翼を下さい   作:ディヴァ子

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ヴリア天罰回


閑話:まぶたの裏

 突然だが、ハンターについて話をしよう。

 アタシたちハンターはモンスターを狩るのが仕事であり、その力は常軌を逸している。何せ怪物と対等に渡り合うのだ。一般人はおろか、プロの軍人でも相手にならないだろう。

 むろん、デカブツを相手取っている以上、攻撃は大振りになりがちだし、毒に耐性があれど急所を一突きにされれば死ぬので、基本的に暗殺には弱い。対人戦はモンスターの時とは勝手が違うのである。それを専門に行うのがギルドナイトであり、対峙すれば怪物を狩るハンターと言えどイチコロだろう。

 つまり、何が言いたいのかというと、“ハンターはオフでは力を抜いている”という事だ。狩場に立つ時になって、初めて肉体のリミッターを解除して戦うのである。スイッチを切り替える、とでも言うべきか。

 そもそも、モンスターを倒せる力をブンブン振り回していては、ドアすら満足に開けられないので、力のセーブは必須技術と言って良い。スイッチを上手く切り替えられてこそ、一人前のハンターと言えるだろう。

 だから、戦闘態勢に入ったハンターの肉体は、普段とは比べ物にならないくらい逞しくなる物なのだが、

 

「二の腕だけで50センチはヤバいだろ!?」

 

 “丸太のような”じゃなくて、文字通り“丸太”なのよ、その太さは。「バレットシャワー蛇改」を盾で壁に縫い付けるパワーは伊達じゃないってか。

 マズい、こんな伝説のスーパーカムラ人みたいな怪力を、丸腰で相手にする訳にはいかない。一旦、外に避難しよう。室内じゃ逃げるに逃げられんしな。

 それに、外には万が一に備えて幾つか武器を隠してある。それを回収して、反撃だ!

 

「フゥン!」

 

 

 ――――――ゴバァアアアン!

 

 

「うぉっ!?」

 

 いやいやいや、樹木に拳で穴を開けるなよ!?

 これ、当たったら絶対に頭がトマトケチャップになってたな。つーか、生身で生木を殴った音じゃねぇ。大タル爆弾Gと同じ威力だわ。

 益々以てマズいな。武器無しじゃあ、逃げる事さえ出来んぞ、これ。

 

「くっ、舐めるなよ! カムラ文化の力、見るが良い!」

 

 アタシは懐に隠していた「翔蟲」で素早く距離を取った。

 少し前、「交易はロマンだ!」とか抜かすヘンテコな交易商から買い取った代物であり、「カムラの里」を原産地とする環境生物の1種だ。見た目は玉虫色の甲殻を持つ掌サイズの昆虫で、尻から「鉄蟲糸」という強靭な粘り糸を吐く事ができ、これを使って巣作りをするらしい。

 これを利用した狩猟技術が、所謂「鉄蟲糸技」である。

 カムラの里は定期的に「百流夜行」なるスタンピードに襲われる魔境であり、その脅威に対抗する為、翔蟲を活用した立体的な戦闘技術が確立していったのだ。モンスターの群れに同じ高さで対抗していては、あっという間に踏み潰されてしまうからだろう。今は英雄たちの活躍で、どうにか「百流夜行」も解決したらしいが……。

 ともかく、アタシはそんな翔蟲を2匹、買い取った。

 ただし、幼虫から育て、ココット村へ里帰りした頃に蛹化し、つい最近になって漸く羽化したばかりなので、戦闘経験はゼロである。

 だので、今のアタシとこいつらでは、精々「疾翔け」で高速移動するぐらいしか出来ない。本格的な「鉄蟲糸技」など、夢のまた夢だ。例の交易商から教わったけど、まだよく分らん。身に付いてもいないし、緊急回避に使うのが関の山だろう。実際、今がそうだったし。

 

「………………」

「ぐぅ……っ!」

 

 という事で、疾翔けで回収した「蛇槍【ヴリトラ】改」で怪力娘の追撃を防御したんだけど、これがまた重いのなんの。どうして何のバフも掛かってない人間のパンチ力が、ディアブロスの突進並みのノックバックを生むんだっよ。流石におかしいでしょ。

 

「ヤロウ!」

 

 アタシは「蛇槍【ヴリトラ】改」で突きを放った。

 

 

 ――――――ガキィン!

 

 

 生身の皮膚から出てはいけない音がして弾かれた。うん、バサルモスの甲殻やラージャンの闘気硬化した腕を攻撃した時にしか、聞いた事無いなぁ……。

 

「フゥンッ!」

「ぐぼぁっ!?」

 

 さらに、ローキックで盾ごと蹴り飛ばされ、近くの岸壁に叩き付けられた。滅茶苦茶痛い。防具無しだったら染みになってたな。

 というか、さっきの一撃で「蛇槍【ヴリトラ】改」がお釈迦になった。おかしいなぁ、ハンターの武器ってこんなに脆かったっけ?

 いや、言うてる場合か。早く、次の武器を――――――、

 

「ハァッ!」

「危ねぇ!?」

 

 DA☆KA★RA! ラリアットで岩を砕くなぁっ!

 

「ふざけやがって!」

 

 アタシは「蛇剣【毒蛇】改」を翔蟲で引き寄せ、剛力娘目掛けて振り下ろした。

 

「………………」

 

 白刃取りされた。嘘じゃん。

 

「うわっ!?」

 

 それから、大剣ごとグイッと引き寄せられ、

 

 

 ――――――ゴバァアアアンッ!

 

 

 脳天が爆発した。否、頭突きをされた。その一撃で額が炸裂して、血の噴水が沸き上がる。意識も朦朧である。防具って、何だっけ……?

 

「ぐっ……くぅ……!」

 

 チクショウ、完全に脳震盪を起こしてやがる。眩暈処か立ち上がる事さえ出来ねぇ。このままじゃ、アタシは!

 

『くるるるる……』

「………………!」

 

 すると、回復薬で傷を癒したらしいアルビノ・ガブラスが、動けないアタシへゆっくりと近付いてきた。下顎を展開し、第二の顎をシューっと鳴らしながら。

 お前……その牙を、アタシの目に突き立てるつもりか!?

 アタシから、光を完全に奪う気なのか!?

 

「やめ……」

 

 脳裏に浮かぶ、走馬灯。

 村長には内緒で、ビスカと一緒にコッソリと村を抜け出し、2人だけの冒険をした、あの日。迷子と思しきプーギーがガブラスに襲われているのを見付けて、アタシたちは思わず助けようとした。

 ただの子供が勝てる筈も無かった。ビスカは毒霧で動きを封じられ、アタシは左目を抉り取られた。偶々狩猟に出掛けていた“あの人”が駆け付けてくれなければ、2人共死んでいただろう。

 あの痛みと、恐怖は忘れられない。何日何年経っても、幾らガブラスを狩ろうとも、悪夢となって襲い掛かって来る。

 そして、まさしく今、その悪夢が再来しようとしていた。目の前で牙を剥く、純白のガブラスによって。泣こうが喚こうが、見逃しては貰えまい。

 

 ――――――嗚呼、アタシはもう、光を見る事は出来なくなるんだな。

 

「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

 目の前が、真っ暗になった。




◆ハンターの身体能力

 オン/オフを切り替えられるようになっており、狩猟時には通常の三倍くらいは強くなる。特に剣士系のハンターは体格の差が凄い。
 アイルの場合、アイドル枠から伝説の超サイヤ人ぐらい体格が変わる。その一撃は岩をも砕き、樹木を抉る。武器を持てばマスターランクの大型モンスターすら上位武器で圧倒出来る力を持つ。天賦の才なのか、ガブラズ☆ブート★キャンプのおかげなのかは不明。
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