音楽上の現実と歴史上の出来事~ 両王朝期の音楽家のささやかな評伝   作:フォン・セテム

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フェルディナント・フォン・フレーゲル男爵の誕生記念演奏会

ブラウンシュヴァイク公爵家は当時帝国随一の大貴族であり、代々の芸術愛好家を配し続けた家であった。

 

ブラウンシュヴァイク公爵家の屋敷にて甥であるフレーゲル男爵の誕生日を祝賀する宴をひらかれていた。

それに先立ちヴィルヘルム・フォン・ティールマン指揮ブラウンシュヴァイク公爵家私設管弦楽団による祝賀演奏会を行われる。

曲目はグスタフ・フォン・ティールマン作曲の祝祭カンタータ「黄金樹の繁栄は永遠に」と西暦時代の作曲家ベートーヴェンの交響曲第9番であった。

ブラウンシュヴァイク公爵家私設管弦楽団は帝都オーディンの屋敷において公爵家が育成したオーケストラで帝都で名を知られていたが、公爵家の私的な演奏会のみ演奏する。

今回は宮廷楽長フォン・ティールマンが指揮するにあたり、宮廷楽団のコンサート・マスターであるダーフィット・ゴールドベルクをつれてきていた。

演奏会を行った公爵家に併設された音楽堂も「白銀のホール」と呼ばれ贅を尽くした美しいホールである。

演奏会は当代の巨匠たるヴィルヘルム・フォン・ティールマンの卓越した指揮により古典音楽のベートーヴェンを雄大で壮麗な音楽として再現した。ティールマン家の四代前のグスタフ・フォン・ティールマン作曲によるカンタータはこのような演奏会ではよく演奏される曲として知られている。

 

演奏会が終わり祝賀会が公爵邸にてひらかれていた。

 

「おお、卿が此度の演奏会を指揮してくれて感謝にたえぬ。何しろティールマン家はルドルフ大帝陛下以来の音楽家の名家だ、そしてこと古典音楽に関しては卿はこの銀河随一の芸術家であろう。我がブラウンシュヴァイク家が卿の演奏会を主催できて光栄に思う。我が甥のフレーゲル男爵は大の音楽愛好家でな。卿らの演奏をいたく気に入っておる。礼を言うぞ。」

 

「公爵閣下ありがたき仰せ痛み入ります。フレーゲル男爵閣下も我が拙き指揮による演奏にて御耳汚し恐縮至極に存じます。

公爵家私設のオーケストラの素晴らしい響きと技術的な精度、感服いたしました。

フェルディナント様もオットー様も芸術を愛する気持ち、常ながら感謝にたえません。」

 

「何の、此度は甥のフェルディナントの誕生日だ。卿の音楽で祝ってもらうとはフレーゲル男爵家も他家の羨望を買うやもな。ハッハッハッハッ。」

 

 

ブラウンシュヴァイク公オットーの甥に当たるフェルディナント・フォン・フレーゲル男爵は今でこそ門閥貴族の典型と見なされているが年若い頃より音楽芸術の愛好家として名が知れている。友人のランズベルク伯アルフレッドは詩人として宮廷のサロンでもてはやされている一方、フェルディナント・フォン・フレーゲル男爵はかつての地球時代の貴重な音源の収集家として名が知れていた。

帝国貴族としての文化芸術の教養を、この二人の年若い貴族が担っているとのことで一門のフェルディナントがその方面で名をなしていることにブラウンシュヴァイク公も鼻高々であった。

そのブラウンシュヴァイク公爵家もリヒャルト一世時代の人類文化発掘事業に当時の当主ルートヴィヒ・フォン・ブラウンシュヴァイクが多額の資金と援助を送っていたという過去を持つ。

帝国随一の権勢家として、門閥貴族の長としての顔からは想像できないであろう。

同じ門閥貴族の長として権勢を誇ったリッテンハイム家はどちらかと言えば政治や軍事中心の事績が目立ち、ルドルフ一世の銀河連邦軍人時代の同僚で優秀な艦隊司令官であった初代当主ヴィルヘルム一世以来、帝国の政治や軍事の中心として活躍した。

一方ブラウンシュヴァイク家の初代当主ヨーゼフは内務官僚としてルドルフ党首を支え国家革新同盟の幹事長を務め、同時に当時のテオリア星立歌劇場音楽監督であったアルフレッド・ティールマンを国家革新同盟の文化担当として紹介した。

ルドルフ同様、古典音楽の愛好家であったヨーゼフ・ブラウンシュヴァイクもアルフレッドの指揮するオペラを好んでいて個人的に面識を得ていた。

このように内務官僚として、そして帝政成立後に貴族ブラウンシュヴァイク公爵として下賜された惑星を開拓統治しつつ文化面(特に古典音楽の)での振興と保護にも尽力したという。

ブラウンシュヴァイク公爵領の主星ではこれまで保護できた古典音楽の楽譜や音源データなどのアーカイブ化を進めていっていた。

 

 

「叔父上、わたくしめの誕生祝賀会をこのように盛大に催していただきありがたき幸せです。帝国随一の巨匠ヴィルヘルム・フォン・ティールマン氏の指揮によるベートーヴェンの交響曲第9番まで聴くことができるとはブラウンシュヴァイク一門の名声は帝国中に轟きましょう!」

「卿の好きなティールマンの演奏だ、楽しんでもらえたようだな。ベートーヴェンは好みかな?」

「西暦時代の古代ドイツの第一の巨匠です。帝国貴族に相応しい音楽です。ゲルマンの血と魂は我らに引き継がれ生きております。」

「それは良かった!喜んでくれて何よりだ。フェルディナントわしはティールマン楽長と話があるでな、失礼する。」

 

ブラウンシュヴァイク公とティールマン楽長は隣室に向かうなか、パーティーは華々しく進みフレーゲル男爵の友人の若い貴族たちも続々と挨拶にやってきた。

 

「フレーゲル男爵、此度の盛大にして壮麗な祝賀会、このランズベルク伯アルフレッド感嘆の極み。」

「おお、ランズベルク伯殿、良くおいで下さった、叔父上のおかげをもってこのように美しい芸術の宴を楽しめたわけだ。この場を借りてランズベルク伯爵家とフレーゲル男爵家、ひいてはブラウンシュヴァイク公爵家の永遠の繁栄を祈ろうではないか。」

 

「男爵閣下にはありがたきお言葉痛み入ります。

それにしてもティールマン楽長のベートーヴェンは素晴らしい!この交響曲の持つ内的な炎と外的な壮麗さを余すことなく表現されている。まことの巨匠というべきですな。公爵閣下の私設オーケストラの芳醇な響きも素晴らしい!」

「叔父上の道楽でな、一流の楽師を集めたオーケストラだ。新無憂宮の宮廷楽団に匹敵するだろう。ティールマン楽長もこれならば霊感のすべてを注ぎ込めるでしょう。

これもブラウンシュヴァイク公爵家の芸術振興の伝統の賜物、一門として嬉しくおもうところだ。」

 

ランズベルク伯とフレーゲル男爵の会話のなか公爵との話を終えたティールマン楽長が挨拶にやってきた。

 

「フェルディナント様、御生誕奉祝いたします。ティールマン家一同を代表しお祝い申し上げます!」

「楽長殿、心震わせる芸術、これに勝るお祝いはありません。此度の演奏会、銀河随一の芸術の宴であった。すべての人々が羨むことであろう。」

「過分のお褒めを頂き光栄にございます。公爵閣下もフェルディナント様のお喜びよう嬉しくおもうと仰ってました。公爵家御一門の芸術保護の伝統、楽師一同感謝にたえません。どうか文化芸術の灯火を御守りいただきますよう、我ら楽師も精進に励みますゆえ宜しくお願い致します。」

 

 

 

贅を尽くした宴の中ひとまず祝賀会は散開し帰りの地上車でティールマン楽長はゴールドベルクに話しかける。

「それにしてもフェルディナント様も今宵は随分とお喜びだったな。昨今あまり良い世評をいただいてないと聞き及ぶで、昔と変わらぬフェルディナント様で良かった。」

「楽長殿、先だっての園遊会でもローエングラム伯と言い合いになったと聞きました。昔のフェルディナント様からは考えられないですが,,,,」

「時代は変わるんだな。そのローエングラム伯殿の事柄からして昨今の変化の証だろう。」

 

帝都曆487年帝都オーディンの夜は更けていった。

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