翌日…
「桜、頼むよ」
「は、はい!」
僕と桜はきりきり舞いだった。
紫さんに頼んで用意してもらった、喫茶店の開店日である。
やはり幻想郷の人々には物珍しいらしく、開店前から長蛇の列であった。桜はウエイターとして働いてくれている。
「雪華様ぁ!助けてください〜!」
桜の悲鳴が虚しく響く。
彼女のお陰で、男性の客が集まる集まる。少し、というかかなり申し訳ないが、その人気を存分に利用させてもらおう。
テーブル席は男性ばかりだが、何故かカウンター席には女性客しかいない。本当に何故だ。まあそんなことも思いつつ、コーヒーとお茶菓子を作る。常連になってくれそうな人も数人居たので、滑り出しは上々だろうか。
…これは余談だが。興味本位からか、僕と桜の関係を聞いてくる人もいた。まあ当然のごとく友人だと答えると、桜が少しがっかりしたような顔をしていたのをよく覚えている。疲労で参ってしまったのだろうか。気をつけておこう。
そして数時間後。
「雪華〜、桜〜」
霊夢が来た。その時には客も落ち着いて、桜はげんなりしていた。
「あ、霊夢さん…」
「…大丈夫?」
「全っ然大丈夫じゃないです…」
「働かせすぎじゃない?」
「ありゃ不可抗力だよ。さすがに僕も疲れたよ」
「そんなに?時間ずらして良かったわ……」
「初日なのに忙しすぎです…」
「まあ、珍しいんだろうな。お茶屋はあっても喫茶店はないらしいから」
「む〜っ…」
「おー、どうしたどうした」
「疲れました…」
「うん、お疲れ様」
全く、良い笑顔だ。文句すら封じられた。
「はぁ〜…」
「溜息ばっかりついてると幸せが逃げていくぞ?」
「…雪華様ぁ」
「?」
「好きな人とか居ますぅ…?」
「いきなりだな、おい」
我知らず苦笑する。
「…居ると思う?」
「…分かんないので」
「居ないよ。というか、僕を好くって、余程の物好きだぞ」
そう言って、彼は少し笑う。その物好きが目の前に居るのには気づいてくれない。
「さて、そろそろ閉店だな。もう21時だ」
「本当に、忙殺されましたね…」
「…入店制限でもかけるか」
「前向きの検討をお願いしますぅ…。もう足動かない……」
「大丈夫?…それっ」
「はぇ…!?」
「足動かないんだろ?だったら僕が運ぶしかないじゃないか」
「そ、そうかもしれないですけど!も、もうちょっとやり方が…。いきなりお姫様抱っことか、は、反則です……」
真っ赤になって顔を伏せてしまった。さすがに少しからかいすぎたか。
「ごめんごめん」
「全く、お熱いのね」
部屋に運び、戻ってくると開口一番それだった。
「そういうわけじゃないんだけどな」
苦笑を禁じ得ない。
「店名とかは決めてるの?」
「ああ。『
「あら、随分キザな名前ね?」
「春、桜の下には人が集まって、賑やかになるだろ?そんな風に、憩いの場になるように、ということさ」
「へぇ…」
「まあ、僕自身、桜が好きというのもあるんだけど」
「あんたらしいわね。頑張って」
「ああ。じゃあな」
「ええ、また来るわ。次は客としてね」
「お待ちしていますよ」
片付けをして、奥へ戻ると、桜が真っ赤で俯いていた。
「どうしたんだ?」
「そ、その…、『桜が好き』、というのは……」
ああ、そういうことか。
「ああごめん。桜の木のほうだ、語弊があってすまないな」
「そう、ですか…、ですよね……」
「そうだな。あ、風呂には入ったか?」
「ま、まだです」
「なら、先に入るといい」
「…分かりました」
…その後、お風呂の中で独り泣いたのは、秘密だ。