音楽上の現実と歴史上の出来事~ 両王朝期の音楽家のささやかな評伝   作:フォン・セテム

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「高等芸術音楽と人類の音楽の歴史」

前王朝期の音楽

 

ゴールデンバウム王朝期において新たな作曲は王朝の復古主義的な姿勢にならい、西暦時代18世紀から19世紀初頭の古典派様式と19世紀から20世紀前半のドイツ・ロマン派様式の二種類の方向に固まっていった。

 

もっとも帝政初期は旧銀河連邦の末期をひきずり多様な様式が混在していた。

他ならぬアルフレッド・フォン・ティールマンの音楽はそのような様式の混合が見てとれたがアルフレッド自身が復古主義的な政治思想の持ち主だったこと、その音楽をルドルフ一世自身が好んだこと、多分にプロバガンダの要素の強い作品も目立ったなどが要因で以後も政治的に問題なく聴かれている。

その後内務省社会秩序維持局の肝いりで「低俗な感情を喚起する音楽」「醜悪さを肯定する音楽」「社会秩序を乱す意図のある音楽」「反体制の意図のある音楽」「倒錯した価値観の音楽」などに抵触する音楽は排除され、悪質なものは劣悪遺伝子排除法を適用したり辺境の流刑星で農奴身分に落とされるなど苛酷な処分を受けるものもいた。

かくしてゴールデンバウム王朝期の音楽の傾向が固定化されていった。

 

そのような中で旧王朝期全般で書かれた作品を見て行く。

 

 

ゴールデンバウム王朝期の古典芸術音楽には以下のような傑作が知られている。

 

 

アルフレッド・フォン・ティールマン

交響曲第2番「人類の革新」

交響曲第5番

交響曲第8番「テ・デウム」

交響曲第10番

鎮魂カンタータ「殉教者たる大帝の忠臣」

鎮魂カンタータ「人類の救済者である鋼鉄の巨人を悼む」

楽劇「大王の奇跡」

楽劇「不屈のブリュッヘル」

弦楽四重奏曲第5番

 

 

フランツ・グラーフ・フォン・ウンヴェルツァークト

ピアノ・ソナタ第11番

弦楽四重奏曲「幻想的」

皇帝行進曲

歌劇「皇妃エリザベート」

 

 

リヒャルト・シェレンベルガー

連作歌曲集「ハンスの悲痛な旅」

連作歌曲集「フライアの果実」

 

 

ルートヴィヒ・フォン・ゴールデンベルク

ヴァイオリン・ソナタ第1~第6番「ヴァルトナー子爵セット」

ヴァイオリン協奏曲

 

 

グスタフ・フォン・ティールマン

祝祭カンタータ「黄金樹の繁栄は永遠に」

楽劇「雷神トゥールの勇戦」

劇付随音楽「大神オーディンとミーメ」

祝祭大交響曲「皇帝戴冠」

 

 

ハインリッヒ・フォン・ブルーメンタール

交響曲第3番

交響曲第9番

管弦楽組曲第2番

ピアノ協奏曲

ピアノ三重奏曲

 

 

エルネスト・メックリンガー

ピアノのための四つの水彩画

散文詩「常々の秋」朗読のためのピアノ曲

ピアノのための無言詩集

 

 

アレクサンドル・クラウス

バレエ音楽「ヴァルキューレたちの責務」

抽象的バレエ第1番

抽象的バレエ第8番

歴史的情景によるバレエ組曲

 

 

アルフレッド・フォン・ティールマンについては別項に譲るとしてここにあげた作曲家について記してみよう。

 

フランツ・グラーフ・フォン・ウンヴェルツァークトは帝国曆341年23歳で没した。その死には諸説あり暗殺の可能性も取りざたされている。

早熟の天才で西暦時代のモーツァルトに例えられ、多彩な旋律と幻想的で強烈な色彩感覚が作風の特徴であった。

 

リヒャルト・シェレンベルガーーはリート(芸術歌曲)の王と言われ、香気溢れる詩の世界を瑞々しくも物悲しい音楽で伴奏した。

 

ルートヴィヒ・フォン・ゴールデンベルクはヴァイオリンの名手でオーディン・フィルハーモニー協会管弦楽団のコンサート・マスターであった。作曲はもっぱらヴァイオリン曲でヴァイオリン・ソナタ6曲は音楽愛好家ヴァルトナー子爵ヴィルヘルムに捧げられた。あくまで優雅で古典的な造形が特徴。協奏曲も同様だが4管編成の巨大なオーケストラの伴奏が独特。

 

 

祝祭カンタータ「黄金樹の繁栄は永遠に」で知られるグスタフ・フォン・ティールマンはティールマン家中興の祖とされゴールデンバウム王朝を賛美する機会音楽とヴァーグナー風の復古的な楽劇を作曲した。英雄的で力強い作風は宮廷のみならず軍部でも好まれ帝国軍軍歌「ヴァルキューレは汝の勇気を愛せり」は彼の作曲ではないかとも言われている。

 

 

ハインリッヒ・フォン・ブルーメンタールは絶対音楽派の巨頭であり表題音楽やテキストのある音楽を嫌い、純器楽のみの論理的で構築的な楽曲を作曲した。多数の音楽理論書を執筆し帝国音楽院でも教材に使われている。指揮者としても有能でオーディン交響楽団の常任指揮者も勤める。

彼の交響曲は堅牢な形式と論理的な構造を持ち、音による巨大建築とも言われる。

 

 

エルネスト・メックリンガーはむしろ銀河帝国軍元帥としての方が有名であろう。文人提督として獅子帝の征服戦争を支えつつ、ピアニスト、散文詩人、水彩画家として多彩な才能を有していた。ローエングラム王朝において貴重な芸術品美術品を戦禍から守り保護するなどの活動でも知られている。

若い頃のピアノ作品が幾つか残っており、今でも時おり演奏される。

繊細で淡い色彩で詩情豊かなピアノ曲は独特な美しさがある。

 

 

宮廷バレエ団の団長アレクサンドル・クラウスは作曲家として多数のバレエ音楽を作曲する。

第8番まで数えたテキストによらない抽象的バレエ曲は、純粋に舞踏の運動性を研究した成果でバレエの交響曲化を目指した独自の抽象性は賛否両論であった。

 

前王朝において音楽における思想の潮流は、表題音楽やテキストのある音楽を期とする「楽劇派」と、それに反発した純器楽と楽曲の論理的構造を重視した「絶対音楽派」の二派に別れていた。

おおむね王朝の護持と賛美が高い評価を受ける以上「楽劇派」は優勢であったが「絶対音楽派」は強固な理論武装と楽曲の強固な完成度で対抗していた。

ゴールデンバウム王朝の国是である復古主義的な貴族主義に「絶対音楽派」はその排他的でエリート主義的な振る舞いで一部の貴族の賛同を得ていた。

一方「楽劇派」は王朝護持のわかりやすいテキストと表題を描写する具体的な音楽で一般的な評価を得ていた。

 

前王朝ではこの二つの潮流が合い争い芸術的な研鑽をつんでいた。

 

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