翼を下さい   作:ディヴァ子

26 / 52
家なき子から、一流のハンターにまでのし上がった、年頃の女の子。話題に上がらぬ筈もなく……。


富も名誉もある

 やぁ、皆さん、おはこんばんにちは。もう朝とか昼とか夜とか考えるの面倒臭いから、この挨拶で統一しよう。それが良い。

 さてはて、ヴェルドに定着してから暫く経った訳だけど、

 

「……、……おはよう。……こんばんは?」

『きゅあー』

 

 我らがアイルちゃんが、遂に言葉を喋るようになりました!

 正確に言うと、大分間が空いた末に単語を述べるだけなのだが、それでも大きな進歩である。だって、少し前は頷く事さえ儘ならないぐらい、自己表現が下手くそだったんだもの。思わず涙が出ちゃう。ドボルベルクを狩った事が自信に繋がったのかな?

 しかし、それ以上に嬉しいのは、

 

「……、……家、……わたし、たちの」

『きゅんきゅん♪』『クェエエエン!』

 

 何という事でしょう、マイハウスを手に入れてしまいました♪

 しかも、庭付きの一戸建て。大きさこそこじんまりとしているが、1人と2匹が住むには充分だ。その上、汲み取り式トイレ(汚水を溜めるタイプ)とお風呂という、高がハンターには分不相応なオプションまで付いている。臭いを気にしなくて良いのは嬉しい。

 それもこれも、数々の功績と、お得意様が出来たおかげである。

 数多の狩猟を経験したアイルの実力は最早G級間近であり、ドスファンゴ処かアンジャナフやドボルベルクさえ易々と狩れるようになった。ヴェルドでも指折りのハンターに成長したと言っても、過言ではないだろう。むろん、上には上が居るが、それこそ数えるくらいしかいない。どん底から這い上がってきた叩き上げのポテンシャルは目を見張るものがあった。

 そして、武器の関係上、角の破壊や尻尾の切断を得意としており、捕獲技術も相俟って、良質な角や尻尾を納入するのが、半ば当たり前の事になっている。盾で殴り、剣で断ち切る、片手剣ならではの物だろう。

 そんなアイルの納入品を甚く気に入って、相場よりも高めの値段で買い占める、物好きな顧客が現れたのだ。そいつは壁内でも有力な貴族の息子で、外の世界に憧れつつも身体的理由で屋敷に閉じ籠もっているという、分かり易い少年である。確か歳も近いから、会えば仲良く出来るかもしれない。アイルが彼の親を見る目は、完全に“親の仇”だけど。貧困街で1人寂しく虚無っていた事から、過去に何か因縁があったのだろうが、聞くのが面倒なので追及はしないでおく。

 ともかく、その貴族の少年のおかげで、巨万の富を得る事が出来た。その成果が、このマイハウスだ。壁内の住民にとって、あくまで“都合の良い使いっ走り”程度の認識しか持たれていないハンターに対して、これは破格の対応である。それだけアイルが活躍しているという事だろう。最早、貴族お抱えのハンターと言っても、罰は当たるまい。

 いやー、これは有難いね。お陰様で新たな書籍も購入出来たし、収納場所にも困らないと、至れり尽くせりよ。マイルームもあるから、仄暗い部屋の中でゆっくりと本を読める。シュレイドも自分の部屋を貰ったから、各々がプライベートを確保出来ていると言えるだろう。何て贅沢な暮らしなんだ。

 

「……ごはん」

 

 さらに、最近分かった事だが、このアイルちゃん、実は料理が得意だという事が判明した。自らが狩ってきた獲物の肉を使った、ワイルドながらも繊細な肉料理がメインで、そこに惣菜やパン(もしくは米)が付いてくる。これがまた美味しいのよ。塩胡椒の時もあるけど、独自の製法で作ったという“秘伝のタレ”は、何度掛かっていても飽きない。レシピを教えて欲しいくらいである。掃除や洗濯も出来るし、思ったより女子力あるね、キミ。

 

『きゅぁ~あ♪』

 

 このまま気楽な生活が続くと良いんだけどなー。

 

「……誰か、……来た」

 

 そうは問屋が卸さないのが、現実の悲しい所。わざわざハンター如きの家を訪ねて来る壁内の人間なんて、絶対にロクな奴じゃないな。一体誰が来たんだ?

 

「……どなた?」

 

 こっそりと覗いてみれば、開いた扉の向こうには、両サイドに近衛を付けた、小柄な少年が。先ず間違いなく貴族だろう。気品溢れるローブに身を包んでいる為、非常に分かり難いが、白金色の髪に陶磁器のような肌、蒼い瞳といった身体的特徴から察するに、僕と同じアルビノなのかもしれない。

 

「夜分遅くに失礼。エメス・インフニティアと申します。こうしてお会いするのは初めてですが、何時も貴女の活躍は聞いていますよ。……貴方から買い取った、アンジャナフの尻尾をオカズにね」

 

 まさかまさかの、お得意様の襲来だった。な、何でや!?




◆エメス・インフニティア

 アイルにとっては因縁の相手となる男の息子。見目麗しい……というより可愛らしいショタで、ガブラスと同じ問題を抱えている為、外へ出る事が出来ない。瞳の色は蒼。貴族故に暮らしは贅沢だが、生まれてこの方外へ出た事がない為、外の世界という物に非常に憧れを持っており、ハンターたちの冒険譚を聞くのが何よりの慰めとなっている。
 そんな折、自分とそう大して変わらない年頃の女の子がハンターをしていると聞き及び、少しでも助けになればと、あわよくばお知り合いになれればと、彼女の素材を買い占めるようになった。
 そして、今宵遂に……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。