ナンジャモさんのお隣さん   作:ハッコウシティ在住無職

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わるめだち

 

 ラッキーというポケモンはかなりレアな存在であり、野生で一目見るのも苦労する文字通り見かけたらラッキーな存在である。

 そしてやけに捕獲しにくいことでも有名で、見た目からは想像のつかないほど素早い逃げ足を用いて一目散に逃げ出すラッキーを捉えることは難しく、たとえ捉えたとしてもボールに入れることも難しい。

 

 その捕獲率の低さから、捕まえられたトレーナーに幸運をもたらす。なんてジンクスが大真面目に語られるほどで、それを信じてラッキーを追い回すトレーナーや密猟者も一定数存在している。

 そして、そんなラッキーを躊躇いなく衆目に晒せば、悪目立ちするのも当然であった。

 

「今日はどうすっか。そこの川でバスラオ釣りでもするか?」

 

「らき、らき」

 

「まほっ」

 

「ラッキーはバスラオ釣りで……マホイップは何だ? コジオ取り?」

 

 ラッキーは南を指さし、ラッキーの上に乗っているマホイップは北へ小さな手を向ける。彼の手持ちのポケモンの意見が割れることは珍しくないが、大体の場合で食糧関係である事は共通している事が多い。

 バスラオ()ケンタロス()か、という意見で割れることはあっても、とりあえず何か食べよう。という考えでポケモン達の考えは一致しているのだ。

 

「ラッキーは分かるけど、マホイップは何でまたコジオ取りなんだよ」

 

「まっ」

 

 マホイップが次に手を向けたのは、多くの人に人気で夏場には行列すら出来るアイスの屋台。コジオとアイスに何の関係が、と思考したところで、そういえば一つだけ変わったメニューがあった事に思い至る。

 

「コジオソルトアイスを作りたいとか?」

 

「まほまほ」

 

「らき!」

 

「まっまっ!」

 

 マホイップは首を上下に頷かせると、ラッキーは反発するようにハッコウシティの南側へと歩き出し、マホイップはそんなラッキーの頭をぺちぺちと叩いて足を止めようとする。

 しかしビクともしていないのは、ラッキーの持ち物である"しんかのきせき"が悪さをしているのか、それとも単にマホイップのパワーが無さすぎるだけなのか。あるいは両方という可能性も考えられる。

 

 なんにせよ、止めねばならない。行き先は既に決まっているのだ。

 

「待て待て。昨日の時点で食卓塩が無くなりかけてたから、補充のためにコジオからな」

 

 コジオというポケモンは古来よりパルデアに生息しており、その昔から人々に塩を恵んでくれるため崇められていた存在である。塩という料理に必要不可欠な調味料を産んでくれるコジオの存在が、古来から今までのパルデアの食文化を支えていたと言っても過言ではない。

 食塩の調達が容易になった現代でもパルデア人はコジオから生成される塩を好む者が多く、その塩を求めてコジオを手持ちポケモンにするトレーナーも居るほどだ。

 

「その後は……まあ、その時に考えれば良いさ。とにかく行くぞ、塩の補充は最優先だからな」

 

「まっほ」

 

「らっきー」

 

 ユウの一声でひとまず矛を収めたらしいラッキーとマホイップは、ハッコウシティの北へ歩き出したユウの後ろを付いて行く。

 

 その姿は、多くの人目についていた。ユウは自分がやけに注目されている事は知っていたが、子供がポケモンを連れてるのが珍しいんだろう。としか考えていない。

 無論、それも当たっている。当たってはいるが、それは目立っている理由の半分ほどでしかない。彼が気付かぬもう半分の理由、それはポケモンのレア度である。

 

 ラッキーは言わずもがなだが、マホイップもガラル地方原産であり、その他の地域で現時点では生息が確認できないポケモンだ。

 そのためパルデアではレアなポケモンであり、更にユウのマホイップはトリプルミックスというガラル地方でも滅多に見ないフォルムのため、余計に悪目立ちしている。

 

 だがユウにしてみれば、ラッキーもマホイップも等しく一般ポケモンの分類である。彼の物差しは一般ポケモン・準伝説・伝説・幻と大雑把に分けられており、色違いでもない一般ポケモンがレアなんて考えを欠片も持ち合わせていなかったのだ。

 

 その認識の齟齬が、彼を浮いた存在としていた。

 

 ◇◇

 

「ユウってさ、実はワザとポケモン見せびらかしてない?」

 

「んな訳ないだろ。なんでそうなる」

 

 体操服のナンジャモがジト目でユウを見る。これから始まる授業が体操服を着て運動場で行うポケモン学の実技のため、ユウも体操服である。

 

 トレーナーズスクールでは基礎的な授業の他に、スクールで保有しているポケモンと触れ合ったりバトルの真似事をしてポケモンの理解を深めるポケモン学の授業が存在する。

 まだ自分のポケモンを持てない生徒たちが憧れのモンスターボールを触れる貴重な時間であり、多くの生徒がポケモン学の時間を待ち侘びているのであった。

 

(昔でいうところの体育ポジだよな。まあ人間だけで身体動かす体育も別にあるけどさ)

 

 体育と違うところを挙げるとすれば、ほぼ実技で身体を動かす事が目的の体育とは異なり、ポケモン学はポケモンの生態などを知り、隣人として生きるポケモンへの理解を深める事も学習目標の1つとして定められていることだ。

 そのためポケモンの生息域や生態を知るための座学と、生き物としてのポケモンの扱いを覚えるための実技の頻度が丁度半分くらいに分けられている。座学で基礎を学んでから実技で試すという1サイクルを基本としているのだ。

 

 このポケモン学という授業は、もし手持ちのポケモンが居れば、実技の際に事前に申請することで手持ちのポケモンを使う事も許可されているのだが……通常、ポケモンを持てない8歳のユウ達は基本的にこの制度が適用される事はない。

 

「いやだってさ……」

 

 しかしナンジャモが目を向けたのは、ユウの横で当然のように座るラッキーと、ユウに抱えられたマホイップの2体だった。

 ナンジャモだけではない。授業が始まる前に運動場に集まった他の生徒たちからの目線が、彼と彼のポケモンに一挙に集まっている。それは彼の他に、自前のポケモンを持っている生徒がこの場に居ないためであった。

 

 この授業は2つのクラスが合同で運動場に集まるため、実に2クラス分の注目を浴びていることになるが、当の本人はどこ吹く風といった様子だ。

 

 ──実のところ、実技の際に手持ちのポケモンを使っても良いという制度は、スクールのレンタルポケモンを使うより自前のポケモンを使う事で、将来そのポケモンと生きる生徒とポケモンの絆を深めて欲しいという狙いのもと定められている。

 そのため本来この制度が想定しているのは、新しくポケモンを貰ったばかりの生徒たちであり、生徒が使うポケモンのレベルもゲーム換算にしてLv20以下だ。

 

 そのくらいのレベルであれば、もし生徒のポケモンが暴れたとしても教師のポケモンが余裕を持って鎮圧できるため、問題ない見込みで定められたのである。

 

 しかしユウの手持ちのような、今からポケモンリーグに殴り込んでも余裕で勝てそうな完成されきったポケモンが出てくる事は想定していない。

 しかもグルトンやハネッコのような良く見られる一般ポケモンではなく、ラッキーという珍しいポケモンが出てくることなど、まったくもって想定外であった。

 

 行き過ぎた特別は孤立とイジメをもたらす。普段のスクール生活からして、ユウが良くない方に目立つ事が容易に想像できた教師陣は、彼の手持ちポケモンの使用を許可するのかどうかで議論をしなければならなかった。

 議論は紛糾したが、ユウが学業の成績自体は優秀であり、申請されたポケモンも珍しいだけで特別凶暴な訳でもないこと。そして珍しいからというだけでNoを突きつけると、後でスクールを統括するオレンジアカデミーへの説明が面倒になる点が決め手となり、やむを得ず許可が降りたのだった。

 

 ユウは知らないことだが、この一件以降は教師達の間でユウは要注意対象とされており、彼の近くでトラブルが起きていないかを職員会議のたびに確認しているのだ。

 

「……やっぱり目立ってるよ? すごく」

 

「俺らの歳でポケモン持ってるのが珍しいんだろ」

 

 ちがう、そうじゃない

 

 ナンジャモはそう言いかけたが、ギリギリのところで踏みとどまった。

 この頼れる異性の友人は常に落ち着いているし、大人顔負けの知識を有しているが、変なところで抜けているのだ。特に自身のポケモンの珍しさに全く頓着しないマイペースさに、彼と出会ってからナンジャモは散々振り回されている。

 

「…………うん。まあ、そうだね」

 

「変なやつ」

 

 今もそうだ。まるでナンジャモが変わってるかのような物言いをよく彼はするが、世間一般的に正しい感性をしているのはナンジャモの方であり、決してユウではない。

 なのに何故こっちが変なやつ認定されなければならないのか。ナンジャモは少しイラッときていた。

 

 しかし、変にマイペースで図太くて、どこか抜けた言動で振り回してくる彼のことを、ナンジャモはキライになれないでいる。発言そのものに悪意が含まれていない事は長く付き合えば分かるし、他の男子達と違って騒がしくない。

 そして何より、今の自分では本来扱えないポケモンを貸してくれるところが好印象だ。しかもラッキーという、滅多に持っているトレーナーの居ない珍しいポケモンを簡単に貸してくれるのがイイ。

 

「あの女子いっつもアイツと一緒にいるけどさー、もしかしてアイツのこと好きなんじゃねーの!」

 

「……何言ってんだろ?」

 

「知るか」

 

 だがそれだけだ。それ以上の感情をユウには抱いていないし、抱くこともないだろうとナンジャモは思っている。そもそもナンジャモの理想の異性は、ピンチの自分を颯爽と助けてくれる文句なしにカッコいいイケメンの王子様である。

 王子様というキャラでもなければ、世間一般のカッコいいにギリギリ当て嵌まるかもしれないという程度の見た目のユウには、何を間違っても当てはまりそうにない。

 

 家では少女マンガを嗜み、女児アニメに夢中な一般少女のナンジャモは、まだ恋愛というものに凄まじい夢を見ることが出来る年頃なのだ。

 

 だからナンジャモには、顔も名前も覚えがない男子同級生の"好き"という単語の意味が全く理解できなかったし、ユウは意味を分かっていながら、からかうのも程々にしとかないと後々自分の首を絞めるぞ。と内心思いつつスルーする。

 そんなどうでも良い事より、どうすればポケモンたちの養育費をたんまり稼げるのかと考えを巡らせているユウは、自分が恨めしそうに睨まれている事になんて全く気付いていないのだった。

 

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