音楽上の現実と歴史上の出来事~ 両王朝期の音楽家のささやかな評伝   作:フォン・セテム

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男爵夫人との対話、または政治と芸術

「それで、ティールマン楽長に嫌みを言おうとしたところをうまくいなしたと、、、」

ヴェストパーレ男爵夫人の突然の訪問を受けたティールマン楽長は恐縮していた。

 

「うまくいなしたというか、彼が自爆したようなものでして、、、」

 

「そうでしょうね、ブロウチェク氏は余計な一言で敵を作りますしねえ。」

 

リップシュタット戦役にて貴族連合を打倒したローエングラム公は、枢軸を組んでいたリヒテンラーデ公を謀殺し新帝エルウィン・ヨーゼフ帝を擁して新体制を築いた。

しかし新帝エルウィン・ヨーゼフが門閥貴族の残党に誘拐され、自由惑星同盟を名乗る叛徒ども(今やこの物言いもどうなのかと思うが、、、、)の保護下に入ったという。

状況の劇的な変化の中、表だった活動を控えつつあったヴェストパーレ男爵夫人が我が家を訪ねてきたのは意外だとティールマン楽長は思った。

 

「いえね、ブロウチェク氏のことはともかく、、、楽長殿は今後どうなさられるのでしょうか?これを伺いたくて来たのよ。」

 

「と、申しますと?」

 

「率直に申しまして、、、ゴールデンバウム王朝はこのまま、以前のごとく続くとお思いでして?」

 

「いや、あの、口の端にのせるも憚り多きことではございますが、、、」

 

「ここは、ティールマン楽長のご自宅ですよね?遠慮すべきことはないかと存じますが、、、」

 

男爵夫人の遠慮のない物言いに意を決した楽長は本音を語り始めた。

 

「なるほど、、、左様ですな。では申し上げましょう。我が家フォン・ティールマン家はゴールデンバウム王朝に芸術文化面で奉仕したと自負致しましたが事ここに至って、身の振り方を熟考致す次第です。」

「芸術音楽と政治。この二項対立は非常に難しい、、、」

「音楽と政治の関係と言いますが、本来関係ないとも言えますがそんな呑気なことを言えないようです。歴史的事象が証明しております。芸術とは本来は政治とは関係がない人間固有の表現意欲の発露が万人に受け入れられかつ、それを普遍的な美として追求することだと考えています。ですが音楽、芸術の側から政治に歩み寄り普遍的な美を捨て去った例もございます。それとは別に政治的影響力を持ってしまった例もあります。」

 

「楽長殿、仰ることはよくわかります。」

 

「ですが、人類の歴史が、、、全人類を滅ぼし尽くすような最終戦争が起きたという歴史的事実の中で、それが滅びることなく芸術がやはり珍重され重要視されているという事実は、時代精神を捉えその時代の精神に訴えかける作品が芸術というものの本質であり、そしていかなる時代でもそのような時代精神の享受が好まれ、かつ同時代ではなく、自分の生まれる前の時代精神への興味という歴史への意識のもと、人類社会に必要不可欠なものであるという認識を持つという結論に至った。それこそが人間が文化芸術を育んだ原動力と考えます。。

 

時代精神という概念を捉えるということは難しいことだと思います。政治や社会的な要素を削ぎ落とした中に出てくる純粋なその時代に生じた精神、芸術家の責務はそのあらゆる外的要素が削ぎ落とされた純粋な精神的な本質を捉え普遍的な言語にすることが責務でありと考えます。その精神的な本質はあらゆる時代の普遍的な人間精神の本質と同様のものでありそれは人間社会の記憶と感情、何より理想への思考の賜物であると思います。そしてその賜物であるかつて書かれた作品が多大な努力で残されてこの時代まで続いたこと、そのうえで社会的に珍重されうるような社会的教養がある限り、現実社会の政治というリバイアサンの生息する中でも必要とされる必要不可欠な宝物であると言う証明になりますと考えます。」

「わたしと、我が家はそのような宝物を護り育ててゆくのが責務であります。政治体制がいかなるものでもその責務を果たすだけです。」

「具体的には無憂宮の宮廷楽団はシュターツカペレ・ノイエサンスーシーと名を変え営利団体に変わりますが芸術音楽の維持と保守を責務に現状を維持していく次第です。社会情勢がいかように変貌しようが、私と我が家と、私の責任下にあるものは、先程申し上げた未熟な理想論に従わせる所存です。」

「ご先祖様の御功徳によるところ多大でしょうけど、、、」

 

 

「楽長殿、本日は良いお話を聞けました。私自身の身の振り方もよくわかったような気がします。ローエングラム公や、亡きキルヒアイス提督、メックリンガー提督やマリーンドルフ家のご令嬢殿などと交流がありましたが、もはや表立って政治的な発言は避けることにしましょう。以前マリーンドルフ家のヒルダお嬢ちゃんは私を大元帥の制服が似合うなどと申してたのよ、でもよくわかりました。楽長殿のお考え同意致しますわ。」

 

「本日は突然お邪魔してごめんなさいね、またお話ししましょう。あと楽長殿のベートーヴェンまた聴きたいですわ。それでは、、、」

 

以後、ヴェストパーレ男爵夫人は陰ながら若手の芸術家を援助していき、新帝国の、ひいては人類社会の中に芸術という美しい花を育て続けてゆく、、、

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