ハ~イ、僕だよ、元村人のアルビノ・ガンダ……じゃなくてガブラスだよ~。
さてさて、ヴェルドのスラム街に侵入してから、早半月。名も無き孤児でしかなかった少女は既におらず、今や立派な新米ハンターとなっていた。装備はファンゴSシリーズ。僕やシュレイドの素材も混ぜ合わせた、オリジナルの防具である。防御力こそ低めな物の、スキルがそれを補って余りある代物で、上手く扱えばG級にだって着て行けるだろう。
そして、遂に彼女自身が狩場に立つ時が来たのだ。
本日の目標はズバリ、中型モンスターの狩猟と自前の獲物を作成する事だ。
実はこの小娘、武器制作の才能があるようで、スラムの一角を力尽くで占領し工房のような物を用意したのだが、何と初めての作業で「ボーンククリ」を作り上げてしまったのである。加工の簡単な骨武器とは言え、学の無かった少女が1人で武器を一振り完成させてしまうのは素直に凄い。
しかし、ボーンククリは初期も初期な鈍ら武器(というか斬れ味的に鈍器)なので、素材強化は必須事項だ。この辺りの生態系を考えると、「ラッシュタッグ」を目指すのが堅実だろう。幸いボーンククリを強化するのに必要な素材は採集や小型モンスターの討伐だけでも可能なので、ドスファンゴの狩猟を最大目標としつつ、ブルファンゴやリノプロスを狩って行きたい。
という事で、ギルドへクエストを受注しに向かうぞ!
「………………」
本当に喋らん子やなぁ……。
◆◆◆◆◆◆
とりあえず、登録は済ませた。
出身地も経歴も嘘八百で塗り固め、「アイル・パーカー」という偽名で通した。設定を端的に言ってしまえば、“モンスターの襲撃で故郷を失い、生計を立てる為にハンターになった”みたいな感じ。割とよくある話である。これなら何処ぞの密猟者のように過剰な狩猟さえしなければ、目も付けられないだろう。
来る者拒まず、去る者追わず、但し無法者には鉄槌を。それがハンターズギルドの雇用指標だ。
まぁ、そんなこんなで、名無し改めアイルは、僕たちをオトモに狩場へ立った。実際には逆なんだけどね。
狩猟地は「深黒林(正式名:「ヴェルドラの森」)」。ヴェルド周辺に広がる、深く黒々とした森林地帯である。豊かな自然に裏打ちされた、強大なモンスターが犇めく場所だ。生息しているモンスターは牙獣種や獣竜種、鳥竜種がメインで、飛竜種はあまりいない。木々の背丈が高い上に重量級のモンスターが跋扈しているので、着陸する隙が無いのだろう。巣作りならヒンメルン山脈の高所にすれば良いだけだし、餌も森丘で充分に得られるので、わざわざヴェルド周辺に棲み付く旨味は殆ど無い。
かように深黒林は“翼をもがれた獣”の楽園なのである。
ちなみに、ヴェルドが管理する狩場は深黒林の他に「山脈(ヒンメルン山脈の麓)」しか無く、交易こそ盛んなものの、ハンターが活躍する場所はあまり無かったりする。東西南北を山と海で囲まれた立地が、排他的な環境を生み出しているのだろう。
逆に言えば、アイルのような妖しい奴でも、成果さえ上げれば諸手を挙げて歓迎されるという事だが。何れにしろ、僕たちにとっては都合が良い。
さぁ、無駄話はこれくらいにして、狩猟に集中しよう。
『フシュー……ボォルルルルル』
と、早速大型モンスターと遭遇した。湾曲した2本角、苔生した背中の瘤、ゴツい尻尾のハンマーが特徴的な獣竜種――――――尾槌竜「ドボルベルク」だ。獣竜種にしては珍しい草食性だが、尻尾の一振りで木々を薙ぎ倒し、それをバリバリと食べる、割と凶暴な種族である。また、ディアブロス並みに縄張り意識が強い為、時には大型の肉食竜すら追い払う事もある。
だが、喧嘩を売ったりせず、遭遇したら慌てず騒がず速やかに撤退すれば、危険はない。今回は狩猟対象ですらあないので、大人しく道を譲れば良いだろう。
『ボヴゥゥゥ……』
『『「………………」』』
『……ボルゥフッ!』
……去ったか。単独期間中の雄個体だったようだ。これが子育て中の雌だった場合、問答無用でぶん殴られるので、その時は運が悪かったと諦めるしかない。僕らは逃げられるけど(笑)。
深黒林はドボルベルクを筆頭にした大柄な草食モンスターが多数生息しており、狩る相手を間違えなければ、事故の危険が少ない狩場と言えるだろう。不意のアンジャナフは知らん。
『フォォォ……』『ブォォォン……』『フゥン……』
お、今度はリモセトスの群れか。長い首を見上げる程に立ち上げた、草食竜の1種である。体躯こそ下手な肉食竜よりもデカいが、ドボルベルクなどと違って非常に大人しく、子供に襲い掛かりでもしない限り、反撃される事も無い。背景として放置しよう。生肉が欲しい訳じゃないし。
『プォゥ……』『モフゥ……』『クルルル……』
少し開けた場所(おそらくドボルベルクの食事跡)に出ると、数頭のリノプロスが屯していた。全身が硬い甲殻で覆われた草食竜であり、目と頭は悪いが耳は良いので、ハンターが近付くと脇目も振らず突っ込んで来る為、「ロケット生肉」と揶揄される害悪な奴らだ。
しかし、ラッシュタッグを作るには彼らの甲殻が必要になるので、リモセトスのようにスルーする訳にはいかない。その命、狩らせて貰う。アイルがな!
『きゅあ!』
『『『ファッ!?』』』
一先ず、閃光玉を投げて目を晦ませる。視力が弱いと言っても見えない訳ではない為、リノプロスの動きを封じるには閃光玉が一番良い。耳が良い癖に音爆弾で怯まないからな、あいつら。
『ペッ! ペッ! ペェッ!』『キィイイイイイイン!』
『『『ホグゥッ!?』』』
さらに、僕の毒とシュレイドのブレスが決まり、リノプロスたちは虫の息となる。
「………………!」
『『『ギッ……!』』』
そして、アイルのボーンククリが止めとなり、完全に息絶えた。
まぁ、初めはこんな物だろう。ブルファンゴならいざ知らず、リノプロス相手にククリじゃロクに刃が立たないし。
だが、ブルファンゴについては自力でやって貰わないと困る。さもなきゃ、ドスファンゴなんて夢のまた夢だからな。
余談だが、今回のクエスト内容は「リノプロスとブルファンゴ 15頭の討伐」だ。最近、やたらとスラム街に迷い込むリノプロスやブルファンゴが増えているらしい。原因は不明だが、渡りに船なので乗っからせて貰った。
さぁさぁ、次はブルファンゴだぞ、アイル!
「………………」
……やっぱり喋ってくれないなぁ。失語症かな?
ともかく、リノプロスは手伝ったんだから、ブルファンゴは自分1人でやれ。
『ブルルル……』『フガフガ』『ファンゴファンゴ!』『モッスゥ……』
リノプロスの剥ぎ取りが終わり、また少し移動すると、数頭のブルファンゴを発見した。モスも混じってるが、気にしたら負け。巻き込んだとしても、コラテラル・ダメージだ。死ね!
「………………!」
『『『『プギィ!?』』』』
接敵早々、僕と同じく閃光玉で目潰しに掛かるアイル。それで良い。群れを成した小型モンスターを相手に、律儀に正面突破してやる筋合いはないからな。
「………………」
『『『『ブタァ……ッ!』』』』
さらに、眼が眩んでいる間に毒煙玉をばら撒き、スリップダメージを与えつつ、剣で斬り、盾で殴り飛ばして、ブルファンゴたちを斃した。
片手剣の長所は、抜刀中でもアイテムが使える事。卑怯千万、罠嵌めが出来てこその武器種である。
この調子なら、ドスファンゴを相手にしても遅れは取らないかもな。
――――――その後、特にミスを犯す事も無く、必要数のリノプロスとブルファンゴを狩り、アイルと僕たちは帰路に着いたのだった。
◆アンジャナフ
深い森を好んで棲み付く大型の獣竜種。桃色の鱗に黒い羽毛が生えた、所謂「羽毛恐竜」のような姿をしているが、実は鶏冠状の鼻骨と1対の背鰭を折り畳んでいる。非常に鼻が利き、獲物を執念深く追い続ける、ストーカー気質の持ち主。その為、決まった縄張りを持たない。体内に火炎袋を持ち、興奮状態になると鼻骨や背鰭を展開し、口から爆炎を吐いて暴れ回る。
ちなみに、アンジャナフは飛竜種に滅茶苦茶弱いので、深黒林に棲む個体は半ば閉じ込められているような状態だったりする。