「雪だーッ!!」
そう叫んだエリカは動物のように雪の中へ飛び出していった。
「・・・少尉・・・?」
マリアが、なんだあれは?と言った顔で呟く。ハンナもいきなりの出来事に呆然としている。
「エリカ、雪が好きなの。」
エマが恥ずかしげに言った。現在、エリカ達の部隊は鉄道に載せられ、次の任務地へ配送されている。が、日中は敵機の危険が付きまとうため、トンネルの中等で待機している。ハンナとマリアは、それが暇だったんだろうな、と考えていた。エリカは雪だるまを既に1つ作りあげていた。
「・・・なんじゃありゃ。」
そう言いながらやってきたのはシャルロッテだ。ファレーズでの戦闘で17ポンド砲の破片で負傷して、後送されていた。
「あ、曹長殿。」
マリアが言うと
「怪我、大丈夫ですか?」
とハンナが訊ねる。それを聞いたシャルロッテは服の裾をあげて、
「はらわたがぐちゃぐちゃになりかけてたって。よく生き残ったなってさ。」
と笑った。傷口は何針も縫ってあり、未だに痛々しい。
「あ!シャルロッテじゃーん!病院脱走したの?」
雪だるまを作って、雪で真っ白なまま戻ってきたエリカが言う。なんだかテンションが高いというか子供っぽいことに場の全員が困惑するが、
「いやいや、ちゃんと退院したんで。」
とシャルロッテが言う。
「まぁでも、東部戦線で大怪我したのに病院脱走しまくってるスツーカ乗りがいますから、やりそうですよね。」
マリアがそう言うと、シャルロッテは苦笑いして、
「だから、ベッドに縛りつけられてたよ。」
と言った。エリカの言っていたことは本当だったのか、と思うハンナとマリアだったが、エマは何となく分かっていた様子だった。
「よし!シャルロッテ!折角の再開だから、一緒に雪だるま作ろーよ!」
そう言ってエリカがシャルロッテの首根っこを掴む。
「え?ちょ、うわあああああああ!!??」
「突撃ーー!!!」
そう叫びながらエリカはシャルロッテを引き摺りながら再びトンネルの外に飛び出していった。
「・・・なんなんすかあれ?」
「・・・私も分からない。」
マリアがボソリと呟き、そのエマの答えに、ハンナが苦笑いした。
結局、陽が落ちて列車が出発する時間まで、引き摺られていったシャルロッテは帰ってこなかった。
「寒ぃーッ!!」
戦車のエンジンの唸り声の中に、マリアの声が響く。ここは雪が吹き荒ぶアルデンヌ。ドイツ軍が、最後の力を振り絞っての反撃を行うため、何両もの戦車が進撃の時を待っていた。
「何でこんなところに・・・」
「文句言わないの。ほら、もうすぐ前進できるから、頑張ろう。」
エマの叱咤にマリアは渋々といった様子で引き下がる。
「 せめて太陽の光を・・・。」
そうボヤいたのはシャルロッテだ。
「いやー、やっぱり冬はいいねぇ。ドイツ最高。」
相変わらずテンションが高いのは、丁度戻ってきた車長のエリカだ。
「何かムカつくわね・・・」
「ん?なんか言った?」
「何でもないよ。」
エマはため息をつくと、再び操縦席に座り直した。
「反撃の時間だよ。さあ、行こうか!」
エリカがそう言うと、先頭の中隊長車に乗る中隊長が進撃の合図を出し、吹雪の中をIV号戦車、パンター、擲弾兵の乗るハーフトラックが前進する。ドイツ機甲師団の最後かつ最大の攻勢が始まった。
「さて、ここが正念場だ!」
エリカは叫ぶと、砲塔のキューポラハッチから上半身を出し、双眼鏡を手に取った。そして、前方を睨む。
「距離120!機銃陣地!」
エリカが伝達すると、シャルロッテが復唱し、榴弾が飛ぶ。そして機銃陣地が吹き飛ぶ。その間にも敵弾は飛んでくる。しかしそれは装甲によって防がれている。
「装填完了!」
マリアが報告する。それを聞いてエリカは命令を出す。
「撃て!」
砲弾は木に命中し、炸裂。鋼鉄の破片と木製の破片を撒き散らし、破片を受けた敵歩兵が力なく倒れる。
シャルロッテが無言でガッツポーズをした。
「距離50!火点複数!」
「撃て!!」
シャルロッテが撃鉄を落とし、同軸機銃と榴弾で、ろくに対戦車火器を持ち合わせていない敵歩兵を蹂躙する。ハンナも機銃を撃ち、追い討ちをかける。
「敵は混乱している。このまま突き進むぞ。」
「了解!!」
悪天候のため、連合軍のヤーボは飛び立てず、更にドイツ軍はもはや死に体という連合軍上層部の思い込みも手伝い、ドイツ軍は次々と戦線を食い破り、1940年の西方電撃戦を再現すべく西進した。
そして、その時が来た。
「前進せよ!」
「進め進め!!」
攻勢初期に戦線を突破した部隊はまさにその言葉どおり、前進。粘っていた米軍も包囲されるか、撤退し、絶望的になると降伏した。
「まさかこんなに上手く行くとは思わなかった。」
シャルロッテが照準器から目を離さず言った。
「でも天候が良くなったら爆撃されて押し戻される。」
マリアがそう返事する。
「まぁ、ほら。ノルマンディーでも大丈夫だったんだからさ。」
「そうですよ。ファレーズでもなんとかなったんですから。」
エマとハンナの言葉に、エリカは
「確かにね。」
とだけ答えた。
「くそっ、くそっ、くそぉっ!!こんなところで死んでたまるかッ!!」
「Shit・・・!」
M4A1(76)Wに乗る米軍戦車長は、傍受した味方の無線を聞いて言う。
「奴らどこにこんな戦力を隠してやがったんだ?」
M4A3E8に乗る、ベリーショートの米軍戦車兵が、チューインガムを噛みながら言う。
「命令が来たわ。ここから北方でドイツ軍が戦線を突破してる。私達の任務は、それを南から突き破ることよ。敵の詳しい兵力は不明。確かなのは、これを止めたら勲章ものってことよ。」
するとそこへ、この部隊の指揮官である、ウェーブのかかった金髪戦車兵が答える。
「・・・北では仲間が助けを待ってるわ。48時間以内に出るわよ。」
「「Yes!ma’am!!」」
彼女らは、そう言いながらエンジンをかけた。
「え!?そのまま前進ですか!?」
「師団司令部は、ただ前進せよ。と言ってきているからね。」
「・・・了解です。」
先鋒を務める中隊は、米軍の大部隊の後方を襲う絶好の機会を得た。が、中隊は前進する。ただ前進した。包囲殲滅の、格好の機会を捨てて。
「中隊長殿、これじゃあ我々が孤立することになりますが・・・」
「仕方ない。命令だ。それに、我々の任務はなんだ?進撃だ。だったらここで進む機会を見逃すわけにはいかない。」
「・・・そうですね・・・。」
進撃自体は順調なので一応は了解を示すが、部隊内の誰もが、背中を撃たれるのでは、と考えていた。
「助かるぜ。歩くのは正直面倒くさいと思ってた。」
行軍中、FG42自動小銃を携えた降下猟兵たちをデサントさせて進むエリカたちに降下猟兵の1人が話しかける。
「戦車は何だって解決できるからねぇ。いいってことよ。」
戦車が頼りにされてエリカは嬉しそうだ。
「そういや、降下猟兵はもう空挺降下しないんすか?」
シャルロッテの問いに、少尉の階級章を付けたその降下猟兵は空を指さして言った。
「ああ、お空はもう奴らのものさ。こっちの方が安全だしな。」
「そりゃそうですな。」
そうこう話しているうちに、道路近くで、伏せたりしている降下猟兵を見つけた。そのうちの1人が、エリカたちの戦車に気付くと、手を振ってきた。
「おーい!援護してくれ!」
途端に道路の反対側から曳光弾が幾つも飛来する。
「お前ら行くぞ!」
デサントしていた降下猟兵が戦車から飛び降り、エリカたちも車内に引っ込む。
「敵の火点!撃ち返せ!」
エリカの指示で、ハンナとシャルロッテは車載機銃を道路の反対側に向かって乱射する。
その間に、降下猟兵が、敵陣地に肉薄し、手榴弾を投げ込んだ。
そして、その数秒後、激しい爆発音とともに、敵陣地が吹き飛んだ。
「突撃!目瞑って突っ込め!!」
それを合図に降下猟兵は雄叫びを上げながら陣地に飛び込み、掃討する。
「流石降下猟兵ですね。」
ハンナがそうつぶやくと、
「まぁ、文字通りの精鋭歩兵だし、この戦車に相手の注意を集中させたのもあるんじゃない?」
とエマが言う。シャルロッテは
「主砲・・・。」
と少し未練がましく言った。しかしマリアは、唐突に耳を澄ませ始めた。
「・・・何か聞こえます。」
「雄叫びとか銃声じゃなくて?」
シャルロッテがそう言うと、
「・・・!違います!M4ですッ!!」
とマリアが絶叫すると同時に、米軍火砲特有の発砲音と共にM4戦車
が姿を現した。
「砲塔12時!徹甲弾装填!」
その瞬間、M4が放った砲弾が着弾し、榴弾が炸裂する。その衝撃で、エリカたちは大きく揺れた。降下猟兵達もM4からの攻撃を避け、塹壕に飛び込む。
「装填完了しました!」
「撃てぇっ!」
徹甲弾が飛び、M4に命中する。そして、車体側面から煙を出しながら停止した。
「やられた!パンツァーがいるぞ!」
「何とか持ちこたえろ!徹甲弾装填!」
陣地の援護のために駆けつけてきていたM4は即座に対戦車戦の用意をすませる。が、エリカ達のほうが早かった。
「次が来るよ!砲塔1時。徹甲弾。」
「了解!砲塔1時。」
「装填完了!!」
「撃てッ!!!」
再び徹甲弾が放たれ、今度は2番目を進んでいたM4の砲塔側面に直撃した。
「2番車被弾!!クソッ!!あいつらっ!!」
「落ち着いて!このまま後退して、態勢を立て直すわ。」
「・・・了解。」
M4隊は、煙幕を撒くと、そのまま後退した。
「・・・行ったか・・・。」
シャルロッテが言うとエマが反応する。
「ええ・・・。」
「大丈夫か?」
エリカに聞かれ、各自返事をする。
「でも・・・これからどうしますか・・・?」
ハンナの質問に、エリカは即答した。
「進むよ。」
「ですよね・・・。」
こうして、また降下猟兵をデサントさせ、エリカたちのIV号戦車は進んだ。
このころ、進撃するドイツ軍の中央部を担当する第5装甲軍等は、北の第12SS装甲師団などの武装SS部隊よりも快進撃を見せていた。
しかし、それらのみならず、攻勢自体にも暗雲が立ち込めてきていた・・・。
バルジ大作戦のあの『戦車兵の唄』のシーン再現しようと思いましたが、それはまた今度にしたいと思います。(入れられるとは言ってない。)
ちなみにエリカ少尉の雪好きは何となくで入れました。それぞれに個性を出さねば(使命感)。