翼を下さい   作:ディヴァ子

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今回“も”ビスカ視点デス。


閑話:伝わるその鼓動

 ――――――森丘、エリア2。

 

「あったあった、良いフンだ!」

「ウ○コ見て喜ぶなよ」

「だけど、これが良い肥料になるんだよ!」

「そうだけど、そうじゃねぇんだよ」

 

 私はモンスターのフンと戯れていた。そんな私を、ヴリアちゃんが冷たい眼で見詰めてくる。酷い。

 

「大丈夫大丈夫、消臭玉は持ってるから」

「帰ったらちゃんと風呂に入れよ」

「エビスにも同じ事を言われたなぁ……」

「当たり前だろ」

 

 ま、言わんとしている事は分かる。何処まで行ってもウ○コはウン○だからね。後はこれを持ち帰って、ボルボロスの泥と混ぜ合わせて数日置けば、農場全体を潤す肥料になる。この機会に畑を拡張しようかなー。

 

「――――――で、採集は終わったか、スカト○」

「人聞きの悪い事を言わないでくれる? ……さて、それじゃあ、本題に入ろうか」

 

 肥料の素を集め終わった私は、目の前に広がる異様な光景(・・・・・)を見た。

 

「アプトノス処か、イャンクックまで殺されてるな」

 

 ヴリアちゃんの言う通り、数匹のアプトノスと、怪鳥「イャンクック」が無惨な姿で横たわっていた。全身がズタズタに引き裂かれ、身体の一部が千切れ飛び、そこら中を血で染めている。

 

「アプトノスはともかく、イャンクックともなると、相当な大型モンスターのようね」

 

 イャンクックは飛竜種に近い骨格を持った大型の鳥竜種で、折り畳み式の団扇のような耳とドデカい嘴といった特徴的な容姿をしており、啄みや体当たりと言った肉弾戦や、口から吐く火炎液弾に翼の風圧などの飛び道具も持ち合わせた、そこらの中型モンスターとは比較にならない戦闘能力を秘めている。

 その“リオレウスの小型版”とでも言うべき戦闘スタイルから、初心者ハンターにとっての登竜門のような扱いをされており、密かに「クック先生」などと揶揄されていたりいる。

 そんなイャンクックを、こうも無惨な八つ裂きにするモンスターとなると、数は限られてくる。森丘だと、それこそリオレウスやリオレイアくらいだろう。一体誰の仕業だろうか?

 

「……ま、奥に行ってみるしかないか」

「そうね」

 

 そういう事になった。

 

 ◆◆◆◆◆◆

 

「死体の数が凄いな」

 

 とりあえずエリア3の広場まで来たが、至る所にモンスターの死骸が転がっている。アプトノスやケルビなどの草食動物はもちろん、ドスランポスにドスファンゴといった大型モンスターも殺されていた。

 しかも、どの死体もズタボロではあるものの、何故か捕食された痕が無い(・・・・・・・・・)。動物食のリオス種では先ずあり得ないだろうし、そもそもこんなに殺す必要が無いだろう。

 つまり、犯人は殺すという行為(・・・・・・・)そのものを愉しんでいる(・・・・・・・・・・・)という事だ。そんなモンスターがいるだろうか?

 

「……少し嫌な予感がするが、聞いておくか?」

 

 ヴリアちゃんが神妙な顔で呟く。こういう時の彼女の嫌な予感はよく当たるんだよね。

 

「正直あんまり聞きたくないけど、どうぞ」

「なら言ってやる。……このエリア9の奥に潜んでる奴は、イャンクックでも、ましてやその亜種でもない。おそらくだが、そいつは――――――」

 

 と、その時。

 

『キョワァアアアアアアッ!』

『ギャヴォオオオオオスッ!』

 

 エリア9へ続く自然トンネルの入り口から、2頭の大型鳥竜種がドタバタと現れた。一方がもう一方を追いかけ回す、鬼ごっこのような状態である。

 片方はイャンクックだが、それを追い掛けるのは、よく似たシルエットの別物。全体的に刺々しく、黒紫色の甲殻に覆われ、白い髭のような鬣を生やした、大型の鳥竜種。気性が荒いのか、身体の至る所に傷があり、数多の返り血を被っている事も相俟って、非常に禍々しい。

 こいつは一体――――――、

 

「黒狼竜……「イャンガルルガ」だ!」

 

 かの鳥竜を見た瞬間、ヴリアちゃんが叫ぶ。かなり焦った声で、何時もの彼女らしくなかった。

 つまり、このモンスターはそれだけ危険な生物、という事だ。

 

「イャンガルルガって何?」

「見てりゃ分かるさ」

 

 私の質問に、ヴリアちゃんが顎を動かして応える。

 

『クケェッ!』

『ギャヴォオオオッ!』

 

 とか言っていたら、イャンガルルガが大きく跳躍して、逃げるイャンクックを踏み倒した。

 さらに、三叉矛のような尻尾を叩き付け、嘴を何度も突き立て、止めとばかりに足の鉤爪で腸を引き裂いて、あっという間にイャンクックを惨殺してしまった。およそ1分にも満たない早業である。

 

『ギャハハハハハハッ!』

 

 そして、一頻りイャンクックの死体を嬲ると、漸く満足したのか、高笑いのような鳴き声を上げた。まさに殺し屋、狂戦士。食べるでもなく、防衛本能でもなく、ただ殺しを愉しんでいる。そんな印象を受けた。

 

『グルルルル……ギャヴォオオオオオスッ!』

 

 しかも、さっき殺したばかりなのに、もう血に飢えたのか、呆然と見守るしかなかった私たちの方へ振り返ると、唸り声を上げながら猛然と襲い掛かって来た。

 なるほど、確かにこれは見れば分かる。

 

「来るぞ! 奴には毒も麻痺も効かない! お前のフレグランスが頼りだ!」

「了解だよ!」

 

 むろん、ハンターたる私とヴリアちゃんが、易々と狩られてやる筋合いはない。むしろ返り討ちにしてやる!




◆イャンクック

 広い生息域を持つ大型の鳥竜種。飛竜種を思わせる細身と無駄にデカい嘴、折り畳み式の耳介が特徴で、別名は「大怪鳥」。食性は昆虫食であり、特にクンチュウが大好物。
 口から火炎液という発火性の強い液体を吐く事が出来るほか、突進や啄みなどが主な攻撃手段になる。行動パターンが飛竜種(特にリオス種)と似ている事から、過去には飛竜種されていた時期もあった。その為、飛竜種に挑む前の登竜門として、ハンターたちからは「先生」と呼ばれる事もある。
 ちなみに、近縁種であるイャンガルルガには徹底的に利用される立場にあり、一度托卵されてしまえば、巣立ちの記念として“親殺し”をされる運命にある上、野良の出遭い頭にぶっ殺されるのは日常茶飯事である。クック先生が何したって言うんだ……。
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