『きゅー』
やぁやぁ、皆さん、おはよう。最近までミナガルデでオトモガブラスをやっていた、元村人の僕だよ。
いやー、色々ありましたねー。メラルもといベッキーは、今頃どうしているだろうか。僕の事なんて忘れて、幸せなアイドル生活を送っていて欲しい。割とマジで。
……だけど、去り際に導蟲にマーキングされてしまったようで、ミナガルデ及びココット山には居られない。何時痕跡を辿って口封じに来るか分からないからな。やってくれたな、ベッキーの奴。
まぁいいさ。導蟲の索敵範囲外に出てしまえばいいだけの事。それに導蟲は特性上、相手にも接近がバレてしまう諸刃の剣なので、見付かったらまた逃げればいい。もしくは二度と追えないよう、分からせてやるか。
何れにしろ今後の拠点は、ミナガルデの管轄外の地域になる。
差し当たっての滞在場所は、西シュレイド地方最大の都市「ヴェルド」だ。「城塞都市」の異名を持ち、街全体が武装化した壁で囲まれた、物々しい都市である。壁の内側は富裕層が贅沢な暮らしをしているが、それ以外は壁の外でスラムを形成しているという、貧富の差が激しい場所でもある。
僕のような余所者かつ人外には、実に都合の良い街だ。貧困街で何がどうなろうと、誰も気にしないからな。人間って怖い……。
さて、暗い話はここまで。ココット山から地続きとは言え、ヒンメルン山脈を彷徨うのは、非常に骨が折れる。さっさとスラムに侵入して、都合の良い人間を見付けよう。
目指せ、理想のヒモ生活!
――――――転生当初と目的が変わって来てるのは内緒。だって元人間だもの。この翼が開いてくれたらなー。
『ギュァアアアアッ!』
おっ、リオレウスだ。ココット山が属するヒンメルン山脈というだけあって、飛竜が多いな。5分に1回は目撃する感じ。こうして安全圏からワールドツアーを眺められるのは、ある意味奇跡だよねー。
それにしても、本当に森林限界の低い山地だな。ココット山よりも標高が高いからか、3合目くらいから樹木が消失し、岩肌が見え始めている。当然、森に棲むような中型モンスターは見当たらない。
ただし、ヴェルドに程近い、一際高い「中央シュレイド」の山々は注意が必要である。寒冷地故にデカい生肉こと「ポポ」がおり、それを食べに轟竜「ティガレックス」が訪れる事があるからだ。
とは言え、元々定住地を持たないティガレックスに遭遇するのは稀だし、そもそもヒンメルン山脈のポポは数が少な過ぎるので、フラヒヤ山脈程に遠征してくる事はない。というか、ティガレックスの前にリオレウスが狩ってしまう為、あり付ける可能性は限りなく低いと言える。それでも遭遇するようなら、そいつの運が悪いと言う他ないだろう。
『きゅあ~ぁ……』
そろそろ日の出だから、仮眠を取るとするか。ココット山で旅路の用意はして来たし、本も数冊持ってるけど、やはり野生下では寝れる時に眠った方が良い。環境生物ばかりとは言え、危険地帯である事に変わりはないのだから。先ずは宿探しを……、
『クァ……』
『きゅ~?』
おや、空から猛禽類っぽい小型モンスターが落ちて来たぞ?
僕たちガブラスと同程度の体躯を持つ鷹のような飛竜種――――――「ホルク」だ。見た目通り凶暴な種族で、主に小型の動物を空中から急降下して仕留めるハンターである。
身体こそ小さいが、食べた餌によって様々な属性攻撃を繰り出せる特異な体質と、道具を道具と理解して扱う知能を併せ持ち、飛行能力も非常に高い為、ガブラスや翼竜種では勝ち目のない、空棲系の小型モンスターでは最上位クラスの捕食者だ。下手すると並みの大型モンスターよりも脅威なモンスターと言える。
一方、助けた相手にはデレる意外な一面もある。種族全体を通して誇り高くも義理堅い性格なのだろう。第2のドンドルマこと「メゼポルタ」では、その性質を利用した「オトモホルク」なんて物も存在する。
……よし、この傷付いたホルクを助けて、僕の舎弟にしよう。空の足があれば、行ける範囲も広がるからね。
そうと決まれば、絶賛気絶中のホルクを優しく咥えて、丁度良さそうな岩陰の隙間へ運ぼうか。よいしょ、よいしょ、よいしょ。
『きゅー』
ふぅ、疲れた。流石に自分と同じくらいの生き物を運搬するのは厳しいな。高山だから空気も薄いし。
そんな事よりホルクの治療である。誰に何をされたのかは知らないが、結構弱っているし、命が危ない。今すぐ手当てしなければ、1時間と持たないだろう。
という事で、食らえ回復薬G。掛けるより飲む方が効くが、嘴を開く元気も無いようだから仕方ない。そーれそーれ。
『クルルル……』
おっ、目が覚めたかね。
『ケェエエン!』
『きゅっ!』
おうおう、寝起きにガブラスを見たからか、かなり興奮してらっしゃる。
しかし、ここで反撃しては意味が無いからな。攻撃が当たらないように往なしつつ、様子を見よう。どうせ体力が落ちているから、長続きはしないだろうし。
『ヒィ……ヒィ……』
案の定、5分と経たずダウンするホルク。よーしよし、そのまま大人しくしてなさい。今、餌をあげるからねー。
『きゅっ!』
『………………!』
僕が道中で採取していたキノコや虫類を差し出す。薬物の原材料として捕まえていた物だが、まぁ良いさ、投資だと思えば。
『……、……バクッ』
初めこそ警戒していたホルクだったが、僕が手を出さないのと、空腹が限界を迎えていた事が相俟って、1口食べてからは一気に貪りだした。よっぽどお疲れだったんだねぇ。ついでに予備のコートを貸して、寒さ対策も施してあげる。僕って優しい。
『……ZZZzzz』
そして、助けられた恩義からか、それとも食べて眠くなったのか、ホルクは僕を一瞥すると、そのまま眠りに着いてしまった。可愛い奴だな、おい。
さぁ、ここから目一杯甘やかして、僕に身も心も捧げざるを得ないようにしてくれるわ!
◆ホルク
主にフォンロン大陸に棲息している小型の飛竜種。隼にワイバーンを組み合わせたような姿をしている。肉食の強い雑食性であり、食べた物の影響を受けて様々な属性を発現するという、特異な体質を持つ。それに伴い体色の変化も著しい。
また、非常に知能が高く、野生下でこそ凶暴だが、一度助けられた恩義を忘れない義理堅い性格で、メゼポルタでは雛の頃から世話をする事で狩猟のオトモにしている。