翼を下さい   作:ディヴァ子

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この背中に……

『くぁ……』

 

 ……やぁやぁ、おはよう皆さん、僕だよ。今やアルビノなガブラスの元村人だよ。

 さてはて、どうにか無事に一夜を明かす事が出来た訳だが、これからどうしようね。

 一応、前脚が徐々に翼へ変じつつあるけど、このペースだと完全に開き切るまで数日を要すると思われる。それまで僕が五体満足で生き延びられる保証は何処にもない。だってガブラスだもの、アルビノだもの。

 しかも、ガブラスは早熟なのか、身体が昨日よりも一回り大きくなっている。正直、穴が手狭だ。なら拡げろという話だが、残念な事にガブラスは飛行に特化した種族なので、自力で巣穴を掘る事など出来ないのである。というか、今の状態で生き残れているのが奇跡なのだ。本来なら野垂れ死に確定コースだからね、木に登れないと。

 

『きゅぅ~ん』

 

 ―――――よし、それじゃあ、そろそろ一宿一飯の穴倉を後にするとしようか。

 

『きゅらい』

 

 うーん、お外は真っ暗。さっきは「おはよう」とか言ったけど、正しくは「こんばんは」である。あの後、弟を消化しつつ夜まで寝過ごしていたのだ。アルビノは夜行性だからね、仕方ないね。眼は瞼(というか瞬膜)で少しはガード出来るとして、表皮はどう足掻いても絶望だからなぁ……。

 幸い傷の回復は早いようで、昨日の嚙み傷も既に塞がっている。これで怪我にも弱かったら完全に詰みである。

 とりあえず、方針としては手頃な巣穴を猛毒で以て奪い取りつつ餌を確保し、翼が完成する時を待つとしよう。

 翼が出来上がった後は、なるべく薄暗い森の奥でひっそりと生き永らえたい。一応ガブラスも魚を狩る事くらいは出来るから、猛毒という武器を活かして狩猟メインの生活を送りたいところ。

 もしくは、毒の霧を発生させる霞龍「オオナズチ」に寄生するのもありか。僕の毒耐性は同族よりも高いようだし、陽光も遮ってくれる為、相性は良いのかも。

 ともかく、先ずは移動だ。短い手足を頑張って動かして、背の高い(当社比)草村の中を這いずっていく。ガブラスは木登りが必要な時期までは蛇に近い胴体をしているが、成長に伴って骨格が翼竜種に近くなり、歩くのが苦手になってしまう。飛行能力を得る代償と考えれば妥当だが、今の僕にとっては全く嬉しくない特性である。だったら素直に蛇竜種になりたかった。

 

『きゅー』

 

 ズリズリズリズリ。蛇のように身をくねらせる事も出来ず、かと言って四足歩行すら不自由な、まさしく生まれたての雛のような足取りで、草を掻き分けて先を目指す。特に目的地は無いが、せめて身を隠せる場所が欲しい。

 

『モスゥ~♪』

 

 げっ、「モス」だ。

 石のように硬い頭と苔生した背中を持つ豚の仲間で、普段は大人しいがピンチになると体当たりしてくる為、ハンターの間では“ちっちゃなブルファンゴ”扱いされている小型モンスター(な★ま☆に★く)である。主食はキノコ。特にアオキノコが大好きで、それを利用したキノコ採集が取り組まれる事もある。

 そんな人畜無害な草食動物のモスだが、今の僕にとってはドス狗竜系のモンスターも同然だ。体格差があり過ぎて、突進を掠っただけで死にそうな気がする。

 しかし、モスは体力の無さでも有名で、投石やハンターのキックですら死んでしまう。ある意味、羽虫であるランゴスタよりも弱い。

 つまり、僕にも付け入る隙がある、という事である。

 幸いな事に、向こうは僕に気付いていない……というか、モスは基本的に危機管理能力が低い。苔生した身体が生息地における保護色になっているからだろう。

 ここは後ろに回り込んで、

 

『ぺしゃっ!』

『モヒィッ!?』

 

 毒ブレスを1発。ガブラスの毒は浸透性が高く、こうして霧状に散布しても効果がある。むろん噛み付いた方が確実ではあるが、そんな危険な真似は出来ないし、モス相手に命を張る気もないから、これでいい。

 

『モ……ス……』

 

 訳も分からず穴を掘って逃げようとするモスだったが、程無く絶命。今夜のディナーと棲み処を同時に提供してくれた。

 

『きゅーっ、きゅー、きゅぁーっ!』

 

 半ば埋もれたモスを頑張って引きずり出して、横取りされる前に食い散らかし、主亡き避難壕へ逃げ込む。

 

『ZZZzzz……』

 

 そして、遮光も兼ねてモスの苔皮と石頭を蓋にして、眠りに着く。次に目覚める時は、月が空に昇った頃だ。

 

 ……今回は運良く寝床を確保出来たけど、次も上手く行くかなぁ?




◆モス

 苔生した背中と石頭が特徴の豚野郎。所謂「草食種」の小型モンスターであり、アオキノコが大好物。呑気な性格で、大型モンスターが近くに居ようが食欲を優先するものの、少しでも手出しをすれば、ブルファンゴ宜しく突っ込んで来る。新大陸産の個体には、偶に「ゴワゴワクイナ」が背中の上に留まっていたりする。
 ちなみに、モスを素材とした防具も存在するのだが……「鬼畜島」に居てもおかしくない、不気味な姿をしているので、お勧めはしない。

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