翼を下さい   作:ディヴァ子

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今回はエメス視点。


閑話:あの日の君が

 ボクの名前はエメス・インフニティア。名門貴族、インフニティア家の嫡子だ。

 幼い頃によく遊んだアルメリアを、政敵であるアンダルシア・タマリスク諸共に暗殺しようとし、その末に貧困街へ追いやって、彼女の全てを奪った男――――――即ち、我が父:カイン・インフニティアを憎み、何時か殺してやる事を夢見て生きてきた。

 同時に、行方不明となったアルメリアを見つけ出し、伴侶として迎え入れる為、方々に手を尽くしてきた。父に切り捨てられた叔父が、腹癒せにアルメリアを襲ったと聞いた時は絶望したが、元執事にして彼女の逃亡を手助けしたエルガント・ミシュライアが、身を挺して守ったとの事で、諦めずに探し続けた。

 そして、先月の末、遂にアルメリアと再会する事が出来た。相変わらず可愛らしい顔をしているが、ハンター稼業をしていたからか、かなり逞しくなっている。そこがまた美しい。腹筋割れた女子って可愛くない?

 まぁ、流石に最初から全てを包み隠さず伝えても混乱の果てに拒絶かもしれないので、暫くは世間話に興じた。話す相手が居なかったせいで大分口下手だけど、嫌がられてはいないので、良しとしよう。

 さらに、ボクと話す事で温かみを取り戻し始めたのか、口数も多くなり、表情にも変化が出て来だした。これは良い傾向だ。失った青春を少しでも補えるのなら、これ程嬉しい事は無い。通い詰めた甲斐があるという物だろう。

 それから暫くして、ある程度は受け入れたと判断し、つい先日にボクとアルメリア自身の秘密を、彼女に伝えた。

 幾ら慣れ始めていたとは言え、情報量が多過ぎたか、アルメリアは混乱していたので、その日は一旦引く事にした。ちょっと強引だった自覚はあるし、考える時間は持たせてあげたい。

 しかし、その翌日……日の出前に、事件は起きた。数日前に入国してきたハンター:ヴリア・トラスナーガが、アルメリアの家に襲撃を仕掛けたのである。実際はアルメリアのオトモであるガブラスだったようだが、この時点では知る由も無かったので、とても焦ったものだ。

 だが、命懸けで駆け付けてみれば、下手人はネルスキュラの糸で縛り上げられ、アルメリアもオトモたちも無事だった。話を聞いてみれば、殆ど一方的にボコボコにしたのだという。強い(確信)。これは将来、尻に敷かれるかもなぁ……それはそれで良いけど。

 そして、今後の事を考える為、そのまま会議を開く事と相成った訳だが、

 

よろしくお願いします(うきゅきゃきゅきゃき)!』

 

 君が司会なのか、白いガブラス。

 このガブラス、非常に賢い上に人語を理解出来るらしく、自ら用意したふき出しを使って、会話まで可能だという。お前のようなガブラスがいるか。目の前でキュキュッと話してるけど。

 しかし、このガブラスはアルメリアの何なのだろうか?

 今まで観てきた感想としては、オトモというより相棒……対等な友達のように思える。

 だが、心の底から信頼し合う仲間という訳でも無く、故あれば寝返りそうでもある。端的に言うなら“悪友”と表現すべきか。ただ居心地が良いから、何となくつるんでいるだけ。

 そんなガブラスが、今日は何時になく張り切っている。普段は斜に構え、何処か距離を置いた接し方をしていたのに。一体何がガブラスを変えたんだろうか?

 

実は(きゅ)僕はとあるギルドナイトから(ききゅきゃきゅくるきゅある)追われる身です(くぁらるきゅき)殆ど謂れのない理由でね(うきゅかきゅいききゅき)僕自身は平穏な生活を(きゅきゅきゃきくきゅ)望むから放置しようと(あきゅむきゅらきゅと)思ってたんだけど(ぅききゅかきゅん)刺客を送り込んでくる(きゅきゃききゅあくる)となれば話は変わくる(きききゃきくるきゃ)だから(きゅる)今度は二度と(きゃいきゃく)手を出せないよう(わきゃぃきゃきゅ)盤石の体制を(ふるくるきゅ)築こうと思ったんですよ(きるきゅあきゃききゅい)

 

 なるほど、煩い。

 いや、よく分かった。このガブラスは、あくまで「平穏無事な生活を守る」というスタンスの為に、降り掛かる火の粉を払い除けようとしているだけのなのである。

 

「……流石、ガブラス。……何時も通りで、安心した」

 

 君はそれで良いのか、アルメリア。

 ま、今まで出遭ってきた悪意ばかり向けて来る大人たちに比べれば、良くも悪くも自分に正直なガブラスの方が、ずっとマシなのだろうけれど。

 

「(坊ちゃま、宜しいのですか?)」「(このガブラス、信用に値するとは思えないのですが)」

 

 それはその通り――――――否、ガブラスのスタンスなど、どうでもいい。必要なのは、アルメリアの為になるかどうか、それだけだ。

 

「(いや、こいつは今、かなり窮地に立たされている。貴族の後ろ盾を手に入れなければ、安心安全な生活を送れない程にね。だから、アルメリアをボクのお嫁さんにする為に必要なら、遠慮なく利用させて貰うよ。こちらから裏切る気は無いが、その逆であれば、それこそ容赦なく始末してやるさ)」

「「(なるほど、流石は坊ちゃま! 尊いです!)」」

「(鼻血は拭こうね)」

 

 何だかなぁ。この2人、役には立つんだけど、性癖がねぇ……。

 

「……あい分かった。では、“同盟”と行こうか、ガブラスくん?」

 

 さて、悪巧みでも進めようかね。ボクとアルメリアの、幸せな将来の為に。




◆貴族の立場

 ヴェルドにおいて、貴族と国王は絶対である。平民は当然として、ハンターズギルドですら強権を翳す事が出来ない。それは保有する軍事力に由来しており、火力だけならドンドルマすら上回る。供給力に関しても、周囲が大自然である故に困る事は無いだろう。
 だので、ヴェルドにおけるハンターの立場は「居ると便利な傭兵もしくは小間使い」でしかなく、報酬に目の眩んだモラルの無い奴ばかりが集まるのだが、貴族は各々がプロの暗殺者を抱えているので、正直ギルドナイトの出番はない。
 つまり、今回ギルドナイトの勅命で動いているヴリアも、任務に失敗した時点でハンターズギルドから見捨てられたも同然だったりする。

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