――――――ミナガルデ、ハンターズギルド受付。
「フ~ンフフ~ン♪」
「おや、ドリスちゃんが鼻歌なんて、何か良い事でもあったのかい?」
「ええ、まぁボチボチとですが……」
アロハな衣装を着たハンターに話し掛けられ、今はドリスという名のワタシは、適当に返した。
いやぁ、いけないいけない。今のワタシはメラルでもベッキーでも、ましてやヴリアでもないんだった。使い分けって難しいわね。少しでも違和感を持たれると、芋蔓式にバレるし。色々と面倒ではあるが、楽しくもある。
だから、入れ替わりは止められない。様々な人生を楽しめるもん。幾度も顔や人格を弄ってきた、ワタシだけに許された特権よ♪
さてはて、ヴェルドでは今頃、ワタシの身代わりたちが生贄になっているかな~?
えっ、何で「殺しに行く」と宣言したお前がこんな所でドリスをやってるのかって?
……「
ま、ようするに、ガブラスを安心させてやる為よ。あいつは執念深い上に疑り深いからね。ワタシという存在を忘れさせるには、裏の裏の裏を掻くような遣り方をする必要があった。
その為に、ドリスちゃんたちには犠牲になって貰いました(笑)。制作レシピはこちら♪
①先ずはドリスちゃんとヴリアを捕獲して、拷問により精神を壊します。
②次にワタシに関する情報を叩き込んで洗脳し、「自分こそが入れ替わったワタシ」だと錯覚させます。
③最後にヴリア⇔ドリスちゃん⇔ワタシと顔を入れ替えて、完成!
この工程により、2人の捨て駒と「ドリスちゃんになったワタシ」が出来上がる訳ですよ~♪
今頃ヴェルドでは、「ヴリアの顔になったドリスちゃん」が真犯人として、始末されているだろう。そうなればアルビノ・ガブラスもワタシを死んだ物として扱い、安心安全な日常に戻る筈だ。
そして、平和ボケした所を、今度こそワタシの手で殺す。これぞヴリアを嗾けた時から考えていた、「ガブラス暗殺計画」である。ヴリアが成功するなんて微塵も思ってなかったし、今回の襲撃が上手く行くとも考えていない。あいつの生き意地の汚さを信頼してこその計画だ。
やはり、最後は自分で決着を付けなきゃね。でなきゃ、メラルだったあの時に味わった、赤っ恥のコキッ恥を掻かされた、ワタシの気が治まらん。ワタシの満足感と優越感の為に死ね、ガブラス。
「フゥ……」
それにしても、ドリスちゃんを使い捨てにしなくちゃいけなかったのは、ちょっと残念だなぁ。一緒にお茶したり、お風呂に入ったり、何ならベッドインもした仲だったのに。あの子、結構イケる口だったわよ?
でも大丈夫。思い出は消えないし、“彼女”は今でもワタシと共に在る。ヴリアと同じ隻眼にする為に抉り取った、ドリスちゃんの綺麗なお目々は、保存液で満たされた小瓶の中で、何時までもワタシを見つめてくれているわ。胸の谷間から、時折視線を合わせてくるし、本当に可愛い♪
これはもう、今までの“彼女”は捨てても良いかもなぁ。こんなに綺麗で愛らしい物はお目に掛かれないだろうし、そんな“彼女”に劣る奴らなんて目を掛けてやる必要も無いだろう。
貴女を超える“彼女”が出来るまで、末永く宜しくね、ドリスちゃん(目玉)♪
「さて、そろそろ帰りますか」
ベッキーは表向きは栄転扱いで、ヴリアは狩猟中の事故で死んだ事に為ってるし、後は計画を最終段階に移行するだけ。可愛い“彼女”を胸に抱いて、今日の疲れを癒すとしますか。
『ギャア、ギャア!』『クキキキ!』
「いやぁね、またガブラスだわ……」
最近、ミナガルデではガブラスの目撃情報が多い。もしかすると、あいつの遣いなのかもしれないが、無駄だよ。お前の知っているワタシはもう居ないんだから。それじゃあね~♪
――――――ドォオオオオオッ!
「へっ?」
だが、薄気味悪いガブラスたちに別れを告げ、家路に着き直そうとした瞬間、空から劇毒混じりの龍属性ブレスが降り注いだ。
「カハッ……!?」
それ自体は大した事ないし、何なら毒に侵される事も無かったが、何故か身体が言う事を聞かなくなった。激しい熱と呼吸困難に襲われ、とても立っていられず、ドサリと倒れ伏す。
これはまさか……アナフィラキシーショック!?
「………………!」
薄れ行く意識の中で、最後に目にしたのは、
『ケェエエエン!』『クゥゥゥ~♪』
ワタシの白いホルクを傍らに置く、黒いホルクの姿だった。その顔は「お前は我が主人に踊らされていたんだよ」と言わんばかりの、ムカつく表情だった。
――――――クソッタレがぁあああああああああああああああああああああっ!
◆ドリス
ベッキーの相棒を務める受付嬢その2。こちらもミナガルデで働いている。ベッキーが引き起こしたドジの尻拭いをする事が多い苦労人。その為、プライベートで出て来る台詞の枕詞は「ベッキーの奴」である。ただし本気で嫌っている訳ではないので、“喧嘩する程仲が良い”という事だろう。
この世界では仲が高じて爛れた関係になっているが、“彼女”にとっては「気に入った玩具」でしかなかった。