「さて、“同盟”を組むのは構わないが、それ相応の考えがあるんだよね?」
エメスが試すような顔で訊ねてくる。
まぁ、ガブラスの出す意見なんぞ、信用ならないよね。
でもね、僕も必死なんだよ。あの粘着質なクソ女のせいで、平穏な生活が乱されている。それを看過するなど、とても出来ない。
だから、嫌でも協力して貰うよ。
……とりあえず、そこの馬鹿タレを起こして欲しいな。
「ちょっと、起きなさい」「坊ちゃまの手を煩わせるんじゃありませんよ」
「う……ぐっ……はっ!? 目が視える!? つーか、痛っ! 何だお前ら!?」
おうおう、大絶賛混乱中ですねぇ、ヴリア・トラスナーガさんよぉ!
「おやおや、見て分かりませんか?」「下賤な外様のハンター風情が、無礼ですわよ?」
「何を……っ、アンタは……ッ!」
「やぁ、ヴリア・トラスナーガさん。ボクはエメス・インフニティア。……自分の立場は、分かっているようだね?」
わーぉ、脅迫が堂に入ってるね。流石は御貴族様。自分の父親を暗殺しようとする奴は違う。
「それで、君は彼女をどうするつもりだい?」
張り付いた笑みをこちらに向けて来るエメス。
――――――
「まさか、それで相手が納得するとでも?」
それこそまさかだよ。
「お、おい、ガブラス。それじゃあ、アタシはどうなるんだよ?」
うん?
「手ぶらで帰っちゃ、寝返ったと見なされて殺されちまうだろうが!」
「い、嫌だ! アタシはまだ死にたくねぇ!」
「あなた、そんな事を言える立場ですの?」「別にこの場で始末しても良いんですのよ?」
「まぁまぁ、2人共落ち着いて。……それについては、ガブラスくんの意向によるからさ?」
いやぁ、怖い怖い。人を殺し慣れてる奴らは、これだから……。
さて、ヴリアの処遇か。手ぶらで帰して、そのまま始末を向こうに任せても良いのだが――――――でも、そんな事をしたら、ビスカはどうでも良いとして、メルちゃんたちが悲しむかなぁ。それはちょっと嫌だね。
……仕方ない。アイルちゃんや。
「……何?」
今から、ちょっとした“仕込み”をして貰うよ。かくかくガウシカ。
「……嘘、でしょ?」
だが、内容を告げたら、凄く嫌な顔をされた。しゃーないじゃん。そこの阿保女が当面の間、殺されないようにするには、手土産が必要なんだもん。
「……分かったよ。……だけど、その代わり……
ああ、うん、構わないよ。……
「なっ、おい……何をするつもりだよ!? や、やめ――――――うぁああああああああっ!」
その日、アイル家から世にも恐ろしい悲鳴が、延々と響き続けた……って、近隣住民から文句を言われましたとさ。
◆◆◆◆◆◆
数日後、ミナガルデの受付。
「今戻ったぜぇ、ベッキーさんよぉ!」
「……お帰りなさいませ、ヴリアさん」
殆ど無傷で帰還したヴリアを、ベッキーは営業スマイルで見返した。
もちろん、目は笑っていない。元より疑り深い彼女は、それらしい“証拠”を見るまでは信じないし、
とりあえず、証拠品を見せて貰わねば、話が進まない。ベッキーは招き猫の如く、「プリーズ」をした。
「――――――これが証拠だ」
そう言って、ヴリアは何枚かの皮を見せた。雪よりも純白な、翼蛇竜の鞣した皮膚だった。それも、かなりの量がある。ほぼ丸1匹分はあるだろう。これで生きていたら、本当の化け物と言う他ない。
そう、
だが、ベッキーは知っている。あのガブラスが普通ではないと。
「なるほど、分かりました。半分はこちらで預かります。残りはお好きなように。換金するも、武具や防具の素材にするも良し、ですわ」
「そうさせて貰うわ」
奉納品を受け取り、ヴリアを見送ったベッキーは、スンと表情を曇らせ、
「ドリス、ちょっと席を外すわね」
「はいはい、早く戻って来てよね」
ドリスに受付を任せ、受付カウンターを離れた。
さらに、そのまま路地裏へスッと身を隠し、白いホルクを呼び寄せ、とある書状を持たせて、再び飛ばせた。行先はむろん、ドンドルマのハンターズギルド本部、即ちギルドナイトの総本山にである。
「……ウフフフ、お前の遣り口は分かっている。逃げられると思うなよ、ガブラス。約束通り、殺しに行くからねぇ~♪」
ベッキーの嘲笑が漏れる。この時だけは、メラルだった“ナニカ”と同じ、歪んだ物であった。
「ベ、ベッキーちゃん? 今のは……!?」
と、通りすがりのハンターが。他には誰も居ない。
「あら、見られちゃったか。……じゃあ、仕方ないな。サ・ヨ・ナ・ラ♪」
「ひっ、やめ――――――」
そして、今日もまた1つ、命が消えた。
◆アルビノの厚皮
奇怪竜「フルフル」……ではなく、アルビノ・ガブラスの生皮を鞣した物。通常のガブラスと違い、雪よりも白く美しい皮であり、それだけでも装飾品としての価値がある。この皮を纏った者は凄まじい生命力と耐久力を得られるという。また、毒への耐性も凄まじく、猛毒処か劇毒すら通用しない。