加えてたくさんの感想、高評価ありがとうございます!
今回も投下しますのでお付き合いください……!
最近遅れがちで申し訳ないです(泣)
「…………」
地面に寝そべって周りから攻撃されるのを待つ。
正直、手持ち無沙汰だ。でも、それはそれとして暇をしてるという訳ではない。木々の向こう側から感じる何人かが動く気配と慌ただしく、でも最低限の音で準備を進める気迫。
どうやら、俺を殺すための罠を仕掛けている最中らしい。なら、今はただ待っていよう。折角なら万全の状態でやり合いたい。みんなが俺にどんな手を使って来るのか、興味深々だ。
さて、それまでは木々の向こう側、みんながいる部分から少し外れた場所で始まろうとしている戦いに目を向けよう。まぁ、地面にうつ伏せになってるから見ることはできないけど、気配で感じることはできる。
ヒナvs雪村というカードの決着はどうなるか。
ヒナはビッチ先生から教わった脳殺テク、自分で研究したトラップの技術、近接戦の強さが持ち味だ。
雪村はある意味では未知数だ。これまでは触手に蝕まれて色々と制限された状態でやっていただろうし、冬休み前のイメージや知識は意味をなさないかもしれない。一つわかっているのは、演技という分野では頭ひとつ抜けているということ。
ある意味、似たようなカード同士の衝突だ。
ヒナのビッチ先生直伝の脳殺テクも、言い換えてしまえば、相手を身振り手振り口先で誘惑する演技とも言える。雪村の場合は言わずもがな。相手を出し抜いた奴が勝つ。そんな対戦になるだろう。さて、どっちに転ぶかな。
雪村は病み上がりだが相当強いだろう。
などと思いつつ、普段のやり取りやこれまでの経験からある程度の流れを予想し俺はヒナが勝つと半ば確信していた。
あかりちゃんとの対戦が始まった。
対戦、といっても圭ちゃんも烏間先生の繰り広げたようなレベルには届かない。先日、烏間先生と自分の暗殺への参加を賭けて戦ったと聞かされて、その流れで興味本位で聞いてみた。
死神vs烏間先生を人類最強決定戦なんて言ってたことがあったけど、圭ちゃんと烏間先生の戦いはまさしく、第二回人類最強決定戦と言える組み合わせであり、彼氏と尊敬している人のガチンコ勝負という組み合わせは、その一部始終を知りたいと思わせるものであった。
そして結論から言えば、レベルの違いに愕然とした。
圭ちゃんと烏間先生の間のレベル差ではなく、私たちと彼ら2人との差だ。烏間先生にナイフを当てられる生徒は増えてきた。でも、有効打と言える精度で当てられる人は少ない。そこへ平然と攻撃を当てられる圭ちゃん。普通の人じゃ手も足も出ないだろうそんな彼からの攻撃を受けて、倒れることなく立ち続けた烏間先生。なんていうか、怪獣大決戦染みていた。
中でも異常だと思ったのは、強化エアガンでの射撃で決着がつかなかった部分だ。撃ったのは自衛隊で訓練を受けていた烏間先生、撃たれたのは実弾も見て回避できる圭ちゃん。
強化エアガンは今、私たちが使っているBB弾を当てるエアガンよりも威力も弾速もある。それを私たち以上の精度で撃てる烏間先生。そしてそれをいなしてしまう圭ちゃん。
銃撃っていうのは、それ1発で普通は勝負が決まってしまう威力がある。殺せんせーの所為で感覚がおかしくなってるけど、BB弾だって、普通は人が避けられるものじゃない。
例えば、こうして私と向き合ってるあかりちゃんが徐に銃を構えて、そのまま撃って着たら、私は何もできずに負けてしまうだろう。例えエアガンであっても、本来なら、それだけの攻撃力がある手段なんだ。発砲とは。
それを理解してるから、お互いに取った手段は近接だった。お互いの身体をぶつけに行くように近づけて、銃を抜ける余裕は与えない。それが最適解であると同時に銃撃が自分にとっての必殺であることは変わらない。
相手の顔が目と鼻の先にあるこの距離で銃を抜くのは隙としては決定的すぎる。だから銃を抜くには距離を取らなきゃけいない。だけど、それをお互いに理解しているから、そう簡単には離れさせない。膠着状態だ。
離れないと必殺の一撃は出せない、離れたら必殺の一撃が来る。まだ早撃ちに自信があるのであればまだしも、私はどちらかと言えば近接戦の方が得意で、銃の腕もクラスの中では平均寄りだし、あかりちゃんは普段、みんなのサポートに徹していたから未知数な部分が多いけど、多分、近接の方が得意なはずだ。
圭ちゃんは自分が早く動けるから、周りが遅く感じると自分のチカラを説明する時に言っていた。その理屈があかりちゃんにも当てはまるなら、音速の触手を操っていた彼女も、それを操るに足るだけの反射神経や体感時間を持ってる可能性がある。
そうなると、未知数な射撃戦はさておき、私の得意分野の近接戦ですら分が悪いかもしれない。
落とし穴、吊り下げを始めとした設置型のトラップはそこまで誘導できるかわからない。と、なると私に勝ち目を出せるのは、言動の端々にフェイントを仕掛けることでの心理的な罠くらい。
戦力差で言えばかなり大きい。病み上がりだからって油断しちゃいけない。演技力、動体視力、体感時間は圧倒的に向こうが上。体のリーチも同じくらい、身軽さも殆ど変わらない。
特に動体視力と体感時間が長い人の強みは私が誰よりもみてきた筈だ。そのチカラを使って無茶をする人が恋人なのだから。その強さを実際に向けられたことがない人の中では私が一番知ってる。対人戦では最強に近い能力。
あかりちゃんが病み上がりって部分を加味しても、要素だけで抜き出してしまうと、正面戦闘ではあっちが格上だよね。
さて、どうしよう。
「陽菜乃ちゃん、容赦ないね……!」
「よく言うよ、全部避けてるじゃん!」
手数は私が上。お互いにナイフを振って、突いて、攻撃するけど致命打にはならない。ゲームやアニメみたいに超速度の攻撃の応酬なんてできない。振り下ろされたら避けて、突いて、避けられて、今度は切り上げられて。そんな動作を一つ一つ熟す作業。それが音速に届かない私たちにできる最善の戦い。
動きを切らさず、振り下ろしたなら振り上げて、突いたなら、横に薙ぎ払って、動作が終わっても次に繋げる動きを考える。
あかりちゃんは、こっちの攻撃を持ち前の反射神経で避けてる。でも、私の攻撃を避けることに注力してるから、反撃はできない。必殺の隙を待っている。
私はあかりちゃんの反射神経で反撃されたら防ぐのが厳しいって分かってるから、その隙を与えないように攻撃し続けている。でも、その分で間違いなく消耗は激しい。
この調子でいえば、先にバテるのは私だ。
さて、どうしよう。本日2度目の自問。
ナイフで狙うのに効率がいいのは臍から上。だから、ナイフでの攻撃はそこから上に集中するし、避ける時もそこを重点的にカバーすればいい。それ故に、と言っていいのか、下半身の防御は甘い。足取りは軽やかだけど、半歩引いて半身の姿勢になりきれてない瞬間は多々あって、そう言う時は肩幅よりは少し狭いけど、足が開いてる。
いっそ思いっきり近づいて死神と烏間先生の戦いで圭ちゃんが言ってた、金的ならぬマン的でもする?間違いなく隙はできるし、咄嗟に内股になって防がれても、足を相手の股座に差し込めれば、私の重心もずれるけど、あかりちゃんの体幹も崩れる。ナイフで反撃される可能性もあるけど、それより早く押し倒せればマウントを取れる。
戦法としては悪くない……けど、そこまでしたら戦闘じゃなくて喧嘩だ。圭ちゃんのことだから、私とあかりちゃんが戦ってることは把握してるだろうし、どうやって勝ったの?と聞かれた時に「あかりちゃんのお股を蹴り上げて勝っちゃった!」なんて流石に言いたくない。
それに、私もあかりちゃんもお互いに思うところはあるわけで。内心、お互いにそれくらいの手段を取るくらいが心の平穏を保てるかもしれないけど、ちょっとね。それをやったら終わりな気がする。私かあかりちゃんが内股になってお股を押さえてぷるぷる震えながら倒れてる様子を圭ちゃんに見せたくないし、見られたくないし、自分がやった、やられたと思われたくない。というか、こんな考えをしてることもできれば知られたくない。
「参ったなぁ……!」
「なぁに?降参なら私は嬉しいけど……!?」
「あかりちゃんに勝つ方法、マン的くらいしか思い浮かばないや!」
「え、えっ?マン……!!!?」
私の言葉にあかりちゃんが明らかに動揺した。うん、たぶん、この流れでこんな単語が出てくると思ってなくて面食らっただろう。それに、実際にされた時の痛みを想像したのか、ちょっと内股になった。
そうだよね、絶対に痛いもん。ちょっと自転車で段差を降りた時に下から上に突き上げてくるようなガックン!って衝撃とは比較にならないだろうし。
けど、こういうのはやるやらないは関係なく、口に出すことが大切だ。口に出せば、少なくともこっちがそう言う思考をしてるのは相手に伝わるし、伝われば意識する。痛みを想像して、そうならないように攻撃が来そうな部分を守ろうとする。
ビッチ先生から教わったモテテクの応用。自分にその気はなくても、口に出すことで相手に意識させられる。それが重要。相手が自分を認識、意識してる時にそういう言動をとれば、言われたことを意識してそうするように、あるいはそうならないように行動しようとする心理が働く。
ここに自分の本音や本心が加わればなおよし。少なくとも演技くささが抜けて、言葉に凄みというか、重みが増す。日常会話でちょっと厳し目のツッコミを入れるように「死ね」というのと、感情を込めて「死ね」っていうの、どっちがショックかって言えば後者であるのと同じ理屈。
「ッ……」
あかりちゃんの姿勢が変わる。できるだけ肉薄して銃を抜かさないようにという攻め方から、下半身への攻撃を警戒して防御の為にリソースを回そうと思考が切り替わっている。
そうだ。こうなるだろう。これでいい。防御の精度が僅かに下がる。彼女が半歩下がるたび、追いかけるように足を前に出す。
言葉の罠とは相手を陥れるものではなく、僅かな言葉で相手を思うように操るもの。
私の想像以上にことがうまく運んでいることに思わずニヤリとしそうになると同時、脳裏に浮かぶ嫌な可能性。
本当に上手くいってるの?私以上の反射神経を持ってる人が相手なのに、私の肉薄がこんなに上手くいく?
「っ勘がいいね……!」
あかりちゃんが突然向かってきた。
距離を詰めようとしていた私は、自分に向かってくる攻撃に対して対処するのがやっとで、どうすればいいのかを咄嗟に考えるけど、それと同時に体が動いていた。迫ってくるナイフを持った右手での突き。彼女の右腕を掴んで、そのまま突進してくる勢いに私の力を加えてそのまま引き寄せる。
「これ?!!」
「烏間先生が使う防御テクだよっ!」
引き寄せる勢いで半歩引いて身を逸らし、空いている手であかりちゃんの背中を押して勢いをつけながら投げ飛ばす。
烏間先生の使っていた防御テク。より正確に言えば、烏間ファンクラブの集まりと称して付き合う前に圭ちゃんと話す口実を作っていた頃に教わった理屈。
当時の彼はクラスメイトとのナイフを使った模擬戦で烏間先生の動きを真似ることが多かった。シンプルに歳上の男性に向ける憧れという意味でも烏間先生にかっこいいなぁという視線を向けていたし、それはそれとして烏間先生がどういう理屈であんな動きをしているのか、できているのかが分からなかった私にとって、気になる男子が同じことをできるのは知りたい欲求ともっと話したい気持ちを満たすのにうってつけの口実だった。
桃花ちゃんには『なんか、好きな人に自分の推しの男性アイドルのこと話してるみたいでちょっとリアクションに困るかも』とあんまり共感はしてもらえなかったし、後からビッチ先生にモテテクを教わった時には軽く叱られたけど。
『いい?男ってのは割と簡単に劣等感を抱くの。聞いたことあるでしょ?職場で同僚の女の子が上司の男性を自分の前で褒めると、それだけでこの人はあの人に気があるんだ、自分には気なんてないだろう、って諦めると同時に、劣等感を抱くみたいな話し。ドラマとかでもあるあるよね?』
『女にもタイプがあるように、男にだってタイプがある。劣等感が闘争心に変わる奴と、劣等感で卑屈になる奴。乃咲は後者ね。幸というか、乃咲は烏間に憧れてるから劣等感とまではいかないだろうけど、『随分褒めるなぁ、そりゃそうか。烏間先生かっこいいし、倉橋さんもこういう人がタイプか』って勝手に評価された上、自分から上がってもない土俵に背中を向けるわよ』
まぁ、それはそれ。これはこれ。
結果として役立ってるんだから結果オーライ。
烏間先生の技が使える理由とそれに紐付いたエピソードを話しながら、体勢を整えよと地面を転がった反動を利用して立ち上がるあかりちゃんより早く銃を抜いて、そのまま向けた。
これで戦いという面では私が有利。やっぱり反射神経、動体視力が凄まじくて投げたのに、立ち上がるまでの動作が流れるように自然だった。攻撃が当たらないことを悟った段階からそういう思考に切り替えていたに違いない。
「へぇ……それで、ビッチ先生は乃咲を落とすのにどんなアドバイスをくれたの?」
立ち上がって姿勢を低く、私の視線、腕の先、そして射線を注意するあかりちゃんに答える。
『乃咲は扱いに気をつけなさい。アンタが烏間をただ見上げてるんじゃなくて、アイツと乃咲を同等に見て、比較してるってさりげなくアピールするの。烏間とアイツの差を話すんじゃなくて、烏間を褒めたら乃咲も褒めてやりなさい。そうすれば、アンタの意図にアイツが気付かなくても、烏間を色んな意味で意識して、越えようと努力するだろうから』
『憧れてる奴に差を教えるより、アンタにはこういういい部分があるって教えた方がやる気もでるでしょ。現実問題、乃咲がE組で実力面で抜きん出てるのは間違いないし、唯一、攻撃を1人で当てられてるんだがら、下手に差を話そうとしても、難癖にしかならないし、無駄に乃咲の自信を削るだけよ』
『いいこと?今話したように男にだってタイプがある、女にだって同じことが言える。それだけ違いがあるんだから、恋愛と一言でいっても、同じようにタイプがある。ある程度、価値観が成熟した奴らでやる自分にあった相手を探すのと、自分好みに相手を育てるタイプと、未成熟な奴同士でやるお互いを育てて、育てられるタイプ』
『アンタらは後者。本当に乃咲がいいなら、今のうちに自分好みに育てなさい。まだ未熟なうちに自分好みの下地を相手に気付かれないうちに作っておくの』
『私の見立てじゃ、乃咲は育てるのが難しいけど、育ったらとんでもないレベルで化けるわよ。地盤さえ固めてやればね。ある程度、形になって来た頃には、アンタ以外の女の目にも止まるようになるでしょう。そうなったら、今度はアンタが育つ番。自分好みに育った奴を取られないように女を磨きなさい』
『ん?乃咲をどう伸ばすか?そうね……、調子に乗ってる時は、否定せず、相手の調子に合わて適当に流すみたいに『そだねー』とか『キャー!圭ちゃんかっこいいー!』とでも言っておきなさいな。落ち込んでる時は褒める、悩んでる時は厳しいことを言う。しばらくは安定しないだろうけど、思春期なんてそんなもんでしょ。安定するまで続けてみなさい』
『まぁ、同じく思春期にやらせることじゃないけど』
「あー、それで陽菜乃ちゃんが育てた所に私や綾香ちゃんが引っかかっちゃったわけかぁ……」
「まぁね。前に言わなかったっけ。圭ちゃんがモテるのは女として見る目に狂いが無かったって思えるから嬉しいって」
「言われたような、言われてないような」
「そう?まあ、私としてはこういう気持ちだからって知ってくれればいいよ」
話しながら、あかりちゃんの手が銃に伸びてるのに気付いて手の辺りを撃つ。身体を撃たなかったのは大きく避けるチャンスをますます与えてその動作の中で銃を抜かれないようにするためだ。銃を抜けたのはアドバンテージだ、彼女が中のを見過ごして簡単に手放しちゃいけない。
「さっきのマン的って言葉に驚いて反射的に守ろうとする演技には騙されちゃったよ。演技じゃ勝てないね」
「マン的に驚いたのは本当だけどね……。全部演技だったわけじゃないよ、陽菜乃ちゃんがしてくる可能性は色んな意味で捨てきれなかったから警戒はしてた。絶対に痛いし、お股を押さえて悶絶してる所、見られたくないもん」
「乃咲にって言葉が抜けてるよ?」
「お互い様でしょ。あんまり下品なことも聞かれたくないし、乃咲にどうやって勝ったのか聞かれた時にマン的しました、とか言ってドン引きされたくないからやらないんだよね?」
私の考えてることが筒抜けなのかと思いたくなるくらい、あかりちゃんは私の内心を言い当てた。
そりゃそうだよ。彼氏に女子のドロドロした部分を知られたくないし。女子会だってたまにやったりするけど、そこで桃花ちゃんたちに話してる願望とか、圭ちゃんに知って欲しくないわけじゃないけど、赤裸々に語ってるところは聞かれたくない。
「ま、言う通りだね。折角なら『俺の彼女強かだなぁ!?』より『俺の彼女強いなぁー!』って思って欲しいから。だからそういうのはやらないよ」
「そっか、納得。じゃあ、そろそろ終わらせようか」
「へぇ。銃を抜いてる私とナイフしかないあかりちゃんじゃ戦力差があると思うけど」
「どうかなぁ……!」
あかりちゃんが自分の超体育着を掴む。
咄嗟に撃った私の弾丸は、まるで皮を剥くみたいに簡単に脱げたあかりちゃんの上着に防がれた。
「さっき倒れた時にファスナー下ろしておいたんだ。ボタンで止めてたの気付かなかったでしょ!」
なるほど、さっき地面を転がった時か。
早業だ。もともと芸能界にいた彼女のことだ。それもかなりの売れっ子だったわけだし、誰かから教わったり、自然に身につけたりで、早着替え的な技術を持っていてもおかしくない。
そのまま上着が私の視界を塞ぐように投げられる。もともと、距離としてはそんなに離れてはいない。それこそ、この局面で銃を抜いて、狙って、引き金を引くという3動作をするより、そのままナイフで刺しに来たほうが早くて確実なくらいの距離。
上着が脱げて、そのまま投げられるのは予想外だった。間違いなく意表を突かれたし、それは決定的な隙に見えると思う。
そんな状況でも、私は意外と冷静だった。
上着を投げる直前のあかりちゃんの姿勢は前傾姿勢。上着を投げると同時にスタートを切って、そのまま刺しに来る態勢だった。たぶん、この距離、この時間だと数歩で私に届く。
ナイフの投擲は多分ない。左手で上着を投げて、右手でナイフを投げるのは連続でやるには難しい動作だし、なにより姿勢的に無理。確実なのはやっぱり刺突か斬撃。
その上で動きがコンパクトで、スピードが活かしやすいのは刺突。そもそも、走りながら狙った場所に振り下ろすなんてアニメや漫画じゃないんだから無理。それこそ圭ちゃんや烏間先生みたいな例外を除いたら。
結論、あかりちゃんの攻撃は刺突。
今後の展開を弾き出した私の頭が次に取ったのは、手に持っていた銃で闇雲に反撃するという一手ではなく……持っていた銃を彼女がいる方向へ力無く突き出して、そのまま宙に置くように手を離すことだった。
「………えっ…………??!!」
動揺する声が聞こえた。
分かるよね、知ってるよね。あかりちゃんなら。
使い手が少ない割に、この教室で一番多く使われてる暗殺の必殺技で、復讐者としての茅野カエデを殺した技なんだから。知ってるよね、見たことがあるよね。
だから、警戒するよね。
この技の発動条件は3つ。
相手がある程度の手練れであること。
自分の武器が2つあること。
そして、相手が死ぬ恐怖を知ってること。
だったよね。圭ちゃん、ビッチ先生。
あかりちゃんは強い。私の一番得意なナイフでも分が悪くて、私の言葉の罠も演技で切り抜けて、逆に嵌められてしまった。下手に銃を抜くより、ナイフで突きに来たほうが確実だと判断できる実力もある。
私は武器を二つ持ってる。ナイフと今、手放した銃。
ねぇ、あかりちゃん。あなたは知ってるよね、殺される恐怖も死ぬかもしれない恐怖も。あの日、燃える触手を使っていた日にどちらも経験したんだから。だから、今、私が銃を離した時に警戒したよね、圭ちゃんと渚くんの言う、意識の波長ってやつがきっと昂ったよね。
——よかった、条件は揃ってる。
視界を遮っていた上着がゆっくりと落ちる。
徐々に広がる視界の奥で、強張った顔のあかりちゃんがいた。
目が合った、だからニコリと笑って。思いっきり、手のひら同士を目の前で打ち付けた。
「あっ……………!」
ふらついて、目の焦点が合わなくなった一瞬。
私は彼女の腕を掴み、距離を詰め、脚を後ろから払い除け、地面に向かって崩れ落ちる彼女の胸にナイフを突き立てた。
「私の勝ち。この技の発案者のロヴロさんの弟子のビッチ先生のそのまた弟子の私に使えない理由はないよね」
もっとも、圭ちゃんや渚くんみたいに相手を気絶させるような威力は出せないけど。あれはあの2人が異常なだけだし。
胸に赤いインクの染みを作ったあかりちゃんをゆっくり地面に降ろして、私は勝利宣言をした。
あとがき
はい、あとがきです。
次回からは渚vsカルマをお届けします。
圭一はまだしばらく放置プレイということで……。
個人的な都合で恐縮ですが、バトルロワイヤル編が終わったら、月に行く前に一回休載を挟みたいと思います。詳しくは近々活動報告を投稿させて頂きますので、そちらをご覧ください……!
今回もご愛読ありがとうございます!