明けた夜に(大人悪魔ほむら×大人さやかシリーズ)   作:さんかく@

16 / 18
不思議な縁で初老の男女と談笑することになった二人ーー




ほむら脅してみる
幼馴染


・運命のなかに偶然はない。人間はある運命に出会う以前に、自分がそれを作っているのだ。 

 

 W.ウィルソン

 

 

********

 

    

不思議だな、と美樹さやかは素直に思った。

24年間「ある特殊な事情」の元、激動(という言葉すら生ぬるいが)の人生を歩んでいる彼女に取って、「不思議」だの「衝撃」だのという単語はそれはもう何万回も使い切ってきたのだが、それでも、今ここで起きている出来事は不思議だと思った。垂れ気味の悪く言えばお間抜けな、良く言えば愛きょうのある目をしばたたかせて、さやかは目の前の初老の男女を見つめる。

 

「………」

 

品のある初老の男女は、喫茶店のソファに肩を並べて座っていた。上品な白のワンピースに淡い桃色のカーディガンを羽織った初老の女性の方は、灰色の髪を上品に後ろで束ね、優雅にコーヒーカップを口に運んでいる。

 

「………」

 

ストローを口に運んで、美樹さやかはアイスティーを一口啜る。そうして今度は初老の男性を見つめた。スーツ姿の白髪の男は腕を組んだまま、気難しげに喫茶店の天井を眺めている。何か考え込んでいる様子だ。かつては美男子と呼ばれていたであろう容貌は、浅黒く日に焼け、そして苦渋の皺が刻まれていた。さやかはその顔を見て、口元を緩める。その顔は職場でいつも見慣れている「上司」の顔なのだ。と、偶然目と目が合う。さやかの口元が更に緩んだ。

 

「…えへへ」

「何がえへへだこの野郎」

「すみません…」

 

へらへらと笑いかけたが男に叱り飛ばされ、さやかは委縮する。傍にいる美しい黒髪の女性がくっ、くっ、と肩を揺らして笑った。

 

「いつもこうなんですか?」

 

そうして小首をかしげながら、黒髪の女性が男に尋ねた。長い髪が窓から差し込む陽光に照らされて艶やかな色を浮かべた。

 

「え、…ああ、こいつのことか?」

 

陽光が眩しかったのか、それとも黒髪の女性の美貌に見惚れていたのか、ワンテンポ遅れて初老の男が反応した。

 

「はい」

 

黒髪の美女が子供のように頷いて口を開いた。そうして面白そうに目を細めて右隣の蒼い髪の女性をじい、と見つめながら人さし指でその頭をちょん、とつついた。

 

「この、だらしなくへらへらしているところとか」

「ちょっと、ほむら!」

 

さやかが思わず相方の名前を呼んだ。二人の子供っぽいやりとりに、初老の女性は「あらあら」と微笑み、白髪の男の方は一瞬困惑したが、黒髪の女性に答えた。

 

「……ああ、いつもそんな感じだ」

「主任!」

 

初老の女性は今度は吹き出し、さも楽しそうにころころと笑った。

 

「あらあら、楽しそうねえ」

「おい、清子、そう呑気なこと言ってねえで、そろそろこの状況を説明してくれよ」

 

白髪の男の言葉で、三者の視線が清子と呼ばれた初老の女性に集まる。

 

「あら、せっかく楽しいのにもう種明し?」

「頼むよ、このままじゃ居心地が悪くて仕方ねえ」

 

初老の男の言葉に対面でこくこくと頷くさやか。まるで忠実な犬のようだ。くすくすと笑って清子は視線をさやかに移す。

 

「美樹さんもそう?」

 

さやかははっ、と清子を見つめ、身を乗り出して答える。伸びた前髪が彼女の右目に少しかかった。

 

「はい、なんか主任と喫茶店って落ち着かなくて……」

「殴るぞこの野郎」

 

しん、とただでさえ静謐な店内に更に不穏な静けさが漂った。こほん、と岡山が咳払いし、「失礼」と呟く、肩を震わせる蒼い髪の女性を睨みながら。

 

――わ、笑っちゃいけない!

 

さやかは必死で笑いを堪える。確かに初老の男が言う様に、さやかも居心地はかなり悪い。オフの世界にいきなりオンの人物が現れてくる特有の居たたまれない感。だが気分は高揚しており、気は緩んでいた。おそらく相方に紹介したい人物が若い男でなかったという安心感からきているのだろう。右手を口に添えてこちらも軽く咳払いすると、白髪の上司に顔を向ける。その口元は奇妙な形に歪んでいた。

 

「あらあらじゃあ、仕方ないわねぇ」

 

ふふふ、と初老の女性は優雅に微笑んだ。

 

*        *        

 

『あなたに紹介したい人がいるの』

 

それはつい1時間ほど前の事、ほむらの持つ携帯の向こう側から、恩師はそう言った。

 

『え…』

 

動揺しまいとしたが、さすがにこれにはほむらも耐性がないらしい。――この年齢の女性に「紹介したい人」なんて、一般的には同年代の異性が統計的にも多いのだ。ほむらは困った表情を浮かべ、一瞬部屋の天井を見上げた。美しいアメジストの瞳が天井のシャンデリアを捉える。その手は無意識に傍で寝転がっている相方の頭へ。蒼い髪は柔らかく触り心地が良いのだろう、感触を楽しむように、ほむらの細い指が動く。そうして震える声で携帯の向こうの主に言った。

 

『さやかも連れてきていいですか?』

 

*      *       *

 

「でも、最初はびっくりしましたよ」

 

さやかが肩をすくめながら言った。どうやらいつも会話の口火を切るのは彼女のようだ。

 

「あら、そう?」

「…あんたは意外と驚いてなかったようだけどさ」

 

ほぼ肩が密着している状態で隣り合っているほむらを至近距離で見つめ、さやかは肩をすくめる。美しいが中性的な顔立ちもあってか、その仕草はまるで少年のようだ。

 

「だって、ほむらに紹介したい人がいるっていうから、てっきり若い男かと思ったら…」

「オジサンで残念だったかしら?」

 

清子の言葉に慌てて、両の手の平を振って否定するさやかと睨む初老の男。

 

「ち、違います、違います!まさか主任がいるなんて思わなくてびっくりしたんですよ」

「俺だって驚いたよ、まさか清子の紹介したい人が暁美さんなんて、ついでに美樹もいるしな」

「ひど!」

 

そう、若い男が待ち構えていると(相方の代わりに)身構えたさやかは、かなり驚いた。何故ならそこには職場の上司である岡山がいたからだ。そうしてその隣には相方の恩師である佐藤清子もいる。両方ともに面識はあったが、まさか二人揃っている場面に出くわすなんて夢にも思わなかったのだ。何故?という疑問と共に、この二人の関係はいったいなんなんだろうとさやかの頭の中はクエスチョンマークに溢れていた。

 

「でも暁美さんはあまり驚かないのね?」

「驚いてますよ」

 

と、無表情で答えるほむら。どうにもそう見えないのが彼女の困ったところだ、とさやかは思った。ほむらは涼しい顔で黒髪を軽く梳くと、岡山の方を向いて「でも面識がありますものね」と微笑んだ。面喰ったような岡山。

 

「…ああ…そう…ですね」

「ずる!主任、敬語使っ…」

「うるせぇぞ」

 

男の態度の違いにふくれるさやかと吹き出す清子。さすがの名刑事も目の前の浮世離れした美女には弱いということか。

 

「あら、暁美さんも銀ちゃんと面識が会ったのね」

 

銀ちゃん?と、さやかがひときわ大きな声をあげる。それを殺しかねない勢いで睨んで無言で沈黙を促す岡山。初老の女性は小首をかしげながら、フフフと笑った。そうして白髪の男の肩に軽く触れる。

 

「そうよ、私とこの人は幼馴染なの」

 




オリキャラはそれぞれ以前のSSに何度か登場しています。
美樹さやかの上司である刑事岡山(初老の男性)は「夜歩く」(R18G)を始めとした警察者に登場。
暁美ほむらの大学時代の恩師である佐藤清子(初老の女性)は「笑う絵画」https://syosetu.org/novel/302421/7.htmlや「THE LOVERS」(R18)に登場します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。