 

男の叫びと共にあたりに衝撃波が撒き散らされる。桜は光によって守られているが、もしこれが無かったらと思うとゾッとする。

 

「くっ……!彼に、何が……!」

 

どのくらい経っただろうか。しだいに衝撃波は弱まり、部屋ももとと同じような無機質な空間に戻る。桜を覆う光が消えると同時に、男は大量に吐血した。

 

「大丈夫ですか!」

 

再び駆け寄る。何かの病気だろうか。でも、私なら。そう思い、回復魔法の上位魔法、治療魔法を発動する。

 

「やめろ。」

 

男は桜を優しく押しのける。

 

「で、ですが!」

 

このままでは死んでしまうかもしれない。目の前で死なれてしまうのは嫌だ。

 

しかし、その後に続いた言葉は、驚愕の言葉だった。

 

「違う、俺は、俺は悪くない……!」

 

「過去に、何が……。」

 

魘されているようにも見える。だとしたら、自身の過去に苛まれているのだろうか。

 

「あれは…あれは命令だったんだ…だから……許してくれ…」

 

あまりにも弱々しいその言葉は、まるで懺悔のようだった。

 

「…さっきの、あれでしょうか。」

 

先程彼が忘れられないと言っていた光景。

 

「………」

 

男は黙ってしまった。

 

「…あの。大丈夫、ですか?」

「……ああ、問題ない。」

「なら、良かったですけど……。」

 

再び喋った彼の言葉は、元の雰囲気に戻っていた。

 

「能力の暴走だ。……怪我はないな?」

「貴方の、おかけで。」

「……そうか。」

 

男は椅子に腰掛け深く溜息を吐く。

 

「何故、あんなことが……?」

 

桜は恐る恐る聞いた。

 

「…俺の能力は『記憶を具現化する』ってやつもあるんだが、偶にああなるんだ。」

 

「…便利ですが相応のデメリットがある、と。」

「まあな。」

「……そろそろいらっしゃる頃でしょうか。」

「…いや、もう少しだと思うんだが…」

 

その時、空間の一角が突如として斬り裂かれた。

 

「…思ったよりやるようだな。」

「全く、随分とふざけてくれるじゃないか。」

 

並々ならぬ怒気を立ち昇らせながら現れたのは、やはり雪華だった。

 

「これはこれは、お早いお着きで。」

「あの程度じゃな。」

 

男に向かって雪銀を向ける。

 

「……さて、君は俺らの戦いを見たいか?」

 

男は桜に問うた。

 

「……いいえ。」

 

桜は首を振る。

 

「そうか…なら。」

 

男が桜の目前で手を振る。

瞬間、糸が切れたかのように桜は地面に倒れた。

 

「…彼女に何をした。」

 

雪華は目元に険をいや増す。

 

「要望に答えただけだ。」

 

男は雪華に向き直る。それと同時に桜の体が浮き上がり、壁の中に消えていった。

 

「彼女には、安全地帯で眠っていてもらおう。『彼女が居たから本気を出せなかった。』等と言われては困るからな。」

「なるほどなぁ。

……これで存分にお前を殺せるよ。」

 

雪華は雪銀を構えた。

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