スラム暮らしから晴れてロドスアイランド製薬に就職したロープ。しかしそこはテラでも屈指の魔京企業。果たしてロープちゃんの運命はいかに!

あんなかわいいのに源石融合率18%で生い立ちが凄惨なロープちゃんを兎に角かわいがりたかったのでつい……。

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ラブコメRTAの創始者、たっくる先生を見習って書きました。


『ロープちゃんをロドスの一員にする』RTA、はじまるよ~

 源石が彩るこの世界(テラ)の数ある組織の一つ、ロドスアイランドのとある執務室に二人の少女が入った。

 一人は見慣れた少女だ。なんせ今いる執務室の主の秘書を担当しているのだから。後ろにまとめた茶髪とピンと天に立つコータス族特有のウサギのような耳。少女らしい小柄な背丈を包むロドスの制服である青と黒のコートはもはや彼女のトレードマークになっているだろう。そんな少女はロドスの現CEO。その名をアーミヤという。

 アーミヤは微笑みながら声をかける。

 

「お疲れ様ですドクター。先日募集していた公開求人で合格したオペレーターの方をお呼びしました。こちらは――」

 

 手を向けるともう一人、ロドスの制服の一つであるライダースジャケットに身を包んだ紫のロングヘアーとアーミヤと同じうさ耳の少女はうっすら笑みを浮かべてフランクに手を振った。

 

「初めまして、ロープって呼んで」

 

 アーミヤからドクターと呼ばれた執務室の主はこちらこそと挨拶を返し、ふと、ロープの手に目が行った。

 そんなドクターの視線に気付いたロープは自慢げに鼻を鳴らす。

 

「あ、これ、君のIDカードだよ。ん? どうしてぼくが持っているのかって?」

 

 イタズラが成功したのを喜んでいるように、人差し指を口元に持っていき、ウィンクした。

 

「それは、ヒ・ミ・ツ、だよ♪」

 

 そんな彼女の反省しない様子を見て、アーミヤは確信する。龍門近衛局のチェン隊長から推薦されたこの少女は、事前に聞いていた通り相当手癖の悪いタチのようだ。

 これから受けさせる彼女への教育に頭を悩ませながら、アーミヤはロープに釘を刺す。

 

「ロープさん。それはロドスで活動する上で大切なものですから、ドクターに返してあげてください」

「はいはいわかってるよ~。でもそんな大切なものをこんなに簡単に盗られちゃっていいのかなぁ~? あ、なんか写真貼ってある。なにこれ?」

「ロドスの施設全体を管理するオペレーター、私達はサポートオペレーターと呼んでいます。その人達の登録アイコンです。ドクターが指名された方が選ばれるのですが、要はドクター専属の秘書とかロドスの支部へ臨時出行する人たちですね。そのアイコンからオペレーターのスケジュールを確認できたり連絡を取れたりします」

「へ〜、なんか大変そうだねサポートオペレーターって」

「確かに仕事は他のオペレーターより多い上に仕事上の扱いはエリートオペレーターほどではありませんからね。ですが重要な案件を任せられるという信頼をドクターから得ているということでもあるんじゃないでしょうか」

「それってドクターの好みで選ばれてるだけなんじゃない? じゃあいつかはぼくもここに顔写真貼られちゃう――」

 

 パシャッと音が鳴るとともに、急に流暢だった彼女の冷やかしが止まった。

 彼女の視線の先には、いつの間にかカメラを構え、すでにシャッターを切ったドクターの姿が。

 そんな理解しがたい行動をとるドクターと目が合ったロープは首を傾げながらも、何かろくでもないことが起きるようなざわつきを感じた。

 彼女の予感はすぐに当たった。

 

「アーミヤ現像よろしく!」

「了解しましたドクター!」

「それとサポートオペレーターの申請書も持ってきてくれ!」

「了解しましたドクター!」

「ちょっと待って!」

 

 目前の相手を無視した2人の怒涛のやり取り。放っておくとあらぬ方向へ話が進むと思い、面食らいながらもロープは2人に待ったをかけた。

 

「話がさっぱり見えてこないんだけど! 色々聞いておきたいことがあるけど、何で2人共テンション吹っ切れちゃったの!?」

 

 全く持って意味がわからない。なんで勝手に写真撮られた上にサポートオペレーターの申請の準備がなされてるのか? ロープの疑問に比較的よい子なアーミヤが答える。

 

「そうですよね。ロープさんに関わることですから、ロープさんにも話を通しておかないと」

「通しておかないとっていうけどぼくロドスに来て30分も経ってない……」

「ロドスに着任して間もないですが、ロープさんにはサポートオペレーターになっていただきます。仕事内容はこれから受ける講習に説明がありますので安心してください! では早速ですが、今からサポートオペレーターの手続きを行いますのでドクターから書類を受け取って全部書き上げてくださいね。これから忙しくなりますよ!」

「ぼく来たばかりなんだよ! 何で新人のぼくがそんな重役みたいな仕事を振られなきゃならないの!? ぼくには荷が重すぎるよ!」

 

 当然ロープはその申し出を断るつもりでいた。

 今日来たばかりの新人が最高責任者のドクターからひいきにされているとロドス中に広まれば先輩オペレーター達から反感を買うかもしれないし、何より多くの仕事を請け負うことが面倒だ。自分の力量は把握しているし、不相応な仕事を受けるのは割が合わない。タダ働きなんてするもんかっ。

 そう身構えるロープに、アーミヤは一言。

 

「サポートオペレーターになれば給金の他に特別手当がつきますよ?」

「んぐ……っ!?」

 

 頭の回転の速さはスラム生活で必須だ。

 持ち前の聴覚による危機回避能力を最大限に発揮させるには、手に入れた情報を手早く処理し、そこから次へ繋がる行動を即座に行わなければならないのだ。一瞬の気の迷いと足止めは自身の守備範囲以外安全な場所の無いスラムでは命に直結する。

 それは、ロドスにおいても同じ。組織である以上、上下関係に厳しい環境では自分の立ち位置に気を配り人間関係の面でとっさの判断を実行しなければならない、そういった意味では同じだ。ロープはそう考えている。

 

 

 ようするに。

 迷って即答できなかった時点で負けなのだ。

 

     ☆

 

 紆余曲折を経てロープはロドス着任7分でサポートオペレーターに就任した。

 

     ☆

 

 ロープがロドスに来て1週間。サポートオペレーターに就いて7日目。

 彼女はパープルの毛並みのウサギ耳を垂れさせて根を上げていた。

 

「お疲れ様ですロープさん。ではこれが午後の仕事の書類です」

「……」

 

 通常のオペレーターと業務内容が違うことはわかっていたはずだが、それでもアーミヤが回してくる仕事量は殺意を錯覚してしまうほどだ。絶対に新人にやらせる代物じゃない。

 一応先輩のオペレーター達がロープに与えられた仕事を手伝ってくれるおかげで何とかアーミヤの課題を処理していけてる。先輩オペレーター達に仕事を押し付けてはいないか? とロープは懸念していたが、迷惑どころか先輩方はやたらとロープに構って構い倒してくるからロープの困惑は深まるばかりなのであった。

 

「あの、大丈夫ですか? 随分とお疲れのようですが、ホーランドロップ種のようですよ?」

「アーミヤのその質問に悪意を感じる。……まあいいや」

 

 文句の一つでも飛ばしてやろうかと思ったが相手は雇用先のCEO。敬語を使わなくなったロープに対してもウサ耳CEOは笑って流してくれそうだが組織としてそんなことは許されない。医療部の最高トップが過保護という噂が怖い。

 

 それはともあれと、ロープは気分を切り替える。

 殺意めいた業務内容に耐えられたのも、アーミヤが無意識に放っている(とロープの危機察知能力が錯覚する)圧に屈しなかったのも、すべてはこの日のため。

 

 今日は待ちに待った給料日なのだ。

 龍門(ロンメン)のスラム街で生きるか死ぬかの環境で育った彼女にとってそれは魔性の価値を持つ。

 持っていれば周囲の全てが敵に変わるが、手を伸ばさずに居られない。

 そして雀の涙ほどの量でも自身の命を繋げられる生きる上で大事なツール。

 それが今日のロープにとって最も重要な事項だ。

 あらかじめ先輩オペレーター達の話を聞いたところ、ロドスの給料はスラム街での収入の数倍。ロープにはピンと来ない数字が並んでいたが、とりあえずもらえるならもっとたくさんもらえたらいいな♪ と軽い調子で彼女は結論付けるのであった。

 

「と・こ・ろ・で、アーミヤ社長? 今日はとーっても大事な日じゃなかったかなぁ? ぼくすっごく楽しみなんだー」

 

 猫撫で声で最高権力者に擦り寄るうさ耳少女(社員)に、当のうさ耳少女(社長)は屈託のない(かもしれない)笑みを浮かべた。

 

「わかってますよ。お給料はきちんと用意してあります」

「やった」

 

 それともう一つ、とアーミヤは前置きする。

 

「実はなんと! 先ほど会議でロープさんの昇進が決定しました!」

「早すぎない? 入社1週間目……」

 

 予算があれば入社して数分で昇進するから遅いぐらいである。

 

 目まぐるしい状況の変化にロープはショートしかけた。しかしそんな重要なことは後回しだ。

 

「それより給料、給料上げて! 昇進なんかより給料の方がありがたみがあるって!」

 

 ロープはおあずけを食らってしょぼくれる犬ではない。正当な報酬を貰うなら相手が誰であろうと気兼ねなく受け取るし、必要以上に焦らされたら自ら要求するタイプの人間なのだ。

 そんな遠慮ナシの紫ウサギに対してCEOウサギは腹を立てた様子は無く、やれやれしかたないといった様子で微笑んだ。上に立つ人間は慣れてらっしゃる。

 

「いつまでも待たせるわけにはいきませんね。というわけでじゃん!」

「わぁ……!」

 

 アーミヤが懐から取り出した封筒に目を輝かせるロープ。

 

「こちらが約束のお給金ですよ。大切に使ってくださいね!」

「アーミヤありがとう、うわ! すっごい分厚いよ!? こんなにもらっていいの!?」

「そしてこちらが今回の昇進のお祝いとしてドクターから預かった特別ボーナスです」

「2枚目!? ドクターから!? 昇進すると上司からお金がもらえるんだ……。まあもらっとくね!」

「あとこれがロープさん幸せ手当です」

「ちょっとストップ」

 

 念願の給金にボルテージが上がっていたロープの心が一気に冷えた。

 深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、ロープは受け取った3枚目の封筒をアーミヤに見せる。

 

「何コレ?」

「ロープさん幸せ手当です」

「駄目だ改めて聞いてもよくわからない!? 大体幸せ手当って何さ!?」

「ドクターからの特別臨時報酬です。きっとロープさんはもらったお給金を使わないで貯めておくだろうから、これで美味しいもの食べてきなさいと」

「余計なお世話だよ! っていうかみんなもこんな感じなの!? こんなにポンポンお金もらえるものなの!?」

「それと、これは医療チームの皆さんからのロープさん幸せ――」

 

 思わず4枚目の封筒を持ったアーミヤの手を押さえつけた。

 報酬を自ら拒否する――自分でも信じられない行為に内心戸惑いつつ、ロープは徐々に圧力を籠めてくるアーミヤに問う。

 

「どこの部署って?」

「ドクターがロ-プさんに金一封を包んでいるという話を聞いた医療チームが私達もって。あとこちらはロープさんがよくチームを組む部隊の方々からの」

「止まらないねぇ!? 何なの!? みんなぼくに何をさせたいワケ!? こんなにお金もらっても返せるものが無いよ!?」

「どうして返すのですか? これは私達の気持ちですから、ロープさんは受け取ってもらえればそれで良いのです」

「嬉しいけど! なんだか怖いんだもん! ぼくばっかこんな扱いを受けたら、他のオペレーターが黙ってないでしょ!?」

「そこは、ほら。私、CEOですから」

「それがマズいんだって! お願いだから封筒を出すのをやめてぇ!!」

 

 医療チームのとは別にケルシー医師からの金一封が出た時が一番怖かった、とロープは後々語った。

 

     ☆

 

 ロドスアイランド製薬のトップ3の話し合いの結果、給料は一先ずアーミヤが保管し、今後の給料に付け足す形でロープに渡す流れになったとか。

 

 スラムより良い暮らしをするために入った怪しげな会社、ロドスに来てからというもの、ロープは戸惑うことばかりだった。

 今まで一人で生き、1人で困難を解決していた彼女にとって未知の経験……どころか、刺激が強すぎた。

 

 

 

「……」

 

 ロドスの食堂でキッチン担当だったグムからプレートを受け取った。敏感な聴覚で聞き取った調理の音が任務で疲れ切った体に食欲を湧きたてさせ、湯気を立てる現物を前にロープの胃は彼女の意に反して小さな訴えを起こした。音自体は響くものではなかったが、ロープのように聴覚の鋭い種族が所属するため聞こえる人には聞こえているだろう。気恥ずかしさから周囲を気にしながら、ひと気が少ない席を探した。

 食堂の端の方にあった席に着いたロープはさっさと食べてしまおうと匙を手に取ったが、ふと彼女の耳に賑やかな声が聞こえた。

 

「――でさ~、今月の最新号じゃ清楚がキテるそうなんだ。だったらこのアクセとか良さげじゃない?」

「あ~、それすごい流行ってるよね! この前の配達でもこの手のアクセを大量に入荷してた業者がホント地獄でね。あ、この新作ブランド、アンブリエルがおすすめしてたやつだよね。何か良いものはあった?」

「今回失敗だったわ。デザイン自体悪くないんだけど、ほら、写真とパーツ違ったんだ。なんか違うなぁって感じー」

 

 おしゃれというものに精通している彼女らの会話をロープは何一つ理解できない。楽し気に最新のトレンドを語り合う彼女たちは自分と同じぐらいの年頃。服装の話をしているようだが、服の良し悪しを気にしたことが無いロープがあの中に加わる自信は無かった。彼女たちの自身の個性を引き出すファッションと、ロドスから支給された活動服を身に纏う自分を見比べれば結果は目に見える。

 

「……」

「ぅん? ロープちゃんだ、どったの?」

「――え? あ、ゴメンなさい……」

 

 そう栗色二つ結びの少女に呼びかけられてロープはハッと覚めた。時間を忘れるほど見入っていたらしい。先輩に対して失礼にも程があった。

 咄嗟に立ち上がって謝罪を述べると少女は気にしないで、と笑った。

 

 所で、ロープに声を掛けた彼女はロープが見入っていた少女たちの席に居た。となれば残りの二人も当然ロープに注目する。

 

「ロープ今お昼? サポオペ業お疲れー」

「いつも大変だよねー。ロドスの支部回りまくってその上作戦に参加ってさ」

「い、いや、ぼくは大丈夫、です……皆さんもいつもお疲れ様です」

「そう硬くならなくていいよー。歳も近いし作戦じゃあ結構助けてもらってるしねー。あ、そうだ」

 

 そう言って桃色髪のサンクタの少女はポケットから何かを取り出し、ロープに手渡した。

 

 

 簡単なビニールの包装に包まれたままの宝石が付いたアクセサリー。

 何気なしに渡されたモノにロープは喉の奥から声が漏れ出そうになった。

 

「――ぅぇ、アンブリエルっ? これ」

「通販で買ったはいいんだけど、何か思ってた奴と違ってさ。で、一目見てロープ似合いそうだなって思ったんだー。捨てるのももったいないし、あたしを助けると思って受け取ってくんない?」

「でも……」

 

 気づけば知らずのうちに、ロープの右手は左肩を擦っていた。

 服越しの柔らかな感触から突き出た硬質な違和感がロープを現実に引き戻す。

 その仕草の意味を察した三人はロープに気取られない程度に目配せした。

 

「それじゃあ私たちそろそろ行くね。この後仕事だったよね? ご飯も冷めちゃうし、それじゃっ!」

「あ、はい。それじゃあまた……」

 

 そう言って離れていく彼女たち。去り際にロープに対して(ねぎら)いの言葉も忘れない辺り、人当たりの良さを感じて尊敬する。

 ロープは去っていく三人の後ろ姿に何も告げることができず、すとんと力が抜けたように椅子に座った。

 テーブルの上のランチプレートはまだ湯気を立てていた。その光景に今までのこと一切が夢であったのではないか? と考えたが、紛れもない現実。手に握られた贈り物がその証拠だった。

 

 その後、食事をしようにも不意に手が止まってしまう、ということが何度かあった。

 頭の中が纏まらない。

 

 ……何故、ロドスの人達はこんなにも自分に優しいのか?

 

 ここの人間は皆ロープに親切だ。――スラムの人間は誰もロープに手を差し伸べてくれなかったのに。

 感染者である自分を怖がる事無く接してきた。――龍門では感染者だとわかった途端に虐げられたのに。

 念願だった衣食住に困らない生活はロープの視界を広げた。――今日を生きてさえいれば、十分だと思っていたのに。

 

 ようするにロープは人の善意に慣れていなかった。

 人の行動には裏がある。スラムで培い根付いた彼女のモットーは、ロドスに来てからはことごとく覆されていた。

 もちろん皆が皆ロープに優しいわけじゃないが、少なくとも理不尽に彼女から奪い去る者はいない。

 それが余計に居心地の悪さをロープは感じている。

 

 

「やあ」

 

 考え事に上の空だったロープは声を掛けられるまで誰かが近づくのも気づけなかった。

 

「……ドクター……」

「席、良いかな?」

 

 黄色い液体の入った小瓶と携帯食(レーション)を持ったドクターにロープは頷いた。椅子を引いて座ったドクターはいつもと変わらない調子で携帯食を齧り始める。

 ドクターの食事風景を眺めながらロープは不信感を募らせる。

 周りから見た今の自分はきっと気落ちしたように見えているはずだ。そんな人間が居たらロープなら関わらないようにする。たとえ近づくとしたら、それは何かしらの思惑を持つ人間だ。

 弱みに付け込んで踏み台として利用するか、恩を押し付けてその倍以上の利益を搾取するか、そこに居るのが邪魔だからと排除するか、はたまた何の理由もなく痛めつけるか。いずれにせよロクなことは無い。

 

「……」

 

 別に同席する相手が自分に危害を加えるんじゃないか、という懸念は今のロープには無い。

 ロドスには龍門やウルサスの現・元警官が居るから人目のある所では悪質なことは起こらないとは思うし、ドクターも悪意を持った行動をしないだろう。この1週間で学んだ。悪意の無い行動をするが、最終的にロープを困惑させて来るのがドクターという生物。そう、ドクターのやることはなにもかもロープの予想を上回るのだから、意思疎通ができないオリジムシのようなモノと考えた方が良い。そんな生物が自分から寄ってくるのだから警戒するに越したことは無い。警戒の種類が違うだけだ。

 身構えていたロープにドクターはおもむろに口を開く。

 

「ロープ」

「何?」

「今の暮らしはどうだ」

「――え?」

 

 ちょっとよくわからない質問が飛び出てもう困惑した。何かのアンケートだろうか? 両親との過ごした時間が短かったロープはそう考えるほかなかった。

 どう答えるのが正解かわからず、普通だよと言うと、ドクターもそうか、とだけ呟くだけだった。

 

「突然どうしたのさ? いや、いつものことだけど」

「……」

「……」

 

 何も言わないドクターから視線を外した時、ぽつりと。

 

「現状に満足しているなら、それでいい。ロドスの生活に不満があれば、可能な限り君の要望は聞く」

 

 それとだが、とドクターは続けた。

 

「ロープが自らの手で成し遂げたいものがあるというなら、私達は干渉しない。私達が何もかも用意するのは君自身納得できない部分が出てくるだろう。だが君1人の力で解決出来ないと判断した時にだけ手伝おう。悩みを晴らすためには他人の力も必要になることもある。部下に頼られるのも上司の務めだ。仕事のことだろうが個人的な事だろうが、遠慮なく頼ってくれ」

 

 ロープは黙考した。

 行動が全く読めないドクターの(おもんばか)る言葉から悪意を感じない。ドクターの本心から出たものであり、並べられた言葉はロープが求めているもの。

 胸中にモヤモヤしたものを抱えたロープに、そんな言葉は効いた。

 

「ぼく……他人からこんな高価なものをもらったの、初めてなんだ」

 

 ぽつりと呟く。

 

「絶対似合うって言ってね、タダでくれたんだよ。ブランドとか全然わかんないけど、高価なものだってこともわかってる。コレを売ったら、スラムだったら数日は食いつなげるだろうね。――でもさ、」

 

 テーブルの上のアクセサリーに手を置き、包装の感触にあの三人の顔が思い浮かぶ。

 

「手放したくないんだ……。この先絶対に身に着けることなんかないのにさ、捨てたり売ったりしたくないんだ……。でも、こんな女の子っぽいアクセサリー、ぼくなんかに似合わないから……くれたアンブリエルに申し訳なくって……もう、どうしたらいいかわからないんだよ」

 

 思わず自分の中に鬱積した思いをドクターにぶちまけたロープは、ドクターの顔を伺った。愚痴ばっかりの自分に気を悪くしてないだろうか? そんな不安に駆られるロープにはドクターのマスクの下はどんな顔なのかはわからないが、

 

「……そうか」

 

 ロープの独白にドクターはそれだけしか言わなかった。

 二人の間での会話はそこで一旦途切れ、次にドクターが口を開いたのは静かな食事が終えた後だった。

 

「君がする仕事なのだが、もうやらなくていい。いつの間にか私のところに紛れていてな、午前中にまとめて終わらせてしまった。だから君は午後は休んでいい」

「え、そうなの? ありがとう。ドクターは?」

「今から午後の仕事だ」

「……そ。じゃ、頑張って」

 

 果たしてドクターはあのCEOから休む時間を与えてもらっているのだろうか? ロープはそんな心配を抱えながら食べ終えた食器を片付け始める。

 ドクターはロープが片付ける間彼女を待っていて、食堂の入り口までエスコートするようにロープの歩調と合わせていた。

 

「それじゃねドクター。適当に暇を潰しとくよ」

 

 いつものように軽口を叩き、ロープは食堂から出ようとしたとき、

 

「いや、すまないが君に頼みたいことがある」

「え? 何だよー。お使いか何か? 別にいいけど」

 

 不意に面倒くさそうに承知したロープから背を向けたドクター。

 具体的には食堂にいる人たちに向けて手でメガホンを作り、

 

 

 

「ロープちゃんをコーデしたい人集合ー!!」

 

 

「何ドクターくん? ファッションの相談なら直接来ればいいのに」

「まぁまぁオーキッドさん。ドクターの奇行はいつものことじゃないですか、でもまぁ女の子の笑顔を守れるなら付き合ってあげるのも良いのでは?」

 

「あっ! そういえば配達物で受取人が捕まってたやつがあったよね? 緩衝材に洋服を使って薬物を送ってた奴。それ持って来よう!」

「いやいやいやいやいや絶対ダメですってなんてもの使おうとしてるんですか!? 確かに女性もののドレスとかありましたけど、そんなもの貰っても絶対喜びませんって!」

「だが、あの服は状態の良いブランド物だ。このまま捨てるのも忍びない」

「テキサスさんがそう言うなら!」

 

「ロープさんの髪って伸び放題だし整えてやりたいなぁ……」

「気になるならやってあげなよスージー。あ、もしかして放電癖?」

「静電気で髪が広がることは無いんですけど、アーツの制御がまだ上手くないから……。ビリってくるのが嫌な人もいるし、ドライヤーとか壊しそうで……」

「放電なら俺に任せろ」

「どこから来たんですか!?」

 

 わらわらわらわらわらわら、と。

 ロープの周囲にどんどん人が増えていき、ロープをどう着飾らせるかを各々が口々に言いあっていく。

 そんな彼らの様子をロープはポカンと眺めるしかできなかった。

 ぽん、とドクターが彼女の肩に手を置き、

 

「彼らの相手を頼む」

 

 そう言い残して仕事に戻っていった。

 

 

 食堂の何処かで三人分のハイタッチの音が聞こえた気がした。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

      ☆

 

「チェンさ~ん! ホシグマ~!」

「ロープっ、いい加減に本官を呼び捨てにするなと……どうしたその服は?」

「む? 誰かとショッピングを楽しんでいたのか? よく似合ってるな――おっとっ」

「チェンさ~ん……」

「泣くな泣くな。誰かに悪口でも言われたのか? 誰だ? 少しガツンと言ってくる」

「違うの、違うんだよー」

「ホシグマッ。……まぁ何だ。急に他人から親切にされて戸惑っているんだろう? そいつらはきっとお前が喜んでくれると思ってやってくれたんだ。素直に受け取ってやれ。だからこそ、お前はその人たちを大切にしろよ」

「えーん……」

 

 HAPPY END!!




イラストレーターの綾城大福さんから使用許可をいただけました!
この小説を書き始めた頃にこのイラストを見かけ、この小説の展開にピタリと合ったことと描かれたキャラクターがすごくよかったので、僕個人としてもとても気に入ったイラストです。
小説が完成したらぜひ挿絵に使わせてもらいたいと思い、挫折しかけながら2年も経ってしまいました。
綾城大福様。この度はこの素敵なイラストを使用させていただき本当にありがとうございました!

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