西と東の間。それ以上語ってはいけない、禁足の土地。既に滅びて久しい、強者共の夢の跡。
――――――「シュレイド城」。
人々は、そこをそう呼ぶ。
かつて存在したという、シュレイド王国が誇る城塞であり、円形の城壁に囲まれた内部には、豪奢な王城が聳えていたのだが、今は見る影もない廃墟と化している。空は常に怪しげな暗雲に閉ざされ、廃墟に満ちる空気はとても重苦しい。動物処か植物さえ見当たらず、生命は皆無と言って良いだろう。
そう、ただ1体を除いて。
「“
現在、シュレイド城跡を支配している唯一の存在は、語る事さえ禁忌とされる、邪悪なる黒龍「ミラボレアス」だ。
その昔、突如として時空の彼方から舞い降りて、一晩でシュレイド王国を滅ぼしたと言われている。
しかし、ハンターズギルドによる徹底した情報統制によって、今を生きる人々にとっては、シュレイド王国もミラボレアスも御伽噺でしかない。
「……アイル、本当に付いてくるの?」
ふと、アルメリアが話し掛けてきた。隣にはベッキー(メラル)、向かい合う形で僕とシュレイドが座っている。
僕らは今、ドンドルマから派遣されてくる「ミラボレアス討伐部隊」と合流する為、竜車に揺られている所だ。この特別部隊は、ハンターズギルド本部が各地から集めた伝説級のハンターたちによって構成されており、中央シュレイドに立ち入る前に顔合わせをする予定である。わざわざ新大陸へ調査に向かっている調査団まで招集しているというのだから、その本気具合がヒシヒシと伝わって来る。
むろん、僕も本気だ。言うまでもないだろう。
「……そう」
アルメリアは、それ以上の追及をしなかった。僕の目を見て、不退転の決意を読み取ってくれたに違いない。
「………………」
ベッキーに関しては、話し掛けてすら来なかった。別に喋る事も無いから良いけどね。ドリスと涙の抱擁でお別れして来たらしいから、心の整理は付いているのだろう。
ま、逃げようにも、僕の呪いがある限り、避けられぬ死の運命なのだが。
ちなみに、アルメリアとエメスの別れは結構軽かった。「行ってきます」と「行ってらっしゃい」の一言で済ますとは、何と深い信頼関係であろうか。生きて帰る気満々じゃん。
「……そろそろ着くぞ」
竜車が停まった。シュレイド城の近くに急拵えで造った拠点へ到着したのである。
「あ、ガブラス!」『ホロロロ……』
「………………」『クルァ~!』
すると、見知った顔触れと再会した。ビスカとホロちゃんだ。ついでにアリス(ヴリア)とハーケンも居る。ハンターのビスカなら分かるが、一応は受付嬢であるアリスを派遣するなんて、ギルド上層部の気が知れない。
もちろん、彼女らが呼び出された理由は分かる。シュレイド城から最も近いギルドに所属しているからである。
いや~、何だかんだで実力者が揃ったねぇ~。
『プ~!』
『きゅぁっ!?』
と、ビスカたちが乗っていた竜車から、メルちゃんが飛び出して来た。何で癒し枠の君がここに居るの!?
「――――――連れて行けって聞かなかったのよ。たぶん、あなたが来る事を予感してたのかもね」
『プキ~!』
『………………』
メルちゃん……君って子は、本当に。
でも、流石に狩場へ連れて行く訳にはいかないから、後ろで見守っててね。
「……討伐部隊の連中も来たみたいだよ」
さらに、各地から戦力が続々と拠点に集合しつつあった。
――――――さぁ、良からぬ事を始めようかぁ!
◆シュレイド城
シュレイド王国の跡地である「中央シュレイド」に聳える廃城。かつては栄華を誇ったのだろうが、今は常に暗雲と重苦しい空気が立ち込め、生命の息吹はまるで感じられない、死の土地である。崩れた城壁と焼け焦げた痕を見るに、滅びる寸前まで激しい戦いがあった事が窺える。
現在、シュレイド王国に関しては御伽噺のような扱いを受けているが、過去にはそこで人々が生活し、命が芽吹いていたのだ。