東方雪月花   作:くらんもち

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32話

 

「ははは、それでいい。」

 

「……参る。」

 

文字通りの音速で近づき、剣を振るが、既にそこに彼は居なかった。

 

「なるほど、いい踏み込みだ。」

 

男は彼の背後に立っている。

 

勢いそのままに後ろへ剣を振るが、やはり避けられる。

 

「なんだ、その程度か?」

 

男は退屈そうに欠伸をした。

 

「言ってくれるじゃあないか。……良いだろう。」

 

雪華の背に、1枚の光翼が現れると、彼の速度が格段に上がる。

 

「ふむ。」

 

雪華の剣が、男を掠めはじめる。

 

「いい太刀筋だな。」

「そりゃどうも!」

 

変わらず剣を振るう。男の服は所々裂かれはじめていた。

 

「おいおい、やりすぎじゃないか?」

 

男は距離をとる。

 

「個人的にはまだまだ足りないな。鬱憤が溜まってるんだ。目の前の奴のせいでな!」

 

再び剣を振るう速度が上がる。

 

そして、斜めに男を斬りつけた。──のだが。

 

「?!」

 

斬られた傷からは大量の血が…………

 

出ることは無かった。

その傷はすでに消えていた。

 

「…馬鹿みたいな再生力だな。」

 

飛びずさって距離を取る。

 

「………面白いな。」

 

男から何かが滲み出た。

 

「お前は、どうやら相当にできるやつのようだ。」

 

その瞬間、彼の背後に五色の羽が広がった。

 

「ほう?」

 

桜華から放たれた光。それが結界のようなものとなって、圧から彼を守る。

 

「さあ、行くぞ!」

 

先程よりもさらに早く。

音速の7倍はあろうかという速度で男へと斬りかかる。

 

「おお、速い速い。」

 

男はそれを何でもなさそうに避けた。

 

それを見て、雪華は2枚目の光翼を解放し、さらに速度を上げる。

──男がギリギリ避けられない程度に。

 

「惜しいなぁ。」

 

その一撃は男に防がれる。いや、吸収されたと言ったほうが正しいかもしれない。

 

「へぇ……。ゲームに例えるなら、無敵状態ってとこか。」

「まあな、そら!」

 

大量の青い弾幕が雪華を取り囲む。

しかしその瞬間、弾幕は消失した。

雪華は変わらずそこに居たというのに。

 

「落とした、か?」

 

その瞬間、彼の背後に雪華が回り込んでいた。予備動作すら無く。

当然、桜華を振りかぶっていた。

 

「へぇ、来い!」

「言われなくとも!」

 

桜華の一閃。

本来なら吸収されるはずのその攻撃は、男の肉を裂き、血を噴き出させた。

 

「ははは!いいねぇ!」

 

男から赤い炎が出ると、雪華を吹き飛ばす。

 

「ちっ。」

 

言わば初見殺しだったから一撃を入れられた。次はもうない。

 

「面倒なことをしてくれるな。」

 

男は体を動かしながら言う。

 

「搦手はそこまで得意ではないがな。これで終わりだ。『桜華一閃』。」

 

桜華の力で身体能力をブースト、神速とも言える速度で男へ突っ込む。

 

「いいね、最高だ。」

 

その一撃は、男を直撃した。致死の一撃であったことを確信した雪華は、どうやって桜を救出しようものかと思案する。

その時、壁が消え、寝ている桜を発見した。

 

「桜、大丈夫か!」

 

雪華は桜を軽く揺すった。桜の瞼が震える。

 

「雪華、様……?あの、人は……?」

「倒した。当然の報いってやつさ。」

「そう、ですか……。」

 

少なくとも悪い人では無かった。むしろ、普段はとても優しい人なのだろう。私を攫ったのも、何か事情があってのことなのかと考えると、どうしてももやもやする。

 

「随分と愚かだな。」

 

二人の背後から底冷えするような声がかけられる。

 

「……まだ仕留めきれていなかったか。」

「……。」

 

男は黙っている。少し不気味に思いつつも、雪華は雪銀を構えた。

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