ー1944年6月6日ー
ノルマンディー地方特有の生垣の横に、IV号戦車の小隊と、乗員達が身を休めていた。彼らは近く行われるであろう連合軍の上陸に対応する為にここに集っていた。
「ブリトンたち、ほんとにくるのかな?」
装填手のマリア一等兵が呟く。最近の彼女らは平和そのものだったからだ。
「どうせすぐ来るよ。」
砲塔に座っていた砲手、シャルロッテ曹長が丸メガネを拭きながら応える。
「このままIV号戦車とのんびりしてるのも良いけどねぇ。」
操縦手のエマ上等兵が車体ハッチの上に寝そべる。通信手ハッチも塞いでしまうが、通信手は補充されていないので問題ない。
すると彼女らと小隊を纏める車長、エリカ少尉がやって来た。
「まぁ、そう言わずに待とう。来たらすぐに出迎えられるように。」
「あぁ、そうだ。補充の通信手は?その後ろの人?」
エマが尋ねると、エリカは頷き、後ろにいた新兵を前に出させた。
「あ、あの、ハンナ二等兵です。よろしくお願いします。」
ハンナ二等兵はまだ幼さが残る金髪碧眼の少女だった。
「こちらこそ、よろしくね!」
マリアは後輩が嬉しいのか真っ先に反応を示した。
「へぇ、よろしく。」
シャルロッテが丸メガネを押し上げた。
「あ、ありがとうございます!」
「ハンナちゃんかー、じゃあハンナちゃんだね。私はエマだよ。」
「私はシャルロッテ。よろしくね。」
「わ、わたしはマリアです!よろしくおねがいね!」
三人が自己紹介を始めると、ハンナは嬉しそうに微笑んだ。
「ふふ、みんな良い人達ですね。」
ハンナの言葉に三人とも照れたように笑う。
その時、無線機から声が聞こえた。
『敵襲!!敵襲!!至急戦車の支援を要請する!!』
「来たぞ!!」
小隊全員に緊張が走る。
『敵は空挺兵多数!コマンド共だ!』
「全車戦闘準備!!」
エリカが叫ぶと同時に、全員が行動に移る。
「各員、乗車完了しました!」
「よし、行くぞ!!」
IV号戦車が動き出す。
「戦車前進!!」
彼女らにとっても、1番長い日が始まろうとしていた。
「あれが噂の……!」
連合軍空挺部隊の兵士の一人が双眼鏡越しに、ドイツ軍の機甲部隊を発見した。ドイツ軍の装甲兵力は、連合軍にとってまさに悪夢だった。彼らはドイツ領内深くまで侵入しており、もはや退路はないに等しい状況にあったのだ。そして何より、彼らにとっては目の前にいる戦車こそが恐怖の対象であった。
「fuck!戦車だぞ!」
同僚の兵士に声をかけられ、彼は双眼鏡を手に取る。
「あぁ、クソっ!おい誰かPIAT持ってこい!」
「私やるよ!」
「いや、ここはあたしがやる!」
「お前らはいいから早くしろっ!!」
彼らが慌ただしく動く中、ドイツ軍部隊は進撃を続けていた。
「なんだか騒がしいね……。」
「そうですね……」
IV号戦車の中で、車内通話装置を通して二人の少女の声が聞こえる。装填手のマリアと通信手を務めるハンナである。彼女達は狭い空間で息苦しそうにしながら会話をしていた。
「どうしたもんかねー。」
「うぅ、なんかちょっと怖いです……」
「大丈夫だよハンナちゃん。いざとなったら私が守るからね。」
「あ、ありがとうございます……!」
二人がそんなやり取りをしているうちに、
「いや、マリアは装填手なのにどうするってのさ?」
とエマがツッコミを入れた。
「別に良いじゃないですか。・・・その為の拳?」
「でも、確かにこの狭さだと厳しいかも。」
ハンナが言うと、マリアはむっと頬を膨らませた。
「えー!?ハンナちゃんまでそんなこと言うの〜?」
「ごめんなさい、そういう意味じゃなくて・・・!」
ハンナが慌てて否定すると、マリアが笑いながら言った。
「冗談だってば。でも、実際そうなった時の為に、覚悟決めておいてね。」
「よし、ちょうどお話が終わったところで、奴さんをおもてなしするぞ。小隊各車、撃て!」
途端、エリカ少尉麾下の4両のIV号戦車は主砲と機銃を闊達に撃ち始めた。
砲弾が敵の歩兵部隊のど真ん中に着弾し、爆発が巻き起こる。榴弾が炸裂して吹き飛ばされた兵士が宙を舞う。
「ひゃあ、すげぇ・・・!」
エマが感嘆の声をあげる。
「当たった。ハハハハ!」
シャルロッテが照準器を覗きながら言う。
彼女の父は元々砲兵科の将校であり、彼女自身も北アフリカで磨いた射撃の腕は確かだった。
「・・・」
しかし舞い上がった兵士の残骸を見たハンナは息を呑んだ。あれが今まで生きてた人間なのか?と。
「大丈夫、慣れれば平気になるさ。」
エリカのその言葉を聞いたハンナはぎゅっと目を瞑り、心を落ち着けようとする。
するとIV号戦車の砲弾や機銃弾に混じって、何か飛翔体が飛んでくるようになった。
「PIATだ!シャルロッテ、今から言う辺りに榴弾を撃ち込め!」
エリカの指示に、シャルロッテが返事をする。
「小隊各車、PIATの返礼が来るから榴弾でつっ返すよ!」
「了解!」
「わかりあした!」
「アイ!」
3両の小隊各車長も返事をし、PIATを持った歩兵を探す。
「ちぃ!流石に当たらないか!」
未だ遠いのもあってIV号戦車は回避運動を行う。それを見た連合軍の兵士の一人が舌打ちをした。
「もっと引きつける。合図するまで堪えてPIAT兵は隠れてろ。」
「無理だ!75mm砲でふっ飛ばされちまう!」
「あぁくそ、わかった。おい、そこの3人!余ってる対戦車火器を持ってついてこい!」
兵士は仲間を数人連れて、陣地を離れた。
「ほらほらー、美味そうなIV号戦車がいますよー?」
エリカがキューポラから外を見ながら言うが、なかなか敵の対戦車兵が出てこない。
「美味そうって・・・。」
ハンナが困惑しているのも気にせず
「砲塔1時、距離300。榴弾装填。」
と指示を出していく。
「照準よし!いつでもどうぞ!」
「撃て!!」
ドォン!という音と共に、榴弾が発射される。放物線を描きながら飛ぶ榴弾は、見事に敵兵がいる地点に着弾した。
「ぐあぁっ!」
「畜生!まだだ!」
何人かの兵士が叫び声を上げながらも反撃してくる。だが、IV号戦車にダメージを与えるには至らない。
「よし、次いくよー。」
と、次の攻撃目標を定めようとしたその時だった。
「!?10時に敵兵ッ!!!」
エマが叫ぶ。
「チィッ!車体、砲塔回せ!弾種榴弾!!」
エリカが咄嵯の判断はエマもシャルロッテも予想していたようでIV号戦車がぐわんと旋回する。ハンナの目に、収束手榴弾を構える兵士が映る。
「間に合え・・・!!」
ハンナは咄嗟に目の前のMG34の引き金を引いた。
「・・・ハンナ、良い判断だよ。」
シャルロッテの言葉で目を開けたハンナは、機関銃で撃ち抜いた敵兵が倒れているのを見つけた。
「・・・え、あ、ありがとうございます。」
ハンナは一瞬呆然として、とうとう自分も命を手にかけてしまった。という罪悪感と、生き残ったことの安堵と、複雑な気持ちを抱いた。
「気にしないの。ハンナちゃん。」
エリカはそんな彼女を慰めるように言った。
「私達は軍人だからね、戦わなきゃいけないんだ。そうしなければ殺されてしまう。」
ハンナはその言葉を聞いて少し落ち着いたのか、再び照準器を覗き込んだ。
「・・・はい!」
そして、先ほどと同じように近付いてきた歩兵に向かって機銃を撃ちかける。今度は隠れられてしまうも、
「シャルロッテ!」
「発砲!」
今度は75mmの榴弾が残った敵兵を吹き飛ばす。
「奴ら対戦車装備で固めてたぞ。よくやった。」
エリカが言うと、
「小隊長!敵兵が後退していきます。」
と2号車が報告してきた。
「追撃するから全車突っ込んで、ケリを付ける。」
途端、無線機から声が響く。
「少尉殿、中隊本部から、・・・カーンへ集結せよ。と。」
ハンナが報告するとエリカはため息をつきながら言った。
「わかった。各車、撤退していく敵を深追いしないように。」
「了解しました。」
IV号戦車はその場で最後に1発ずつ榴弾を発射すると、エリカはIV号戦車の後ろについていた歩兵に
「集結命令が来た。悪いけど下がらせてもらうよ。」
と言うと、歩兵は少し残念そうな顔をしたが、
「まぁ聞いた話じゃ、海岸にも敵が来てるようだしな。・・・了解、支援感謝する。よしよく聞け!今度こそ我々でここを守り通すぞ!」
そう言うと歩兵達は塹壕へ戻っていく。その後、エリカ達のIV号戦車小隊も、カーンへ向けて移動を始めた。
「・・・カーンまで戻ってきたのに、まだ反撃しないのか?」
シャルロッテが言うように、カーンに戻り、補給を済ませたエリカ達は未だに待機を命じられていた。
「さっきまで師団長がサン・ローでパーティと洒落こんでたんだって。他の装甲師団も動けていないらしいし。」
ハンナと共に無線を聞いていたエマが言うと、
「はぁ、天候が悪かったとはいえ、うちらの師団はどんだけ呑気なんだか。」
とマリアは呆れた。
「まぁ、いいじゃないですか!今はこうして無事待機してるんですから!」
そう言うと、通信手席のハンナは地図を広げた。
「それにしても、まさか大西洋の壁のある海からの上陸とは。・・・考えもしませんでしたねぇ。」
ハンナはしみじみと言った。
「ん?もしかして大西洋の壁がちゃんとしたものがあるとでも?」
エリカが言うと、ハンナは驚きの目で海岸の方を見た。彼女を初め、多くの新米のドイツ兵は知らなかったが実際には大西洋の壁と呼ばれた要塞線はほとんど完成していないお粗末なものだったのだ。
「えぇ!?無いんですかあれ!!」
「うん、ないよ。」
ハンナの問いに、あっさり答えるエリカ。
「そもそも今ドイツは東でも戦ってるからこっちに回される資材が限られる。ま、何もないよりはマシってところかな?」
「そ、そりゃそうですけど・・・。」
ハンナは困った顔をしながら言った。
「大丈夫だよ、壁はなくても壁はあるからね。」
「はいぃ!?」
またもやわけのわからないことを言うエリカにハンナは困惑した。
「ほら、見てみなよ。」
とエリカはシャルロッテの胸を触った。
「ひゃっ!?」
「ほら、絶壁。ハッハッハッハー。」
エリカは笑うが、場はしーんとした。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・コロス」
無言の圧力が場を支配する中、シャルロッテがボソッと呟き、ホルスターに手を伸ばす。
「ごめんなさい許してくださいお願いします。」
即座に早口で謝るエリカ。
「じゃあ北アフリカ戦線からのよしみということで1億万マルクで手をうちましょう。ローンも可です。」
シャルロッテはそういった直後、
「・・・今ライヒスマルクだ。アハハハハハ!」
と笑い、エリカやエマも笑い始めた。
「あれ・・・なんか意外と変な人達かも・・・?」
疑問を呈するハンナ。
「じきに慣れるよ。」
とマリアに言われる。
「あ、もうすぐ作戦開始時刻ですって。」
ハンナが無線からの情報を言うと、皆が静まり返った。
「そうか。私達も行くとするかね。」
「はい!」
エリカの言葉で全員戦車に乗り込むと、IV号戦車の群れは海岸へと向かって隊列を組んだ。
ハンナ殿はFury号のノーマン君みたいにしても良かったかなと思ったんですがめんどくさいので鋼の(心の)女にしました。
詰まったところをAiのべりすとに支援してもらいながら書いたのでたまに変なことになってるかもしれませんが読者大将殿お許しください。
ガルパン要素・・・
-
少ない。もっと絡めるべきだ。
-
無いが、そのままでも良い。
-
著者のおまかせで。