俺以外の登場人物が強くてニューゲーム状態で始まる魔法少女モノ。 作:ヤンデレ大好きマン
「何回でも言うが、息子を助けてくれて本当にありがとう。君は我が家の救世主だ!」
「救世主じゃない、私は家族」
「うおおおおおおお、そうだったあ。これから宜しくなぁ、可愛い愛娘ええええ!!!」
「なんていい子なの……欲しいものがあったら何でも言ってね。蘭世ちゃん」
「…………」
俺が誘拐されてから1週間後。
蘭世は俺の家族の一員になった。
誘拐犯から俺を救出したのは蘭世であり、それに対して強い恩義を感じた両親が、彼女の親から保護することを決意したのだ。
蘭世の親との交渉は呆気なく成功したため、今は正式な手続きを踏んでいる最中らしい。
「私はアキラが欲しい」
「あげるあげる、何体でもあげるわ!」
「俺は複数体存在しねぇよ……」
……俺の両親は完全に蘭世を信頼している。
もちろん、俺も命の恩人である彼女に感謝の気持ちを抱いているが、それ以上にとてつもない不気味さを感じていた。
名乗る前から俺の名前を知っていて、家の場所を教えてないのに夜の間に侵入したりして、俺と出会った翌日には学校に転入してきた。
その上、いつの間にか姿を消した俺を即座に見つけ出し、救出するなんて人間業ではない。
どうやって俺を助けたのか、聞いても答えてくれないし、これらの現象は魔法が使えるから……とかじゃ説明できないと思う。
両親はチョロいが、俺はそう簡単に絆されない。
絶対にお前の正体を看破してやる……。
「アキラ。今日は約束通り、魔法を教えてあげる」
「マジで!?やったあ!」
でもまあ、ちゃんと魔法を教えてくれるなら話は別だよな!
パパママと同様に俺も蘭世が大好き!
これからよろしくな!
◇
俺と蘭世は学校をサボって、街の片隅にある廃ビルを訪れていた。
……こういう所に来るのは初めてだが、決して良い雰囲気の場所とは言えない。
当たり前だが薄暗くて人気はなく、物音もしないため、自身の足音がしっかりと聞こえる。
幽霊とか出たりしないよな……?
「それじゃ、魔法の訓練を始め……」
「うわぁ!!!」
「ビビりすぎ」
前を歩いていた蘭世が足を止めてこちらを振り返るだけでもビビってしまう。
俺が特別ビビりなわけではなく、何か嫌な気配がするのだ。
まるで、この世のものではない存在に監視されているような……勘違いだとは思うが。
「魔法の使い方は至極簡単。この杖を振るだけ」
蘭世が何かを投げ渡してくる。
それを手に取って確認すると、如何にも女児が好みそうなデザインの灰色の宝石が埋め込まれたステッキだった。
普段の俺だったら、こんなんで魔法が使えるわけねーだろ……と言っていたと思うが、蘭世がこの杖に似た物を振るって魔法を使用した姿を俺は目の当たりにしている。
恐怖はいつの間にか消えていた。
ついに、俺も魔法が使えるのだ。
決め台詞とか考えた方が良いかな?
いや、どんな魔法を使えるのか確認してからの方がいいか。
どうせなら炎を出すようなかっこいい奴が……。
「早くして」
「はいっ、やります!」
ジトっとした目で蘭世に睨まれた俺は杖を振る。
すると、体が光に包まれて、自分が自分では無い何かに上書きされるような感覚を覚えた。
「う……あ……?」
しばらくして、光が収まったことを確認した俺はゆっくりと瞼を開ける。
全身がとても軽い。
まるで、生まれ変わったみたいだ。
気怠さもなくて、声も高くて、髪も伸びて、手足もなんか細くて、服もフリフリしている!
……アレ?
改めて、自分の体を見てみると何かがおかしい。
俺が、俺の体では無くなっている。
まさか……まさかとは思うが、俺……。
「蘭世!鏡、鏡ない!?」
「あるよ」
「うわあああああ!!」
蘭世が差し出した手鏡を見た俺は悲鳴を上げる。
女だ。
鏡には灰色の髪の女の子が写っていたのだ。
それも、可愛らしいドレスを着た自分そっくりの。
俺は……俺は魔法少女になってしまったのだ。
「何で、そんなに驚いてるの。たかが女の子になっただけでしょ?」
「たかがではないだろ。驚くよ、そりゃ!男だった自分が女になってたら!」
「ふーん、そうなんだ。それで、魔法は使わないの?」
その言葉を聞いて、正気に戻る。
女になった事について、まだ納得してはない。
だがしかし、ずっと女の子のままって事はないだろうし、何よりも俺にとって魔法の方が重要だ。
大いなる期待を込めて杖を振る。
そうすると、俺の体を纏うように灰色のオーラが現れた。
「これが……俺の魔法?」
「そう。それが貴方の魔法」
「このオーラでどんな事が出来るんだ?」
「早く走る事が出来る。そのオーラを纏っている間」
「……は?」
自分の耳を疑った俺は思わず聞き返してしまう。
早く走る事が出来る。
まさか、たったそれだけじゃないよな。
このオーラを使って、かめ◯め波的な奴を撃ったり、炎に変換したり出来るよな?
「早く走る以外にも出来る事はある……よな?」
「あるよ」
「本当に!?」
「他の人の足も早く出来る」
「クソ弱いじゃん!」
心の声が口から漏れる。
でも、まだだ。
まだ、希望はある。
恐らく、魔法の鍛錬を続ければ早く走る以外の魔法を使えるように……。
「因みに貴方は生涯、その魔法しか使えない」
「軽率に希望を摘むなよ!悲しくなるだろ!」
微塵も表情を変える事なく、蘭世は残酷な事実を俺に叩きつけていく。
きっとこいつは悪魔の末裔か何かなのだろう。
自然な流れで俺の心を読んでるし。
背後に化け物らしき姿も見えるし……。
「今から、貴方にはこいつと戦ってもらう」
「は……え?」
人間大の赤い球体が宙に浮いている。
赤い球体の中央には切れ長の瞳が三つついていて、それらは俺と蘭世を凝視していた。
「え、何これ?ドッキリか何か?」
「違う。ちゃんとした怪物。魔法がある世界には化け物もいる。貴方には強くなって貰わなければならない。強くならなければ、これからの世界を生きる事が出来ないから」
そう告げた蘭世は即座に姿を消した。
化け物は依然としてこちらを見ている。
友好的な視線には見えない。
今からお前を殺す……と、言いたげな目。
何だよ、この状況。
意味分かんねーよ。
いくら何でも急展開過ぎるだろ。
魔法は使いたい。
けれど、バケモノと戦いたいなんて一言も言ってないのに。
「ブ、ブブルア」
奇妙な声を出した赤い目ん玉の化け物の体から、数本の触手が生えてくる。
それらは未だに困惑している俺目掛けて、猛スピードで迫ってきた。
「う、あああ!!」
走る。走る。とにかく走る。
目ん玉が操る触手は瓦礫を薙ぎ払い、壁を破壊し、それでも俺を貫かんと猛追してくる。
灰色のオーラを体に纏わせた状態で足を早く動かしても、奴と俺の距離は一向に変わらない。
この魔法、やっぱり弱すぎる!
「蘭世!頼む、助けてくれ!俺には無理、絶対無理だからぁ!」
惨めったらしく助けを乞う。
プライドも何もかも捨てて。
けれども、返事はない。
俺を捨てて逃げたのだろうか。
或いは、俺を試しているのだろうか。
どっちにしろ、奴はろくでなしだ。
怒りの感情が沸々と湧いてくるが、その怒りを目ん玉にぶつけるような度胸は持ち合わせていない。
俺は物語の主人公じゃない。
力を与えられたからと言って、何も理由もなしにバケモノと戦えるような男ではないのだ。
「いぎゃっ」
土手っ腹に触手をぶち込まれる。
触手の腹で横薙ぎされるような形で俺の体は吹っ飛ばされた。
次いで、べちゃりと潰れたカエルのように全身を壁に叩きつけられた俺は地面に倒れ伏す。
全身が痛い。
頭はぐわんぐわんする。
それでも、構わず化け物は近づいてくる。
俺を殺すためだけに。
……怖い。
このまま何もしなかったら、俺は死ぬ。
蘭世は助けに来てくれるだろうか。
来なかったら、俺は死ぬ。
立ち上がって、逃げなければならない。
だが、逃げたとしても追いつかれて死ぬ。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。
どう足掻いても、俺はここで死ぬ。
「う、ぐっ。嫌だ……俺は死にたくないっ」
自然と涙が溢れた。
抵抗する意思は既に潰えている。
俺の体は死の恐怖に支配されてもう動かない。
本当に最悪だ。
こんな事になるのなら、魔法なんて使いたいと思わなければ良かった。
いや、そもそも台風の日に蘭世と会わなければ良かった。
俺は悪くない。
俺が死ぬのは、全部蘭世が悪いのだ。
何で蘭世が悪いのに俺が死ななくちゃならない?
クソが……本当に信じられない。
頼むから夢であってくれ。
今この瞬間もにじり寄ってくる目ん玉のバケモノも、訳わかんないこと抜かして消えた蘭世も。
全身全霊でそう願った。
でも、紛れもない現実なのだ。
「これ以上、アキラを虐めないで!」
俺を殺そうとするバケモノも尻尾巻いて逃げた蘭世も。
そして、いきなり現れて俺を庇うようにバケモノに立ち塞がる赤い髪の少女。
俺の幼馴染である赤宮千夏も。