『きゅきゅ!』
白いガブラスが、とあるクエスト表を持ってきた。内容は「ドスファンゴ 2頭の狩猟」。
……いよいよか。
名無しのわたしが、アイル・パーカーとして名を売る為の、第1歩だ。装備は充分。ボーンククリは既に「ボーンタバール」へ強化済みだし、回復薬やバフアイテムに罠も持った。
後は、わたし自身の腕が試されるだけ。「猛進剣【猪突】」――――――何れは、その先の「猪突猛進剣【愚直】」へと至る為にも、絶対に成功させなければ。
ただ、あまり緊張し過ぎても失敗の基なので、何時も通りに、ガブラスたちから学んだ知識と知恵を活かして頑張ろう。
『きゃう!』
「………………」
『きゅぅ……』
自分でも上手く喋れないので肯首したら、ガブラスがシュンとした。このガブラス、意外と寂しがり屋なのかもしれない。君にはホルクが居るだろうに。
まぁ、そのホルクもわたしが黙ってると残念そうな顔になるのだけれど。似た者同士って事か。
とにかく、出発だ。一狩り行くとしよう。
◆◆◆◆◆◆
深黒林――――――正式名称:ヴェルドラの森。
名前通り、黒々とした木々が生い茂る深い森で、ヴェルドとヒンメルン山脈の間にある全域を覆い尽くす広大なフィールドであり、大型の獣竜種や鳥竜種が跋扈する危険地帯である。特に危険なのは草食性の獣竜種:ドボルベルクで、アンジャナフでさえ迂闊に手を出せない、凶暴なモンスターだ。
しかし、わたしが求める獲物は、あくまでドスファンゴ。無用な狩りは命取りだし、他のモンスターを刺激しないよう慎重に進んでいこう。
だからと言って、臆する必要もない。何故ならわたしには、有象無象の人間なんかよりも、余程信頼出来る相手がいるのだから。
『ケェーン!』
『うきゅきゅ、きゅーん!』
上空でホルクが鳴き、わたしの足元を行くガブラスが応える。今のは半径1キロ圏内に危険なモンスターは見当たらない、という意味だ。ホルクの目は空の王者:リオレウスよりも優れていると言われ、ガブラスの耳はあらゆる音を聞き逃さない。これ程頼りになる狩猟のオトモがいるだろうか。
……彼らが周囲を警戒してくれているのだから、わたしは油断なく、何時も通りに狩れば良い。そうだろう、アイル。
『……うきゅきゃ!』
と、ガブラスが前方の薄暗がりを差して鳴く。
どうやら、多数のモスとブルファンゴが食事を取っているらしい。ブルファンゴが屯しているという事は、そう遠くない位置にドスファンゴが居るのだろう。ドスファンゴは食事の時以外は身体を地中に埋めて休んでいる事が多いので、上空からだと発見するのが難しい。警戒度を少し上げておくか。
『モスモス』『ブタブタ』『プヒープヒー』『モノブロ!』『スンスン』
『ブルルル』『ハフハフ』『ファンゴォ!』
居た。モスが5頭に、ブルファンゴが3頭か。
おそらく、ブルファンゴたちは食事の為に散開していて、モスの方はドスファンゴの威を借る腹積もりだろう。最悪、敵はブルファンゴに押し付ければ良いからな。実に狡く逞しい。
「………………」
さて、どうしたものかな。ドスファンゴを誘き寄せるなら、ブルファンゴを襲うのが手っ取り早いが、如何せん数が多過ぎる。ここは誰かに汚れ役を押し付けるべきかな。
「………………」
『きゅきゅ。……、…………、……!』
わたしが目を配すと、察しの良いガブラスが、人間処か並大抵の動物では聞こえない、特殊な超音波をホルクへ放つ。
『……コクリ』
すると、ホルクが分かったとばかりに肯首し、一旦この場を離れた。
『ケェアアアアッ!』
『バヴォオオオッ!』
そして、何処からかアンジャナフを毒ブレスで追い立て、モスとブルファンゴの食事場へ乱入させた。何と素晴らしい連携だろう。少しは人間も見習って欲しい。
『ガヴォッ!』
『プキーッ!?』『ブヒャーッ!』『ピーピーッ!』
あっと言う間に広場は混沌と化す。恐慌状態に陥ったモスが逃げ惑い、興奮したブルファンゴが無謀な突進を繰り返す。種族としての性格差が滲み出てるな。これなら、そう時間と経たず……、
『ガブゥッ!』『ピッ……!?』
ほら、先ずは1匹、ブルファンゴが食われた。
最強の座こそドボルベルクに譲っているとは言え、アンジャナフは深黒林の頂点捕食者。ドスランポスならいざ知らず、蛮顎竜を相手に突進した所で、怒らせるだけである。
だが、ブルファンゴが死んだという事は、生存競争のトリガーが引かれた、という意味でもある。
『ブモォオオオオオッ!』
程無くして、ドスファンゴが駆け付けて来た。それも2頭。
普通、ドスファンゴは群れに1頭しか居ないが、この2頭は兄弟かつ小柄な方がリーダーの座を譲っているらしく、喧嘩に発展する様子は見られない。それ処か、アンジャナフという格上の化け物を相手に、見事な連携攻撃を仕掛けている。前々から、こうしてコンビを組んで群れを守っていたのだろう。
『バヴォルァアアアアアアアッ!』
『ブギャッ……!』『ブルゥッ!?』
しかし、やはり相手はアンジャナフ。鼻骨と背鰭を展開し、口に炎を灯した怒り状態となってからは、形成が一気に逆転した。弟の方が爆炎で焼かれた上で首筋を噛まれ、そのまま投げ飛ばされてしまったのだ。
『グルヴォッ!』
『ギィッ……!』
さらに、隠し棘が立ち上がった強靭な尻尾の一撃で、兄の方も吹き飛ばされる。まさに蛮顎、森の暴れん坊。頂点捕食者の力を見せ付けた形になる。
……わたしたちの、計算通りに。
「………………!」
さぁ、狩りの時間だ!
『バヴォッ!?』
今まさに瀕死の弟ドスファンゴに止めを刺そうとしているアンジャナフの脚を、鋭い一閃で斬り抜ける。幾ら蛮顎竜とて、食事の最中に襲われては、真面な反応など出来まい。
『きゅあ……ぺっ!』
『グルヴォッ!?』
そして、我に返ったアンジャナフが反撃する前に、ガブラスの毒液が彼の視界を塞ぐ。大型モンスターは耐性が付き易いから油断は出来ないが、流石に今直ぐとはいかないだろう。
『ギャォッ! ギャヴォッ! グギャヴォッ!』
『グヴヴヴゥゥゥ……ッ!』
さらに、上空からホルクが龍属性ブレスの三連弾を放つ。アンジャナフは火以外の属性に対して抵抗力があまり無いので、結構なダメージになっている筈。このまま畳み掛ける!
「………………!」
『……ヴォァッ!?』
視界を塞がれ、四方八方から一方的に攻撃されているアンジャナフの足元が、突如として陥没する。わたしが設置した落とし穴が起動したのである。これでアンジャナフは少しの間は動けない。その隙に大タル爆弾Gを2つ置いて、走り抜け様に小型タル爆弾で起爆する。
『グガァッ!?』
よし、鼻骨が壊れた。続くジャストラッシュで背鰭も壊れる。
と、その時。
「――――――っ!」
不意に感じた殺気に、わたしは追撃を中断して緊急回避した。
『ブルァッ!』『ゴヴァッ!?』
その瞬間、息を吹き返した兄ファンゴが、勢い良く突っ込んで来る。もちろん、避けていたわたしには当たらず、アンジャナフが痛い目を見ただけだが。
「………………!」
『ブヴァッ……!』
そして、体勢を立て直したわたしのシールドバッシュが兄ファンゴを襲う。自慢の牙がバッキリと折れ、次いで嫌な音がしてから、兄ファンゴは動かなくなった。首の骨が折れたか。元々弱っていたから、こんな手数でも致命傷に成り得た訳だ。
「………………!」
『ブルゥ……ッ!』
さらに、落とし穴を抜け出したアンジャナフをシビレ罠で再拘束しつつ、ガブラスとホルクに相手を任せ、わたしは残る弟ファンゴと対峙する。憎悪と憤怒に満ちた顔をしているが……そんなのわたしの知った事じゃないんだよ。残るブルファンゴたちは無事に逃げ果せたし、お前の代わりは幾らでも湧いてくる。お前の役目は終わったんだ。
――――――だから、わたしを呪いながら死んで逝け!
「『――――――ッ!』」
一合。それだけで勝負は決した。
「くっ……!」
『………………』
わたしが膝を着くと同時に、弟ファンゴが息絶えた。彼の目にはわたしの剣が突き刺さり、反対側まで貫通している。擦れ違い様に、わたしが止めを刺したのである。
だが、わたしも無傷とは行かず、右の肋骨が全て砕け折れ、脇腹が抉れている。盾で受け流しながら回転して剣を突き刺したのだが、僅かに弟ファンゴが頭を振るって反撃し、わたしの右半身に甚大なダメージを与えて逝ったのだ。
クソッ、流石は大型モンスター、一筋縄ではいかないか……。
『うきゅあっ!』
「………………!」
瀕死の重傷故に蹲って動けないわたしに、ガブラスが回復薬グレートをジャバジャバと掛け、その後カプリと脇腹に噛み付いて何かを注入してくる。
「……はっ……ふぅ……」
すると、見る見る内に傷が塞がり、折れた肋骨も簡易ではあるが再結合した。効果を鑑みるに、ガブラスが牙から差し入れたのは強壮剤のような成分なのだろう。毒だけなく、そんな芸当も出来るとは、やはりこのガブラスは凄い。
『ZZZzzz……』
というか、知らぬ間にアンジャナフが捕獲されていた。
どうやら、ホルクとガブラスの追撃により、アンジャナフが捕獲ラインに達するまで弱ったので、ついでに捕獲用麻酔玉で眠らせたようである。これじゃあ、どっちがハンターか分からなくなるな。
ともかく、予定外の大物を手土産に、わたしたちはクエストを達成したのであった。
◆ドスファンゴ
ブルファンゴの中でも成長を重ねた巨大な雄個体。白い顎髭と左右非対称の立派な牙を持つ。左右で長さが違うのは、餌を掘り返す時に使う側が削れているからであるらしい。その体躯に見合った体力とパワーを持つ他、地中を掘り進む能力もある。
リーダー故に全ての雌を独占出来る代わりに、群れを守る義務が生じるので、世の中上手いばかりの話はない。