数日後。初日に学習した僕は、即刻『桜舞う春』に1日700組の入店制限をつけることにした。700組目が入店すれば、すぐに新しい客の入店を制限。これにより、桜の疲労もかなり改善されたようだ。
「…700組目。これより入店を制限致します!」
外の人々からえー!という声があがる。だが既に事情を説明してあるので、潔く帰っていく。
「桜、今日は大丈夫?」
「はい。ありがとうございます、あのままじゃ冗談抜きで死んでました……」
「うん。さすがに客足がえげつなかったからね。君が壊れたら嫌だからさ。お疲れ様」
「はい!」
そして、最後の客が店を出ていく。今日はこれで店じまいだ。
「ふぅ…」
「桜?」
「いえ。何でも」
「なら良いんだけど…、何かあれば遠慮なく言ってくれよ?」
「っ…、はい」
言おうとした。でも、言えない。拒絶されることが怖い。
「うーん、まだ明るいから買い物にでも行ってこようか。お留守番お願いしてもいい?」
「…はい、了解しました」
着替えて外へ。野菜やら穀物やら色んなものが売っている。今晩はどんなメニューがいいだろうか。
「桜が好きなのは…、魚だったか」
なら、川魚を梅煮にしよう。ちょうど咲夜が梅干しを漬けていたのをもらっていた。…なんで梅干しなんて漬けてたんだろ。それはさておき、ちょうどよさげなのを買った。それと、店で使うものをいくつか。コーヒーに合う和菓子などを作ってみようか。そして帰路につき、ふと見ると、店があった。本屋だろうか。本棚が見える。
「レシピの本とかないかな」
そう思って入ってみる。レシピの載っている本を探して、色々漁っていると、奥から女の子。着物の上に黄色のエプロンをつけている。
「こんにちは!何かお探しですか?」
「うん、何か料理のレシピが載ってる本はないかとね」
「それでしたら…、こちらはどうでしょうか!」
持っている本から1冊を出した。
「これは?」
「お菓子の作り方などが書いてある本です。あなたにぴったりではないかと」
「…なんで、僕がお菓子のレシピを探してるって分かったんだい?」
「珈琲の匂いがしますから!はじめましてですし、最近出来た喫茶店とやらの方ではないかと思いまして!」
「なるほど。見事だね、名探偵さん」
「どうですか?」
誇らしげにしている。微笑ましい。
「あ、私、本居 小鈴って言います。今後とも『鈴奈庵』をご贔屓に!」
「僕は霜月 雪華、『
「やっぱり!行ってみたいなぁって思ってたんです!今度、お伺いしますね」
「ああ、待っているよ、小さな名探偵さん。じゃあ、これをもらおうか。いくらだい?」
「あ、はい。ええと」
その時だった。
「金を出しやがれ!」
「…ここにも強盗っているんだな」
「んだよ、てめぇ!」
男は短刀を持っている。今にも斬りかかって来そうだ。
「ただの客だが?」
「ああ?まあいい。金出せ!」
「…!」
小鈴は既に萎縮してしまっているようだ。
「出さなくていいぞ、小鈴」
「…スカしやがって。てめえ、ただで済むと思うなよ!」
回り込む構え。逆上して小鈴を人質に取るつもりらしい。だが、させない。先に回り込む。
「ちっ!」
「隠れてろ」
「は、はい!」
「死ね!」
振り下ろした男の腕を掴み、外へと投げ飛ばす。重心もブレブレなので、簡単だ。
「くそ!」
やけくそになったようで、短刀をやたらめったら振り回す。
「遅い!」
短刀を横から蹴り、叩き割る。日本刀は横からの攻撃に弱いから比較的簡単だ。そして鳩尾に1発拳を、頬に1発蹴りを、さらに腹に蹴りを入れて吹き飛ばし、背から地面に落ちた瞬間、トドメに膝をぶち込む。
「これでよし。大丈夫か、小鈴」
「は、はい!とても強いんですね…」
「ま、気絶するくらいに加減したけどね」
「す、すごいなぁ」
「怪我がないなら、良かったよ」
無意識のうちに、彼女の頭を撫でていた。
「へっ…?」
彼女の間の抜けた声で我に帰る。
「あ、ごめん!つい…」
「大丈夫です、全然…、これでも、一応まだ子供ですし…」
「本当に済まない。来た時にサービスさせてもらうよ」
「あ、ありがとうございます…」
「じゃあ、また」
「はい…。…行っちゃった」
そして、自分の顔が火照っていることに気づいた。
「あれ?なんでこんなに暑いんだろ…、もう霜月なのに…」
風邪、だろうか。あとで風邪薬を飲もう。まだ備蓄があったはず。ただ、何故かはわからないけど、この火照りは薬を飲んでも治らない気がする。