俺以外の登場人物が強くてニューゲーム状態で始まる魔法少女モノ。   作:ヤンデレ大好きマン

1 / 4
大体100日後にメチャクチャになる世界
位置について、よ〜いどん!


 

 雨が降っていた。

 台風の影響で強い風が吹いているため、傘を刺すことすらままならない。

 そんな状況下で登校は出来ないため、小学校は休みになった。

 しかし、俺は今、外に出ている。

 

「うわっ、川の水がめちゃくちゃ増えてる。すげ〜」

 

 台風がもたらしたのは一風変わった非日常。

 好奇心が抑えきれなかった俺は親の静止を聞かずに探検に向かった。

 特別な環境下に置かれていると、いつもは行かないような所に向かいたくなる。

 長靴とカッパを装備している俺は人気のない道をひたすらに駆け回った。

 

「はしゃぎすぎた〜。お腹減ったし、イートインでご飯食べよ」

 

 何も考えずに無我夢中で走っていると、当たり前ではあるが体力が尽きる。

 お腹も減ったため、休憩がてらにコンビニで昼食を取ることにした。

 レインコートを脱いだ俺は店内に入る。

 おにぎりとお茶、そしてお気に入りのブリトーを手に取った俺はレジに向かい、手早く会計を済ませた。

 

「…………」

 

 イートインに向かおうとすると、こちらをじっと見つめる端正な顔立ちの少女と目が合う。

 人間離れした銀色の髪に菫色の瞳。

 そして、陶器のように白い肌を持つ彼女は一切の感情が抜け落ちているような表情をしていた。

 勿論、面識なんてない。

 

「なんだよ、何見てんだよ。これが欲しいのか?絶対にやらないぞ!」

 

 買った商品を守るように抱えた俺はイートインの席に座る。

 おにぎりやブリトーを食べ始めると、銀髪の女はわざわざ隣に座って、また俺の顔を見つめてきた。

 またもや無表情。

 俺はだんだん不気味に思えてきた。

 もしかしたら、こいつは幽霊なんじゃないかと思い始めてきたからだ。

 

「こっちみんな!」

 

 ご飯を食べ終えた俺はコンビニを出て、レインコートを着る。

 すると、銀髪女も店を出た。

 

「ついてくんな!」

 

 俺は走り出す。

 依然として雨が降っていたし、風も吹いていたが、どうでも良かった。

 俺はただ銀髪女から離れたかったのだ。

 それでも、銀髪女はついてくる。

 雨具すら使用せずに。

 

「どっかいけよおおおお!」

 

 そう叫んだ瞬間、体が浮遊感を覚える。

 転んだ、と認識した俺は顔を水溜まりにぶち込んだ。

 濁った水が口の中に入る。

 気持ち悪くて吐きそうだ。

 

「……大丈夫?」

 

 銀髪女が声をかけてくる。

 よく見ると、こいつは濡れていない。 

 傘とか刺してないし、カッパも着ていないのに。

 情けなさと訳のわからなさで心の中がいっぱいになって、防波堤は呆気なく決壊した。

 

「お前のせいだろうがあああああ!!」

 

 俺は泣いた。

 脇目も振らずにわんわんと。

 地面にへたり込んだせいで下半身がべちゃべちゃになったが、もうどうでも良かった。

 

「変身」

 

 銀髪女は高そうな紫色の宝石がついたステッキを天に掲げる。

 刹那、銀髪女の体が激しく発光する。

 眩しさに耐えられなかった俺は瞼を閉じた。

 

「え……?」

 

 ゆっくりと目を開けた俺の口をついて出たのは声にならない声。

 理解が追いつかなかった。

 目の前で屹立している銀髪女が、魔法少女のようなドレスを身に纏っていたのだ。

 杖と同種の宝石が胸の辺りについている紫色のドレス。

 フリフリしている子供っぽいものではなく、所々にレースがあしらわれた大人っぽいドレスは銀髪女のミステリアスな雰囲気と合致していて……なんていうか、とても綺麗だった。  

 

「私のこと、()()()ちゃんと見ててね。アキラ」

 

 何故、俺の名前を知っているのか。

 そんな瑣末な疑問はすぐに吹き飛んだ。

 銀髪女が空に向かって手をかざす。

 すると、瞬く間に雨が上がり、風が止んで、雨雲が消え失せた。

 青い空が顔を見せて、太陽が燦々と輝き、七色のアーチが姿を現す。

 その情景は幻想的で神秘的で……まるで、魔法のような。

 

「…………」

 

 一言も喋らずにこちらの様子を伺う銀髪女は、相変わらず無表情だ。

 全く表情の変化を見せないこいつと相反して、俺は震えた。

 感動で全身がわなないている。

 台風とか雪とか、そんなチープな物では味わうことの出来ない非日常がすぐ側にある。

 魔法や奇跡は空想上の産物などではなく、現実に確かに存在しているのだ。

 

「頼みが、ある」

 

「いいよ。魔法を教える。でも、その代わりに私のお願いを一つ、聞いてもらう」

 

 俺の言いたいことなんてお見通しか。

 ()()()()()()()人間の心を読む、それもきっと魔法の力によるものなのだろう。

 俺は魔法が使いたい。

 こいつに師事したいのだ。

 そのためならなんでもする。

 どんな願いでも聞き入れる。

 覚悟は既に決めていた。

 

「何があっても、私とずっと一緒にいて」

 

 勝ちを確信したような、意地の悪い笑みを口元に浮かべた銀髪女は俺の元に歩み寄ってくる。

 次いで、驚くほど柔らかな唇の感触が俺を襲う。

 ……俺はキスされたのだ。

 初対面であるこいつに。

 

 これが、俺と紫村(しむら)蘭世(らんぜ)の出会いだった。

 俺はまだ知らない。

 こいつだけではなく、これから出逢う少女全てが……俺と世界を救うために戦った記憶を有していることを。

 

()()離さないから」

 

 しかし、彼女たちが有する記憶は共通のものではなく……一人一人によって異なる、個別の記憶。

 だが、経緯は違えど、記憶の最後はどれも同じ。

 何らかの理由で俺が死ぬバッドエンド。

 

()()()()には絶対に渡さない」

 

 少女達は願う。

 俺と共に輝かしい人生を歩むハッピーエンドを。

 そして、少女達は抱く。

 記憶の中で共に戦った魔法少女も、敵対して殺し合った魔法少女も……その全てを排してまで、俺を手に入れたいという屈折した愛情を。

 

 

「感謝する。君たちのおかげで混沌を是とする悪は潰えた」

 

 穢れのない純白の羽を持つ、天使様が私たち二人の前に現れる。

 彼女の側には紫色のドレスを着た魔法少女の死体が転がっている。

 私達が……殺したのだ。

 自らが望む未来を実現するために。

 世界に秩序をもたらすために。

 

「神に反旗を翻した愚かな魔法少女共が死に、今やこの世界は新たな秩序を渇望する人間の希望で満ち満ちている」

 

 ごくり、と生唾を飲む音が隣から聞こえる。

 何かを考え込んでいるのか、アキラくんは深刻そうな表情を浮かべていた。

 

「しかし、混沌の勢力の手の者によって、秩序を司る我が神は消滅してしまった。このままでは世界を再構築することは叶わない」

 

 彼が何を考えているのか。

 私には分かる。

 きっと覚悟を決めているのだ。

 

「そこで……誉れ高き救世主である君達二人のどちらかに殉教者になって貰いたい。肉の器を捨てて、存在を昇華させる事でこの世界の新たな秩序を司る【神】として降臨して頂きたいのです」

 

 この時が遂に訪れてしまった。

 もう後戻りはできない。

 迷いも憂いもある。

 だけど、私達の答えは既に決まっていた。

 

「俺が神になります」

 

 アキラくんがそう告げる。

 私は彼の姿を直視することが出来ない。

 ぽんと頭の上に手が置かれる。

 数多の戦いによって、ひび割れた10代の少年らしくないごつごつとした手。

 私の想い人である大川アキラくんの手だ。

 

「人は愚かだよな。どいつもこいつも自分のことばっかで、他人の苦しみには目も向けない」

 

 何故、こんな事になってしまったのだろうか。

 私はみんなが笑顔になれる平和な世界を望んでいただけなのに。

 

「俺も同じだ。見ず知らずの人を救うために命を賭けるなんて俺にはできねー。ここまで戦ってこれたのも、全部自分の欲求を満たすためだ」

 

 本当にこの選択しか無かったのだろうか。

 彼を死なせる以外の方法は存在しないのか。

 

「でも、お前は違う。俺と違って、本当に心から他人を慮れるお前なら……混沌が蔓延る世界で迷う人々の道標になれる筈だ」

 

 仮に……もしも、私がもっと自分の欲望に忠実になれたのなら。

 天使様の言葉通りに行動せず、自分の脳みそで考えて、最善の行動が取れていたのなら……。

 

「だから、(ひじり)。後は頼む」

 

 大好きなアキラくんと一緒に生きる。

 最良の未来が掴み取れたのではないか。

 ありもしない妄想に思いを馳せると、胸が苦しくなって、目から涙がこぼれ落ちそうになる。

 

「うん。私に任せて」

 

 でも、私は泣かない。

 別れる時は笑顔で。

 そう決めたから。

 

「それでは再臨の儀を始めます」

 

 頭からアキラくんの手が離れる。

 私に向かってニコッと笑った彼の体は……僅かに震えていた。

 それを見た……見てしまった私の心の中でパリン、と何かが壊れた音がした。

 天使様が発した光にアキラくんの体が包み込まれていく。

  

「まって……」

 

 手を伸ばす。

 しかし、私の手が彼に届くことは無かった。

 

「行かないでっ!」

 

 ぎしっとベッドが軋む音がする。

 瞼を開けると、自室の天井が見えた。

 

「あ……れ?」

 

 周囲を見渡す。

 天使様もアキラくんも何処にもいない。

 真っ白な壁紙に書いてあるラクガキ、お気に入りの書籍が詰まった本棚、そして、少し前まで愛有していた勉強机……。

 何処からどう見ても、ここは私の部屋だ。

 それも()()()()になる前の。

 

 ベットから起き上がった私はカーテンを開ける。

 激しい雨が降っていた。

 風も強い……台風でも来ているのだろうか。

 

「全部、夢?」

 

 それにしてはリアリティがあるというか、あの時の記憶は全て覚えている。

 違和感があるのは寧ろ、今の状況。

 思案に耽る内に、一つの可能性に辿り着いた。

 卓上の電子時計を確認する。

 2022年12月1日。

 私とアキラくんが混沌の勢力に与する全ての魔法少女を打ち滅ぼした日からぴったり3年。

 間違いない。

 時間が……逆行している。

 

 

 いつの間にか、雨は止んでいた。

 学校は休校のままで、何も用事がないのに外に出たのは、どうしても落ち着かなかったから。

 アキラくんと共に歩んできた3年間。

 それが、あっという間に消えてなくなった。

 まるで、プレイ途中のゲームをセーブせずにぶつ切りしたみたいに。

 けど、不思議と嫌な気分にはならなかった。

 今の状況は混沌を是とする魔法少女を滅した自分へのご褒美であると、私は解釈したから。

 私はアキラくんを犠牲にして得られる平和なんて望まない。

 せっかく、時間が巻き戻ったのだ。

 今から出来ることを探して、どんな手段を用いてでも、彼と共に歩む未来を掴み取りたい。

 

 あと、3ヶ月後に世界はめちゃくちゃになる。

 これはどう足掻いても避けようがない運命。

 悪魔が地球に現れ、世界中が混乱に陥る日に私とアキラくんは出逢う。

 彼がどこに住んでいるのか、私は知らない。

 つまり、今の私がアキラくんと会う方法はない。

 遮二無二に探しても彼が見つかるとは到底思えないが、それ以外に出来ることは……。

 

「え……?」

 

 私は自分の目を疑った。

 カッパを着た短い黒髪の少年。

 アキラくんが、いきなり目の前に現れたのだ。

 見間違いではない。

 夢でも幻でもない。

 正に、これこそが運命……。

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

 

 今までに出したことがないくらい低い声が出た。

 アキラくんが女の子と手を握っている。

 その少女は長い銀髪を三つ編みにしており、菫色のジトッとした瞳を持ち、人形のように無機質な佇まいをしている……私達二人の最大の敵。

 秩序ある平和な世界を作るために、この手で殺した混沌勢力の魔法少女。

 紫村(しむら)蘭世(らんぜ)、その人だった。

 




感想や評価、お気に入り登録など、是非お願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。