「せぃっ!」「はぁっ!」
『………………』
よくやるなぁ、2人とも。さっきからお互いに一歩も譲らないまま、延々と殺し合ってるよ。どういう身体能力してんだか。
……やぁ、皆さん、お晩です。ミナガルデに滞在中のアルビノ・ガブラスこと、元村人の僕だよ。
いやー、遂にこの時が来たかって感じだね。何時かバレるとは思ってたし、何なら今すぐ痛い目に遭えと願ってたけど、まさか現実の物になるとは。メラルも今回は装備に浮かれて詰めが甘かったようだな。
しかし、
「シッ!」「くっ……!」
おっと、一瞬の隙を突いて、ベッキーがメラルのナイフを蹴り飛ばしたぞ。
「フッ!」「がっ……!」
さらに、自らナイフを投げて肩を一閃。メラルに手傷を負わせた。
「ぐっ……!?」
すると、メラルが急に糸の切れた人形のように倒れたかと思うと、ビクビクと痙攣し始め、どんどん顔色が悪くなっていく。どうやら、毒入りだったらしい。
「どうだ、棘竜「エスピナス」から抽出した毒の味は? 身体が冷たくなって、動かなくなっていくだろう? お前はこのまま、ここで1人寂しく死んでいくんだ」
「………………」
「――――――おっと、1人じゃなかったか」
と、今度は僕を狙い始めたよ、ベッキーちゃん。
「君に罪はないが、賢過ぎるからね。私の秘密はギルドだけの物なんだ。だから、済まないが、消えて貰う事になるよ」
『きゅあ!』
「無駄だよ。毒無効が発動しているし、漢方薬もあるからね」
クソッ、平然と解毒しやがって。漢方薬なんて物を開発した奴は死んでしまえ!
「さて、そろそろ――――――」
「終わりにしましょうか、ベッキーさん?」
「何ッ!? ……ぐっ!」
だが、ベッキーの刃が僕を捉える事は無く、それ処かスクッと立ち上がったメラルに首筋を切られ、血飛沫を上げる。直ぐに回復薬を掛けて傷口は塞いだものの、ベッキーはかなり血を失ってしまった。
「くっ……!」
「どうだい、ガララアジャラの麻痺毒は? 身体が痺れて動けないだろう?」
その上、メラルのナイフにはガララアジャラの麻痺毒が塗ってあったらしく、今度はベッキーが痙攣する破目になる。あ、パンチラ。……赤か。
「………………!」
「何故、どうしてって顔してるね? ……ワタシが何日この子と一緒に居ると思ってるの?
ベッキーの視線に、メラルが微笑みで返す。
――――――怖っ、何こいつ、どういう神経してんの!?
ようするに、僕の毒を少しずつ摂取して、免疫力を極限化していたって事でしょ?
頭おかしいよ、この女……。
「――――――だけど、アナタは違うわよね~?」
しかも、使用していたと思しき毒ビンを取り出し、ベッキーにチラつかせる始末。性格悪いな、お前。というか、何時の間に採取してたんだ、貴様。
「だけど、その前にやる事があるの」
しかし、メラルはビンを1度懐へ引っ込め、ナイフをベッキーの顎に当てたかと思うと、
「……、……、……ッ!」
「ほら、我慢して~? ギルドナイトって事は、そういう経験が無いでも無いんでしょ? それが今回、自分に向けられただけなんだからさ……」
何と、彼女の顔面の皮を剥ぎ始めた。当然、麻酔などされている筈もなく、痺れる身体を僅かに捩りながら、ベッキーが声にならない悲鳴を上げる。
「さてと……」
その上、メラルは自分の面皮までも剥ぎ取り、お互いの
「入れ替え、完了♪」
すると、見る見る内に皮が癒着し、顔の交換が完了してしまう。グ、グロい……!
「回復薬は、人の治癒能力を高める薬品。だから、配合を少し弄れば、ほらこの通り。剥ぎたての皮くらいなら、一体化させる程度は朝飯前ってワケ」
そーなのかー。知りたくなかったし、そんな使い方するの、お前だけだろ。
……たぶんだけど、こいつは今まで
「さてさて、これでアナタは用済みよ。これからアナタは“密猟犯:メラル・アイルール”として処理され、その手柄をワタシが受け取るの。それじゃあ、バイバイ、メラルちゃん♪」
「……、……、…………、ガクッ」
そして、今度こそ毒液を掛けられ、ベッキーは苦しみに苦しみ抜いて、壮絶な表情で息絶えた。
「いや~、気儘なハンター生活も悪くないけど、皆のアイドルってのも良いわよねぇ?」
と、僕の方へ振り返るメラル。その仕草は、何時ものベッキーそのものと言って良い程に、完璧な仕上がりだ。顔が同じというのもあるだろうが、それでも不自然さはない。それこそ、ストーカーレベルのマニアでもなければ気付けないだろう。
そう、既に彼女はメラルであって、メラルではない。今はミナガルデの受付嬢にしてギルドナイトの、ベッキーとなったのである。
「ふぅ……さーてと」
おっと、こっちを向いたよ、メラル改めベッキーが。顔は笑ってるけど、目は座ってるねぇ。
――――――これは、唯一の目撃者を殺すつもりやな。
「ワタシの言いたい事、分かるよね? 」
『きゅー』
もちろん、一体どれ程の時を過ごしたと思っている?
使える奴は使い、用が済んだら殺す。お前はそういう奴だよ。
「今まで世話になったけど、ワタシがワタシである為に、お願い、死んで~♪ ……まぁ、ワタシの雑用係として竜車竜の如く働いてくれるなら、別だけどねぇ~? どうする、んん~?」
ハッ、圧倒的優位に立ったからか、調子に乗ってやがる。最初に出遭った時と同じように。そこの所が、お前らしさなんだよな、ある意味で。
『きゅ~……』
「アハハハハ、恥も外聞も無いわねぇ! 安心しなよ、ワタシを誰だと思ってるのぉ~?」
『うきゅー……ペッ!』
「うへぁっ!?」
……だが、断る。この僕が最も好きな事の1つは、自画自賛してる馬鹿に「NO」と断ってやる事だ。このタンペは、その返礼だよ、クソアマ。
「そうかい……なら、もう死ねよ!」
ほぉら、怒った。慎重で狡猾だけど、直ぐに調子に乗るし怒り出す。お前はそういう奴だよ、名無しの権兵衛さん。
『シャーシャー!』『ギャーギャー!』『ギキィッ!』
「何だッ!? どうしてガブラスが……!?」
突然、窓の外から飛び込んで来たガブラスたちにより、ベッキーの攻撃が中断される。
「……お前、何をした!?」
さぁね。答えてやる義理は無い。
それより、こんな大騒ぎになって、大丈夫なのかい?
ここは他のゲストハウスよりも離れた場所にあるから、多少騒いでも問題ないが、流石に「災厄の使者」が群がっていれば、誰かしらは駆け付けて来るぞ?
『きゅっ!』
「くっ……光に紛れて……!」
さらに、閃光玉で視界を真っ白にし、光に紛れる形で逃亡する。窓から飛び降りる形になるが、少々の高さならノープログムである。やーいやーい、ファンゴのケツぅ~♪
「クソッ、覚えてろよガブラス! 絶対に殺してやるからなぁ!」
『きゅ~っきゅっきゅっきゅっ♪』
それじゃあ、さらばだ、ミナガルデと皆のアイドルさ~ん!
◆ベッキー
ご存じ、ミナガルデのアイドル。今日も変わらずハンターたちへクエストを提供し、ミナガルデを回している。以前よりも少しドジが増えたが、許容範囲なので特に誰も気にしていない。ドリスとの仲も良好な模様。