翼を下さい   作:ディヴァ子

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悲しみはある

 やぁやぁ、こんばんは。今宵もアルビノ・ガブラスな、元村人の僕だよ。

 さて、また一夜明けてまた一夜な訳だけど、僕の翼は開き切っていない。というか、中途半端に大きくなってしまい、割かし邪魔である。飛べないガブラスなど地を這う蛇だ。

 ちなみに、前回頂いたモスの苔皮は、背中から被る形で、そのまま利用している。言うなれば隠れ蓑である。ここはどうも深い森の中らしく、モスの苔皮は上手い具合に保護色となっている。何かと目立つ白い皮膚を隠すのに丁度良い。傍から見ると、苔がズリズリ動いているみたいで不気味だが、そこは考えないようにしよう。

 それにしても、こうして身を隠しながら牛歩の如く進んでいるのだが、結局ここは何処の森なのだろうか?

 密林と言うには樹木の割合が薄く、地面が苔生し落葉もしているので、どちらかと言うと照葉樹林に近い森なのかもしれない。嘸かし植生や土壌が豊かなのだろう。その分、野晒になる死体が少ない為、僕にとってはあまり嬉しくない。翼を広げる事を考えると、もう少し開けた場所を見付けたい。

 とりあえず、進むだけ進もう。話はそれからだ。

 

『ブルルル……』

 

 今度は小型の牙獣種「ブルファンゴ」がいた。それも子供を含む7匹。豚の次は猪か。大猪じゃないだけマシだが、文字通り猪突猛進な上に雑食性だから、食べられないように気を付けないと。

 だが、晩飯として見た場合、かなりの良品である。引き締まった筋肉と果物の甘みが組み合わさった身は、何日も僕の腹を満たしてくれる事だろう。正直、モスは小さ過ぎて、あんまり食った気がしないからね。

 しかし、そうなると、どうやって群れの中から1匹だけ仕留めるか、だ。

 当たり前だが、正面切っての決闘は挑まない。かと言って、不意打ちで噛み付いたり、毒霧を撃つのも気が引ける。モスと違って、ブルファンゴは体力がある上に暴れるからである。

 さらに、大型の雄個体「ドスファンゴ」を頂点とする小規模な群れを形成する事もあり、色々と油断の出来ない相手だ。はてさて、どう攻めた物か……。

 と、その時。

 

『ギャァッ!』『ギャヴォッ!』『ギィーギィーッ!』

 

 3匹の小型モンスターが現れた。

 背側が青地に黒い縞模様の鱗、腹側は白っぽい皮膚を持つ、黄色い嘴の鳥竜種……「ランポス」だ。鋭い爪と牙が最大の武器で、軽快な動きで獲物に食らい付き、ズタズタに引き裂いてしまう。その上、非常に執念深い。

 また、「ドスランポス」という大型個体を筆頭とした集団生活を送る習性があり、ランポスを数匹見掛けた場合、常に伏兵を意識していないと不意打ちや挟撃をされる危険性もある。

 ようするに、非常にガツガツとした小型モンスターという事である。

 だが、見ようによっては絶好チャンスだ。奴らが場をかき乱してくれれば、お零れに預かる機会も巡ってくる。

 

『プギーッ!』『ギャヴォッ!』『ブルルル!』『クキャーッ!』

 

 早速、乱戦が始まった。

 ランポスを含む群れで生活する鳥竜種たちは、先ずは切り込み隊が獲物をばらけさせ、最初に目星を付けていたターゲットを集団で取り囲み、血祭に上げる。

 つまり、今いる5匹の内、1匹しか狩らないのである。ブルファンゴは足が速いので、欲張ると全て取り逃がしてしまうからだ。二兎を追う者は一兎も得ず、という事だろう。

 狙い目は恐らく、子連れの雌個体か。単騎で挑むのは無謀だが、頭数で勝っているのなら、子供にちょっかいを掛けるだけで身を挺して庇おうとする“親子愛”を利用してしまえば、これ程楽な得物もいない。

 

『ブフォオオオオッ!』

『『『クギャッ!?』』』

 

 しかし、このブルファンゴの群れにはドスファンゴが控えていたようで、場は更なる混沌と化した。駆け付けた大猪が肉食竜たちを蹴散らし、ランポス一行は悲鳴を上げる事となったが、

 

『ギシャアアアアア!』『『ギギィッ!』』

 

 ここで側近を連れたドスランポスも参戦。ブルファンゴは完全に散り散りとなり、ランポスたちのターゲットもドスファンゴに変更され、壮絶な集団リンチが巻き起こる。ドスファンゴも頑張っているが、流石に多勢に無勢では長く持つまい。

 ――――――ならば、その隙に手頃な子供を掠め取るまで!

 

『きゅぁっ!』『プキィッ!?』

 

 という事で、母親と逸れた子供のブルファンゴに食らい付き、車輪のように転がりながら毒を注入する。下手に絡み付いたり、締め上げたりすると反撃を食らうので、このまま草陰に飛び込みつつ、仕留めてしまおう。

 

『プキャ……』

 

 子供は転がっている途中で息絶え、藪の中に入る頃にはすっかり死体となっていた。

 

『………………』

 

 よし、戦場からも上手く逃れられたみたいだし、さっさと食べるか。もぐもぐもぐ。

 ……そう言えば、前に抱いた“蛇顔なのにどうやって咀嚼しているんだろう”という疑問に関しては、“顎が二重構造になっている”という形で決着が付いた。下顎が左右に開くのは蛇と同じだが、舌が変化した「内顎」を併用する事により、まるで蟲のように噛み千切っているのである。

 うん、我ながら気色悪いね。考えなきゃ良かった。

 ともかく、今夜も上手い事乗り切れたな。こんな感じで、数日以内には、この森を抜けてしまいたい。

 

 それじゃあ、あの岩の隙間に入った所で、おやすみなさい……。




◆ブルファンゴ

 見た目通りの猪。出会い頭に突っ込んで来るウザったい小型モンスター。大型モンスターが居ようが関係なく突進を繰り出してくる猪突猛進っぷり故に牙獣種扱いされている危険な奴。ただし肉は旨い。極めて図太い性格かつ凄まじい適応力を持ち、餌さえあれば何処にでも現れる為、目にする機会は多いだろう。
 ちなみに、「ファンゴフェイク」という頭防具が有名になりがちだが、実は全身防具も存在し、それがまた結構カッコいいデザインだったりする。鬼畜島装備とは、何処で差が付いてしまったのか……。
 

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