「……ちっ。」
「…………。」
敗戦し、捕虜となったライガと火那は、紅魔館の一室に軟禁されていた。雪華の結界もあって外には出られず、ライガは絶えず悪態をつき、火那は一言も喋らない。
「やっほー、元気してるか?」
そんな二人とは対極的に明るい雰囲気で入ってきたのは零だ。
「てめえは!」
「…神薙 零様。」
眉を釣り上げたライガ、そしてゆるゆると緩慢に火那は顔を上げた。
「あいつは何処だ。」
「ライガ、やめてください。私達は、負けたのですよ。」
「うるせぇ!戦争には敗けたが、勝負には負けてないだろ。俺はあいつと戦うために来たんだ!」
「落ち着け、どうせ戦っても死ぬだけだ。流石に勿体ないだろう?」
よっこいせ、と零は腰かける。
「……俺が、あんな奴に負けるってのか。」
「当たり前です。私達は『智天使』。修羅様……、いいえ、今はもう雪華様でしたか、あの御方は『熾天使』。智天使10人掛りでようやく勝負になるあの御方に、どうやって勝つといいますの?」
「そうそう、それに今あいつと殺り合おうってんなら……俺が相手になるぜ?」
「……ちっ。」
不承不承といった様子で荒々しく腰を下ろした。
「あと雪華も桜も万全じゃない。勝つのが目的なら弱ってるやつ殺しても面白くない。違うか?」
「いいや、俺の目的はあいつを殺すこと。戦うのはその手段の1つに過ぎない。そして、彼女を、取り戻すんだ………!!」
「まだそんなことを!あの2人は既に夫婦となっているのです、それならば、せめて応援するのが、惚れた者の役目ではございませんの!?」
「お前は悔しくないのか、火那!」
「……勿論、悔しいですわ。想い人が知らぬ間に他の人のものとなっていたのですから。でも、だからこそ私はあの御方に、雪華様に幸せになって欲しい。私が望むのは、それだけです。」
「はいはい、仲間割れはそれくらいにしておけ。後あいつは俺がぶっ潰すからお前にはやらん。」
「……ちっ。」
「申し訳ありません、少々興奮してしまいましたわ。」
片や忌々しげに舌打ちをし、片や沈鬱に謝罪した。
「別に謝るようなことじゃないさ。……そういえばノルン・ベネットって兵士に心当たりはないか?」
「彼女ですの?彼女は第三階梯『座天使』。……つまり上から3番目の階級で、霜月 桜と仲が良く、よく遊戯に興じていたそうです。時折雪華様も交えていたとの噂でしたわ。」
「…今から話すことは時期が来れば公になるが、それまでは他言無用だ。」
「…何ですの?」
火那は首を傾げる。ライガも視線だけを向けた。
「現在、ソイツの精神が不安定状態だ。なんとか受け答えは出来ているが…最悪の場合は……。」
零はそこで言葉をきる。
「……そういうことですか。確かに、霜月 桜なら悲しむでしょうね。」
「……それも全部あいつのせいだ。あいつが脱走さえしなければ、こんなことにはならなかった。」
「ライガ!
本当に、申し訳ございません!」
「まあ脱走の話しとかはどうでもいいが、今一番気になるのは桜だな。」
「そうですわ、あの翼に力、まるで『熾天使』のよう……。ですが彼女は『座天使』のはず。どうしてあんな力が……。」
「それはあれじゃねえの?想いの純真無垢なパワーで…。」
「それもあるでしょうが、それだけだとは思えませんわ。
……恐らくは、想いがトリガーとなって、彼女の潜在能力を解放したのでしょう。だってそうでなければあの力に説明がつきませんもの。」
「まああの雪華についていけるだけの実力があったってことだろうが……問題はその力だ。」
零は腕を組みながら考える。
「もし、今のノルンの状況を桜が知った際に、はたして暴走はしないのだろうか?」
「……そんなことは起こらないだろうな。」
ライガが口を開く。
「勿論悲しみはするだろうが、それしきで暴走なんてしていたら、あいつの側になんて居られなかったし、そもそも熾天会でやっていけないな。」
「まあその親友が
そう言って零は一枚の写真を二人に見せる。
「「……!」」
「……前言撤回だ。これは、彼女の心の強さに賭けるしかない。」
そう、そこに写っていたのは…全身に拘束具のようなものを身に付け、さらに体のあちこちから鎖で繋がれているノルンだった。
「ノルンの体……いや、精神には『断罪の鎖』というものが残ってしまっている。」
「……どうにかして、取ってはやれないのか?」
「取れるが……ほぼ確実に死ぬな。」
零がため息をつく。
「……くそ。」
彼は己の非力を呪った。
「……取る方法は2つ、1つはそのまま取り除く事だ。」
「そのまま?」
「どういうことですの?」
「文字通りさ。精神にアクセスして鎖を引きちぎる。」
「それは……。」
「かなりリスキーだな。下手すりゃ共倒れだ。」
「共倒れ……で済めばいいがな。」
「『断罪の鎖』ってのは簡単に言えば『爆破で即死させる兵器』だ。暴発でもすれば周りも巻き込まれる。」
「……どういうことだ。」
「成程な。ここにいる奴らも道連れってわけか。」
「ああ。んでもう1個の選択肢ってのは……。」
その後零から出た言葉に二人は驚愕する。
「おい待て、それはどういうことだ!!」
「そんなの、無茶が過ぎますわ!」
「それが最も安全な手段だ。」
「……彼女達が頷くとは、とても思えませんわ。」
「……同意見だ。」
「じゃあ見捨てるか?このままならあいつの精神は完全に壊れる。そうなれば鎖も自然消滅するだろうしな。」
「……私達に決める権利はこざいません。全ては、あの御方達が決めること。」
火那達にとっても、仲間は大切だ。
しかし、それ以上に彼らの友人。
自分達に、決めることなど、出来はしない。
「それが聞ければ充分だ。……そろそろ俺は戻る。」
そう言って零は立ち上がる。
その背に、ライガは言った。
「……あいつらを、よろしく頼む。」
「善処はするさ。」
零は扉に手を掛けたところで思い出したように振り返る。
「…そういえば、2つ聞きたいことがあったな。」
「何でございましょう?」
「ノルンについてだが……ノルンと雪華って『上司と部下』って関係だけか?」
「基本的にはその通りですが、霜月 桜を加えて遊戯をする時だけ、さながら幼なじみのような、そんな親しい感じでしたわね。」
「しかもあいつ桜の前でだけ笑ってたしな。」
「ふーん……じゃあ違うか。」
「それがどうかしましたの?」
「いや、何でもない。それだけならな。…あともう1つはお前らについてだ。」