俺以外の登場人物が強くてニューゲーム状態で始まる魔法少女モノ。   作:ヤンデレ大好きマン

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一緒になれる幸せ

 この世界に希望なんか無いと思っていた。

 自らの欲望を抑えられない者が異形の怪物へと姿を変えて、無欲な人々を蹂躙する。

 私の父と母も奴らの手によって命を落とした。

 生きる活力なんて湧かない。

 死んだ方が楽だと、自暴自棄になっていた。

 

「死にたいって思うのは自由だと思います。でも、貴女が少しでも死にたくないって思えるのなら、俺と一緒に生きてみませんか?」

 

 そんなどうしようもない私を見つけて、手を差し伸べてくれたのはアキラくん。

 私はメンタルが弱い。

 目の前で人が死んだり、殺されたりした日にはよく泣いていた。

 すぐにうじうじして、愚痴を吐いて。

 年下の彼に沢山頼ってしまっていた。

 本当は私がしっかりしなくちゃいけないのに。

 

「灰谷さんが一緒に戦ってくれるから、俺は頑張れるんです。だから、自分なんて居なくなった方が良いなんて、悲しい事を言わないでください」

 

 アキラくんはどんな時でも私を支えてくれた。

 救いなんてないこの世界で、彼という存在が私にとっての希望だった。

 だから、私も彼の希望になりたいと願った。

 ……でも。

 

「俺はあいつの想いを無駄にはしたくない。この命が尽きるまで、悪魔を殺し続けます」

 

 幼馴染の女の子から継承された()()ステッキ、それが彼にとっての希望。

 私なんかが付け入る隙は微塵もなかった。

 悔しかった。

 苦しかった。

 ……何よりも羨ましかった。

 アキラくんの幼馴染の女の子が。

 私は醜い。

 アキラくんという存在に私が依存しているように、彼にも私に依存してほしい。

 そうして、引き返せないくらい共依存して、一緒になりたいと願っているのだから。

 

「泣かないで……ください。これは、貴女の責任じゃないです」

 

 だから、これはきっと罰だ。

 ヘマをした。

 伏兵の魔法少女の存在に気づかずに姿を晒し、狙撃されたのだ。

 そして、アキラくんは私を庇って重傷を負った。

 ずっと戦い続けてきたからこそ、分かる。

 彼はもう助からない。

 

「俺の分まで、生きてくだ……」

 

 脈が止まる。

 目が虚になる。

 体から暖かさが消えていく。

 狙撃してきた魔法少女は始末した。

 何度も嬲って、ミンチみたいにしてやった。

 それでも、心は晴れない。

 アキラくんが、死んだ。

 他でもない私のせいで。

 

「ごめん……本当にごめんなさい、アキラくん。私には、これ以上は無理だよ」

 

 ふらふらと歩く。

 行く当てなんかない。

 混沌だとか秩序だとか。

 何もかもがどうでも良かった。

 

「私には見つからない。君が居ないこの世界で生き続ける理由が見つからないよ……」

 

 人の気配を感じて、後ろを振り向く。

 それと同時に腹部に何かが突き刺さった。

 

「お姉ちゃんの……仇……!」

 

 藍色のドレスを着た魔法少女は血走った目で私を睨みつける。

 そうか、この子はあの狙撃してきた紺色の魔法少女の……。

 紫色に光るナイフを引き抜いた彼女は何度も何度も私の全身に突き刺す。

 痛みは感じなかった。

 生まれつきそうだった。

 人の痛みだけでなく、自分の痛みすら分からないから、鈍臭くて間抜けで……だからこうなった。

 ぼやっとする意識の中で、生まれ変わってアキラくんにまた会いたいと私は願った。

 来世では彼に頼ってもらえるような立派なお姉さんになって、私無しでは生きられないようにして……誰の手も届かないような底なし沼の奥でドロドロに溶け合って一体化したい。

 ああ、神様。

 それが、私の唯一の望みです……。

 

 

「ありがとう、神様っ。私の望みは叶いそうです」

 

 腕の中で眠るアキラくんをぎゅっと抱き寄せる。

 生まれ変わる前も良くやっていた「アキ吸い」を試みると、全身が多幸感に包まれた。

 

「私だけのアキラくん。お姉さんが用意した隠れ家で誰にも気づかれずに楽しく暮らそうね」

 

 頭を撫でる。

 愛おしくてたまらない。

 他の女に取られているのに気がついた時は焦ったけど、そいつが馬鹿で本当に良かった。

 盗まれたくないのなら、ちゃんと見てないと。

 

「だけどまだ油断はできないよね」

 

 私の魔法を用いて、小学校から離れるだけ離れたが、決して気は抜けない。 

 アキラくんが欲しいのは私だけじゃない。

 (ひじり)ちゃんの言う通り、他の魔法少女も「生まれ変わり」をしていて、理由は不明だが、私のアキラくんを狙っているのだ。

 魔法少女の中には頭がキレる奴もいる。

 警戒を緩めるわけには……。

 

「泥棒は良くないよ、早水(はやみ)

 

 気絶しているアキラくんの影からぬるりと一人の女の子が這い出てくる。

 紫色のドレスを纏っている銀髪の少女。

 少なくとも魔法少女であることは分かる。

 こいつは一番初めにアキラくんを確保した女。

 飛び退く事で距離を取った私は即座にステッキを振り、変身を試みるが……。

 

「あ……れ?」

 

 変身が出来ない。

 なぜ、どうして?

 

「精神が逆行していても、肉体は当時のまま」

 

 銀髪の少女が近づいてくる。

 一切の感情が抜け落ちた無表情のまま。

 

「確実に逃げ果せたいのなら、隠れ家に到着するまで魔法を使い続ければ良かった」

 

 何が……起きている?

 

「でも、無理だった。想定よりも魔力量が少なくて……逃げる途中で魔力切れを起こしたから」

 

 思考が止まる。

 展開が早すぎて、脳みその処理が追いつかない。

 でも、それでも。

 私はステッキを振る。

 

「アキラくんは渡さない」

 

 灰色のドレスを身に纏う。

 使い慣れた刀を具現化させる。

 

「お姉さんが絶対に守ってみせる……!」

 

 魔力が無い。

 だから、どうした。

 ようやくここまでこれた。

 私の願いが成就しそうなのだ。

 どんな奴にも邪魔はさせな

 

「それはこちらの台詞」

 

 体が浮遊する。

 何者かに両足を切られたのだ。

 背後に現れた下手人の顔を確認すると……目の前にいる銀髪の少女と瓜二つだった。

 恐らく、分身。

 

「私のこと、知ってる?」

 

 銀髪の少女はその場でしゃがみ、地面に這いつくばる私の顔を覗き見る。

 この状況から逆転は不可能。

 私は……負けたのだ。

 

「私の魔法すら知らなかったみたいだし、聞くまでもないか……やはり、記憶は()()ではない」

 

 銀髪の少女を鋭く睨みつける。

 それくらいしか、できることがなかった。

 

(ひじり)の差し金でしょ、貴女」

 

 心臓が跳ねた。

 依然として銀髪の少女は無表情を貫いている。

 頭の中を見透かされているようで気味が悪い。

 でも、それよりも……。

 アキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれるアキラくんが盗まれる

 

「色々聞きたいことがあったけど……もう限界みたいだし、手早く終わらせる」

 

 そう呟いた銀髪の少女は、刀身が紫色に輝くナイフを懐から取り出した。

 

___________________________________

 

「ありがとうございます。貴女のお陰で姉の仇が取れました……!」

 

「気にしなくていい。利害が一致しただけだから」

 

「……?」

 

「これで、灰谷(はいたに)早水(はやみ)……貴女の魔法は私の物」

__________________________________

 

 そうか。

 そうだったのか。

 私は全てを理解した。

 アキラくんを無防備に晒したのも、私をこの場所で追い詰めたのも。

 全ては彼女の思い通り。

 ……泳がされていたのか。

 私の魔法を奪うために。

 

「待って」

 

「待たない。逃すと厄介だから、ここで殺す」

 

「私の魔法をアキラくんに継承させて」

 

 そう提案すると、銀髪女の表情が僅かに強張る。

 魔法の継承。

 行うために必要な条件はただ一つ。

 愛する者に自分の全てを捧げたいと願いながら、死ぬ。

 たったそれだけ。

 両足がない今の私でも舌を全力で噛めば死ぬことが出来る。

 しかし、銀髪の少女は既に対策を講じている筈。

 私に出来るのはひたすら懇願すること。

 

「お願いします……!」

 

「…………」

 

 私はもうじき死ぬ。

 何も成さずに何も残さずに。

 しかし、継承をすれば。

 肉体と精神を捨て、魔法だけステッキに残し、アキラくんに委ねられれば……。

 私は彼と一つになれる。

 それはなんて……なんて、素敵で幸せな事だろうか。

 

「やっぱり早水(はやみ)はイカれてるね。でも、そういうところ、私は好きだったよ」

 

 パァンと小気味いい発砲音が後ろから聞こえる。

 その瞬間、胸からどくどくと血が流れ、全身が嫌な熱を帯びる。

 拳銃で撃たれた。

 後ろにいた銀髪の少女の分身が、私を殺してくれたのだ。

 

「あり……がとう」

 

 最後の願いを聞き入れてくれた銀髪の少女に感謝の言葉を述べる。

 悔いなんてない。

 これで、アキラくんと一緒になれる。

 本当に私は幸せ者だ……。

 

 

 町外れにある大きな屋敷。

 その一室に複数人の少女が集まっている。

 

灰谷(はいたに)が死んだよ〜。彼女を殺害したのはまたもや紫村(しむら)蘭世(らんぜ)。これで、五人目だねっ。アキラくんを奪おうとして、返り討ちに合うお馬鹿さんはっ」

 

 茶髪ツインテールの少女がそう発すると、室内は異様な雰囲気に包まれた。

 

「奴の魔法は強力です。直ちに処理しなければ、馬鹿な魔法少女が奴の養分となり、その力は増すばかり……殺すべきです。性急に!」

 

 血気盛んな長い黒髪の少女が、机を叩く。

 彼女の表情には焦りの感情が滲み出ていた。

 

「落ち着きなよ〜。勝算が無い状態で挑んでも、みんな揃って蘭世ちゃんの養分になるだけ。ゆっくりと策を練ってさ、それから行動しましょーよ」

 

 のんびりとした口調で話す水色の髪の少女は、異様な存在感を放つ少女に視線を向けた。

 

「それに、どんなに話し合おうと、私たちの動向を決めるのは聖ちゃんの仕事だしねー」

 

 艶やかなプラチナブランドの髪とぱっちりとした碧眼。

 この世のものとは思えないほどの美しさを有する少女に三人の視線が注がれる。

 しかし、彼女は微塵も動揺を見せない。

 

「行動を起こすのは3ヶ月後。世界に混乱が広がってからです」

 

 口元に笑みを携えながら、事務的にそう告げる。

 

「異議を申し立てます!」

 

「どうどう、澪ちゃん。これで今日はおしまいだよっ」

 

「お家に帰って、おねんねしようね〜」

 

「離してくれっ。私はっ、納得でき……」

 

 食ってかかろうとする黒髪の少女の両腕を水色の髪の少女と茶髪の少女が押さえつけ、その状態を維持したまま、部屋を後にした。 

 装飾が施された扉が閉じる。

 室内は完全な沈黙に被われた。

 

「……本音を隠すのが下手になったなぁ。みんな」

   

 椅子の背もたれに寄りかかった少女……白銀(しろがね)(ひじり)は何処か悲しげな表情を浮かべる。

 

「澪ちゃんだけじゃない……阿澄ちゃんも真矢ちゃんも、みんなアキラくんを欲しがっているんだね」

 

 少女は席を立つ。

 そうして、机の引き出しに入れていたステッキを手に取ると、それを遠い目で見つめた。

 思い出に浸るかのように。

 

「あの子達は……()()私のものじゃない。私なんかよりも綺麗に輝く新しい光を見つけてしまった」

 

 少女の脳内に一人の少年の姿が浮かぶ。

 彼女も光に魅入られた者の一人だった。

 

「混沌の魔女に勝つためには新しい子達が必要だね。私の命令に服従してくれて、アキラくんの存在を知らない。純粋無垢な魔法少女が」

 

 自分を信頼してくれていた者達に対する未練は完全に捨て去った。

 そう言いたげに少女は嗤った。




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