『きゅきぃ……』
ミナガルデに滞在してから、早数日。僕はある悩みを抱えていた。
……やぁ、皆さん、こんばんは。僕だよ、飛べないアルビノ・ガブラスこと、元村人だよ。
そして、僕の悩みというのが、まさにそれ。本当に何時までたっても翼が開かず、何故か脚ばかりが発達して、まるで海竜種のような体形になってしまっている。
むろん、前脚は鉤爪のある翼であり、2足歩行でテケテケと走る事になるので、動く姿はあまり似ていないが、それはそれで気持ち悪いと思う。何の因果かガブラスになっちゃったんだからさぁ、せめて空くらい自由に飛ばせてよ。これじゃあ、翼蛇竜じゃなくて、ただの蛇竜だよー。
「ただいま~♪」
すると、扉を開けて部屋に入って来る女のハンターが。こいつの名は「メラル」。以前、寄生先として選んだ密猟者だ。
もちろん、今日も今日とて違法な狩猟を繰り返している。大々的ではないが、かと言って少なくもない、絶妙なラインで狩ってくる為、今の所ギルドにバレる気配はない。今までもそうやって来たのだろう。お前、何時か絶対に痛い目に遭うぞ。
まぁ、それに拍車を掛けるような装備を提供した、僕が言えた義理じゃないだろうが。本当ならマイナススキルが付いちゃう所をプラスに書き換え、デザインも新調した、「睡眠爆破」御用達な防具である。それとヒプノ武器を合わせて効率良く狩りを進めている為、メラルのハンターランクもどんどん上がり、そろそろ
裏稼業で儲けている犯罪者が最上位ハンターとは、世も末だ。
――――――それで、今日は一体何を狩ってきたのかねぇ?
「今日はねぇ……じゃ~ん、「ガララアジャラ」で~す♪」
『きゅ~い』
僕の近縁種じゃないですか、やだー。
というか、よくソロで狩れたな、「ガララアジャラ」。
「絞蛇竜」の異名を持つ、40~50メートルという長大な身体を持つ大型のモンスターで、名前通り蛇のような見た目をしているが、短いながらも四肢があり、明確に別の生き物である事が分かる。頭や背中、尻尾の先端に生える、甲殻(もしくは鱗)が変化した共鳴器官「
そう、長大な身体で蜷局を巻いて逃げ道を塞ぎつつ、破音や毒を食らわせるのが、ガララアジャラの主な戦法であり、その巨体に見合わず案外とクレバーなモンスターなのである。
狡猾で知能が高い、蛇のようなモンスター……なるほど、ガブラスの親戚だというのも納得出来る。蛇足かもしれないけど。
「さぁさぁ、報酬で本も買って来たから、新しい防具を作って頂戴な~♪」
『………………』
それにしても現金な奴だな、こいつ。僕がスキル重視の防具を作れると分かった途端に掌を返しやがって。裁縫は好きだし、出費は全部メラルが負担しているから、別に良いんだけど。博愛精神とか自然信仰とか、そういう宗教には興味ないし、他のモンスターが多少減ったところで、僕には関係のない事だ。
さて、それじゃあ、お休み前の刺繍タイムと行きますかー。ぬいぬいチクチク、チョキンパチン――――――はい、完成!
『うきゅ』
「おおー、これが新しいガララ防具かー!」
僕の作り上げたガララ一式を、嬉しそうに手に取るメラル。
本来のガララSシリーズはサンバでカーニバルしそうなデザインだが、僕のはボロスXシリーズを参考にしたプリンセスな意匠で、“森の妖精”といった感じに纏めている。
スキルは【麻痺耐性(無効)】【耳栓(高級)】【捕獲名人】に加えて【弱点特効】と【麻痺強化】が付く。むろん、マイナススキルは無く、その代わりに防御力が低い。ガララアジャラを斃せる程の腕前なら問題ないだろうが。
「早速明日から着て行こうっと。次は何を狩ろうかな~♪」
鼻歌なんぞ吹いて、暢気な奴め。何時かと言わず今すぐ痛い目に遭ってしまえ。
と、その時。
――――――コンコン。
誰かが部屋のドアを叩いている。
「……、……はーい!」
一瞬だけメラルの目付きが変わり、直ぐに戻って返事をした。何だ、今の殺し屋みたいな表情は。
「はーい、夜遅くにすいませんねぇ~」
入って来たのは、受付嬢のベッキー。赤を主体としたメイドシリーズに身を包んだ、お下げ茶髪の女性で、ミナガルデの切り盛りを一手に担っている優秀な人物である。偶に変な事を言い出す場合もあるが、それも含めて皆から愛されている、ミナガルデのアイドルと言っても良いだろう。
……相方のドリスちゃんも忘れないであげてね。
それはそれとして、こんな夜分に受付嬢が何の用だろうか。定時はとっくに終わっているだろうに。
――――――ヒュン! カキィン!
『きゅ?』
何だ、何が起きた!?
ベッキーが笑顔のまま毒々しいナイフを投げたと思ったら、メラルも微笑みながら剥ぎ取りナイフで弾き飛ばしたぞ!?
「あら、刃を抜いたという事は、用件は分かってらっしゃるようで」
「そうですね。こんな夜遅くに来る時点で、色々と察してましたよ」
「あらあら。それでは、ここからは“ギルドナイト”として対応します。……上位ハンター:メラル・アイルール、お前を多数の密猟罪で粛清する」
「殺れるものなら」
――――――ヤバい、鬼が2人いる。それも息をするように人を殺すタイプの。
というか、ギルドナイトだったのね、ベッキー。知らなかったー。
「ちなみに、証拠はあるんですか?」
「買収するなら、もう少し口の堅い男を使うんだな。ちょっと“サービス”してやったら、面白いくらいに吐いたぞ、あの酔っ払い。まぁ、用が済んだら“お仕置き”してやったがね」
「なるほど。という事は、ギルドへの報告はまだなんですね? 彼にはさっき横流しをお願いしたばかりですし」
「そういう事になるかな」
何か腹の探り合いをしてる。メラルとしては、ベッキーが“個人”として動いているのか“密命を帯びて”動いているのかを知りたかったのだろうが、どうやら前者らしい。偶々仕入れた
「そうですか……なら死ね!」
「そっちこそ!」
こうして密猟者と処刑人の殺し合いが始まった。二振りの刃が煌めき、拳が唸り、蹴りが飛び交う。
……他所でやってくれー!
◆ベッキー
ミナガルデの敏腕(?)受付嬢。その割にはサボりがちで意味不明な事をやらかすが、やる時はやれる子であり、彼女が居ないとミナガルデは1日たりとも回らないという。赤っぽい髪とメイド服が特徴。相方に「ドリス」という青いメイド服というギルドガールがいる。
その正体はギルドナイトの一員。(半分地も入っているが)抜けな振りをしつつ、ハンターたちを監視し、いざとなれば独断で“処分”する事が許されている。