翼を下さい   作:ディヴァ子

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今回は密猟者の視点


閑話:白夜のハリケーン

「何て事なの……」

 

 ミナガルデのゲストハウスにて、ワタシ――――――メラル・アイルールは深い深い溜め息を吐いた。

 

『きゅん』

 

 この訳の分からない、アルビノのガブラスに目を付けられてしまったからだ。

 ……これまでの人生、そこまで順風満帆ではなかったが、それでもそこそこは上手く行っていた。

 ある日、何処かの森で目を覚ました、名前も過去も無い孤児、それがワタシ。

 その頃は感情らしい感情が無く、ただ奪う事を考えて生きていたと思う。見た目だけは可愛らしいお人形さんのような容姿なのを利用し、行商人やソロのハンターに無垢な子供の振りをして近付き、寝込みを襲って金品と命を奪い、装備を改めていった。その過程で“相手に話を合わせる技術”を学び、回数を重ねる毎に騙し上手になっていった。

 その後、成長したワタシは乗っ取った経歴を使ってギルドに登録し、ハンターとなった。

 もちろん、真っ当な狩人ではない。表向きは良識あるハンターとして活動しつつ、裏では密猟を繰り返して、コツコツと財産を築いてきた。時には疑われないよう、同業者をスケープゴートにする事で媚びを売り、今日まで上手くやれて来たのである。

 だが、ミナガルデに活動拠点を移してから暫くした今日、遂にワタシも運が尽きたようだ。こんな意味不明のガブラスに密猟現場を目撃された挙句、証拠品を奪われて脅される事になろうとは。これが因果応報だとしたら、皮肉という他ないだろう。最悪だぁ……。

 

『きゅきゅきゅん!』

 

 どうやら、このガブラスは本が読みたいらしい。それも沢山。翼蛇竜の分際で何を言っているんだと思ったが、どうにもマジのようである。その為にワタシを利用してミナガルデまで繰り出したんだとか。事実、本を渡すとしっかりと読み始め、理解しているかのような仕草も取っている。

 人語を解し文字も読め、それがどういう物か分かる頭脳もあるとか、どんなモンスターなんだ。ある意味、そこらの大型モンスターより恐ろしい気がする。これは人類の危機よ!

 ――――――それはそれとして、これからどうしようか?

 ガブラスとしては拠点に本を集め、悠々自適な高山ライフを楽しむつもりのようだが、それまでに掛かる出費は確実にワタシの負担になるし、最後は用済みとしてギルドに売られる可能性は大いにある。マジで詰みじゃん。

 どうにかして、このガブラスを口封じ出来ないものか……。

 ちなみに、読書の最中も警戒心はバリバリにあるらしく、1度暗殺を試みて反撃の毒牙を受けて殺され掛けたので、そちらに関しては諦めている。狩猟中にフレンドリーファイヤーするか、大型モンスターへの囮として置き去りにするしかないだろう。なお、出来るかどうかは別問題とする。

 

『きゅ……』

 

 と、ガブラスは読書に満足したのか、今度は刺繍セットを取り出した。そんな物を出して、裁縫でもする気か?

 

『きゅっきゅきゅ~ん♪』

 

 さらに、ワタシが剥ぎ取ったヒプノックの素材も手繰り寄せたかと思うと――――――、

 

『きゅん!』

「嘘でしょ……!?」

 

 あっという間に胴と腰の装備を作ってしまった。それも今までにないデザインで。その後も止まる事無く腕、脚、頭と縫い合わせ、半日も経たない内にヒプノS一式を作り上げた。思わず無言で見守っちゃったよ。

 しかも、発動スキルが元来の物と変わっていて、マイナススキルである【腹減り倍加】が【腹減り耐性(というか無効)】となり、【睡眠強化】と何故か【剥ぎ取り名人】まで付いてくるというから、さぁ大変。こいつ、そこらの職人より、ずっと腕が良いぞ!?

 一応、属性耐性自体は変化しておらず、刺繍がメインだからか防御力も少し低いが、スキルの充実具合が半端ではないので、補って余りある有用性を持っていると言える。

 あと、デザインが凄い。本来のヒプノシリーズは秘境の民族衣装を思わせる意匠なのだが、これは違う。

 何と言うか、可愛いのである。「七色尾羽根」を袖や襟元、スカートに使い、「眠鳥の橙毛」を基地にしたデザインはブナハ装備に近く、加えて「眠鳥の胃石」をアクセントにしている為、非常に煌びやかだ。その上、腕甲や脚甲には「眠鳥の尖爪」を使用し、胸当てに「眠鳥のクチバシ」を使っているので、女性らしさも際立っている。頭のカチューシャは特に秀逸で、狩場処か舞踏会に着て行っても通じるようなプリティさである。

 

『きゅー』

「えっ、くれるの?」

 

 しかも、それをポンとくれる気前の良さ。これを着てもっと稼げという意味だろうが、防具を新調したかったワタシとしては願ったり叶ったりであり、特に問題はない。武器は流石に無理だろうが、そこはミナガルデの職人に任せればいいだろう。これで素材集めも楽になるし、一攫千金も夢ではない。

 

 ……も、もう少し、生かしておこうかな~?




◆メラル・アイルール

 名前も顔も全てが偽りの簒奪者。今の名前も以前奪い取った物である。人を殺す事に躊躇いが無く、モンスターは高く売れる素材としてしか見ていない。生まれた時から孤独であり、倫理観を一切学ぶ事無く生き延びた結果、奪う事と殺す事しか考えられなくなった。
 ただし、かなりのお調子者でもあり、普段こそ慎重に行動しているが、肝心な時に図に乗って失敗する事も多い。
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