「ははは、それでいい。」
「……参る。」
文字通りの音速で近づき、剣を振るが、既にそこに彼は居なかった。
「なるほど、いい踏み込みだ。」
男は彼の背後に立っている。
勢いそのままに後ろへ剣を振るが、やはり避けられる。
「なんだ、その程度か?」
男は退屈そうに欠伸をした。
「言ってくれるじゃあないか。……良いだろう。」
雪華の背に、1枚の光翼が現れると、彼の速度が格段に上がる。
「ふむ。」
雪華の剣が、男を掠めはじめる。
「いい太刀筋だな。」
「そりゃどうも!」
変わらず剣を振るう。男の服は所々裂かれはじめていた。
「おいおい、やりすぎじゃないか?」
男は距離をとる。
「個人的にはまだまだ足りないな。鬱憤が溜まってるんだ。目の前の奴のせいでな!」
再び剣を振るう速度が上がる。
そして、斜めに男を斬りつけた。──のだが。
「?!」
斬られた傷からは大量の血が…………
出ることは無かった。
その傷はすでに消えていた。
「…馬鹿みたいな再生力だな。」
飛びずさって距離を取る。
「………面白いな。」
男から何かが滲み出た。
「お前は、どうやら相当にできるやつのようだ。」
その瞬間、彼の背後に五色の羽が広がった。
「ほう?」
桜華から放たれた光。それが結界のようなものとなって、圧から彼を守る。
「さあ、行くぞ!」
先程よりもさらに早く。
音速の7倍はあろうかという速度で男へと斬りかかる。
「おお、速い速い。」
男はそれを何でもなさそうに避けた。
それを見て、雪華は2枚目の光翼を解放し、さらに速度を上げる。
──男がギリギリ避けられない程度に。
「惜しいなぁ。」
その一撃は男に防がれる。いや、吸収されたと言ったほうが正しいかもしれない。
「へぇ……。ゲームに例えるなら、無敵状態ってとこか。」
「まあな、そら!」
大量の青い弾幕が雪華を取り囲む。
しかしその瞬間、弾幕は消失した。
雪華は変わらずそこに居たというのに。
「落とした、か?」
その瞬間、彼の背後に雪華が回り込んでいた。予備動作すら無く。
当然、桜華を振りかぶっていた。
「へぇ、来い!」
「言われなくとも!」
桜華の一閃。
本来なら吸収されるはずのその攻撃は、男の肉を裂き、血を噴き出させた。
「ははは!いいねぇ!」
男から赤い炎が出ると、雪華を吹き飛ばす。
「ちっ。」
言わば初見殺しだったから一撃を入れられた。次はもうない。
「面倒なことをしてくれるな。」
男は体を動かしながら言う。
「搦手はそこまで得意ではないがな。これで終わりだ。『桜華一閃』。」
桜華の力で身体能力をブースト、神速とも言える速度で男へ突っ込む。
「いいね、最高だ。」
その一撃は、男を直撃した。致死の一撃であったことを確信した雪華は、どうやって桜を救出しようものかと思案する。
その時、壁が消え、寝ている桜を発見した。
「桜、大丈夫か!」
雪華は桜を軽く揺すった。桜の瞼が震える。
「雪華、様……?あの、人は……?」
「倒した。当然の報いってやつさ。」
「そう、ですか……。」
少なくとも悪い人では無かった。むしろ、普段はとても優しい人なのだろう。私を攫ったのも、何か事情があってのことなのかと考えると、どうしてももやもやする。
「随分と愚かだな。」
二人の背後から底冷えするような声がかけられる。
「……まだ仕留めきれていなかったか。」
「……。」
男は黙っている。少し不気味に思いつつも、雪華は雪銀を構えた。