翼を下さい   作:ディヴァ子

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一難去ってまた一難。


僕の願い事

 おはこんばんにちは、アルビノなガブラスです。

 いやー、参ったね。まさか、まさかの、厄介事ですよー。何よ、あの重大情報の絨毯爆撃。許容オーバーです!

 

「………………」

 

 ――――――否、僕はそうでもないけど、アイルの方がヤバい。

 まぁ、それもそうか。突然、自分も知らない出生を、殆ど初対面の男の子に語られたんだからね。ビックリするわな。アイデンティティーを失っている彼女にとって、それは劇薬であろう。

 それにしても、アルメリア・タマリスク、か。

 僕はヴェルドの出身でも何でもないので、詳しい事は知らない。

 だが、暫く厄介になる以上、現地知識の吸収ぐらいはする。無知は罪だからね。

 それによれば、タマリスク家は壁内でも有名な貴族様で、当主のアンダルシア・タマリスク侯爵は名主と言われていた。特に民衆からの支持が強く、君主からの信頼も厚かったという。民衆=小貴族や大商人なので、一般的かと言われると、どうなのかって感じだが……。

 しかし、ある日ある時、何者かに暗殺され、一人娘も行方知れずとなった為、タマリスク家は完全に没落してしまった。それが約10年前の話。壁内でも記憶に新しい。

 おそらく、インフニティア家の当主、カイン・インフニティア伯爵が差し向けたのだろう。表向きは仲良く付き合っていたようだが、実際は政敵だったらしいからな。

 もちろん、証拠は無いが……エイルの発言を信じるなら、噂は真実なんだろうね。今やカインが侯爵だし。

 そもそも、カインは協力関係にあった筈の弟:アベルをも切り捨て、貧困街に放逐するような男である。物心付いたアイルが見たのは、カインではなく追放されたアベルの方だったのだ。これに関しては偶然だったのだろうが、直接的にも間接的にもカインがアイルの全てを奪ったと言っても過言ではあるまい。

 つまり、アイルにとって、カイン・インフニティアは文字通り親の仇なのである。

 さらに、アイルを悩ませるのが、カインの息子、エイルだ。前回の口振りから察するに、彼はアイルの幼馴染で、しかも、彼女の為なら自分の親を暗殺するのも厭わないのだろう。色々と重い。

 そして、次の夜にエイルが訪れた時、アイルは答えを出さなければならないのであろう。自分自身の為にも。やっぱり重たーい。

 

「……どう、しよう」

 

 そりゃあ、こっちの台詞だよ。顔にこそ出てないと思うけど、折角マイハウスとマイルームを手に入れた矢先に、こんな厄介極まる爆弾を投げ込まれて、内心てんやわんやなんだ。それこそお前の考え次第だろう。

 言っておくけど、何処かに相談するなんて考えない方が良い。貴族同士のいざこざにハンターズギルドは関与しないし、かと言って他の連中に漏らしでもすれば、体よく利用されて父親の二の舞になるのが関の山である。あらゆる意味で“自分の尻は自分で拭う”しかないのだ。

 そもそも、復讐を夢見てハンターになった奴が、今更何を悩むという話だよね。当たって砕けちゃえよ、エイルと仲良くな。僕らは逃げるから。お前らの人間関係なんぞ知った事じゃないもーん。

 

「………………」

『………………』

『………………』

 

 アイルが黙り、僕らも黙る。重苦しい静けさが食卓を支配し、時間だけが過ぎていく。

 どれだけ苦しみ悩もうと、僕らは手伝わないよ。だって何の得も無いし、ハンター稼業と違って命を懸ける価値もない。シュレイドにとっても、それは同じ事。人間と動物は違うんだからさ、勝手に頑張って、勝手に死んで頂戴な。

 

 

 ――――――テッテレテ~、テレテ~テレテッテ♪

 

 

 と、空気を読めない、奇跡的なミルクティ☆な呼び鈴が。誰が設計したんだ、このメロディ。

 

「……出て来る」

 

 これ幸いと、アイルが席を立つ。どんなに頑張っても、僕らは傍観すらせずに夜逃げするよー。

 ……それにしても、一体誰だよ、こんな朝っ腹から。夜明け前とか、訪ねられて一番困る時間じゃん。夜襲としては最適かもしれないけどさ。まさか、エイルの奴、答えを急かそうとやって来た訳じゃ――――――、

 

『………………!』

 

 待てよ。日の出前とは言え、既に外は薄っすらと明るくなっている。数十分もすれば、世界は朝日に満たされるだろう。幾ら何でも、アルビノのあいつが出歩くか?

 さらに、僕はまだしも人間なら寝ぼけ眼な、この時間。さっき自分で思ったじゃないか。夜襲にピッタリな時間帯だって!

 

『きゅあああああっ!』

「……えっ?」

 

 何かマズいと思って止めようとしたが、遅かった。

 

「おはようございま~す♪ そして、サ・ヨ・ナ・ラ、アルビノなガブラスちゃ~ん♪」

 

 

 ――――――ズドン!

 

 

 扉の開放と共に「バレットシャワー・蛇改」から放たれた散弾が、僕の身体を蜂の巣に変える。当然、流れ出るのはハチミツなどではなく、僕の大事な大事な血液である。

 

「ギルドナイト直々の依頼で、お前の生皮、剥ぎ取りに来たぜぇ?」

 

 ……ベッキー(中身はメラル)(あの売女)め、僕を殺す為にヴリア・トラスナーガ(このクソ女)を嗾けやがったな!

 

「この時が来るのを、夢にまで見たぜぇ!」

 

 「バレットシャワー・蛇改」の銃口が、瀕死の僕を再び捉える。狙いは寸分違わず、頭だ。あれを食らえば、流石に一溜りもない。

 

 クソ、がぁ……!

 

 

 ――――――バゴォオオオン!

 

 

 しかし、「バレットシャワー・蛇改」が火を噴く事は無かった。

 

「……テメェ、どういうつもりだ、ハンター:アイル! これはギルドナイトからの依頼だっつってんだろ!?」

「知るか、死ね」

 

 アイルのぶん投げた「蛮顎剣フラムシーカ」の盾が、「バレットシャワー・蛇改」を壁に縫い付けたのである。

 

「わたしから奪う奴は、誰だろうと縊り殺してやる!」

「うぉおおおっ!?」

 

 そして、本来ならば禁忌である、ハンター同士の殺し合いが始まった。




◆ギルドナイト

 ギルド専属のハンターであり、表向きは身辺警護や生態調査など、“ちょっと強い調査員”のような事をしているが……その実態は、悪質なハンターを捌く(裁くに非ず)暗殺者である。武器も対人戦を想定しており、基本的に大型モンスターを狩るのには全く向いていない。
 また、“暗殺”という任務の関係上、普段は別の顔を持っていて、特に女性のギルドナイトはメイドとして受付嬢をやっているとか。ベッキーはその筆頭だったが、とある名無しに中身を入れ替わられた。
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