里を襲った巨狼は、2人がかりの攻撃によって、着々と体力を削られていた。
「そろそろ終いだ、霊夢!」
「ええ!」
「
「夢想…」
その時だった。
『GOOOOOOOOON!!』
巨狼が轟咆した。
「な、なんなのよ、これ!」
「しまった…!『ナイトメアウルフ』か!」
ナイトメアウルフ。黒狼とも言われるそれは、魔力を使うことで、暗闇を発生させる。それに紛れ、闇討ちをするのだが。今回は逃走に使ったようだ。
ナイトメアウルフが放った闇は、避難指示をしていた桜のもとへも届いていた。
「あ…」
彼女の体を、暗闇が包む。そして、あの日の、彼女が最も嫌う記憶が、呼び起こされる。
「嫌…」
足の力が抜け、その場に座りこんでしまう。
そして、我知らず、想い人の名を呟く。
「…!」
呼ばれた。僕の名前ではない。だが、「自分」を指しているのだということは、不思議と分かった。
そして脳裏には、暗闇に怯え、膝を抱える幼い少女が。
「…行かなきゃ」
「ちょっと、どこいくの!?」
「ナイトメアウルフはどちらにせよ逃げてる。だから、行ってあげないと」
「だからどこに…!
…行っちゃったわね」
「……」
嫌だ。暗闇は、怖い。闇を見れば、否応無しに思い出してしまう。独りになった夜を。両親が惨たらしく殺された夜。
彼女は、震えていた。闇を恐れる少女は。
「…大丈夫か」
不意に頭上から降ってきた声。間違えるはずもない。
「しゅ、雪華、様……」
「安心しろ。僕が、居てやるから」
その言葉は、覚えているものと寸分違わず。
「こうすれば、落ち着くだろう?」
隣に座り、手を握ってくれる。あの時と、初めて修羅様と出会った時と、全く同じ。ただ1つ違うのは、優しい笑みを浮かべているということ。
「き…おく、が……?」
発してから、それが涙声で情けなく震えているのに気づいた。
「…断片的にね。思い出したのは、あの夜のことだけ」
「せっか、さま…」
「そんなに震えないでも大丈夫。君はもう独りじゃない」
「…はい」
彼女は少し安心したように微笑んだ。
「ありがとう。君のおかげで、人的被害は最小限だ」
「いえ…、私は、命じられたことをただ……」
「それでも。お疲れ様、桜」
「…!」
繋がれた手が引かれ、気づいた時には、彼の腕の中に居た。
安心する。ずっと蔑まれてきた自分を、唯一認めてくれた人。
「雪華、様…」
眠ったようだ。腕の中で眠られるというのは、不思議な感覚だが、悪くはない。
「大丈夫だ、桜」
暗くても、僕がついている。撫でてやると、微かに微笑んだ。つられてこちらも微笑む。
「ナイトメアウルフの闇は、しばらく残るからな」
それまでは、こうしておこう。