東方雪月花   作:くらんもち

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42話

「さて、桜はどこで殺り合ってんのかなっと。」

 

零は探知を使う。魔力のぶつかり合いが大きいところにいると思ったのだ。

だが引っ掛かったのは別の魔力。ぶつかり合いではなく溜めてから放つ、といった感じのものだ。

 

「なんだこれ…………寄り道していくか。」

 

そう言って零は歩みを進める。

 

「はぁ……。」

 

彼女はため息をつく。正直、面倒で仕方がない。彼女の後ろにあるのは、熾天会主力兵器、『トライデント』。大型の魔力ジャベリンだ。彼女は、その護衛として幻想郷へ来ていた。

そんな中、ふと気がついたことがある。

自分以外にも何人かいたはずだが、明らかに護衛の人数が減っているのだ。

 

「あれ……?……っ!敵襲!」

 

勝手に減ることなど有り得ない。ならばこれは敵襲だと結論づけ、部下に警戒を命じる。

だが既に、彼女の周りにその声に答えられる者は居なかった。

 

「全滅……!?どこ……!?」

 

このトライデントはなんとしても護りきらなければ。迎撃のため銃を構え、いつでも引き金を引けるよう限界まで集中し、警戒する。が。

 

「よう、あんたが最後か?」

 

彼女の思考が停止する。

背後から声をかけられたのだ。

急いで振り返るが、人影はいない。

 

「上だよ上。」

 

顔を上げると、トライデントに腰を掛けこちらを見下ろす男がいた。

 

「っ!」

 

そちらへ銃口を向ける。

だが男は平然と見下ろしている。

まるで景色を眺めるかのように、静かにこちらを見ている。

 

「……あなたですか、部下をやったのは。」

「まあな、殺してはいないが。」

 

「……そう、ですか。」

 

それを聞いて安心する。だが、本音を言えば、もう投降してしまいたい。目の前の男からはとてつもない力……、有り得ないことに、"熾天使"と同程度、もしくはそれ以上のもの。今日は人生最悪の厄日に違いない。

 

「………何も殺そうとは考えちゃいないさ。」

「では何故?」

「俺は今回は頼まれて来てるだけだからな。それにあんただって死にたくないだろう?」

「……ええ、それは勿論。」

「俺が知りたいことを教えてくれれば、あんたは見逃がしてあげるよ。」

「……わかりました。ですが条件に追加を。私だけでなく、部下達も。」

「それはあんた次第だ。嘘偽りなく正直に答えてくれれば、これ以上あんた達が手を出してこない限りなにもしない。」

「分かりました。真実のみ答えましょう。」

 

そのまま少女は質問に答え続けた。

トライデントについて、兵力について、指揮を執っているライガと火那について。

聞かれたことをしっかりと、丁寧に答えていった。

洗いざらい全て。

 

「……私が知っているのはこの程度です。これ以上は階梯が上のお方に聞かないと分からないかと。」

「……なるほど、どうやら嘘は言っていないみたいだな。」

「はい。約束は、守っていただけますね?」

「勿論、約束は守ろう。」

 

男は笑う。戦場には似つかわしくない純粋な笑顔だ。

 

「……。はい。」

 

それを見て胸が高鳴ったのは何故だろう。

 

「聞きたいことは聞き終わったし、何か聞きたいことあるか?」

「特にありません。

……あ、いえ…………やっぱり、1つ、聞いても、良いですか?」

「ん?なんだ?」

「……どこに行けば、貴方に会えますか………?」

 

かなりの勇気を振り絞り、聞いてみる。はぐらかされても仕方ないけれど。

 

「俺に会いに来たければ、まずは戦争を終らせることだな。」

「戦争が終わって、全てが片付いて、平和になったら雪華に頼め。」

「わ、分かりました。彼に、聞いてみます。」

「それかあのたr……あいつの妻の桜に聞いてみろ。きっと力になってくれるさ。」

「そ、そうです、ね……。」

 

ああ、やっぱり。どこか変だ。元々面倒なのもあったけど、別れることがこんなに残念で。どうしてしまったのか。

 

「そういえば君、しっかり寝てないんじゃないかい?」

「え?あ、まあ、確かに……?」

 

寝てないと言えばそうかもしれない。いつも訓練でかなり忙しいからだ。

 

「そうか。ほら、こっちにおいで。」

 

男は地面に降り立ち、近くの木に近寄って少女に手招きする。

 

「え…?わ、分かりました。」

 

逸る胸を押さえて彼に近づく。元より生殺与奪は彼に握られているからこれは生存本能だと自分に言い聞かせた。

 

「ほいっと。」

 

少女の手を引き、横たわせる。俗に言う膝枕だ。

 

「え……!?」

 

ぼっ、と音を立てて彼女の頬が朱に染まる。殿方にこんなことをさせていいのだろうか。それより心臓がうるさくて思考が纏まらなくて、もう大変。

 

「しっかり休め。」

 

そうは言うがそれどころではない。

 

「え、いえ、あ、はい……。」

 

挙動不審になってしまう自分が恨めしい。この人の前ではせめて落ち着いていたいのに。

 

「そんなに強がらなくていい。」

 

優しく頭を撫でられる。

 

「は、はい……。」

 

深呼吸をして、目を閉じる。恥ずかしくて、嬉しくて、そんな複雑な感情を思いながら、眠りに落ちる。その間際、気づいた。これは、恋なんだと。

 

「君は良く頑張っている。誇りをもっていい。」

 

「はい……。ありがとう、ございます……。」

 

そっと微笑み、彼女は眠った。

 

「………寝た、か。」

 

零は彼女をそっと膝から下ろす。

 

「戦争が終れば、きっと会える………か。」

 

自分の言ったことを反芻しながら、彼は笑う。

 

「有言実行と行こうか?」

 

手始めに、この兵器を片付けよう。

彼が手を動かすと、空間が捻れ、トライデントが破壊される。

 

「……こいつは面白いな。」

 

そう言って彼は笑うのであった。

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