「各車、敵は近いはず。気をつけて。」
エリカがそう促す。
「了解。」
と2号車が返事をすると同時に、前方のボカージュから発砲炎が見えた。
「来たぞ!全車散開!」
その言葉とともに、IV号戦車達は一斉にバラバラに動き出した。
「各車、戦闘用意!」
エリカはそう叫ぶと、双眼鏡を覗く。
「Pakだ!榴弾装填、砲塔1時。」
草むらに隠蔽されている6ポンド対戦車砲は防楯の大きさが見えない為、エリカ達は距離を判定できずにいた。
「撃て!」
エリカの指示で榴弾が発射され、同時に車体を左へ滑らせる。それのお陰で直撃コースだった敵の砲弾は地面に突き刺さるに終わった。
直後にこちらの砲弾が着弾する。
「クソッ、外れた!仰角0.5上げ。」
とエリカが悔しそうにしていると、無線で連絡が入る。
「こちら3号車、11時方向距離800に敵戦車をかくに!きゃああああ!!!」
砲弾が突き刺さった3号車が火を吹きながら明後日の方向へ曲がる。車体の操縦手は即死してしまったのだろう。
「ぎゃああああ!!!熱い!!!熱いよぉぉぉぉ!!!!」
絶叫と共に砲塔から燃え盛る乗員が転がり出てくる。随伴していた歩兵が駆け寄るも、もう手遅れの様だった。ハンナは悲痛な叫びに、ただ耳を塞ぐしかできなかった。
「クソッ!やられた!奴らの砲撃が正確すぎる、もっと距離を詰めるんだ!」
とエリカが指示を出すと、
「り、了解」
という声と共に小隊は前進し始めた。
「小隊各車へ、3号車の仇討ちだ。距離200、弾種煙幕弾。目を潰したる。」
「照準よし。」
「装填良し!」
「撃て!」
放たれた煙幕弾は煙を上げながら飛んでいき、少しして炸裂した。
「うわっ!?」
「なんだこれ、前が見えない!!」
対戦車砲兵達が混乱している間に、エリカは小隊に
「各車一気に距離を詰める!」
と前進を命令した。
「煙幕!?突っ切りますわよ!」
アメリカからのレンドリース品のM10GMCを駆る英軍兵士は撃ち込まれた煙幕を避けるため迂回し始めた。側面装甲は薄く、砲塔旋回速度も遅いが、IV号戦車程度なら一撃で粉砕できる火力を活かすためだ。
「あいつら、バカか?こっちには煙幕があるのによ。」
とドイツ兵が嘲笑すると、別のドイツ軍兵士が言った。
「いや、あの車両は確か・・・。」
「ん?」
「あぁくそ、敵戦車だ!」
ドイツ軍の兵士たちはオープントップのM10に手榴弾を投げ込もうとするが、なかなか上手くいかない。
「なんでこんなに接近されてるの!?」
ハンナは焦りの声を上げる。
「落ち着いて、まだやられちゃいないよ。」
とマリアが落ち着けるように言う。
「そうですけど・・・」
「大丈夫。その前に粉微塵にしてあげる。」
シャルロッテはそう言うと同軸機銃を撃ち、ドイツ軍歩兵を銃撃していたM10の車長を制圧した。
「弾種徹甲弾!距離至近!撃て!!」
エリカの命令によって発射された砲弾は吸い込まれるように命中、M10を炎上させた。
「やった・・・のか?」
撃破を確認する間もなく次の目標に狙いを定める。
「次はあそこ、あの茂みに隠れてるやつ!」
とエリカは指示を出し、榴弾を放った。
「うおおお!」
「助けてくれぇ!」
と叫びながら出てきた敵兵を射撃しつつ、更に前進させる。
「今のうちだ、突っ込め!」
煙幕が晴れてきて発砲炎がはっきり見えるようになると、IV号戦車は英軍の対戦車砲の目の前にいた。
「うわ!退避!退避ー!」
「そのまま踏み潰せ!」
兵士が逃げ出して無人になった6ポンド対戦車砲を踏み潰す。
「各個自由射撃!シャルロッテ、3時方向の敵対戦車砲を!」
エリカは次々と指示を出すと、2両目の6ポンド対戦車砲を撃破した。
「隊長!7時方向から砲撃!今度はM4です!」
「チィ!また面倒な奴が来たね!全車、散開!徹甲弾装填、砲塔1時!」
とエリカが指示を出
し、シャルロッテが砲塔を指向する。
「装填完了!」
「撃て!」
放たれた砲弾は真っ直ぐ飛び、M4シャーマンの正面装甲に命中し、内部の弾薬庫を巻き込んで炸裂した。
「撃破だ!次、3時方向のM10!」
とエリカは叫ぶが、その前に敵弾が飛来する。
「危ない!!」
咄嵯の判断で車体を左へ回し回避するも、車体に砲弾が着弾した。
「クソッ!頭が回らない!砲塔旋回装置破損!」
シャルロッテが悪態をつく。エリカが舌打ちをすると、更に凶報が来た。
「こちら2号車!敵の増援gグギャ!」
「こちら4号車、敵の増援です。2号車が吹っ飛びました!」
と無線が入ってくる。2号車は弾薬庫の誘爆で一瞬にして全滅したようだ。
「クソッ!撤退だ!撤退!全速で離脱しろ!」
エリカがそう指示すると、2両に減ったIV号戦車はありったけの発煙弾で煙幕を張った。
「乗れ!撤退するぞ!」
周囲に残っていた歩兵もかき集めてエリカ達はその場を後にした。
「こちらグローリア3。ドイツ軍が逃げていきます、追撃しますか?」
「いえ、既に彼女らも私たちもかなり血を流したわ。今の追撃は危ないのでは無くて?」
増援としてやって来たチャーチル戦車の戦車長はそう言って紅茶をあおった。この時、エリカ達の所属する師団は海岸への突破を目指すものの失敗。一方的に戦車20両近くを失い後退した。
「こちら4号車。車体の損傷自体は戦闘に支障はありませんが、乗員全員大なり小なり負傷しています。」
「了解。せっかく生き残ったんだから、ヤバくなったら言いなさい。」
エリカはそう最後の僚車に言った。
「隊長、これからどうするんですか?」
とハンナが聞くと、
「とりあえず、近くの町に行くよ。そこで修理と情報の整理。それから本隊に合流するわ。」
エリカはそう答えた。
「それにしても、あの煙幕は効果大だったね。」
とマリアが言うと、
「歩兵達も発煙手榴弾で追い煙幕してくれて助かった。」
とシャルロッテも続けた。
「俺らも拾って貰えて助かった。あのままじゃミンチにされるとこだった。」
デサントさせた味方歩兵も言った。「まぁ、何にせよ生き残れてよかったですね・・・」
ハンナは安堵の声を出した。
エリカ達一行は近くの村落にたどり着き、小休止を取ることにした。無線によると、どうやら他の隊も強力な英軍に当たって一方的に大損害を受けて、師団は混乱している様だ。
IV号戦車に草木を被せて偽装して、一行はようやく一息ついた。
「しかし、本当に酷い目にあったな・・・。まさかこんなところでイギリス軍にぶち当たるとは思わなかったぜ。」
とデサントさせていた歩兵の一人が愚痴る。
「師団の他部隊が負けたのも納得ね・・・。あれだけの戦車に、対戦車砲まで持ってたらそりゃ勝てない・・・。」
とエマが言うと、皆同意するようにため息を吐いた。
「ま、とりあえず今日は生き延びた。それだけよ。」
エリカはそう言って、ワインを取り出して掲げた。どうやら村落で買ってきた様だ。
「皆で飲もう。」
そう言ったエリカに、
「1人分は?」
とハンナが聞いた。
「あんたのぶんは無いよ。だって未成年でしょ?」
とエリカが返すと、
「ひどい!私はちゃんと成人ですッ!」
とハンナが叫んだ。
「冗談だよ。ほら、これでも飲みな。」
そう言ってエリカは自分のグラスを渡した。
「隊長優しい・・・」
とハンナが呟くと、エリカはニヤリと笑って、
「何か文句あるかい?ん?」
と返した。
「いえ!何も無いです!」
とハンナは慌てて首を横に振った。
「まぁ、私も今日はちょっとキツかったかなと思ってたんだよ。」
「そうですね。」
とハンナはうなづいた。
「2号車のマルタ達も、3号車のイルゼ達も良い奴だったよ。・・・それより、この村で情報収集しよう。明日からどうするか考えないと。」
エリカはそう言って、話題を変えた。
「そうですね。無線で何か情報あるか探してみます。」
とハンナが無線を手に取った。
「いや、待ってくれ。無線は使わない方が良いかもしれない。」
とデサントしていた歩兵の一人が言う。
「どうしてですか?」
とハンナが尋ねると、
「傍受される可能性があるからさ。ここはフランス領内だからね。何なら敵軍も近くにいるからな。」
と言った。
「なるほど。確かにその可能性はありますね。」
とハンナは無線を戻した。
「とりあえず、今晩はこの村に泊まって明日の早朝、カーンに出発だ。」
エリカが指示すると、全員が了承した。
ちなみに所属の装甲師団にはモデルがあります。ノルマンディー上陸作戦当日に反攻、北アフリカで一時壊滅・・・
ガルパン要素・・・
-
少ない。もっと絡めるべきだ。
-
無いが、そのままでも良い。
-
著者のおまかせで。