「撃て!」
放たれた榴弾は、通りの向こうを右折してきた敵の歩兵集団を文字通り消し炭にした。
「敵歩兵は後退!助かったぜお嬢さん方!」
MP40を持っていた分隊長と思しき歩兵が礼を述べる。
「これは貸しにしとくよ。」
とエリカは言うと、無線からまた声が聞こえる。
「こちら第3小隊!攻撃されてる!直ちに戦車の支援が必要だ!」
声の後から銃声や砲撃の音が聞こえる。
ハンナはエリカに取り次ぐ。
「了解、Kameradin!今向かう。」
そうエリカは返すと、先の反攻時に唯一残った4号車に
「よし、第3小隊の救援要請だ。敵の配置は不明。エミリア、左折して向かう。前進!」
と指示する。
「了解、小隊長。」
「エヴァ、私たちが戻るまで、第1小隊とここを守って。」
「りょ、了解ですっ!」
補充された新2号車は頼りなさげな返事を返すが、ここにいる第1小隊は4号車と同じく共に生き残った歴戦の兵士だ。きっと彼女らを援護してくれるはずだ。
「行くぞ!Panzer vor!」
エリカがそう言うと、
「まだ戦闘ですか!?」
とマリアが疲れを隠さずに叫ぶ。確かに、ずっと75mm砲弾と同軸機銃の装填をしてきたのだ。
「ハハハ。仲間を助けに行くのさ。」
とエリカは言った後で、こう付け加えた。
「それに、私たちは戦車兵でしょ?」
エリカ達一行は第3小隊の元へ廃墟と化した市街地を進んだ。途中、幾度か銃撃を受けるが、どれも小口径の豆鉄砲で、戦車を傷付けるほどの威力は無かった。
「敵戦車は見えませんね・・・」
とハンナが言うと、
「そりゃこの視界だもの。多分、あっちも苦労してるわ。」
とエマが返す。ハンナは車体の機銃で、無謀にもこのIV号戦車に小火器で立ち向かってきた敵兵にMG34の弾幕を見舞う。
「そういやさハンナちゃん、戦場に慣れるの早くない?」
とシャルロッテが照準器から目を放さずに言った。
「え、そんな事無いですよ。」
とハンナは答えたが、事実であった。彼女はつい2週間程前までは新兵だったのだが、今の彼女からはそのような雰囲気は全く感じられない。
「まぁ、それだけ死線をくぐり抜けてきたってことだろうね。」
とエリカが言った。
「そうですね・・・」
ハンナは少し複雑な表情を浮かべながら答える。
「今思えば、着任当日に連合軍が上陸して、2回も戦って、初めて人撃って、そして僚車の死を見るってなかなかハードスケジュールですよね・・・。」
とマリアが言った。
「そうですねぇ、私もあの頃は、度々嘔吐したり、眠れなかったりしたんですよ。」
とハンナは思い出す様に話す。
「でも、慣れていく。どんな状況も。最初は怖くて仕方無かったけど、今はそうでもないです。」
とハンナは続けた。
「ハンナ、良い顔するようになったじゃない。」
とエマが言うと、
「いやぁ、それほどでも・・・」
とハンナは照れる。
「いや、褒めてないからね?」
とエマは呆れながらも笑った。
「もうすぐ第3小隊の所へ着きますよ!」
と4号車が言った。
「お、あそこの廃墟突っ切れば短縮できる。エミリア!突っ込むよ!」
とエリカは言った。
「敵がいないといいんですが・・・」
とマリアが心配そうな声を出す。
「大丈夫よ、あの辺りにはもう敵はいないはず。」
とエリカは返した。
しかし、4号車からの報告でそれが変わる。
「Scheiße!(くそ!)9時方向にM4!車体、砲塔回して!」
4号車の車内無線で敵戦車の存在を知る。位置関係で考えれば、こちらからM4が狙えない以上、4号車は側面に攻撃を受けて爆散するだろう。と推察したハンナは、その自らの薄情ぶりに気付き、罪悪感を覚えた。「撃てぇ!」
4号車から聞こえた声は震えていた。
「命中!」
「よし!次弾装填急げ!」
「間に合うか!?」
ハンナの予想とは違って、あちら側にとっても不意遭遇だったようで、先手を取られたM4シャーマンは煙を吐きつつ発砲するが、その砲弾を弾いた4号車の砲弾が命中した次の瞬間、爆発炎上し、残骸へと姿を変えた。
「やったぜ!」
と4号車の乗員が叫んだ。が、直後追いついたエリカは、
「エミリア!まだ敵戦車がいる!」
と、撃破したM4の他にもう1両いることを知らせた。
「嘘でしょ!?」
と4号車の乗員が驚く。その時、建物の裏を迂回してきたと見られるM4が現れた。
「砲塔1時!4号車の背面の盾になる!」
というエリカの指示で、エリカ達のIV号戦車が車体を斜め、通称昼飯の角度にして射線に割り込み、M4の砲弾を弾いた。
「助かりました!」
と4号車から無線が入る。
「発砲!!」
直後シャルロッテが徹甲弾を至近距離からM4の正面装甲に撃ち込んだ。
「撃破!撃破!!」
エリカはそう言うと、付近に敵戦車がいないことを確認して再び進み始めた。
「こちら第3小隊!援護はまだか!」
「今右翼の敵勢力を排除してる。状況は?」
エリカが無線で会話するも、一瞬相手の反応が途絶える。がしかしすぐに
「戦車だ!戦車と交戦中!砲塔が箱みたいな奴だ!」
と返ってきた。
「了解した!そいつのことはよく分からんが、もう少しでそっちの敵の側面に出る!もう少しだけ耐えて!」
「わかった!野郎ども!良いとこみせてやろうぜ!」
第3小隊と話しながら、エリカ達は第3小隊が交戦中の場所まで向かった。すると、前方に2両のM4戦車が見えた。第3小隊への攻撃に気を取られて、側面を晒している。
「弾種徹甲弾!撃て!!」
「発射!」
エリカのIV号戦車と4号車の75mm砲弾はM4の側面を易易と食い破った。
「こちら第3小隊!敵戦車2両の撃破を確認!あと火を吐いてるドラゴン奴が1両いる。頼めるか!?」
「マリア、砲弾の残数は?」
エリカに尋ねられたマリアは砲弾ラックを確認する。
「徹甲弾2発、榴弾3発、あと発煙弾が1発です。」
その答えを聞いてエリカは
「よし!引き受けた!弾薬と燃料があれば戦車はすべて解決できる!」
と返答した。
「はい!?」
反応したのはハンナだ。戦車を撃破するには徹甲弾が必要だが、2発では到底敵わないと思ったからだ。
しかし、そんなハンナを無視してエリカは指示を出す。
「エマ、M4がいたところを左折して。シャルロッテ、砲塔9時。」
「あいよ。」
「砲塔9時、了解!」
エマもシャルロッテも特に言わずに指示に従う。
「でも一旦戻って補給を・・・」
言いかけたところでエリカが
「うるせえIV号戦車ぶつけんぞ。」
言った。
「うぇ・・・」
ハンナは黙り込むしかなかった。エリカはそれを見てバツが悪そうに、
「・・・やっぱりさ、戦ってる仲間を置いてけないよ。」
と続けた。ハンナはそれを聞いて、はっとした。仲間を助ける。どうして前までは当たり前だったことを私はもう忘れていたのか、と。
「すまん。言い方も悪かったよ。ちょっと焦ってた。」
エリカが頭を掻きながら言う。
「装填よし!」
「そうですね。覚悟決めました!」
ハンナはそう言って笑った。
「照準良し!」
そして先程のM4と同じく第3小隊に気を取られている敵戦車の背面に、必中の間合いから徹甲弾が放たれた。
「ん?こいつなんか荷車引いてるよ?」
エマの発言通り、敵戦車の後ろに荷車のようなものがくっついており、そこに命中した徹甲弾は、その荷車を巨大な火柱に変えた。
「な、なんだ!?チャーチルの奴、ケツに火がついたか!?」
シャルロッテが焦ったように言うと、敵戦車が回頭してきた。その車体正面からは火炎放射器が放たれていた。
「なるほど、火炎放射器戦車かぁ。次弾装填。決めてシャルロッテ。」
感心したようにエリカが言うと、
「もちろん!」
とシャルロッテが返事をする。
「装填良し!」
「撃て!!」
シャルロッテの放った徹甲弾が火炎放射器戦車の側面装甲を貫いた。
「うわ!燃えてます!」
「マジですの!?消火しますわよ!」
「いやここは脱出・・・!!?」
敵戦車を撃破した後、火炎放射器の燃料が誘爆したのか、敵戦車は爆炎に包まれた。同時に車内から炎に焼かれて火だるまの状態敵の戦車兵が飛び出してきた。
「ぎゃあああ!!!!」
「ひいい!!」
「早く!!誰か助けてぇ!!」
「熱いよぉ!痛いよぉ!!死んでしまうよおおぉぉ!」
「水!水をぉぉ!」
そんな叫び声を聞きながら、エリカ達はその場を去ろうとした。
・・・が、ハンナはMG34の引き金を引いて、未だ火だるまでのたうち回る敵戦車兵を撃った。
「ハンナ・・・」
「・・・すみません。でも、戦車に乗っていた兵士は、きっとこんな風に苦しんで死ぬんだとわかったんです。だけど、私は同じ戦車兵として、彼女らを苦しませないでおきたいんです。」
そう言うと、ハンナは震える手でなおも銃を撃ち続ける。敵味方の死には慣れた。しかし、いつか生きて焼かれるのかもしれないと考えると、ハンナは震えが止まらなかった。
「ハンナ・・・ホントに大丈夫か?」
エリカが呟くと、
「私は大丈夫です。行きましょう少尉。今はただ前を向いて進むだけです。」
ハンナがそう言った。
「・・・そうだね。行きましょう。」
マリアの言葉で、エリカ達はまた進み始めた。
こうして第3小隊と合流したエリカ達は、第3小隊の面々から歓喜の声で迎えられた。
「戦車だ!」
「天使の降臨だ!」
「ちくしょう!助かったぞKamerad(戦友)!」
湧き上がる歩兵達に、エリカがキューポラから身体を乗り出し、
「待たせたな!戦車様のお通りだ!!ハハハー!」
と拳を突き上げてみせた。シャルロッテやエマも口角が上がっている。
「あ、危ない!」
エリカを狙ってか、キューポラ辺りに何発か敵の小火器の弾が当たる。マリアはエリカを車内に引き戻そうとしている。
ハンナも、ペリスコープ越しに見える歩兵の喜びぶりに、少し得意になった。
しかし流石に徹甲弾が尽きた為、その後1度補給に帰ることにした。
「じゃあ私はここで失礼するよ。また会おう。」
「あぁ!助かったぜ!今度1杯奢らせてくれ。」
「いや、お易い御用さ。ふふふ。」
第3小隊と別れたエリカ達は補給物資の集積所へ向かった。徹甲弾を撃ち尽くし、燃料も沢山は残っていなかった。
「あー、結構弾薬消費したねぇ。」
シャルロッテが少し疲れたような声で言った。
「そうですね。榴弾も残り少ないですし。」
マリアが言った。
「ま、仕方ない。弾薬と燃料があれば戦車は全て解決できるからね。・・・にしても、北アフリカでもそうだったが、あの歓喜の声を聞く瞬間はたまらねぇ、へへへ。」
そんな会話をしながらエリカ達と4号車は物資集積所へ戻ってきた。
「補給を頼む。弾薬がほとんど空なんだ。」
「はいよ。」
補給担当の兵士と協力して、先程までの装填作業で、命が刈り取られそうな顔になったマリア以外で砲弾と燃料を補給する。エリカはふと思い出したかのようにハンナに尋ねた。
「そういえばさ、ハンナってなんでこの部隊に入ったの?志願?」
「え、私ですか?」
ハンナは少し戸惑った表情を見せた。
「うん。私も気になる。」
シャルロッテも便乗する。
「・・・正直言うと、私はあまり戦いが好きではありません。本当は、通信科に希望を出したんです。でも、先に入隊した友人達が、紙になって戻ってきたり、大怪我して帰ってくるのを見ました。それを見て私は、自分だけ後方任務の兵科になるのが辛くなって、友達に胸を張れるようになるためにも、戦車兵に・・・!」
ハンナは静かに答えた。
「そっか・・・。ごめん、嫌なこと思い出させたかな。」
エリカがそう言うが、
「いえ、全然平気ですよ!」
とハンナは笑ってみせた。
「よーし、これで全部だな。」
補給担当の兵士が言う。
「ありがとうございます。。」
敬礼するエリカに、補給科の兵士は辺りを一瞬見回すと、小声で言った。
「あまり大きな声じゃ言えないが、まともな補給が受けられるのは今日中だけかもしれない。」
と言った。
「・・・どういうこと?」
「実は昨日、司令部への無線連絡の時にちらりと聞こえたんだが。英軍はヴィレル・ボカージュも攻撃して、こちらを包囲する気らしい。今はまだ備蓄があるが、敵機のせいで補給も滞ってる。」
補給科の兵士は淡々と語った。
「・・・うーん。」
エリカは思わず言葉を失った。
「だから、早めにここを出た方がいいと思うぞ。」
「わかった。忠告ありがとう。」
補給を終えたエリカ達はすぐに出発した。また救うべき戦友が現れたのだ。
それから3日間、エリカ達はカーン市街地で激戦区を転々としながら戦った。戦車の装甲を貫く対戦車砲や、M4戦車などの敵も撃破したが、この3日間の戦闘で、敵は圧倒的な物量と航空攻撃による補給路の遮断で、ジワジワとエリカ達ドイツ軍を退けていった。
そしてついに、カーン近辺を始めとするドイツ軍の大部分は包囲される危険に陥った。そこでドイツ軍はなけなしの機甲師団で包囲の突破を計った。
次回はファレーズポケット(のような何か)編です。戦闘描写が拙い(絶望)。
ガルパン要素・・・
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少ない。もっと絡めるべきだ。
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無いが、そのままでも良い。
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著者のおまかせで。