第7話
夢を、見る。いつもは、あの怖い夜の夢なのだけど、今日はいつもと少し違う。暗い。暗いのだけど、怖いなんて言っていられない。この奥へ進まなければいけない。そんな気がする。
恐怖をこらえながら進むと、何かがいた。闇より昏いもやがそれを覆っているから、何かまでは分からない。でも、居てはならないモノだと、本能で解る。その何かが、こちらを向く。近付かれて、悲鳴をあげそうになったところで、目が覚めた。
「はぁっ、はぁっ…!」
嫌な汗をかいている。時計を見ると、7時を示している。何だったんだろう、あれは。夢のはずなのに、奇妙な実感がある。
大丈夫、あれはただの夢。私には何の関係もない。
「大丈夫か?随分と魘されてたけど…」
「…はい」
大丈夫、大丈夫。私は、天水 桜は、ここにいる。
「そ、そういえば、今日は休みですよね!何か予定はあるんですか!?」
「…まあ、あるといえばある」
霊夢達が夜に来るらしい。
「何するか目に見えてんだよなぁ……」
「…お酒、あるんです?」
「紫さんに頼んでね。いずれこうなるのは分かりきってたから」
「あ、あはは…」
「だけど僕は飲まないよ。アルコール苦手だし」
「え?そうなんですか?」
「そうだよ。桜は?」
「私は…、どうなんだろう、分かりません」
「少しにしといてよ。悪酔いしないように」
「わかりました」
「じゃあ、買い出しに行くから、着替えといてね」
「はい」
「ちょっと待ってて、すぐに出るから」
「あ、いや、その、雪華様になら……」
「僕にとってはダメなんだ。それに、そういうのは本当に大好きな人に言ってあげなよ」
その「本当に大好きな人」がご自分なのには、気づいてない。
「急かしはしないけど、なるはやでね」
「は、はい!」
そして十数分後。
「お待たせしました」
「ん、大丈夫。じゃあ行こうか」
「はい!」
桜と共に、霊夢達を満足させることができるような肴を見繕う。
「これとかどうだろう」
「いいかもですね!」
「桜ちゃんじゃないか!うちで買い物かい?」
「雪華さんも?」
ここの店主さんの息子さんと娘さんだ。
「ええ、はい。友人が遊びに来るので、肴になりそうなものはないかと……」
「だったらこれがおすすめだよ。甘辛く煮たのがおすすめだな」
「わあ、そうなんですね。ありがとうございます!」
「良いんだよ、桜ちゃんが喜んでくれれば!」
「それにしても、まるで夫婦ですね〜」
娘さんが呟く。
「えっ!?そ、そそそそそんな!」
真っ赤になって桜は否定する。
「そうですよ、僕なんかが桜を娶るなんて、勿体なさすぎます」
「私はお似合いだと思いますけどね」
「冗談はよしてください」
「そ、そうですよ!」
「そんな風に見られるのは、君だって不本意だろ?」
「え…?」
「まあ、とにかくこれを買います」
「まいどあり!」
不本意なわけないのに。むしろ、嬉しい。
──夢を見る。朧な夢を。
平和で、想い人の隣にいて笑える夢を。
叶わないと分かっている。でも、見ずにはいられない。
私を認めてくれた、唯一の人。でも、私を受け入れてくれるとは、思ってはいけない。