そんなこんなで、荷物を背負って山を越え、下山しつつ人を探す。
……やぁやぁ皆さん、こんにちは。ココット山での悠々自適な生活に暇を持て余してしまい、本を求めて人里に下って来たアルビノなガブラスだよ。元はしがない村人ね。
いやぁ、ココット山は5合目までは本当に天敵が居なくていいね。リオス種はちょっかいさえ出さなければ、基本的にガブラスの相手なんかしないし。
問題はこの先――――――4合目辺りからなのよ。ここからは樹木が生え出し、大・中・小の様々なモンスターも頭角を現し始める。
特に恐ろしいのはモノブロス。砂漠に居ればいい物を、何故かココット山にも生息している。森林限界付近に生えている多肉植物を食べているのだろう。
さらに、その先に続く森林地帯を乗り越えた末に、漸くミナガルデへ辿り着くのである。この森がまた曲者で、沼地方面から迷い込んだのか、毒怪鳥「ゲリョス」や紫毒鳥「ゲリョス亜種」が生息しているのだ。
どちらも「狂走エキス」と呼ばれる滋養強壮効果のある体液により荒れ狂うように走り回りながら毒をばら撒き、頭部のトサカと嘴の先端を打ち合わせる事で内部器官を炸裂させて閃光を放つなど、トリッキーで厄介な戦法を取ってくる。戦闘能力自体は中型モンスターの中では低めだが、搦め手を多用してくる為、思う以上に面倒に感じるかもしれない。
何と言うか、この近辺を代表する“嫌な奴”といった感じのモンスターである。
まぁ、そんな彼らも影蜘蛛「ネルスキュラ」の耐電コートにされてしまうのだが。諸行無常なり。
ともかく、見付かると面倒なので、気を付けて進もうか。昔はココット山に抜け道があり楽に踏破出来たらしいけど、今は崩落や風化によってすっかり塞がってしまい、再開発の目途も立っていないのだとか。素直に登山する手もあるが、そんな真似はそれこそ英雄クラスのハンターでなければ不可能だろう。僕はガブラスだから出来たけどねー。
さーて、それはそれとして、都合の良いハンターは居ないかな~?
「ヒャッハーッ! ランポスもファンゴも纏めて掛かって来いやぁっ!」
『ギャヴギャヴ!』『ブルルル……ッ!』
うん、あいつはダメだね。血気盛ん過ぎる。会った瞬間殺されかねない。次!
「来い、ゲリョス! お前に恨みは無いが、増え過ぎたお前を見逃す訳にはいかないんだ!」
『ゲリョォオオッ!』
う~ん、こいつは誠実過ぎるな。付け入る隙が無いし、申し訳なさそうに狩られそうな気がする。却下!
「……うへへへっ、予定よりも多く狩っちゃったけど、報告しなければバレないよね~? 帰ったら行き付けの店で装備を更新しちゃおうかな~♪」
よし、この女にしようか。幾らでも脅しが効くし、何より密猟するような輩は消えた所で誰も気にしない。存分に使ってやろう。
『きゅー』
「うわっ、びっくりした!? ……って、何だガブラスか。アルビノの個体なんて珍しいけど、だから何って話よ。せっかくだから、生肉でもあげようかしら? ん?」
おうおう、調子に乗りやがって。密猟者風情がさ。元村人を舐めるなよ。
「――――――でも、服を着てるって事は、誰かのペットなのよね。物好きもいたものだけど……主人に報告されても面倒だから、死んで貰うわ!」
『きゅん!』
「うぉっ眩しっ!? せ、閃光玉ですってぇ!?」
ワハハハハハ、僕には環境生物が付いているのだ!
さぁ、僕の手となり足となって貰うぞ、密猟者よ!
『きゅん!』
「あっ、ワタシの剥ぎ取った素材を!?」
という事で、密猟者が閃光から回復する前に、剥ぎ取り素材が入ったポーチを奪い取る。
ほうほう、眠鳥「ヒプノック」の胃石か。数は10個……1、2頭狩ったり、拾ったりしただけじゃあ、これ程までは集まらない筈である。通常のクエストで狩猟依頼を出されるのは精々2頭程度なので、必要以上の数を狩っているのは間違いない。
これを見せれば、確実にギルドナイト案件だろう。ココット村みたいなド田舎と違って、ミナガルデには居るだろうからな、ギルドナイトさん。
……では、さらば!
「うぅぅ……ああっ、ちょっと待ちなさい! それを何処へ持っていくつもり!? 主人に報告して、ワタシをギルドナイトに突き出す気ね!? そうはさせないわよ!」
『きゅ~っきゅっきゅっきゅっ♪』
「――――――って、脚速っ!? アンタ本当にガブラスなの!? 鳥竜種みたいに走るんじゃないわよ!」
ウフハハハ、ココット山で鍛えた我が脚力、捉えられる者無し!
このままミナガルデまで突っ走って、お前のペット枠として中に入ってやる!
「うぉおおおおおっ!」
『きゃ~♪』
「クソッ、腹立つこのガブラス! つーか、マジでどうなってんのよ、アンタの脚は!」
走る~走る~、僕た~ちィ~♪
『きゅっ!』
「あぁっ……!」
よーし、着いたな、ミナガルデ。ヒルメルン山脈の端っこの、切り立った崖を掘削し、僅かな平地と洞窟を利用した、狩人の集まる街。真ん中に噴水が設置された広場には4つの出入り口があり、正面にはハンターの集う酒場と武具工房、西には活気溢れる市場、東にはハンター用のゲストハウスが位置している。それぞれ巨大な角骨や酒のグラスなど、看板の代わりとなる物を掲げているので、何処に何があるか視覚的に分かり易い。実にお洒落だ。
そして、この広場に辿り着いたという事は、僕の勝ちである。
「あら、最近メキメキ腕を上げているハンターさんじゃない。……その子は、貴女のペット?」
「えっ……あ、はい、そうです。珍しくて人懐っこいのでね、アハハハ……」
荷物を運ぶ女性に頭を掻きながら答える密猟者。
こいつ、恒常的に嘘を吐いてるな。さもなきゃ、僕がポーチを再度チラ付かせただけで、ここまでの法螺は吹けないだろう。「騙して何が悪い?」って感じ。このライアーめが。
しかし、今はその人間の屑っぷりが役に立つ。宜しくお願いしますねぇ、密猟者さん♪
『きゅっきゅー』
「くっ、無駄に知恵の回る奴め。覚えてなさいよ……!」
フハハハハハ、くっころくっころ。
◆ミナガルデ
ココット山の向こう側にある、狩人の集う街。崖を切り開いて造られた拠点であり、少し歩けばそこが狩場となる。ココット村とも交流があったが、ココット山から行ける唯一のルートが土砂災害で潰れてしまった為、現在は断絶状態にある。ただし、他の地域とは交易を続けている模様。
所謂オンライン限定の集会所なので、今では色んな意味で行きようがない場所である。