東方雪月花   作:くらんもち

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4話

 

里を襲った巨狼は、2人がかりの攻撃によって、着々と体力を削られていた。

 

「そろそろ終いだ、霊夢!」

 

「ええ!」

 

多連(フル)…」

 

「夢想…」

 

その時だった。

 

『GOOOOOOOOON!!』

 

巨狼が轟咆した。

 

「な、なんなのよ、これ!」

 

「しまった…!『ナイトメアウルフ』か!」

 

ナイトメアウルフ。黒狼とも言われるそれは、魔力を使うことで、暗闇を発生させる。それに紛れ、闇討ちをするのだが。今回は逃走に使ったようだ。

 

 

 

 

ナイトメアウルフが放った闇は、避難指示をしていた桜のもとへも届いていた。

 

「あ…」

 

彼女の体を、暗闇が包む。そして、あの日の、彼女が最も嫌う記憶が、呼び起こされる。

 

「嫌…」

 

足の力が抜け、その場に座りこんでしまう。

そして、我知らず、想い人の名を呟く。

 

 

 

 

「…!」

 

呼ばれた。僕の名前ではない。だが、「自分」を指しているのだということは、不思議と分かった。

そして脳裏には、暗闇に怯え、膝を抱える幼い少女が。

 

「…行かなきゃ」

 

「ちょっと、どこいくの!?」

 

「ナイトメアウルフはどちらにせよ逃げてる。だから、行ってあげないと」

 

「だからどこに…!

…行っちゃったわね」

 

 

 

 

 

 

「……」

 

嫌だ。暗闇は、怖い。闇を見れば、否応無しに思い出してしまう。独りになった夜を。両親が惨たらしく殺された夜。

彼女は、震えていた。闇を恐れる少女は。

 

「…大丈夫か」

 

不意に頭上から降ってきた声。間違えるはずもない。

 

「しゅ、雪華、様……」

 

「安心しろ。僕が、居てやるから」

 

その言葉は、覚えているものと寸分違わず。

 

「こうすれば、落ち着くだろう?」

 

隣に座り、手を握ってくれる。あの時と、初めて修羅様と出会った時と、全く同じ。ただ1つ違うのは、優しい笑みを浮かべているということ。

 

「き…おく、が……?」

 

発してから、それが涙声で情けなく震えているのに気づいた。

 

「…断片的にね。思い出したのは、あの夜のことだけ」

 

「せっか、さま…」

 

「そんなに震えないでも大丈夫。君はもう独りじゃない」

 

「…はい」

 

彼女は少し安心したように微笑んだ。

 

「ありがとう。君のおかげで、人的被害は最小限だ」

 

「いえ…、私は、命じられたことをただ……」

 

「それでも。お疲れ様、桜」

 

「…!」

 

繋がれた手が引かれ、気づいた時には、彼の腕の中に居た。

安心する。ずっと蔑まれてきた自分を、唯一認めてくれた人。

 

「雪華、様…」

 

眠ったようだ。腕の中で眠られるというのは、不思議な感覚だが、悪くはない。

 

「大丈夫だ、桜」

 

暗くても、僕がついている。撫でてやると、微かに微笑んだ。つられてこちらも微笑む。

 

「ナイトメアウルフの闇は、しばらく残るからな」

 

それまでは、こうしておこう。

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