翼を下さい   作:ディヴァ子

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悲しみすらない

『うきゅ~』

 

 すっかり変わっちゃったなぁ、シュレイド城。作品を納品する時に何度か来た程度の思い出だけど、それでも健在な時の荘厳さは、一目見たら忘れられない物だった。

 だけど、今は見る影もない。そこら中崩れてるし、煤けてる。それもこれも、アイツのせいだ。

 

「……遺跡だな、これは」

『………………』

 

 否定出来ないけど、ちょっと喉に突っ掛かる物はある。これでも昔はご立派様だったんだよ。

 

「本当に……あったんですね!」

「夢なんじゃないかしら?」

「凄いな! 上手く言えないけど……「昔」と「今」って、本当に繋がってたんだって実感してるよ」

 

 何か新大陸調査団組が好き勝手な事を言っている。これもまた、“過去の遺物”を見た感想なんだろうね。私からすれば、腹立たしいだけだけど。

 

「問題が」

 

 おや、総司令官殿がしゃしゃり出てきたぞ?

 

「地図には無かった。あれを……」

 

 さらに、とうある方向を指差し、周りもそれに従う。そこには邀撃用の撃龍槍が設置された最後の砦……と、それに立ち塞がるかの如く建てられた、木杭の防護壁があった。

 

「撃龍槍の真ん前に!?」

「これじゃあ、速射バリスタも防護壁も使えないわ……」

 

 それらを見たエイデンとリアが驚いている。確かに設置武器を使うには、どう考えても邪魔である。

 

「急拵えのような……!? ミラボレアスとの攻防中に増築したのでしょうか!?」

 

 お前は声が煩いな、ウケツケジョー。でも正解だ。この壁は戦の最中に後付けされた急造品である。

 

「よもや……シュレイド城の人々は、撃龍槍を活かさなかったのか!? 攻めを放棄すれば、滅ぶは理――――――」

 

 ……おい、将軍様よ。

 

『シャアアアアアアッ!』

「な、何だ!?」

 

 僕は将軍に牙を剥いた。何も知らない奴が、シュレイド王国を語るんじゃない。

 

「いや、恐らくは使用した。それでも尚敵わず、死力を尽くし、守りを固め……彼らは最後まで足掻いた。でなkれば、今に彼らの戦いが伝わる筈がありますまい」

 

 と、総司令官が僕の言いたい事を代わりに言ってくれた。ナイスだぞ白髪。

 

「礼を欠いた発言であった」

 

 すると、将軍が考え直したのか、過去の英霊たちへ謝罪する。そうそう、それで良いんだよギザミ……じゃなくて将軍。

 

「ですが、どうしましょう? これがある限り、撃龍槍も使えません」

 

 しかし、リアの言う通りなのも事実。このままぶっ放すのもありだが、威力は半減してしまうだろうな。

 

「急ぎ撤去を! 人を集めろ!」

「了解!」

 

 おや、有能だね将軍。働け働け、僕はここで見てる!

 

「本隊は?」

「間も無く到着すると聞いてます!」

「早いな。恐れ入る。彼らの力があれば、十二分に間に合うだろう」

 

 皆が慌ただしく動く中、総司令官殿とウケツケジョーが討伐部隊の本隊について話している。つまり、今は現行戦力でどうにかするしかないって事ね。……大丈夫かなぁ?

 

「……大丈夫、わたしたちは負けない」

『きゅきゃ~』

 

 大した自身ですコト。帰りを待つ人が居る奴は強いってか。それともハンターとしての信条か?

 

「俺たちもやろうぜ!」

「……ああ」

 

 おやまぁ、エイデンもウケツケジョーの相棒も働き者だねぇ~。……手伝わないよ?

 

「翼竜たちも連れて来ましたし、キャンプは高台に設置しました」

「地図も更新しないと……」

 

 ウケツケジョーが城の高台を指差し、リアが笑みで返した。仲間って感じじゃん。羨ましくなんて無いぞ。

 

「……ん!?」

 

 と、ウケツケジョーが何かを感じ取る。

 

「どうしたの?」

 

 リアが訝しんだ、その瞬間。

 

 

 ――――――ゴゴゴゴゴゴッ!

 

 

 突如、城全体が大きく揺れ、脆い部分が次々と崩れ始める。

 

「まさか!?」

 

 その揺れに、ウケツケジョーが確信した。野性の勘って奴か?

 ……そうだろう、そうだろうとも。奴が来るのだ(・・・・・・)

 

「馬鹿な! 早過ぎる! ……退避せよぉおおおおおっ!」

 

 将軍が叫んだ。彼の部下たちは直ぐに従い、いそいそと後退する。

 

「本隊はもうすぐ到着するんですよね!?」

「そうだ」

 

 地響きが続く中、エイデンが総司令官に尋ねた。

 

「勝算は?」

「勝算なんてとんでもない! 死なない程度に時間を稼ぐっス!」

「馬鹿な! 無謀過ぎる! 退避だ! 過ちは許されん!」

 

 元気良く応えるエイデンに、将軍が待ったを掛けた。

 

「必ず守れ」

 

 だが無視された。可哀想に(笑)。

 

「「………………!」」

 

 エイデンとウケツケジョーの相棒が静かに頷いた。

 

「急いでキャンプへ!」

「……ハッ!」

 

 その様を見届けたウケツケジョーとリアが、翼竜でキャンプに避難した。

 

「彼らを侮る事こそ、最大の過ち。私はそれを良く知ってる」

「………………」

 

 総司令官と将軍もそれに続く。

 

「アンタらは良いんスか?」

 

 この場に残った僕たちに、エイデンが質問してきた。……愚問だな。

 

「「「「………………」」」」

 

 4人共、黙って武器を構える。これ以上は聞くな、という事である。

 その時だった。

 

 

 ――――――グゴゴゴ……ドガァァアアアアッ!

 

 

 桟橋を突き破り、広場の壁をぶち壊して、天を衝く程の巨大な黒龍……ミラボレアスが出現した。本当に、絵本に出て来る邪龍(ドラゴン)そのものだな。

 

『グルルル……グルゴァオギャアアアアアアアアッ!』

 

 そして、僕たちを舐め回すように見遣った後、大地を揺るがす咆哮を上げた。開戦の狼煙が上がったのだ。

 

◆『分類及び種族名称:完全生命体=ミラボレアス』

◆『弱点:不明』

 

 

「いや~、こりゃあヤバいねぇ!」

「まさに神話の怪物だな」

「……問題無い。怪物なら殺せる」

「マジでやんなきゃ駄目なの?」

「ヤバ過ぎますわ」

「あー、逃げたい」

 

 全員、戦闘態勢に入る。半分くらい本音は逃げ腰だったりするけど、気にしたら負け。誰も逃がしゃしないよ~。

 

『キュルァアアアアアアアアッ!』

 

 さぁ、殺してやるぞ、避けられぬ死の運命(ミラボレアス)




◆ミラボレアス

 古の言葉で「運命の戦争」を意味する、伝説の古龍。過去にたった一夜でシュレイド王国を滅ぼしたと言われており、その力を完全に解放してしまえば世界は数日で焦土と化すともされ、語る事さえ禁忌となっている。その為、世間一般的には御伽噺の類でしかない。
 姿はまさに邪悪な黒いドラゴンと言った感じで、口から吐く爆炎で何もかも破壊し、焼き尽くしてしまう。縄張り意識が異常なまでに強く、自らの根城には草木の存在さえ許さない。ついでに殺したハンターの防具を胸部の熱で圧着させ、新たな外殻として纏うという、かなりの悪趣味を持っていたりもする。
 一説には異次元から現れる邪神とも言われており、かの龍が現れる時には上空に歪が出来るらしい。
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