「うぁ……」
漏れる吐息と、唇端から零れる血液。最早、痛みすら感じない。間も無く僕は死んでしまうのだろう。
僕の住む村は、ある日とある古龍に襲われ、灰燼と帰した。むろん、住人は故郷諸共に全滅。原型を留めているのは、もしかしたら僕だけかもしれない。
父さんも母さんも、生意気な妹も、勝ち気で男勝りな幼馴染も、温かなご近所の皆さんも、誰も彼もが物言わぬ死体となり、大地へ還元された。僕もいずれそうなる。下半身が千切れ飛んでるからね。肺に血が溜まったせいか、血ぶくを吐く事しか出来なくなり、意識もどんどん遠のいく。不思議と痛みは無いが、それは既に脳が死を覚悟しているからであろう。苦しまなくて済んで良かったのか、悪かったのか。
……嗚呼、これが死んでいく、という感覚か。
世界が闇に閉ざされ、意識が奈落の底へ落ちていく、この絶望感。痛みは無くても、苦しくて辛い。嫌だ、死にたくないよ……。
『ギャーギャー!』『シャーッボック!』
そんな瀕死の僕を、無数のガブラスが見下ろしている。
所謂“スカベンジャー”であり、特に古龍の動向に合わせて死体を漁りに現れる事から、「災厄の使者」の異名を持つ、翼蛇竜という種族の小型モンスターだ。
名前通り蛇のような頭と鎌首を持ち、翼竜種とよく似た胴体を有するのが特徴で、常に空を舞い、地上を見下ろし、死骸を探し回っている。今回の獲物は、もちろん僕だろう。
「………………」
もう勝手にするといい。どうせ肉体は既に死んでいるだろうし、あとは僕という存在が消えるだけ。失う物など、何もないのである。
「……タ……ィ」
――――――もしも、輪廻転生という物が、本当にあるのだとしたら。今度の僕は、空を自由に飛び回れるようになりたい。今世はロクに外に出られなかったからね。
だから、お願い神様。僕に自由への翼を下さい。
「………………」
そして、僕の人生は幕を閉じた。
◆◆◆◆◆◆
『………………?』
ここは何処だ?
僕が僕なのは間違いないけど、何故か生きているし、四肢がある感覚もあるけど、それなのに殆ど身動きが取れない。何か弾力性の高い膜状の物に閉じ込められているようだ。そんな事をして何の得があると言うのか。そもそも致命傷だった僕が復活している理由が分からない。
分からない事尽くしだが、理解出来る事が1つだけある。こんな息苦しい所からは早く脱出したい、という事である。幸い膜は柔らかいので、割と簡単に破る事が出来た。
『………………!』
どうやら、膜の外側は湿った草木や泥で覆われているようで、どうにかこうにか掘り進み、外へ
そう、這い出たのだ。首や身体、
脱出する事に夢中だったせいで気付かなかったが、これはおかしい。人間に尻尾は無いし、首や体をくねらせる事は不可能である。出来るとしたら、そいつは化け物だろう。
僕の身に一体何が起こったというのか?
『しゃーしゃー』『あーぼー』『きききー』
さらに、僕の後から続くように、弟妹が次々と這い出て来る。
黒い蛇に短い四肢が生えた、一見すると蜥蜴にも思える姿をした、不気味な生物。翼が無い事を除けば、小さなガブラスそのものだ。
そんな小型モンスターの幼生が、僕の弟妹だと
つまりは、
『きゃーっ!?』
そう、僕はガブラスに生まれ変わっていたのだ。それもアルビノ個体に。
……いやいや、確かに空を自由に飛び回りたいと願ったし、最期に見たのがガブラスだったけど、そういう事じゃないんだよ、神様ぁ~っ!
◆ガブラス
蛇のような顔と飛竜種然とした胴体を持つ、蛇竜種の1種。「翼蛇竜」の別名通り、細長い身体に不釣り合いな程に大きな翼を持つ。死体を漁るスカベンジャーであり、特に古龍災害を当てにしている事から、「災厄の使者」なる異名で呼ばれる事もある。主な武器は口から吐く毒液と尻尾。物音に敏感で、どんなに遠くの“死の足音”でも聞き逃さないが、耳の良さが災いしてモンスターの咆哮やハンターの音爆弾で墜落してしまう。
卵生であり、数ヶ所に纏まった数の卵を産む。孵化した幼体は翼が未成熟で、這い出た後は自力で高所に攀じ登り、翼が開くのを待ちながら小さな生き物を捕食して成長する。当然、木登りが下手な個体は生き残れない。